いならぐれオーバードライブ!   作:たんぺい

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第八話:曙ちゃんはアイドルなのです!

電が舞風の相談に乗ってあげてから4日後。

そんな舞風と野分の2人の行方はと言うと…

 

「恋人繋ぎとか、ラピュタ以外で見たの初めてなのです…」

「って、あわ、あわわ…廊下でちゅーしてるぅ!?」

「…時は我慢できなくとも、場所はわきまえるようにちょっと注意してくる…暑苦しい」

 

まあ、いつもの3人が出会う度こんな感じになるぐらい、舞風と野分は、いちゃいちゃラブラブしていたと言う。

…流石に、付き合うのは構わんが人が沢山居る所でお前らいい加減にしろ、と鷹揚な時雨がキレるレベルで。

 

「素直になれって言ったのは私ですが、この結果は予想外なのです…」

 

この手のことでは鷹揚な電ですらげんなりして呆れるが…ふと、電はある艦娘を見る。

そして、こう続けた。

 

「少しは曙ちゃんを見習って、好意にリミッターでも付けると良いかもですね…」

 

誰がリミッター付いたlove勢よ!と言う叫びが廊下に響いたのだった。

 

 

曙とは横須賀の鎮守府で所属していた、先の大戦では所謂『第七駆逐隊』の一つに数えられた艦の一人である。

その、パンチドランカー気味の不幸な境遇からか、スレた感じのかなり人間不信気味な性格をしていた…

それこそ、比喩でなく誰かに『噛みついた』事すら一度や二度ではない。

一人で暴走しては、何度も死にかけた事も、友人を殺しかけた事すらある。

 

しかし、そんな彼女を…笑って肯定し続け、時には厳しく叱り支え続けたのが、同期の五十鈴と五月雨、そして何より献身的に曙を支え続けたこのクラスの担任教師を担当している彼女達の元提督だったと言う。

 

それからと言うもの、曙は少しずつマトモになった。

と言うか、素の性格の真面目さと素直さが露わになり…平たく言えば『チョロイン』と化した。

人の好意には極端に弱く、真面目に何でもとりくむが、しかし…絶対に素直にお礼は言わない。

 

確かに、ちょろいツンデレ…『リミッターの付いたlove勢』は正解だったかも知れない。

 

 

「…と言う訳で、別に電は間違った事を言っていないな」

「あ、先生…おはようございますなのです!」

「あ、あんたは、何を言ってるのよ!?」

 

…そして、ぬるっと横から先生こと曙の元提督が口を挟む。

ケラケラと電と時雨と教師の男が曙をからかう中、曙は顔を真っ赤にして3人に怒り出す。

如月は、いつの間にか立ち直ると、曙の肩をポンと叩き、私だけは曙の味方よぉ、とため息を吐くのだった。

 

 

そして、それから…その日の放課後。

いきなり、その教師の男はおーばーどらい部の3人を召集する。

何か怒られるのか…と3人は身構えるが、しかしそうではなかった。

 

その教師は頭をいきなり3人に下げると開口一番こう言い出した。

…曙を素直にする方法って無いのか、と。

 

 

「曙ちゃんを素直にする?曙ちゃん程素直な子ってそうそう居ないのです」

 

電はストレートに疑問を投げかけるが、教師は首を横に振る。

…曙のリアクションの素直さじゃなくて、他人の好意に対する素直さだと。

そして、その教師は更に続けた。

 

 

「…お前らは優しいから何となく曙の気持ちを察して動けるし、俺たち横須賀の連中は付き合い長いから曙の良いとこ悪いとこわかるだろうが…いつか、別れが来るかも知れない、いや俺は少なくとも離れるだろう…そんな時、曙を知らないヤツらしか居ない場所に放り込まれた時、少しは好意を素直に示せられないとアイツは、絶対不幸になるからな…なんとかしてやりたい、教師としても元提督としても」

 

 

なるほど、と一同は納得した。

確かに…曙の性格は柔らかくなった今ですら一般受けする性格ではないだろう。

それが、理解者が居ない場所に行ったなら…元の攻撃的な性格に逆戻りしかねない。

 

「今の今まで姿を見せなかったから、もしかしたらウチの担任は教師的な事何も考えてなかったんじゃないのとか思って悪かったよ、先生」

「ちょ、ま、酷すぎるぞ時雨ぇ!?出番なかっただけだから!ちゃんと仕事してるぞ!」

 

時雨の茶々は入りつつ。

それはそうと、わりと難しい問題だな、と電と時雨は頭を悩ます。

 

そして…電は、かつての仲間の扶桑の言葉を思い出していた。

 

その人個人が逃れられない癖や人格…扶桑曰わく『業』。

きっと、きっかけはなんであれ曙が素直になれないのはそういう話なのかも知れない。

電は扶桑程達観してないし、頭も扶桑程は良くは無いから扶桑のあの時の羽黒に吐いた言葉の理屈に、未だに全ては納得してないが…

それでも、最悪の場合、一生そんな素直になれない曙の悪癖は治らないかも知れない、と頭を悩ます。

 

羽黒の場合はやりすぎた自己犠牲の末路を他の視点で見せてやってある程度改善できたが、あれは思い返せば緊急措置にも程があるし強引すぎた。

同じような手を曙に使えば…ダメだ、泣かせて、傷つけて、曙を頑なにしてしまうだけだろう。

 

 

そんな悩める電に向かって、如月は不意に肩を叩く。

そして、凄いいい笑顔を向けて言うのであった…私に良い考えが有る、と。

 

