いならぐれオーバードライブ!   作:たんぺい

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第十六話:キサラギちゃんの笑顔なのです!

「あのアホ…よくもまあ、難題を押し付けてくれたよね…」

「…とっかかりゼロってレベルじゃないのです」

「…きっついわぁ、私は同室だから無関係じゃない分、余計ねぇ…」

 

おーばーどらい部の面々は、一様に暗い顔をして頭を抱えていた。

それは…睦月からの依頼から始まった話だった。

 

 

「キサラギちゃんについて話があるのだぞ!」

 

と、開口一番、睦月は昼休みにおーばーどらい部の面々に話を始める。

曰わく、こんな話だった。

…キサラギちゃんが笑顔を見せたことがないにゃしぃ、と。

 

 

そう、キサラギ…もう1人の異世界から来た『如月』は、未だに誰かに笑顔を見せたことがない。

 

一番心身共に懐いている睦月と一緒に居るときですら、キサラギは楽しそうな表情をあまり見せたことが、なかった。

何か苦しそうな表情を見せたことも有る、悲しそうな表情や寂しそうな表情を見せたことも有る。

1人で泣いているなんて日常茶飯事だ。

 

それは…なんとなく、他人にも理由は察せた。

ホームシックなのだろう、それも下手したら二度と元の世界に帰れないのだから尚更だ。

昔を思い出し、平和を噛み締めるたび、胸がチクチクするのだろう。

だから、笑えないのだろう…。

 

そんなキサラギの苦しそうな姿を見るのは、睦月にはたまらない程つらかったのだ。

そして、『妹』の苦しみを和らげる解決策が、睦月には全く分からなかったのだ。

 

だから、知恵を貸してくれ…それが、依頼だった。

 

 

「だからって無茶ぶりってレベル違うのです、いくら何でも荷が重すぎるってレベル違うのです…」

 

電は頭を抱える。

『重すぎる』、そうだ…キサラギの苦しみは簡単な問題ではない。

何もかも、キサラギには不安だろうし、この世界で慣れない事だって少なくないだろう。

頼れる者は睦月だけ、否…睦月ですら、キサラギには元の世界の『睦月』の代わりでしかないのかも知れない。

 

つまり、キサラギの助けになろうにも、自分たちおーばーどらい部のメンバーにはとっかかりと言うか楔になる物が無さ過ぎた。

…どうしよう、と3人は同時に溜め息を吐く。

 

 

そんな3人に何気なしに声をかけたのは…曙だった。

…何やってんの、と。

 

3人は頭を抱えながら、しかし意を決して話を始めた。

キサラギ…もう1人の如月に対して、何か心の澱の様な物を取ってあげたい。

だが、その手段がどうしようも無い…睦月ですらわからないのに、自分たちにどうしたら良いのだ、と。

 

それを聞いた曙は、馬鹿じゃないのアンタら、と小馬鹿にしたような口調で言う。

時雨はそれに噛みつくが、曙は更に続けるのであった。

 

「なら、あたしにも背負わせなさいよ!3人よって文殊の知恵が出ないのなら、もっと集めろってね、だから馬鹿だって言ったのよ!」

 

そんな曙の回答に、時雨はバツの悪そうな顔ですまないとだけ返し、電と如月はよろしく頼む、と伝えた。

 

 

…そして…

 

「…ごめんなさい、ノリで無責任な事言い過ぎたわ…」

「…ああ、うん…しゃあない、流石にしゃあないのです…」

 

頭を抱える艦娘が、1人増えただけだった。

 

 

流石にこのままだと駄目だ、と時雨が片っ端から、当たれそうな連中に声をかける。

しかし…

 

「すまん、流石にこれは…時雨、ちょっと考えさせてくれ…」

「私、頭を使うことは苦手だな~…」

「ハッハッハ…こういうのは浜風に当たってくれ!」

「キラーパス止めて磯風!?ってか…ごめん…キツいよ、ソレ…」

「…すまん、深雪様轟沈しそうだぜ…」

「担任として、考えてはいる…考えてはいるんだが…」

「ダンス以外の事聞くの止めて欲しいです…」

「……ごめんなさい、答えは、私にはわかんない…」

「胃が、ひたすら胃が痛いっぽい…!」

 

…全員、アウトだった。

 

 

