「眠い…何で授業中って、てか活字がいっぱい有ると眠くなるのです…」
電は、教科書を開いて、実に憂鬱そうににらめっこしていた。
それを…悪友の如月と、クラス委員長たる時雨が実につまらなそうな冷たい目で見下ろしていた。
そう…電は、いわゆるのび太君タイプだった。
人格が優しく、妙なリーダーシップが有り、その辺のカリスマから友人も多いが…
某小説よろしく、『学校で評価されない』長所な訳である。
…電は、すっかり駄目な子扱いされていた。
そして、その辺は生真面目な如月と要領が良い時雨はその逆だった。
「…電、眠くならない方法教えてあげるよ」
そんな時雨が見かねて電に声をかける。
本当なのです!?と、電が飛び起きて反応する中で、時雨はああと答える。
そこで取り出したのは…ナイフのような何かだった。
「それ…何なのです?」
「『肥後の守』、便利な折りたたみ式の小刀だよ…例えば、鉛筆を削ったり工作に使ったり、僕クラスに身体を鍛えたら護身用にも使えるね」
今時の子が肥後の守ってわからないわよぉ…と、如月があきれる中で、時雨はその肥後の守の刃を自分の方に向けて、電に向けて薄く笑う。
…あ、と、大体時雨が何を言い出すのか予想が付いた電が焦る中、時雨は構わず続けた。
「…これを首筋に突き立てるような感じで壁か何かにガムテープとかで固定してね、姿勢が崩れたら刺さるよう…」
『死んじゃうツモは嫌なのです!てか、よくそんな危ない真似して生きてたのですね!?』
「せめて、手の甲をつつくぐらいにしなさいよぉ!?」
…なお、予想の斜め上だった。
さすがに死ぬのは嫌だ、などと電がごねだした…と言っても当たり前の話なのだが、とにかく却下した電に向かって、如月は薄荷のタブレットでもかじれば?と横から口を挟む。
「…電、口がすーすーするの嫌いなのです」
「お子ちゃまねぇ…サクマドロップの薄荷だけのやつとか美味しいのにぃ」
「…アレは、普通のドロップの中からたまに出るから美味しいんだよ?如月…」
電がしゅんとする中で、如月と時雨が何故かサクマドロップの話題で盛り上がる。
他人事みたいに言うな!と電は怒るが…如月と時雨は実に冷たい口調で返した。
…他人事だからな電、と。
「うわぁぁあん!!どうしたら良いのです!?」
ついに八方ふさがりになった電が泣き出してしまう。
そこに、時雨が泣けば許される話でもないんだから自分で解決しろ、と涼しい顔でトドメを刺す。
…流石に如月がオロオロする中で、電は真っ白になっていた。
そんな電は、ポツリと言う。
…せめて、何か見返りとまで言わないけど、頑張る理由が欲しいのです、と。
「…なるほど、最初から電の心では答えは決まってたじゃないか」
「即物的で単純だけどねぇ…」
時雨も如月も呆れながらくすくす笑う中、2人電に聞く。
お前が一番欲しいものは、元気が出そうなものは何だ…と。
電は、うーんと考えた後、思いついたように、ポツリと言った。
…如月が、欲しいと。
「ちょ、ちょっと!?電…貴女何を言ってるのよぉ!!」
「と言うか、友達が笑ってくれたら電は一番の元気の源になるのです!それで、友達を私は差別しないけど、やっぱり如月ちゃんが思い入れが強いのですよ…付き合いの濃さが異常ですし」
電の無欲さの象徴とも言えるが、かつ、のろけのような独白。
にこやかに電が語る中で、如月は顔を真っ赤にするばかりだ。
「…御馳走様ってやつだよね、これ」
時雨が呆れるが、じゃあ電…お前の頑張る対価に何を出すのさ、と思い至る。
どうしよう…と、少し考えて、一つ思い当たる答えが居た。
昔、同じ大本営に居て…今は、隣のクラスに居る秋雲と近所で工房を開いている明石だった。
そして、僕に任せてよ電、と…のろけに興じる電と顔を真っ赤にする如月に声をかけたのであった。
それから、一週間後。
「今日は、1日寝なかったのです!」
「はは、当たり前だけど…電にしては頑張ったよね、はい、ご褒美にこれ」
学校の授業が終わり、電が伸びをして寝なかった事を時雨に自慢する中で、時雨は何か白い包みを電に渡す。
それを見ていた如月と、ついでに姉妹艦の睦月が何事か、と声をかけた。
視線を感じて時雨はものすごい青い顔をするが、当の電は笑顔で如月ちゃんに睦月ちゃんこんにちは、と返す。
そして、頼まれてもないのに、包みの中身を2人に教えたのだった。
「あのですね、時雨ちゃんが私が頑張ったら、グッズをくれるって言ってくれたのです!」
「ぐ…グッズ?」
「にゃし?何をもらってるの?」
「9分の1スケールの如月ちゃんフィギュアと、如月ちゃんのイラストのクリアファイルなのです!』
…凄まじい爆弾発言に如月と睦月の2人は凍りつく。
と言うか、電以外のその場に居た全員が凍りつく。
しかし、当の電は涼しい顔で話を進めたのだった。
「あの時、悩んでた私を時雨ちゃんが呼び出して…『如月がそんな好きなら、いっそ如月のグッズでも作って渡してあげようか?アテが2人居るし』なんて言って、それで中身が気になって仕方なかったのです!それで、授業を真面目に受けることを条件にくれるって約束してくれたのです!中身を開けるのが楽しみなのです!!」
お前は何を言ってるんだと言う電への周囲の反応と、お前は何をバラしたんだと言う電への時雨の反応で、周囲の時が止まる中…
如月と睦月は怒りに震えていた。
そして、2人は同時に時雨にぶちきれた。
「肖像権とかどうなってるのよぉぉ!?人を文字通り玩具にするなぁぁぁ!却下ぁ!そんなのぶっ壊してやるんだからぁ!」
如月が自分を、無許可でめちゃくちゃされたことにぶちきれる。
「酷いよ時雨ちゃん!私にも如月ちゃんグッズ…てか如月ちゃんフィギュアを愛でる用と保存用で2つ欲しいから欲しいよ!」
「ちょ、ま、姉さん!?」
そして…睦月は呉の出身で如月とは学校で出会うまで顔も知らなかったが、何か重たいシスコンだった。
…なお…
「時雨ェ!お前は俺にとっての新たな宿敵よぉ!」
「オレオォ!?」
時雨は、とりあえず、当然ながら如月にぶんなぐられていた。
しかし…それからも、その如月フィギュアは破壊される事はなかった。
このフィギュアを飾っていた机で電が勉強すると、それはそれは電の集中力が違うからだ。
少なくとも、さぼり気味だった宿題の提出率も大幅に上がっていた。
目に見える結果が出て、電へ如月は…不本意ではあるが、まことに不本意ではあるが、そのフィギュアを破壊する事はできなかったのだ。
時雨の目論見は、手段の是非を抜きにしたら成功だった。
…如月は、電の自分への好意と時雨の友人の技術力を認めざるを得なかった。
「リボル○ック並の可動範囲に4種類の表情差し替え、更にキャストオフ可能なのは凄いのです!」
「キャストオフは止めてぇぇぇ!?」
変態性も認めざるを得なかったが…それが日本人だった。