北欧神話においては神々の黄昏(ラグナロ ク) によって世界は一度滅びさり新世界が始 まったと いう。 つまり神は死ぬ。人間と同じように情を交 わし友誼を結び、人よりも人らしい。それ が神。 ならば、誰より、鮮烈だったり、欲深かったら、 それは 神と同義なのではないか。
とある少年の手記より
俺は彼女の言っていることの意味を一瞬理解でき なかった。 確かに俺は死んだ母さんの遺品であるこのアン ティークのナイフでミカエルを刺し殺した。それ は理解できる。 そしてミカエルを殺した結果、神殺しとなったの だろう。
だが俺は神殺しと呼ばれるだけのことはした。し かし、それはわかりきった事であるが故に納得が いかない。そして彼女は本題だと言った。 つまり、神殺しという呼称には特別な意味でもあ るのだろうか? 例えるならば、神を殺すことによるペナルティや メリットがあるのかもしれない。 俺は黙って次の言葉を待った。 「あらら、黙りこくっちゃって。 まぁいいわ、とりあえず誓そこに転がっているミ カエル様の胸に刺さっているナイフを抜いてあげ て、多分ナイフのせいで此処でもミカエル様はピ クリともしないのよ、きっと」
俺はパンドラの指差した先に転がっているミカエ ルに気づいた。顔を覗くとその顔は憤怒と恨みに 染まっていた。
「お母さん、これって抜いて生き返るとしたら俺 襲われるんじゃあないの?」
俺は最もあり得るであろう可能性をパンドラに伝 える。 あの時は殺せたが次も殺せるとは限らない。 おそらく、最初から本気どころか切り札とか全体 攻撃とかしそうな予感がする。 そんなことになれば第六感だけが異常な俺は今度 こそ瞬殺されてしまうだろう。
「やぁあねぇ誓。ここは私の領域よそんなまねな んかさせないし、何より死者は生者を殺せない わ。 とりあえず、様式美にはこだわりたいわけよ。 というわけでお願いね」
抜かないことには話は進みそうにない。俺は仕方 なく転がっているミカエルの死体からナイフを抜 いた。そうすると、 「はっ、今までなにをしていたんだ、私 は・・・」
ミカエルはあたりを見渡し俺達に気づいたよう だ。
「貴様はあの時の異端者。成敗してくれる! ミカエルはやはりというか、案の定というか腰の ホルダーから剣を抜き俺に斬りかかろうとする。 しかしミカエルが剣を抜くと同時に隣にいたパン ドラが無表情になり、ミカエルの右腕を掴み投げ て関節技を極めた。そしてミカエルの左手を足で 踏みつけた。
「ぐあああっ」 左手を踏み潰されたミカエルは苦痛に悶えるがパ ンドラは無表情のままどこからともなく取り出し た乗馬用の鞭でミカエルの倒れた背中を無言で叩 き続けた。
そのままミカエルの台詞が悲鳴に変わり、無言に なり、悲鳴になり無言になるのを見続けた。 その様子に加減など感じられない。 段々とミカエルが哀れというかいたたまれなく なった。
「あのお母さん。可哀想だからもうやめよう」 俺がそう進言すると気がおさまったのか鞭をしま い、笑顔となりミカエルに告げる。 「さぁミカエル様。この子に祝福と呪いのお言葉 をお願いしますわ。
私とエピメテウスの新しい子供、新たな神殺しの 誕生に祝福と憎悪を与えて下さい」
パンドラの宣言に呼応するようにミカエルは頷く と 「この私が貴様に与えるのは祝福などではなく呪 いだ。 貴様は敗けるだろう我らが神の前においては神殺 しも人間も等しく平等だ。 精々、死ぬまでに善行でも積むがいい。・・・あ の魔女の鞭打ちからの助けについては感謝しよ う。 さらばだ」
ミカエルはそうして去って行った。 殺した俺に礼を言うぐらい鞭打ちは辛かったのだ ろう。去る時にあいつの目からは歓喜の涙がみえ た。
そんなことを考えていると目の前が真っ暗になっ てきた。この感覚はミカエルを殺した直後も感じ られた。
こうして俺はミカエルを殺し、神殺しとなった。 その事実が何を意味するのかはまだ知らない。確 かなのは、これから先はコインの表の世界ではな く裏の世界であること。
それでも俺は進もう神になるために。
これにて序章は終了です。
味気ない駄文をお読みくださりありがとうございます。