【FAIRY TAIL】竜と人の子~雪の滅竜魔導士~   作:折式神

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20話 終焉

「うっ……」

 

 気がつくと、見覚えのない水晶に囲まれていた。起き上がろうと体に力を入れるが、思ったように動かず、バランスを崩して倒れてしまった。……気を失ってたほうが良かったと思うくらい、痛くてしかたなかった。

 

「もう、限界か……」

 

 水晶の壁に手をつきながら、何とか立ち上がると、翼が少しずつ砕けて砂になっていることに気づいた。見れば、尻尾もなくなっていた。

 周りを見渡すが、ナツの姿がなかった。一瞬不安になったが、上で爆発音が聞こえてまだ戦っているのだと理解した。

 上を見上げると、水晶に穴が空いていてそこからエルザも一緒に戦っているのが見えた。

 

「……これ、魔水晶(ラクリマ)かな」

 

 触れている水晶から、物凄い魔力を感じた。エーテリオンに似ているような気がして、ようやく理解した。

 この魔水晶(ラクリマ)が、エーテリオンを吸収したのだと。何のためにこれだけの魔力が必要なのかわからないが、それがジェラールの狙いだったのだ。

 何かが塔を登ってくる気配がして、壁によりかかりながら、気配のする方向を見た。

 

「おい、大丈夫か!?」

 

 敵ではないことに安心する。逆にシモンは、私の姿を見て驚いていた。水晶に映る自分は、今にも事切れそうな顔をしていたのだし。

 

「――とりあえず、ここを離れるぞ」

 

 シモンの提案に、小さく頷いた。ここにいたら、エルザとナツに迷惑になる。

 シモンに背負われて、すぐにその場をあとにした。

 

「あいつらなら、大丈夫さ」

「――わかってる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、塔を降りている途中で、また大きな爆発があった。その音と揺れで、シモンが足を止めてエルザたちがいるであろう方向を見上げていた。

 

「……いいよ、ここで」

 

 その様子を見て、シモンにそう告げた。驚いたシモンだったが、いいのか。と一言聞いてきた。

 

「……すまない」

 

 悔しさに顔を歪ませたシモンを見て、私だってそうするさ。と呟いた。

 シモンはゆっくりと私をおろすと、振り向かずに塔の上へ戻っていった。その姿を見届けてから、目を瞑る。

 もう、立ち上がることは愚か、目を開けているのも辛い。このままだと死んじゃうだろう。

 あれだけの怪我をした体を魔力で無理矢理に動かしていた。魔力が切れた今、指の一本ですら動かせない。

 そんなとき、ぎゅるぎゅると音を立ててお腹がなった。……こんなときでもお腹は空くのかと恥ずかしくなった。誰にも聴かれなくて良かったと安心する自分が馬鹿らしくて、心の中で失笑する。

 

 ――これで終い?

 

 今もナツたちが戦っているであろう方向を眺めていると()の声が聴こえた。

 

「だって、魔力も残ってない。これでいいんだ」

 

 本当はみんなを連れて帰りたい。しかし、あの場に私がいて、何になる。みんなに迷惑になるだけじゃないか。自分自身に言い聞かせるように、そう呟いた。

 

 ――幽鬼の支配者(ファント厶)のマスターと戦ったお前は、最後まで諦めなかった。そんなお前はどこにいったのさ。

 

 なんで、説教されなきゃいけないんだ。

 

「うるさい……」

 

 ――魔力がないくらいで……だったら食えばいい。

 

 突拍子のないことを言われた。それができるならそうしてる。ここに雪やそれに似た属性の魔法なんて、無いじゃないか。

 そんなことを思っていると身体が勝手に動き出した。そして、あるものを指差した。

 

「……魔水晶(ラクリマ)?」

 

 ――エーテリオン……これだけの魔力なら、充分足りるはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

――

 

 

 

 

 

 

「ついにこの時が来た! 二十七億イデアもの魔力を吸収することに成功し、ここにRシステムは完成したのだァ!」

 

 塔の中にジェラールの笑い声が響き渡る。エーテリオンを吸収し、塔は真の姿を現した。魔水晶(ラクリマ)が日の暮れた中で輝きを放っていた。

 

「やはり、貴様はジークレインとも結託していたのだな」

「……ああ、そうか。お前には見せていなかったな。ジークレインはオレの思念体だ。オレたちは元々、一人の人間さ」

「なにッ!? ならば、エーテリオンを落としたのも自分自身だというのか!」

「仮初めの自由は楽しかったか、エルザ。全てはゼレフを復活させるためのシナリオだ」

「貴様は一体、どれだけのものを欺いて生きているんだ!」

 

