【FAIRY TAIL】竜と人の子~雪の滅竜魔導士~   作:折式神

32 / 34
31話 ミストガンともう一人の私

「久しぶり、(ステラ)

 

 そう言って、()が手を振る。彼女の右腕は私と同じようになかった。

 

「ほんと、無茶をするんだから。一体誰に似たんだろう」

 

 そう言って造形魔法で右腕を作り出して、座り込んだ。このくらいできないと、そんな顔をしている。

 

「……そうだ! 妖精の尻尾は!?」

 

「駄目だったよ。私たちも含めて、アニマとやらに吸い込まれた」

 

 間に合わなかった。一体、みんなは――いや、私もどうなっているのだろう。()が目の前にいるのだから、ここが現実でないのと、まだ私が死んでないってことはわかる。

 

「……気をつけたほうがいいよ。またしばらく、()は手伝えない」

 

「どういう……こと」

 

「魔法が使えない。この世界は何か嫌な感じだ」

 

 相変わらず、私に説明してくれない……いや、心の内を見せてくれない。同じステラなのに、どうにもズレている。

 

「……大丈夫、私だって死ぬ気はないから」

 

 そう言って、()は、笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「抽出、及び復元、完了しました」

 

 目覚めて最初に聞こえたのは、そんな機械的な報告だった。……周りを見渡しても、仲間の姿はない。

 目についたのは同じ姿をした兵隊ばかりだ。明らかに味方じゃない。

 体の方は、まるで磔だ。手足に枷をつけられてそれについている鎖に引っ張られ、大の字だ。片腕がないから、欠けてはいるのだが。

 

「ぐしゅしゅ……本当にあの憎き姫にそっくりですな……」

 

 変な笑い方をする一回り小さな男。……この男が、今いる中では一番偉いのだろう。

 

「おとなしくしていれば、痛いことはしませんよ……ぐしゅしゅ」

 

「……なんなのさ、これは」

 

「答える必要は、ありませんな!」

 

 そう言って、変な笑い方をする男が手に持っている機械のスイッチをいれた。

 

「――ッがぁぁぁぁ!?」

 

「ぐしゅしゅ! 素晴らしい魔力だ!」

 

 無理矢理魔力を吸われている感覚……いや、それだけならまだいい。それに伴って体全身が痛んで、悲鳴をあげていた。

 

「――雪竜の咆哮!」

 

 一瞬、周りの兵隊も含めてびっくりして機械も止められた。……でも、何も起きなかった。

 

「ハッタリか! ふざけおって!」

 

「――ッ!? なん……で!」

 

 ――魔法が使えない。この世界は何か嫌な感じだ。

 

 ()が、そんなことを言っていた。理由はわからない。しかし、魔法は使えない。

 

「――ッあぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 まるで厭な夢。いっそ、それが真実なら良ければいいと思うくらい最悪だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……あれから、どれくらい経ったのだろう。もう叫ぶ気力もなくなっていた。視界が霞んで、気分も悪い。

 毎日、毎日、同じように機械で魔力を無理矢理取られて……回復したところを狙って、また魔力を取られる……その感覚は日に日に狭まってくる。徐々に消耗している様子を楽しむために時間を空けてないようにしているんだ 。あの不気味な笑い声を聞くたびに虫唾が走る。

 

「ぐしゅしゅ……今日はここまで。あと数回もすれば、必要な魔力も越えそうですの……」

 

「……必要な、魔力?」

 

「この国に永遠の魔力をもたらす為の――の(ドラゴン)の魔力です……ぐしゅしゅ……」

 

 ……うっかり口を滑らせてくれないかと思ったが、そんなに甘くなかった。重要な部分だけ聞き取れないくらい小さな声だ。わざとだろう。

 ずっと気味の悪い笑い方をしながら、部屋を出ていき――扉が閉められた。真っ暗だ。もう、今が昼か夜かもわからない。窓一つない。

 