何か通常運行の磯風以外がキサラギへの同情から来る胃痛で死屍累々と言う中で、電が、ちょっと頭冷やしてくるのですとだけ言い、ふらふらと廊下に出る。

 

そして、なんと無しに降りた階段で、中等部の艦娘とばったり出くわす。

それは、電が良く知る…『友人』の軽巡だった。

 

「電っ!お久しぶりって感じねっ!」

「あ、阿賀野さん…助けて欲しいのです!」

 

阿賀野、阿賀野型軽巡のネームシップにてリンガ時代からの電と如月の同僚。

そして…電がずっと昔から頼りにしている、仲のいい姉のような艦娘であった。

 

 

「…いやぁ、そりゃ、難しい問題ねっ…」

「阿賀野さんでも、駄目ですか…」

 

電から話を聞いた阿賀野は頭を悩ませる。

阿賀野のその姿を見た電はがっかりしたような声で言うが、阿賀野は少しぼんやりした表情で天を仰いで…そして、呟いた。

…それって、そもそもどうしようもないって結論になるんじゃ、と。

 

電は、どうしようもないってひどいのです!と阿賀野に怒るが、阿賀野は構わないで更に続けた。

 

「…それはもう1人の如月、キサラギちゃんだっけ?その子が自分で納得しなきゃどうしようもない話だし、そこに他人の入る余地は無いじゃない」

「…でも、それじゃ、キサラギちゃんが可哀想なのです…」

「…成る程、『可哀想』ねえ…」

 

電から出た『可哀想』と言う言葉を聞き、阿賀野は実に軽蔑したような視線を電に送る。

ビクッと、電は阿賀野らしからぬ視線に怯える。

そんな電の姿を見て、阿賀野は溜め息一つ吐いて呟いた、いつからあんたはそこまで馬鹿になったの、と。

 

馬鹿って…と、電が言い返そうとするのを阿賀野は視線で黙らせる。

そして、阿賀野は一言言った、電にも経験なかったっけ、と。

更に、こう続けた。

 

「…多分、そのキサラギちゃんは、苦しい時に吐き出さないと本当に苦しいままなのっ!だけど、多分それすらできないのは、遠慮して壁作ってるからだと思う…昔、皆を傷付けないようにして、羽黒さんごと死にかけたあの時の電の心みたいに…だから、やることはまずは、『壁なんて無いよ』ってキサラギちゃんに伝える事じゃない?同情してる暇が、電達にどこにあるのよっ!」

 

 

あ、と言う表情で電は絶句し…そして、電は申し訳無さそうな表情を見せる。

そんな電に、言い過ぎてたらごめんね、と阿賀野は頭を撫でながら謝る。

そして、最後にこう言った。

…電ならきっと上手く行くから頑張って、と。

 

電は泣きそうになりながらも…キッとした表情を作り、自分のクラスへと走り出す。

阿賀野はそんな電の姿を見て、電はやっぱりそんな姿が似合うよね、と一言呟いた。

 

尚、そんな阿賀野の姿を妹の能代と同級生の長良がみていた。

能代はお姉ちゃん格好良すぎると色んなものを漏らし、長良は、アレ阿賀野の偽物じゃね!?と騒いでたとか騒いでなかったとか。

 

「綺麗に締めさせてよっ!」

 

…階段で阿賀野は絶叫したと言う。

 

 

それはともかく。

 

電は、阿賀野の言葉を聞いて…そして、行動した。

そして…翌日、電はキサラギを呼び出して一言言った、ごめんなさいなのです、と。

 

何を謝るの?と電にキサラギは質問すると、電は真っすぐ返した。

…自分たちは、キサラギちゃんに信頼されるような人間じゃなかったかも知れないのです、と。

何なの…と、キサラギは言い出しそうになるが、電は構わず、こう続けた。

 

「…キサラギちゃんが『異邦人』、外の人だからって、私たちは知らない内に壁を作ってしまったのです…きっと、キサラギちゃんにも無意識にそれは伝わってたと思うのです、だから…きっと、キサラギちゃんが苦しい時に、頼れる相手にふさわしくなかったのですよ」

 

そう言って、電は頭を下げる。

キサラギはそこまでしなくても、と言うが、電はそこまでする話なのです、と言い更に続けた。

 