 エルザの怒声が響く。ショウたちを騙し、評議員を騙し、全てを騙したジェラールを許せなかった。それを見てジェラールは来い。と、挑発した。エルザは両手に剣を構えて、踏み込んだ。

 

「あとは貴様を生贄にゼレフを復活させるだけだ!」

「させると思うか!」

 

 エルザは怒りに任せて剣撃を繰り出し続ける。ジェラールはそれを避けて受け流しながら叫んだ。

 

「オレの勝ちだエルザ! ゼレフと共に真の自由国家をつくるのだ!」

 

 光がエルザを包んで拘束した。ジェラールはそのままエルザを包む光を爆発させようとする。すんでのところで、エルザが光の魔力を切り裂いた。勢いを崩さず、ジェラールに踏み込んで一閃を入れた。

 

「貴様はそのために、どれだけの自由を奪うつもりだ!」

「チェックメイトだ」

 

 だが、ジェラールは臆さずに追撃を入れた。エルザの両腕を魔法を使って拘束した。

 

「ゼレフ! 今ここに、この女の肉体を捧げる!」

「させねえよ!」

 

 ゼレフの儀式を行おうとしたジェラールを床を突き破ってナツを止める。そのまま連撃を繰り返して蹴り飛ばした。

 

「エルザ! 大丈夫か!」

「ナツ……逃げていなかったのか」

 

 エルザを拘束していた魔法をナツが焼き払う。立ち上がったジェラールの顔が怒りで歪む。

 

「ちっ……まだ動けたのか」

「しぶとさには自信があるんだ、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔道士はな!」

 

 流星(ミーティア)を発動したジェラールがナツを天井近くに打ち上げて、そのまま何度も攻撃を繰り返す。先程のエルザ以上の連撃に、ナツは手も足も出せなかった。

 

「貴様の相手はこの私だ!」

 

 それを見かねたエルザが斬りかかる。しかし、簡単に避けたジェラールはエルザを地面に叩きつける。

 

「火竜の咆哮!」

「もう貴様と遊んでいる時間もない!」

 

 降りかかる炎を振り払い、ジェラールはナツも地面に叩きつけた。しかし、すぐにナツは立ち上がる。

 

「まだまだァ!」

 

 

 

 

 

 

 

――

 

 

 

 

 

「あ……が……」

 

 焼かれるように熱い、切り裂かれるように痛い、刺すように冷たい。わけのわからない痛みが体を巡っていた。

 砕けた欠片の魔水晶(ラクリマ)を食らってから、ずっと続いていた。

 

 ――自分で提案したけど、後悔してるよ。

 

 心の中の私も苦しそうに、悪態をついていた。

 滅竜魔道士(ドラゴンスレイヤー)は自分と同じ属性の魔力を取り込んで自身の魔力を高める。エーテリオンを取り込んだ魔水晶(ラクリマ)は強大な魔力を持つ。しかし、エーテリオンには様々な属性の魔法が融合されている。

 そんなものを食らえばどうなるか。炎が焼き、風が切り裂き、氷が突き刺し――体の中から壊されるような感覚。

 

「―――――!!」

 

 喉が裂けるくらいに叫んだ。こんなの、耐えられずに死ぬのが先だ。

 

 

 

 

――

 

 

 

 

「どうしたァ! さっきまでの勢いがねえじゃんか! 塔が壊れたらマズイってか!」

「貴様、何を!」

「残念! 壊すのは得意なんだ!」

 

 実際に先程と違ってナツはジェラールと互角に渡り合えていた。

 ジェラールは塔が壊れることを恐れ、エルザを生贄にするために手加減をしていた。そのせいで、苛立っていた。それに気づいたナツがわざと塔を壊した。

 

「貴様ァ……オレが八年かけて気づきあげてきたものを……よくも!!」

 

 ジェラールが腕を交差して掲げる。すると、強大な魔力によってエルザとナツが吹き飛ばされ……影が光源と逆に伸びていた。

 それに気づいたエルザが、ジェラールの前に立ちふさがった。

 

「貴様に私が殺せるか! ゼレフ復活のために私の肉体が必要なのだろう!」

「――ああ、おおよその条件は聖十大魔道士に匹敵するほどの肉体だ。しかし、貴様でなくとも良い、あのステラとかいう娘でもな」

「なんだと、貴様!」

「二人揃って無限の闇に朽ち果てろ! 暗黒の楽園(アルテアリス)!!」

 

 

 

 

 一瞬、塔の中の光が消えて暗黒に包まれた。そして、いるはずのない男が、そこにいた。

 ジェラールの魔法は、エルザたちには当たらなかった。その男が、エルザたちを庇ったのだ。

 