 仲間は無事なのだろうか。まさか、私と同じように無理矢理魔力を……いや、必要なのは竜の魔力と、最後に漏らしていた。そうなると、ナツやウェンディ……ガジルも同じ目にあっている可能性もある。

 ……少なくとも、ウェンディはうまく逃げたはずだ。そうでなければ、困る。

 

 ……体に力も入らない。……なんか、眠……い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、起きたよステラ!」

 

 いつものように魔力を吸われる痛みで目が覚めると思っていた。しかし、私の体は横たわっていて、ハッピーのような黒猫に名前を呼ばれた。

 どうして、私の名前を知っているのか。そもそも、君は誰なのか尋ねようとした。

 

「……あなたは」

 

「まだ起きたら駄目だよ! もう少し寝てなきゃ」

 

 起き上がろうとしたが、止められた。……ふと、そのときフードを被って座っている人が目に入った。

 

「僕はネク。それで、こっちは――」

 

 フードを被って座っていた人物が立ち上がって近づいてきた。そして、フードを取ると……。

 その顔は、まるで……いや、だって……。

 

「……ヴェア、ラ?」

 

 そんな私の言葉を否定するように、目の前の女性は首を横に振った。

 

「はじめまして、あっちの世界(アースランド)(ステラ)

 

 そんなどこかで聞いたことのあるような喋り方で、Another(違う)私が、自己紹介を始めた。

 さっき黒猫――ネクが呼んだ名前は、私のことではなかったのだ。

 

この世界(エドラス)では、魔力が有限で、それを補うためにアニマという転移魔法を使って、そっちの世界(アースランド)の魔力を吸い上げようとした。それを防いていたのがジェラール……そっちの名前だとミストガンだったかな。それと私」

 

「僕も手伝ってるけどね」

 

「うるさい、黙ってて」

 

「イテッ」

 

 話に割って入ったネクの頭をエドラスの私が軽く叩いていた。

 なんとも気の抜けるやり取りだ。しかし、話の大筋は掴めた。

 

「私の仲間は……」

 

「まだ魔水晶(ラクリマ)のままだよ。特殊な魔力を持ったあなただけが、取りあえず元に戻されたってところかな」

 

「それにしても、本当にそっくりだね。幼い頃のステラを見てるみたい」

 

「そりゃあ、まあ……違う世界とはいえ、私だしね。なんか、変な気分だよ」

 

 ……私からしたら、エドラスの私は母に――ヴェアラに似ている。しかし、今はそれどころじゃない。

 

「他に滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)は……?」

 

「うん、あなただけだよ。たぶん、他の滅竜魔導士はうまくアニマから逃げられたんだと思う」

 

 ……あのときギルドにナツがいたかどうかわからない。ガジルもそうだ。しかし、大丈夫だろうという可能性のほうが高くなり一安心する。

 

「あとは、こっちの世界の情報の説明かな。まあ、簡単にまとめると――」

 

 

 

 

 

 そこから簡単に掻い摘んで、事情を話された。この世界(エドラス)において、魔力は有限。使えば消える燃料のようなもの。その枯渇を防ぐために、数年前に魔道士ギルドは解散させられ、刃向かったものは王国によって滅ぼされたと聞かされた。……国も民も関係なく。

 残ったギルドはたった1つ。皮肉にも妖精の尻尾のみ。そして、それだけのことを行える力を持った王国の魔戦部隊が残る敵は妖精の尻尾のみなのに、その魔戦部隊の増強に疑問を持って、王国に潜入したら……

 

「私がいて、アニマによる魔水晶の生成が成功していた……」

 

「そういうこと。……最近、ジェラ――ミストガンと連絡ができなかったんだけど。まさか、そっちの私が来ちゃうとは、思ってなかったけどね」

 

「……変な笑い方をする小さな男が、私の魔力を使ってどうとか言っていたけど」

 

「ごめん、そこは私も調べてたんだけど、どうも最高機密らしくてね。その変な笑い方をする奴はバイロって名前、俗に言うマッドサイエンティストだよ。最高機密ってだけあるし、相当良からぬことを考えているんだろうけど」

 

