おーばーどらい部が(非公認で)始動してから早二週間…
「非公認だったのぉ!?」
…いや、あんな危険なパルクール集団、同好会としても許可下りないよ如月…
「電ぁぁぁ!時雨ぇぇぇ!ちょっとこっち来い!」
「如月ちゃん、顔が怖いのです…」
「う~わ、あかんキレ方してる…」
…電と時雨が如月に曳航されてぼこぼこにされる中。
しかし、そんな彼女達に依頼を頼む者はそこそこ少なくなかった。
身体能力で頼りが欲しい時は時雨、頭脳労働が欲しいなら如月。
彼女達の力を貸してほしいと言う艦娘は少なくなかったのだから。
…電要るの?って話が出そうだが、電が窓口役をしないと如月が無制限に依頼を受けかねないので、わりとストッパー役として必須だった。
そんな感じで、ある種の便利屋集団と化した3人だったが…その日、厄介な依頼がある、と話を持ちかけて来た艦娘が居た。
ヴェールヌイ…タウイタウイ出身の、暁型の2番艦。
電の『姉』に当たるクラスメートの一人だった。
「…また、ハラショーにぼこぼこにされたね…電」
「その辺はあまり突っ込まないで欲しいのです…ところで、『厄介な依頼』って何なのです?お姉ちゃん?」
「ああ、そうだね…実は『ペット』が逃げ出したんだ」
ペットが逃げた。
コレが、ヴェールヌイが持ちかけた相談だった。
それには如月と時雨は目を丸くした、寮はペット禁止なんだから。
校則違反ではあるし、そもそも何を拾ったかが意味不明だ…変な生き物を飼ってたらすぐに噂になるだろう。
さらに『逃げた』と言うには魚みたいな生物ではない、何をペットにしたのかと言う話になるだろう。
その辺を時雨が突っ込んだらヴェールヌイはこう返した。
…逃げ出したのは、犬だと。
「わんちゃんが逃げたのです?」
「…そんなのが逃げたならぁ、すぐ噂になりそうなのにねぇ…』
電と如月が疑問で首をかしげたが、ヴェールヌイは構わずに続けた。
曰わく、こんな感じだったそうだ。
「艦娘学校ができる前から、私が『響』だった頃からの付き合いだった…大事な相棒で、心の癒やしだった…いつも一緒だったよ、私が寝るときも遊ぶ時も、戦うときにさえ一緒だったのさ」
「た…戦いにも連れてったのです!?お姉ちゃん!」
「そうだね、私もあの子を戦いに出すのは嫌だったけど、あの子は離れなかった…何時しか私はあの子がいない生活は考えられられなくなった…だけど!あの子は駆け落ちしたんだ…別なメスと…私はどうしたらいいんだ…」
響の独白にだんだん違和感を感じる3人。
ペットと言うか、まるで恋人を取られた女の相談みたいではないか。
しかし、構わずにヴェールヌイは最後にこう言ったのだった。
「…どこへ行ったんだ!時津風!」
「同僚をペット扱いすんなのですクソ姉貴!!」
電がスリッパで響をしばく。
…確かに子犬みたいだけどな、と如月と時雨は呆れた。
…なお…
「『夕立と一緒に出かける、しばらく顔を見せないよ』っていきなり酷いよ、時津風…」
「僕の姉妹艦じゃねえか!!草の根かき分けてでもって探せぇ!」
なお、時雨も無関係じゃないみたいだった。
「…で、私も巻き込まれました、と」
それから、授業が終わってからと言うもの。
速攻で外出許可を取った3人は学校を飛び出して、現在は…時津風と夕立が居ると言う方向のとあるショッピングモールにて。
如月は…良く考えたら私あんまり関係ないよね、と頭を抱えていた。
しかし、そんな如月に対し、電と時雨は呆れた視線を送るのだった。
「しっかり一人だけ報酬もらって文句垂れるのは駄目だと思うのです」
「…プチプチだけどね、如月って安いよね」
「安いって言うなぁ!」
そう、ヴェールヌイはその辺も考慮して如月にだけプレゼントを先に送っていたのだった。
…ただのプチプチだった、が。
如月も、まあこれで1ヶ月は生きていけるし電の姉に感謝すべきよね、と気合いを入れ直しながら電探を展開しつつ街を走り出す。
それを皮切りに3人は手分けしてその商店街を駆け回る。
店を片っ端から駆け回りながら、時にはトイレも駆け回りながら…
時津風や夕立が居た反応を探し回る。
そして…
「見つけたぞぉぉ!夕立ぃぃぃ!」
「ち、ちょっとこっちくんな!変態軌道で何か来たぁ!?」
「し、時雨ちょっと落ち着くっぽい!?」
時雨は夕立を見つけるや否や、壁を蹴り人ごみを飛び越しながら塀を走りドアの取ってを足場にし…と、相変わらずの超パルクールで2人に接近して時雨は時津風と夕立を拘束する。
