「…えらく連載再開に時間がかかったよね…これぞ正しく『時雨(レイニー)』止めってことかな…」
「時雨、何の話よ」
亜空間から、時雨のメタなぼやきが聞こえつつ。
しかし、それはそうと、と時雨はため息を付くと、こう言うことか…と頭を抱える。
そして、上目遣いで視線を送る。
その先にあるのは…
「…電の紹介ってことでここに来たんだけど……」
巫女装束風な和服を来た美女。
長髪以外はその姿は山城と瓜二つでありながらも、どこか余裕そうな笑みを浮かべている。
正に、大和撫子と言う風情のその女、電の良く知る人物であり…
「お姉様!!!お姉さまですよね!!私、山城と言います!!あの、今日は…」
「ええ、私も会えて嬉しいわ山城。時雨もよろしくね…」
扶桑と言う、電の元同僚でも有った。
何のこともない。
山城は扶桑に出合えると知り、非常に張り切っていた、と言うのが事の真相で有った。
そして電から、扶桑さんから時雨ちゃんも連れてきてあげてと頼まれた、等と山城は聞かされてこんな状況になっていたと言うことである。
…まあ、電と山城に直接の面識が皆無だったので、ほぼ初対面の電が山城を動かすと成れば、こうも反則的な行動に出ざるを得なった訳だが。
…言い方悪いけど、これは僕はおじゃま虫じゃないか?
時雨は、内心ぼやく羽目になってしまったと言う。
さてさて、しかししかし。
結論から言うなれば、時雨の懸念は杞憂に終わった。
と言うのも、扶桑曰く、カンヅメから逃げ切ろうと迷惑をかけた人たちに謝罪をしに呼び出したと言うだけで、次の原稿の締め切りが近く長居が出来ない、と。
その為、謝罪をかねたサイン入りの単行本の進呈とあいさつだけしに来て直ぐ帰る、と言うことだった。
山城は、そんな殺生な、と食い下がるものの…
流石に元提督の海里含めた関係者全員からの説教乱舞は嫌だと扶桑は半泣きで答える。
また会えるから、とだけ言うと、扶桑はそそくさと立ち去ってしまったのだ。
「…どうしろって言うのよ」
「…扶桑、なんて自由過ぎる、本当…困るよね…」
一方、扶桑に振り回された二人は、唖然とするばかりで有った。
さてさて、それからと言うと。
「…で、本当にどうしようかしら、姉様が居ないなら、もう帰っても良いわよね?」
と、山城がのたまった為、慌てて時雨がそれを止めにいく。
まだまだ門限まで時間が有るし、もっと山城と色々街を見て回りたい、と。
何でそんな必死なの?と山城は疑問符を浮かべるが、まあそれならそれで良いか、と時雨のワガママに付き合うことを了承する。
そして、二人は、街の中へと消えていったと言う。
そんな、山城と時雨の姿を…
「…電?とりあえず、上手くいったみたいよ?」
『なのです!流石扶桑さん、電に出来ないことを平然とやってのけるのです!痺れる憧れるゥなのです!』
電話で電とやり取りしながら、扶桑は物影からじっと見ていた。
まあ、話の種明かしをすると。
扶桑が二人に謝罪をしたかったことは本当なのだが、一方、如月からの経由で自分に縁が深い二人の艦娘が仲がおかしなことになっていることも聞かされていた。
そこで、迷惑をかけた詫びとばかりに、扶桑が自分からダシになってやり二人が真っ向から向き合えるチャンスを作ってやろうと画策したと言う訳で有る。
マイペースかつ自分本位な扶桑には珍しい、姉らしい心遣いで有る。
尚…
「……私、いいことしたんだし、締め切りって延びたりしないかしら、お餅みたいに」
『それが出来たら、苦労しないのですよ…』
根本的なところで、台無しで有ったと言う。
一方、時雨と山城の二人はと言うと。
なんやかんや二人きりでデート状態まではいったものの。
そう、街に繰り出したまではよかったのだが。
いざとなると時雨が変に意識して急速にヘタレてしまい、カチコチに固まってしまった。
そんな訳で、結局。
買い物だの映画だの、と時雨は脳内で二人きりで遊ぶなら、とシミュレーションしてたことは何一つ成せず。
ぼんやりと、市街地のベンチで山城と二人きりで過ごす羽目になっていた。
とは言え、巻き込まれかつ扶桑に余り会えなかった山城は、正直たまったものではなく…
早く帰ろう、と、時雨の服の裾を何気無く引っ張った。
そんな時で有った。
「えひゃい!山城、近い!?」
山城が物理的に急接近して、思わず時雨は変な声を出してしまう。
そんな時雨に山城はムキになってしまい、近づいただけで嫌がるなら、私本当に帰るわよ、と怒ってしまった。
そして…
「嫌なわけ無いだろ!び、ビックリしただけだって!僕は山城のこと本当に大好きなのに!!」
……売り言葉に買い言葉、と言う形で。
時雨は山城に向かって、思わず告白してしまったのだ。
…あ、ちょっと待って、ちょっと待って!
…これ、僕やらかした!?これ、え、えええええ!?
…ムードとか雰囲気ってなんだっけ!?
…最悪だぁぁぉぁぁ!もっとクールに決めるつもりだったのに!
…いっそ誰か僕を殺してくれ、頼むからぁぁぉぁぁ!
そんな時雨は、自分のやらかしたことに対して頭を抱える。
あんなヤケクソで告白するなんて、元大本営のエースの三番隊の一角にあるまじき失態だ。
なんと言うか、思春期の男子以下の醜態に、時雨は悶絶する羽目になっていた。
ところが、である。
一方の山城はと言うと、実に平然とした口調で、ああそれなら良いわよ、とだけ返す。
全くもって、山城に対して時雨の意図は伝わって無いみたいだった。
まあ、あんなヤケクソなら、端から聞いたらラブじゃなくてライクの意味でしか伝わらない訳ではあるが。
だがしかし、時雨からしたら、である。
勇気と羞恥心の狭間に悶絶した結果がガンスルーでは、余りにも惨め過ぎた。
そして、それはなんだかわからない怒りとパトスと化して、時雨を突き動かした。
ガバッと時雨は山城に抱きつくと、こんどは真剣な口調で切り出したのである。
本当に、僕は山城が好きだ。こう言った後、更に一言だけ言う。
「ライクじゃなくて、ラブの意味で好きなんだよ!!」
こう付け加えて、である。
そして、そんな山城の返事はと言うと…こんな感じで有った。
…ああ、なる程…私の周りをウロチョロしてたのは、そう言う理由だったのね、と時雨に対して山城は冷たく睨む。
軽蔑された!?と、時雨は涙目になるが、はぁ…とだけため息をつくと、山城は時雨を撫でながらこう言った。
別に、それならそれでしょうがないか、ウロチョロしたいなら別に勝手になさい、と。
時雨は、なんだか振られたのかokなのかなんなのかわからない状況に困惑するものの。
とりあえず嫌われてないことを知り、安堵するので有った……
「…それは、都合の良い愛人って言わないか、時雨?」
後日、たまたまその話の顛末を聞いたヴェールヌイが一言、漏らす。
時雨はヴェールヌイの容赦ない突っ込みに、ギャフンと言うしかなかった…