「最近、各地に散っていた魔戦部隊が続々と集まってきたんだ。何かするのは明白だよ」

 

 横からネクが割り込む。その背中から翼が生えていた。まるでハッピーやシャルルと同じだ。

 

「はい、ご飯」

 

 そう言って、私に食事を持ってきてくれた。ありがとう、とお礼を言ってすぐに食べ始める。

 こっちに来てから、まともに食事なんて取ってなかった。いや、取れなかった。

 

「そういえばさ、名前……えっと、私はステラ・メビウス」

 

 同じステラでも、フルネームまでは違うらしい。

 

「ヴェルディアです。その、助けてくれて、ありがとうございます」

 

 最初に言うべきことだったと今更思い、深く頭を下げた。

 

「いいって、それと……敬語もいいよ、自分に敬語使われるのは、なんか……ね?」

 

「……そうだね」

 

「わお! こっちのステラは順応早いね! うちのステラはそりゃあもう――」

 

「ネク?」

 

「なんでもないです」

 

 何かを言いかけたネクだったが、エドラスの私――メビウスに圧力をかけられて撤回した。

 そんなコントに少し微笑みながらみながら、私は黙々と食事を進めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねー、ヴェルディア。あなた武器は使えるの?」

 

「片腕でも使えるものなら……」

 

「じゃあ、これを渡しておこうか」

 

 そう言って、腰につけてあった拳銃を渡してきた。弾倉らしきものもいくつか渡された。

 

「カートリッジを入れ替えることで、火やら氷やら風やら色んな属性の魔法弾を撃てるものだよ。一つくらい武器がないと、いざってときに困るから」

 

 似たような魔法を使う人が妖精の尻尾にもいたな……たしか、ビスカとアルザックだったか。いや、彼らの系統としてはエルザとおなじストック型だったっけ。

 

「アースランドじゃ魔法は本当に物語に出てくるような物ばかりなんでしょ?」

 

「物語に出てくる? ……ああ、こっちの世界は魔法が有限だから、使える人はいないんだ」

 

「ヴェルディアも使えるの?」

 

 もしかしたら今なら使えるかと構えたが……やっぱり駄目だった。

 

「……こっち(エドラス)に来てから、うまく魔法が使えないみたい」

 

「いつもなら使えるんだ! ねえ、どんな魔法なの? もしかして、みんなネクみたいに道具無しでも魔法が使えるの!?」

 

 そこから、メビウス(エドラスの私)は、子供のように目を輝かせながら色々と詰め寄ってきて、私は自分の世界(アースランド)の話をすることになった。

 どんなギルドがあるのかとか、どんな魔法があるのとか……私にとっては当たり前のことでも、メビウスは楽しそうに聞いていた。その節々で"いつか行ってみたい"と呟いていた。

 

「……そういえば、ミストガンは妖精の尻尾にいるんだよね? どんな感じ?」

 

「今なら理由がわかるけど、ひたすら正体を隠して人と関わりを持たないようにして……」

 

「なるほどね……。実は私もミストガンのことはよく知らないんだ。優しい人だったってことくらいかな」

 

「……連絡はどうやって?」

 

「ネクによる文通。この子、アニマの残痕から世界を行き来できるのよ。まあ、それで向こうの世界(アースランド)のことを聞いたってわけ」

 

 ミストガンの性格なら、本当に必要なことしか書かなさそうだ。メビウスがアースランドのことを食い入るように聞いてきたのは興味があったのは、掻い摘んで聞かされた向こうの世界に夢を抱いたからだろう。

 

「最近、アニマの残痕も少ないし、なかなか連絡も取れなかったんだよね。今思えば、アースランドの妖精の尻尾を吸い込むために、アニマの力を溜めていたってところなのかな」

 

 もう少し早く行動すべきだった。そんな悔しそうな表情をメビウスはしている。

 

「……次は失敗しないから」

 

 私にもメビウスのその言葉が重くのしかかってくるような気がした。彼女も私と同じようなトラウマを抱えている。そんな気がしてならなかった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。