そして、戦慄する2人に追いつくと簀巻きにして身動きをとれなくして電と如月に連絡を取る。
それから5分後…
「…黒髪が時津風さんで金髪さんが夕立さんだっけ、2人が怯えきってるのです」
「何やってるのよぉ、時雨」
電と如月が見たものとは、時雨にドン引きして恐怖で号泣する時津風と夕立だった。
…やり過ぎた、と時雨は頭をかきながら反省していた。
そして…
「…結局、学校サボってお姉ちゃんに心配かけて、2人はなにがしたかったのです?」
2人を簀巻きから解放しつつ、電は時津風と夕立に話を聞く。
だが、時津風は俯くばかりで何も答えない。
夕立は…何か言いたそうだが、時津風をチラチラ見ながら、言葉をつぐむ。
そんな夕立を見て時雨はイラついた表情を見せ始める。
そして一言、呟いた。
…いい加減にしないともっと本気出すよ、と。
時津風と夕立は、恐怖で互いに抱き合って更に怯えだしてしまった…
「鬼ねぇ…」
「ヤクザのやり口なのです…」
電と如月は呆れると言うか、同情するが…しかし、彼女達も特に時津風には怒っていた。
なんでこんな脱走を企てたの、と。
電と如月にまで突っ込まれて夕立はもう本当に見てて可哀想なぐらいオロオロしていたが…時津風は、意を決した表情になり話をはじめる。
それを聞き、おーばーどらい部の面々は驚いた表情をし…それから、時雨からこう切り出した。
…本当に怖がらせてごめんなさい、僕らも協力していいかな、と。
それから電と如月も続けた、私たちも力になるから後でちゃんと先生に謝ってヴェールヌイに伝えなさい、と。
夕立はホッとした表情になり、時津風は感涙していた。
その日の夜七時、門限ギリギリに5人は帰宅しそのままヴェールヌイの部屋へ急行する。
目くじらを立てて時津風に怒り出すヴェールヌイだったが…それを静止したのは電だった。
曰わく、お姉ちゃんの為に2人は飛び出した、と。
どういう事だい?とヴェールヌイは電に聞くが、その疑問に答えたのはとうの時津風だった。
曰わく、こんな話だった。
「…実は、今日は特別な日なんだよね」
「特別?何の話だい、時津風」
「今日は…その、ヴェールヌイ…いや、『響』が私と初めて出会った日だから何かプレゼントしたくて…趣味が合う夕立に相談して無断でそれを買いに走ったんだ…悪かったとは思ってるよ、巻き込んだ夕立や心配かけたヴェールヌイには、さ」
え…と、驚いた表情を見せたヴェールヌイだったが、夕立は心配そうな表情でフォローに入る。
曰わく、強引に学校を抜け出させたのは私だから責めるのは私だけにして欲しいっぽい、と。
しかし、ヴェールヌイは時津風にも夕立にも怒らず、帽子を目深かにかぶり直すと2人に謝罪した。
「2人の気持ちなんて全然考えてなかった、私は気付かずにひどいことばかり言った…本当は時津風にちゃんとお礼しなくちゃならない立場なのに、ごめんなさい…」
そんな事を言いながら、ヴェールヌイは一筋の涙を流す。
夕立はおろか場に居る全員がどうしよう、とうろたえるが、時津風は苦笑いしながら包装紙に包まれた箱を渡す。
ヴェールヌイに泣くなよ、と声をかけながら、錨のエンブレムが付いたシルバーのネックレスだよ、と中身を伝えた。
「……ヴェールヌイには、いや、『響』には一番似合うと思う」
ヴェールヌイ…いや、付き合いが長い時津風には響は…ハラショー、と一言言って更に号泣していた。
そんな姿を見て安堵する一同の中で、ただ1人キレている艦娘がいた。
電であった。
そして、怒った口調でヴェールヌイに問い詰めた。
「お姉ちゃん!こんな優しい子を『ペット』扱いはいくらなんでも酷すぎなのです!ちゃんと謝るのです!」
…そう言えば、お前そんな事言ってたな、と。
「ペ…ペット!?それは酷いっぽい」
「確かに…思い出したら酷い話だわぁ…」
「反省すべきだよね、ヴェールヌイ」
3人は冷めた視線をヴェールヌイに送り静かに怒るが、当のヴェールヌイと時津風はあっけらかんとしていた。
そして、ヴェールヌイと時津風は電の怒りに涼しい顔で答えるのだった。
「いや、だって時津風ってベットの上だと首輪付けて縛られるのがすごく好きみたいだからさ」
「『犬』扱いもなかなかどうして、ヴェールヌイ相手だと思うと悪くないよね」
電は意味がわからず、なんなのです?と首を傾げ如月が理解の許容量を超えてオーバーヒートする中で、時雨と夕立は絶叫するのだった。
下ネタSMオチかよぉ!?と。