2人目の『如月』。
彼女の処遇は難航した…何せ、今までなかった事なのだから。
2人同時に存在する、同型の艦は、今まで確認されてなかったのだから。
艦娘達に害をもたらす存在ではないのか、隔離するべきではないのか、そもそも彼女は本当に『如月』なのか…
教師陣も艦娘達も、彼女の事についてどうすべきかという議論で盛り上がったが、ある艦娘の言葉が、彼女の命運を決めたと言って良いだろう。
…この子も、前からいた子も、両方私の妹にゃしぃ!!と。
そう、睦月が2人目の如月の事をかばったのだ、それも必死で。
その姿を見て、学園長…元は赤城達の直属の上司筋にあたる元帥だった男が、こう勅命を出した。
『このもう1人の「如月」から貴様は目を切るな、だから一緒に学園生活を送らせて様子を見ろ、睦月』と。
つまり、一時的な措置では有るが、睦月とこっちの如月と同室になって、一緒に学校に行けと言う話だった。
もう1人の如月がほっとし、睦月や電が非常に喜ぶ姿を見て、時雨はボヤく。
…あのおっさん相変わらずこういう事は粋だよね、と。
そうして…彼女の処遇は、実に穏当に終結した。
さてさて、それからと言うもの。
そっちの…つまり漂流者側と、こっちの2人の『如月』。
顔と名前がほぼ全く同じの2人、とりあえずどうやって区別しようか、そこから話は難航した。
「呼び方は…ウチのアホの方を『プチプチ』とでも言えばすむ話なのですが…」
とりあえず、電の提案で渾名でも付けて名前を区別しよう、と言う方向で名前の方はすぐ解決はした。
「おう、電ぁ、喧嘩なら言い値で買うわぁ…!」
「どう取り繕ってもプチプチはプチプチなのです…それはそれとして、見た目どうするのですか、完全に一緒だから判別が難しいのです…と言う訳で、プチプチ、屋上」
…なお、電とこっちの如月が殴り合いを始めそうなのを時雨が抑えつつ。
見た目の方の区別をどうしようかと言う話になった際…ヴェールヌイが横から口を挟む。
…じゃあどっちかの髪型変えろよ、と。
そして、そこに乗っかったのは舞風だった、余りもので良かったらヘアゴムあげますよ、と。
そうして生まれたのが…
「そっちの如月ちゃん、ポニテも良いにゃしぃ!」
「は…はは……」
ポニテに伊達眼鏡と言う形で、何だか生徒会長風の格好に固まった、もう1人の方の如月だった。
…確かにこれはこれで良い…って、ナレーション放棄してる場合じゃなくて。
そんな具合で…見た目と名前の問題は何とか解決した。
まあ、流石にプチプチ呼ばわりはアレと言う事で、イントネーションで…『とぉ↓おお↑う』からヒントを得て、もう1人の方を『き↑さらぎ』と区別する様にした。
それを、便宜上カタカナ表記で『キサラギ』とする。
そのキサラギの日常だが…何だか睦月とべったりだった。
まあ、それはそうだろう…いきなり訳の分からない世界に放り込まれて、右も左も分からない。
しかも異端児と言う理由で、そんな世界で排除されかけた…それを救ったのが、直接的には睦月の言葉だったのだから。
しかも、元の世界でももっとも慕っていた『睦月』が異世界でも守ってくれたと言う、それは惹かれない方がおかしいと言う話だった。
授業中こそ席は少し離れているが、食事も風呂も就寝時間もいつもキサラギは睦月にくっついていた。
更に、如月の方もキサラギの事があまりほっとけない。
何せ、キサラギはこちらの世界について何の知識も持っていないのだ。
特に、深海棲艦への感情がそうだが…なかなか、『戦わずに良い世界』について慣れてくれない。
それだけに、もう1人の自分が苦しみもがいている姿をほっとけず、時には電や時雨と共にキサラギのフォローによく入ったりしたのだ。
睦月、わりとアホの子だし、余計
…まあ、時々プチプチをキサラギに勧めようとしようとしては、しまいには睦月にすらしばかれていたりしたが。
そんな具合であり、睦月は、最近2人の『如月』に囲まれて生活していた。
電に如月がよく取られ時雨にもよく如月が取られと言う…依然から変わらない部分は睦月には不満が有るが、今の睦月の隣にはキサラギが居た。
それはつまり…
「…また、睦月ちゃんが鼻血たれてる!もう、お姉ちゃんたら…」
こんな、呆れた口調でキサラギに心配されるほど、鼻血がだらだら流れるような幸せな毎日だった。
それだけではない、如月の方も、姉さんなにしてるのよぅ、と言いながらハンカチを取り出す。
そして、如月の方は、甲斐甲斐しく鼻血で汚した顔をハンカチで拭いていた。
「…クールな感じの前からの如月ちゃんも、なんだか私に甘えてくれるキサラギちゃんも、最高にゃしぃ…」
とまあ、こんな感じで2人の如月に囲まれた睦月はそれはそれは怪しい瞳でトリップしながら、よだれまで垂らす姿もたまに見られたりした。
それも、キサラギがここの学校に来てからの、艦娘学校の日常だった。
「…アイツ、いつか死ぬんじゃねえかな?」
「…レバニラでも包んであげたらいいのですよ、鼻血で失血死とか恥以外の何でもないのです…」
時雨と電は、そんな如月ハーレムに囲まれた睦月を見て呆れたような口調で呟く。
確かに、睦月はだらだら流す鼻血の量は、毎回何かヤバいってレベルでは、なかったとか。