「そんな……」

 

 その姿を見て、呟くエルザの声が震えていた。どうして、ここにいる。どうして逃げなかったのだ。

 

「――シモン!」

 

 エルザが駆け寄って倒れるシモンを抱えた。……既にシモンの意識は朦朧としていた。

 

「良かっ……た、無事で……」

「よせ、喋るな!」

 

 ……朦朧とする意識の中の、シモンはエルザの無事を確認してほっとしていた。そして、幼い頃の笑顔を浮かべるエルザを思い出して姿を重ねていた。まるで走馬灯、シモンの命はもう長くなかった。

 

「エルザ――」

 

 何かを言おうとして……二度と言葉を発することはなかった。

 

「いやァァァ!!!!」

 

 エルザの叫び声が響く、涙を流し。しかし、どんなに願っても、後悔しても遅かった。シモンは二度と目を覚ますことはない。

 

「クハハハハ!! くだらんよ! 実にくだらん! 対局は変わらん、どの道誰も生きてこの塔からは――」

「黙れぇぇぇ!!」

 

 シモンの死を笑い、その行動を無下にするジェラールをナツが殴り飛ばした。

 先程とは比べ物にならない力。それは、殴られたジェラールだけ理解した。

 

 ――こいつ、エーテリオンを食いやがったのか!

 

「ごはぁ!?」

 

 しかし、ナツが食った魔水晶に含まれるエーテリオンは炎以外の魔力も融合されている。首を抑えて、苦しみだした。

 それを見たジェラールは笑みを浮かべた。

 

 ――バカが、強力な魔力を炎の代わりに食えば、パワーアップするとでも思ったか。その短絡的な考えが、自滅をもたらした!

 

 苦しむナツに、ゆっくりとジェラールが近づき右腕に亡霊のような黒い魔力を纏った。

 

「じゃあな、(ドラゴン)の魔道士!」

 

 振り下ろされようとした腕が弾かれた。魔法はナツに当たることなく、床を破壊した。

 弾いた少女の姿を確認して、ジェラールは吠えた。

 

「――貴様ッ!?」

「雪竜の咆哮!」

 

 不意をついた攻撃によって、ジェラールは塔の外にまでふっ飛ばされた。ジェラールがいた場所に、白い少女――ステラがそこに立っていた。

 苦しんでいたナツから膨大な魔力が溢れる。肌には鱗のようなものが浮き上がっていた。エーテリオンを取り込んで、ナツは滅竜魔法の最終形態、ドラゴンフォースを発動させていた。

 ステラはそこまで到達できなかった。魔力を回復して、体を動けるようにするのが精一杯だった。

 

「すげえ、力が湧いてくる」

 

 自分よりも早くエーテリオンを取り込んで、しかもパワーアップまでしたナツを見て、ステラは微笑んでいた。

 今のナツとなら、ジェラールにだって余裕で勝てるとステラは確信した。

 

「ジェラァァァル!!」

 

 ナツの雄叫びと同時、造形魔法で翼をつくったステラがナツを抱えてめがけて跳ぶ。ジェラールに接近し、勢いそのままナツが殴りつけた。そして、ステラが追撃して床に叩きつける。

 

「ぐはっ――!」

 

 ジェラールは二人の速さに対応できず、受け身もできずに床へと落ちた。

 これ以上の追撃から逃れるために、ジェラールは流星(ミーティア)で一気に天高く飛び上がる。

 

「この速度にはついてこれまい!」

「残念――」

 

 しかし、その先にステラが飛んでいた。驚いている隙をついて、ナツの方向へジェラールを叩き落とした。

 ナツは地面を蹴り飛び上がる。そのまま足からの炎を噴射させて跳躍。ナツの拳は光纏うジェラールの体に突きささった。そして、そのまま塔を突き破り、星と月が浮かぶ闇夜に打ち上げられた。

 

「バカな――! オレは、負けられない!」

 

 ジェラールは吠えた。そして、そのまま魔法陣を空中に描き始めた。

 

「自由の国を、造るのだ! 痛みと恐怖の中でゼレフはオレに囁いた! 真の自由が欲しいかと! オレは選ばれしものだ! 真の自由国家を作るのだァァァ!!!」

 

 空中に煉獄破砕(アビスブレイク)の魔法陣を描き終えて、ジェラールの口元が釣り上がる。

 

「今度は八年――いや、五年で完成させてみせる。ゼレフ、待っていろ」

 

 塔ごと全てを消し去ろうとしたジェラールだったが、ステラに刺された傷の痛みに気を取られて、魔法陣が消え去ってしまった。

 

「亡霊に縛られてるやつに自由なんてねえ!」

 