「…プチプチに向き合い、プチプチと対話して…そしてプチプチの神になれば…」

「たち悪い宗教か!かえって来るのですプチプチジャンキー!!」

「……ああん」

 

…駄目でした。

 

 

そんな如月に時雨と教師の男は倒れるが、ふと時雨は漏らす。

…別に無理やり変わる必要って有るのかな、と。

 

電は話を聞いてたのです!?と怒ったような、呆れたような口調で問いつめるが、時雨は構わず続けた。

 

「…要するに、先生が言いたいのはアレだ、性格改善と言うより曙の将来の心配が先に立ってる訳だよね、その辺どうなのさ?」

 

あ、と全員が思い至る。

主旨はあくまでもそっちだ、無理やり性格を今すぐ変えないといけないと言う話に電達は錯覚していたが、本質的には曙の未来の心配の話だった。

 

「…それはどうなのです、先生?」

「それはそうよねぇ…究極的には曙ちゃんが幸せであるなら、今の曙ちゃんでもあんまり問題無さそうだし」

 

…確かに言われたらそうかも知れん、と電と如月のツッコミを受けて、教師の男は納得する。

しかし、そんな曙の性格を受け入れられる場所ってそもそも特殊じゃないか?とみんなが疑問に浮かぶ。

 

その時、電の頭に浮かんで来たのは…飛鷹の顔だった。

そういえばあの人、曙に近いタイプだったけど、木曾といちゃいちゃするうちに凄い落ち着いたよね、と。

 

 

「…つまり、曙ちゃんは先生のお嫁さんになれば万事解決するってお話なのです?」

「…いや、その発想はおかしいぞ電!?まあ、悪い気はしないけどね!正直悪い気はしないけどね!でも流石に生徒かつ元部下に手を出したら最低過ぎるし!」

 

電の唐突なアイデアに教師の男はものすごい狼狽える。

…まあ、最適解多分それだけど、確かに最低やね…

如月と時雨は呆れながらそんな事を考えるが、ふと如月が思い付いたように言った。

 

「…別に、先生だけのものになる必要性ってないわよねぇ…それ」

 

あ、と全員が思い至る。

…つまり、『みんなの嫁』、これなら今の曙でも愛されるのでは無いか、と。

そして、みんなの脳裏に浮かぶのは阿武隈と那珂の2人だった。

要するに…

 

 

「…で、あたしにこんな格好させてる原因はあんたらか…てか如月ぃ!!」

 

曙は、ピンクのフワフワのフリルが重なった可愛らしさ全開のミニスカートに、上はまた白を貴重としたフリフリの衣装に提灯袖とリボンと言う、『お姫様』的な衣装で全身を身に包んでいる。

 

片手にはマイク、耳にはインカムまで付けて…まるで、比喩ではなくアイドルのような格好をしていた。

 

そんな曙に向かって、如月は実に涼しい顔をして返した。

 

「いやぁ、だって似合う似合うって言えば曙ちゃん何でも着てくれるんだものぉ…チョロイのが悪いわぁ」

「ンだとゴラァ!?」

「てか、今の今までノリノリだったのそっちだったじゃなぃ…」

 

如月の台詞にどんどん顔を赤らめる曙だったが、そんな彼女に横から電と時雨が口を挟む。

 

「なのです!観客さんはいっぱい集めて来たのです!もちろん五十鈴さんや五月雨ちゃんも居るのですよ!」

「ちょ…ハァ!?電、あんた…」

「今更逃げられないよ、曙!明石さんに頼んで作って貰った衣装代とステージ代分は働いて貰わないと、僕は大赤字なんだ!」

「それあたしは関係無いでしょお!?」

 

…そう、あれからと言うモノ、何故か例の教師からの相談は『曙をスーパーアイドルにする』などと言う謎の方向に話が着地した。

 

それからは、何故か…本当に何故かと言うレベルで話がとんとん拍子で話が進む。

衣装の見繕いとメイクは如月、人員の召集は電、資材の確保と振り付けは時雨と…まあ、適材適所過ぎる人員が3人集まってしまったのが原因だったのだが、それ以上に…みんな、心のどこかで思っていた。

 

…曙が小動物的に可愛い、と。

 

そう、曙はアイドル的な方向に潜在的に愛されていたのだった。

そして、技術力のある暇人を巻き込んでしまえば…ごらんの有様だったと言う話だ。

 

 

「…ってイミワカンナイ!本当にイミワカンナイわよぉ!」

 

とまあ、気づいたら色々大事に成りすぎて、とうの曙はジタバタしている訳だが。

しかし、電はそんな曙に渇を入れつつ、ステージに連れて行こうとする。

 

「今更つべこべ言うななのです!!」

「ぐぇ…ちょちょ、曳航は止めてぇぇ!!1人で歩けるから…せめて身体を離して…」

「なら、ここまでお膳立てしたんだからちゃんと答えるのですよ!」

 

…どの口でお前はそんな事を言えるのか。

電と如月と時雨の3人に曙はキレそうになるが、よくよく考えたら事の発端は自分にある。

曙は、イラつく心を深呼吸で落ち着かせつつ、あまり納得してない口調ではあるがこう言った。

 

「…有り難迷惑過ぎるしイミワカンナイけど、うん、あたしの為にやらかしたって言うんなら…もう、しょうがない…気がするし、わかった…ステージに立つわよ!」

 

 

3人は曙の言葉を聞いてガッツポーズを取ると、背中をポンと叩いてこう言った。

…頑張れ、艦隊の超アイドル!曙ちゃん!と。

 

 

「だからそれ那珂さんに色々怒られるわよ!!」

 

曙の絶叫が、ステージ裏で響いたとか響かなかった、とか。

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