「…私たちは、キサラギちゃんにも友達になりたいのに壁を作るなんて矛盾する事ばっかりして、それは信頼されないのは当たり前なのです!だから…改めて、色々吐き出して欲しいのです、本当に友達に成るために」

 

そう言って、後は電は無言で頭を下げ続けるばかりだった。

 

 

キサラギは、顔を上げて、と電に言うと…電に、私の方こそごめんなさいと言って、涙を流す。

そして、更にこう続けた。

 

「…前の鎮守府にはね、『電』ちゃんや『響』ちゃんが居たの…同じ顔と名前で知ってる艦娘がたくさん居たの…だから、今だって『電』ちゃんの顔をみる度に、前の鎮守府の電の顔が浮かんで…苦しいの…」

 

そうキサラギから聞かされて、電は更に顔を俯かせる。

しかし、キサラギは…単純に比べたいんじゃないの、と続けて話を進めた。

 

「…今だってそう、皆、前居た仲間達はきっと終わり無い戦いを戦ってる…そう思うと、私だけ逃げちゃったみたいで…睦月ちゃんだけ置いていった気がして…本当に私の事を『忘れていない』なら、尚更苦しい!苦しいの…」

 

そう言って、キサラギは嗚咽を吐いて泣き崩れた。

 

 

そういう事か、と電は納得した。

 

ホームシックではなく、敗残兵の捕虜の悲哀だったのだ。

それも、本当に自分たちでは完全にどうしようもない話だった。

 

元の世界にキサラギを送り返せばいいのだろうが前提条件としてそれはできない。

ならば戦争さえ有ればあるいは心をごまかせるだろうが、根本的な解決策ではない。

何より、このキサラギに…戦わせたくは、無い。

 

 

そんな告白を電は聞いて、そして、一つキサラギに質問した。

…ソレで、キサラギちゃんは不幸なのですか、と。

 

「不幸な訳無いじゃない…幸せよ、いつか見た平和な海がある世界で…でも、私1人が幸せになって良いわけ無いじゃないの!だから…苦しいの、みんな戦いの中で生きてるのに…」

「なら…笑うのです」

 

キサラギの絞り出すかのような本音に、電はこう返す。

思わずキサラギは目を丸くするが…電は笑って、こう続けた。

 

「楽しい時に素直に笑って、嬉しい時に素直に笑って…そして、『私は頑張ってるよ』って祈りを貴女の仲間に込めて、空を見上げて送るのです!そうした方が…きっと、向こうの『私達』の力に成るはずなのですよ、少なくともキサラギちゃんが泣いてるより、ずっと」

 

 

キサラギはそんな言葉を聞き…わんわんと、せきを切った様に泣いた。

そして…30分は、延々泣き続けたと言う。

 

それから、少しだけ落ち着くと、キサラギは屈託無い表情を見せて、礼を言った。

…ありがとう、電、と。

そこには、素敵なキサラギの笑顔があったと言う。

 

そんなキサラギに…電はもう一つだけ質問した。

…睦月ちゃんの事、どう思ってるのです?と。

 

 

「あ、睦月ちゃん!そりゃ向こうの本当のお姉ちゃんが大好きだけど、こっちの世界の睦月ちゃんだって大好きだし、え、あ、違うの!そんなのじゃないの!!」

 

ワタワタと狼狽えるキサラギの姿を見て、電はふふ…と怪しい笑みを見せる。

そして、こう、最後に付け加えた。

…頑張るのです!と。

 

「止めてよ電ちゃん!」

 

それは電は『イイ』顔でニヤニヤする中で、キサラギは顔を真っ赤にしたとか。

 

 

…なお…

 

「べ…別にこっちの『睦月ちゃん』のためじゃなくて…い、電ちゃん見ないで、てか睦月ちゃん見ないでぇ!?今顔真っ赤なのよ!!」

 

電のアドバイスでキサラギが少し素直に成りすぎた結果、睦月との仲をクラス中でからかわれすぎて、反動でしばらくの間キサラギはちょっと睦月にツンデレ地味た言動をとってしまったとか。

 

屈託無く笑ってくれるようになって姉として感無量、ツンデレ妹とか人として感無量にゃしぃ…!と、昇天しかけては、如月がおもいきり殴り、ありがとうございますっ!と引き戻されたりする睦月が居たそうな…

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