深海棲艦…それは、海の底より現れし悪鬼達の総称だった。
黒い牙を模した衣装を身にまとう黒白の化け物…人類と艦娘達の天敵…だった。
そんな深海棲艦だったが…。
「ああ、ヲ級さん、オッスオッスなのです!」
「電ちゃんヲはようサン!」
和解後は普通に学校で馴染んでいたりした。
何だか緊張感のないやりとりではあるが、ここまで行くのには相当苦労の連続だったと言う。
…『和解』は、本来は共通の敵を倒すための、一時的な措置でしかなかったのだから。
幾度も…停戦中の時ですら、互いに艦娘と深海棲艦で命の取り扱いになった事も水面下ではあった。
しかし、そんな憎しみや誤解を…ある深海棲艦が体を張って真正面から両方の痛みを一身に受け止めていた。
そして、そんな深海棲艦を、前から知っていた艦娘達はもちろん、大本営のエース部隊のメンバー全員がサポートする姿を見て…少しずつ、わだかまりがなくなったと言う。
そして…深海棲艦のうち、人間や艦娘に興味がある一部の深海棲艦のうち、艦娘学校に行きたがる者も、少しずつ現れたのだ。
それから、許可証が要ると言う前提ではあるが、艦娘学校に通い出す深海棲艦も、ちらほら現れたと言う話ではあった。
とは言っても、基本的に人型の深海棲艦しか海から陸地に来れないので、そのあたりの描写は今まで駆逐艦メインでストーリーを進めていたこの話では、わりとスルーしていたのだが…ある日、ついに明石が、やらかした。
「…と言う訳で、今日から転校する運びになりました…駆逐棲姫です!」
駆逐棲姫、駆逐艦クラスの深海棲艦で有りながら、『姫』であると言う最強の特異点。
その姿は、何だか…『春雨』を闇に落とした様な、そんな姿をしている。
そして、その身体には…足はなかった。
つまり、陸地に上がれないハズだったのだが…
「あ、足は…有りませんが、明石って人がホバー作ってくれたんで、陸地の移動は大丈夫です!」
よく見たら、駆逐棲姫が下半身に付いてる船体部分はホバークラフトのようにタイヤが付いていて、その下には空気が強い勢いで噴出されてわずかに浮いていた。
そんな駆逐棲姫がぺこりと頭を頭を下げる姿を見て…その、駆逐棲姫が来訪したクラス中はどよどよと喧騒に包まれる。
『転校生』が来ると言う話は前から聞いていたが…まさか深海棲艦とは、と。
果たして大丈夫なのか…友だちになれるのか…と言う話で盛り上がりを見せ、深海棲艦と言う事で反射的に艤装を展開する者すら出た中、通常運転だったのは…
「『駆逐棲姫』…素敵なお名前なのです!」
「これから、宜しくねぇ」
妙に深海棲艦に慣れている電と如月だけだったと言う。
さて、それからと言うもの。
件の深海棲艦…駆逐棲姫はと言うと、なんやかんやすぐ馴染んでいたりした。
戦闘中以外は基本的には攻撃的な性格ではなかった駆逐棲姫、クラス中でもコレなら大丈夫か、と言う感じで受け入れられたと言う。
特に、電と如月…といってもこの2人にとっては双方無意識の素の対応だったのだが、とにかく彼女達ののんびりした駆逐棲姫への対応が、その後の駆逐棲姫の扱いを決定したといって過言では無いだろう。
…ただし…
「…!」
「流石に駆逐艦1人の主砲が私にあんまり利かないのは自分が一番知ってるでしょ…」
チャキっと言う金属音と共に、隙あらばキサラギは駆逐棲姫に主砲を向ける。
毎度毎度、そのたびに周囲が止めに入り、とうの駆逐棲姫は呆れたようにため息を吐くが…
とにかく、キサラギ…もう1人の如月の方は、殺意満点で警戒しっぱなしだったと言う。
最初こそ、そんなキサラギの殺意しか無い反応に駆逐棲姫は非常に怒っていたが…
キサラギがこの学校に来訪した事情を聞いて…それはそれは、胃痛に苦しむように表情がげんなりしていた。
…そりゃ、私達を嫌って当然かも知れないな、と。
そして、非常に悲しい顔をする…北方棲姫みたいには、やっぱりできなかったのだな、と。
「…ほっぽちゃんと知り合いだったのですね」
電が、自分達の『友人』の顔を思い浮かべ、あーと言う顔をする。
しかし、どっちかと言えばレ級の方が知り合いだったと訂正し、駆逐棲姫は話を進めた。
地上に上がったりする深海棲艦が数多居るこの世界、当然伝聞という形で地上の情報が深海に伝わり…そうやって、地上に興味が生まれた駆逐棲姫は、いつか、のんびりと地上を漫遊してみたいというのが夢だった。
だが…下半身が下半身で、海から出られない。
そんな悲しみにくれる彼女を慰めたのが…たまたま、イベント事を楽しもうと深海から脱走したほっぽを回収したレ級だった。
…何か、アテを当たってみるデス、と。
そして、何気なく木曾に電話した際、アイツなら…と言う返答が帰って来た。
それこそが大本営のドラえもん、工作艦の明石だったと言う。
「…ああ、明石さんとか学園長に面識をどうやって取ったって前から疑問だったけど、そういうルートか…」
時雨が何か呆れたような口調で納得するが。
それはそうと…まだまだホバーの電池残量とかの関係で、地上を漫遊するとまでは行かないが、それでも夢がある程度叶って非常に嬉しい。
地上はまだまだ知らない事だらけで、それが新鮮で仕方ない。
艦娘と争わず過ごせる毎日が、幸福で仕方ない。
…『いつか見た平和な海』、まさか地上からおがめるとは思わなかった…それだけで感無量だ、駆逐棲姫は最後にそう言って締める。
良い子だなぁ…と、おーばーどらい部のメンバーは優しい顔をするが、それだけに、キサラギの事は本当にネックだよな、と全員が感じる。
キサラギが未だに深海棲艦に頑ななのは、別に間違っては居ないのだ。
異世界では、自分を殺し数多の仲間達を傷つけて…
そして、つい最近までこちらの世界でも自分達艦娘を傷つけた、キサラギにとって深海棲艦とはそう言うモノであり、その認識自体は間違っては居ない。
と言うか、それはそれで100パーセント正しい認識なのだ。
それだけに、キサラギの事を一概に責めるわけにはいけなかった。
とは言っても、別に駆逐棲姫はおろか今のこの学校の深海棲艦達が、別にキサラギに手を出したい訳ではない。
と言うか、単に仲良くしたいだけなのだ。
話し合いをしようにも、恐らく…このままでは、キサラギはそのテーブルに本当の意味でつく事は永久に無いだろう。
…どうしようかね、と時雨が漏らした時、睦月が時雨に声をかけた。
「妹の事は、私に任せるが良いぞ!」
…どうするつもりだよ、と全員が小首を傾げるのであった。