時雨が三階の窓からアイキャンフライしてから、3日。
時雨はと言うと…
「いい加減、自由時間の監視がうざいな…とは言え、自業自得か…」
実質的な軟禁を食らっていた。
それはそうだろう、何か有る度窓からアイキャンフライする謎生物、見てて危ない事この上ない。
実際、下の階の軽巡や重巡が良く集まる中等部や空母や戦艦が集まる高等部のメンバーからは、もはや悲鳴の嵐であの時はパニックになっていた。
当然、あの後教師陣からはものすごい問題になり、実質的な謹慎も視野に入れて話が進んだが…深雪と曙の嘆願と、悪気が時雨になかった事もあり。
二週間程の、いわゆる執行猶予処分と言う形で罰則が落ち着いた。
時雨からしたら、まあ一々トイレと風呂以外誰かに監視されている毎日は鬱陶しい事この上なかったが…まあ仕方ないか、ぐらいの感覚でそんな毎日を享受していたのだった。
…どうせ、後は十日ぐらいの辛抱だし、と言う話でしか時雨にとってはなかったのだから。
一方、そんな時雨を心配そうに眺めていた艦娘が居た。
電であった。
電は、何となくで有るが時雨の気持ちを察していた。
恐らく、時雨は自分とは毛色と言うか、棲む水が違う艦娘なのだと。
性格的には特に電と噛み合わないと言う事は無い、むしろ時雨がシニカル過ぎる感じはあるが、お人好し同士かつ如月とは別な形で電のアドバイザー兼ストッパーになってくれる良い友人だ。
と言うか、変に闘争心が薄いタイプ同士、付き合いが長い如月より話は合う。
とは言え、身体能力が本当に雲泥の差であった事も事実だった。
もちろん、電や如月も木曾に徹底的に鍛えられ平均以上には動けるが時雨で別格だった。
以前、普通の実業団チームにイチローと木曾を例えた事が有るが、時雨もそんな感じだった。
木曾の場合は教導…コーチ役としても来ていたので別にそれで良かったのだが、時雨の場合は同級生である。
上下関係が無い状態でこうだ、時雨視点で見たら…自分たちはつまらないかも知れない。
しかも『闘争心が薄い』、これが、時雨の枷になっていた。
負けん気が薄いから誰も見下さず自分と同じ目線で話す…それはそれで凄いことだ。
だが、それは視点を変えれば向上心の薄さに繋がる。
スポーツに打ち込んだりして持て余した能力を昇華したりと言うタイプに繋がらないと言う話にもなり、結果的に時雨にとって悪影響になるのでは、と電は考えていた。
或いはライバルになりそうな人は…電も良く知る雪風だろう。
だが、雪風は艦娘学校にあまり来ない生活をしていた。
つまり、唯一張り合えそうな人間がいないと言う事であり…時雨がかわいそうだな、と電は結論付けた。
時雨をどうしようか…と考えて、とりあえず電は、相談できそうな人間に片っ端から当たってみる事にした。
case1:木曾
「う…うーん、難しいな…アイツは結構インドア派だったから変にスポーツ薦めてもなぁ、やりがいのありそうなボランティアでも薦めるか?」
…ボランティアか、着眼点は悪くないかな…と電は考える。
case2:羽黒
「そうですねえ、時雨さんはパルクール自体は素でやってるみたいですし、もういっそそれを部活動みたいにしちゃうとか」
パルクールを部活動か…面白いかも知れないと、電は思う。
case3:海里護(電のリンガ時代の元司令官)
「話を聞くに、彼女は…タイプが羽黒や飛鷹に近いよな、誰かそばに居れば自然と落ち着きを得るのではないかな?」
なるほど、確かにストッパー役を押し付けるだけでなく、時雨の為には自分もストッパー役にならないと駄目かも知れない…電は考える。
そして…
「…つまり、ボランティアとパルクールを混ぜた全く新しい部活動を始めるのです!部長は私なのです!」
「ごめん電、あなた馬鹿でしょぉ…混ぜんな、まとめなさぁい」
如月にとりあえず聞いてみた事をいっぺんに纏めて伝えたが、如月には却下された。
…まあ、仕方ないと言うか、ごちゃごちゃしすぎている。
そもそもルールが意味不明だ、如月はそう言って呆れるが…当の時雨はと言えば…
「うーん…電、それ面白いかも知れないね!」
乗り気だった。
如月がはぁ?と突っ込みを入れるが、時雨はこう続けた。
「つまり、ワイヤーアクションの最短起動でスタイリッシュ清掃とかスタイリッシュ物探しとか…そう言う事だよね?」
「後、誰かの代わりに買い物行ったりするのです!」
「なるほど、それは誰かの為になるし、僕も悪い気はしないよ」
「なのです!時雨ちゃんは如月ちゃんより話が通じるのです!」
わいのわいのと、こんな感じで2人は盛り上がるが…如月は微妙に青い顔をしていた。
アカン…コレって、ただのスタイリッシュなパシり集団やないか、と。
慌てて如月が止めに入ろうとしたが…電にその前に抱き込まれてしまった。
「如月ちゃんも入るのです!」
「いや…それは…」
「如月ちゃんの為でも有るのです、如月ちゃんも時雨ちゃんも方向性が違うけど常識派の癖に自分を捨てすぎなのです!2人が電のストッパーになってくれるなら電も2人のストッパーになるのです!オール・フォー・ワン・ワン・フォー・オールなのですよ」
あ…と、如月が放心する。
そう来るとはまったく思ってなかった如月は、無言になり…そして、ため息一つ付くと呆れたような口調で電と時雨に答えた。
わかったわよ、入れば良いのよね、と。
そして…如月はこう続けた、そのまったく新しい部活動とかの名前って何なのよ、と。
電は…頭を抱えて首を捻らせながら考えて、そしてがっくり頭を机に当てて突っ伏した。
…頭使うのはやっぱり苦手なのです、と。
そんな電と如月を見て時雨がこう言った。
僕に名前つけさせてくれないか、と。
そして、こう続けた。
「…そうだね、『限界』を超えてしまう如月と『限界』に飢えてる僕、そして僕と如月をまとめるために『限界』を見極める電の3人だから…オーバーヒート…いや、オーバードライブ…そうだ、『おーばーどらい部』なんかどうかな?」
電は良い名前なのです、と感嘆し…如月含め話を聞いてた他のメンバーはどんなセンスやねん!と突っ込んだのだった。
そして…
「電、如月…ターゲットはあの木に引っかかったボール、2人とも行くよ!」
そう時雨が言うと、電と如月を脇で抱える。
そして、時雨は学校の屋上からその姿勢から飛び降りた。
そのまま真っ直ぐ件の木に飛び降りて時雨は引っかかったボールを蹴り落とす。
更に安全に降りれる着地点まで、バッタのように跳ね回りながら時雨は駆け下りたのだった。
「凄いのです!ボールに向かって一直線なのです、スリル満点なのです!」
「下ろしてぇぇぇ!?姉さん助けてぇぇ!てかこれ私と電要らないでしょぉ!」
そして、巻き込まれる…楽しそうな電と死にそうな如月。
これも艦娘学校の名物であり、「おーばーどらい部」の日常だった。
なお、執行猶予中に何度もアイキャンフライをやらかした時雨は拳骨を食らったとか、喰らわなかったとか。