 二匹の竜が、ジェラール目掛けて空へと舞い上がる。

 

雪炎竜撃拳(せつえんりゅうげきけん)!!!」

 

 合体魔法(ユニゾンレイド)、雪と炎、本来合わさることのない属性の――二匹の竜の力が合わさった魔法が、ジェラールに炸裂した。殴られたジェラールは、空から落ち、塔を突き破って地面に叩きつけられた。

 燃え上がる雪が、空を明るく照らしていた。

 

 

 

 魔力を使い果たしたナツを抱えて、ゆっくりとステラがエルザの元へ降りた。すると、ナツはそのまま気を失ってしまった。

 ステラまで塔に残っていたことに、エルザは驚いて声をかけた。

 

「ステラまで……どうして」

「……だって、仲間だから」

 

 ようやく戦いが終わり、落ち着いたと思った――突然魔水晶(ラクリマ)が歪んで崩れ、立ち続けるのが難しくなった。至るところから魔力が溢れ出し、光となり天へと消える。

 エーテリオンが暴走を始めていた。

 

「まずい、早く脱出せねば」

 

 エルザの言葉にステラが頷いて、ナツをエルザが背負って移動を開始した。しかし、すぐに足を止めて振り返った。

 

「……シモン」

 

 ステラは、それに気づいて、助けようと倒れているシモンに近付こうとした。しかし、エルザはステラの肩を掴み、止めた。

 いいんだ。そう言葉にしなくてもエルザの思いは伝わっていた。ステラも既にシモンは亡くなっているのだと理解した。

 予想よりも塔の崩壊が早く始まった。床は傾き、逃げ出すために歩くことも不可能に近かった。

 

「エルザ、ごめん」

 

 ステラが小さく呟いて、エルザを殴った。不意打ちをくらい、エルザは気を失ってしまった。それを確認すると大きな鳥の造形魔法をつくりだして、二人をのせる。

 

「お願いね」

 

 翼を広げて、白い鳥は塔の外へと飛び去った。ステラは魔水晶(ラクリマ)を砕き、食えるだけ食って、魔力を無理矢理上げ始めた。そして、その魔力で造形魔法を――魔水晶(ラクリマ)を覆い隠して、爆発を閉じ込めようとした。

 塔から逃げ出せたとして、これだけの魔力が暴発したら巻き込まれて助からない。だから、エーテリオンの魔力を食らって変換しようと彼女は考えた。

 

「……っぐ」

 

 食べる度にダメージは蓄積する。とうに限界を超えていたステラの体が持つ可能性はなかった。

 食らい続けたエーテルナノによって侵され、蝕まれていく。体がひび割れていき、そのまま砕けてしまいそうな妙な感覚に耐えながら、ステラはラクリマを食らう。

 

「がはっ――」

 

 無理だ。そもそも大陸中の魔導士の魔力に匹敵する魔法を喰らい尽くすことができるはずもない。

 エーテリオンを取り込む力もなく、エーテルナノに侵食された体は動いてくれなかった。

 

「残念だが、それじゃあ間に合わない」

 

 不意に声が聞こえて体が持ち上がった。その男の声を聞いて、ステラは震えていた。

 なんで立ち上がれるんだと恐怖する。二人の滅竜魔法を食らって、なぜ立っている。

 

「ジェラール……」

「言いたいことは色々とあるだろうが、今は時間がない。このままお前を塔の外に投げ落とす」

「――え?」

 

 そう言って、ジェラールはステラを投げ飛ばした。

 

「オレは罪を償う、たとえ赦されなくても、オレは――救われたよ」

 

 そう呟いたジェラールの目は、澄んでいて輝いていた。だが、表情は暗い。わけがわからないステラは、塔から落下する最中も理由(ワケ)を考えていた。

 

 

 

 

/

 

 

 

 ――ゼレフの亡霊。あいつも、被害者だったのさ。

 

 落ちる私をよそに、()はそんなことを呟いた。その声が悲しそうだったのは、亡霊に取り憑かれ何もかも裏切り失った男を哀れんだからだろう。

 楽園の塔眩い光を放ちながら弾けた。全てを破壊する魔法は、暴発することなく渦を巻いて――青白い光を放って空へ昇っていた。

 私が海に落下する頃には、塔は跡形もなく消え去っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「……さよなら、ジェラール」

 

 なぜか呟いていた。それは、敵意や恨みなんて込めていない言葉だ。彼が悪い奴じゃない。それに気づいたときには、既に何もかも遅すぎた。

 輝く星に手を伸ばす。その手はひび割れていて――結局、星は掴めないと諦めて下ろした。月は私たちを嘲笑うかのように、赤い光を放っていた。

 

 

 

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