【FAIRY TAIL】竜と人の子~雪の滅竜魔導士~ 作:折式神
「……本当にこっちで合ってるんだろうな」
グレイが舌打ち混じりに呟く。状況が状況だったため、あの白い髪の……どことなくステラに似ている奴の言うとおりの道に入ってから走っているが、一向に敵にも出会わなければ、ステラにも出会わない。
「罠という可能性もある。用心したほうがいいだろうな」
……そう呟いた瞬間にグレイとエルザは互いに通路の先に同じような嫌な気配を感じた。
敵かと警戒して走るのをやめ、音をなるべく立てずに歩く二人。その気配の根源に近づいていくと、倒れている王国兵が増えていった。
「ナツ! しっかりして! ナツ!」
「ナツ! 起きてよ!」
「ウェンディ! ごめんね……遅くなって……」
感じていた気配が遠ざかる。代わりに知っている声――
「お前ら無事だったか!」
知らない猫が一匹増えているが、ルーシィにハッピー、シャルルが無事だったことに安堵するグレイ。
しかし、倒れている二人……ナツとウェンディがピクリとも動かないことに気づく。
「グレイ! それに……エルザ! 大変なの、ナツとウェンディの意識が……」
「グレイ、ナツにエクスボールを飲ませてやれ! 私はウェンディに飲ませる!」
そう言って、エルザは赤い玉が大量にの入った瓶から一粒取り出して、グレイに投げ飛ばす。それを受け取ったグレイが普段どおりの悪態をつきながらナツにそれを飲ませる。
「それって……」
「こっちの世界で魔法を使えるようにする薬なんだとよ。オレたちはガジルから貰ったが……お前はミストガンから貰わなかったのか?」
「そういえば……何か飲まされた気がする」
自分だけが何故か魔法を使えた理由を初めて知るルーシィ。しかし、それなら――
「じゃあ……ステラのアレは……」
ルーシィが震えていた。魔法が使えず、
「……なにかあったのか」
「ステラが、突然黒い影のようなもので王国兵を薙ぎ払っていったの……見たことのない魔法だったし、それに……」
「それに?」
言葉に詰まるルーシィ。なんと例えたらいいのかわからないのだ。過去に何度も起きたステラの異変とも異なっていた。
「オイラたちにもよくわからないんだ……」
「わからないって……」
ハッピーのその一言に呆れるように溜息をつくグレイ。しかし、いつもなら的確にルーシィが補足するはずなのに、わからないというのが事実で正しいのだと、判断せざるを得なかった。
「私たちがナツとウェンディのいるこの部屋についたときには、二人は開放されていたけど、ステラがいなくなってて……」
異様な気配の正体がステラだとして、魔力は全く感じなかった。だというのに、魔法らしきものを使っていたという話。何もかもがおかしい。
「とりあえず……そこの猫はなんだ?」
「む……さっきも同じようなこと言われたけど」
ずっと突っ込むべきかソワソワしていたグレイだったが、やはり我慢できなかった。尋ねられたネクは不機嫌そうな顔をしている。
「この子は
「こっちの世界の私は敵なのか……ならば、あのときの白髪の女性がこっちの世界のステラということか」
「……ねえ、
「まあ、この中じゃ1番強いだろうな」
ネクが尋ねると、すかさずグレイが答える。それを聞いて、ネクが説明を始めた。
「エドラス王国の最終目的は、君たちの仲間の魔水晶を僕たちの故郷にぶつけて、その魔力を融合させて、永遠の魔力を得ることなんだ。それを防ぐためにも、ステラのことが必要なんだけど……」
「なるほど……そこで、私に代わりに戦って欲しいというわけか」
申し訳無さそうに頭を下げるネク。
「うん。突然頼んですまないね」
「いや、その方がいいだろう。この世界について詳しい者の方が臨機応変に動けるだろうしな。それに、この世界の私がどれほどの実力か興味がある」
久しくいなかった好敵手を見つけた。そんな嬉しさが隠せずに滲み出ていた。
「だぁぁぁぁ!!!」
「なんだよ! 突然叫ぶなナツ! って、どこ行くんだよナツ!」
グレイに目もくれず、気を失っていたナツが突然目を覚ますなり、叫んだと思ったらそのまま走り出してどこかに行ってしまった。
「……とりあえず、私はネクと一緒にエドラスのステラの方へ向かう」
「オレたちは……こっちのステラを探さねえとな」
「ああ、頼んだ」
グレイとエルザが互いにハイタッチして、エルザはネクを抱えて走り出した。
「ちょ……自分で飛べるから! いたい! 主に固くていたい!」
/
「消えろ! 邪魔だ!」
「な、なんて強さだ! アースランドのあいつは、魔法が使えないんじゃなかったのか!」
「弱音を吐いている場合か! オレたちに今できるのは中庭まで誘導することだ! そうすれば、エクシードたちを魔水晶にしたときのあれが使える!」
途中までの報告では追い詰めていたはずだった。その報告が途切れてから暫くして、次は手あたり次第に兵が殲滅されているという報告を受けて、現場は大慌てだった。
「くそ、オレたちは撒き餌じゃないってのに!」
どう考えても隊長レベルが対処しなければいけない事態のはずだったが、アースランドのステラは捕らえられていた際に、本来の魔法が使えなかったという報告から、兵でも充分に対処可能だと判断されてしまい、こんな事態になっていた。
既に3分の1もの兵がたった一人の少女に倒されているとは、誰も夢にも思わなかった。
「っ……あ、がああああ!!!」
しかし、見るからに相当のダメージを負っていて、時折苦しそうに悶ているというのに、どこにそんな力があるのか謎であった。
兵たちは、見たこともない攻撃をアースランドの魔法――魔力が原因だと判断し、
「今だ! 一斉照射!」
ステラに対して一点集中で光が当てられた。その場にいた誰もが安堵した。これであの少女を魔水晶に変えることができた。
「邪魔するなァァァ!!!!」
明らかに効果がない。そして、既に光を当てている場所に姿がない。
「き、きえ――」
「上だ! 空にいるぞ!」
異質な姿だった。光を一切通さない影のような黒い翼。そして、王国兵が装置をステラに向け直すより早く、何かを彼女はした。
/
「ああああ!!! エルザが二人いたぁぁぁ! 何だよあれ!? なんでオレたちの知ってるエルザも現れるんだよ! 怪獣大決戦か!? この世が終わるのか!?」
ナツが悲鳴を上げながら戻ってきたのだ。その報告から察するにエルザはエドラスのエルザと交戦を開始したのだろう。
「ほんとうるさいなナツ!」
「……グレイ!?」
「あたしたちの知ってるグレイよ。それにしても、本当にさわがしいわね、あんた……」
「……あれ、本当だ。グレイさんがいる」
ナツが戻ってくる少し前に目を覚ましたウェンディが今ようやく気づきましたという一言を呟いた。
「あれ……なんでかな、地下で日が当たらねーから薄く――っと!」
そんな冗談を言っていたら、何か爆発したような、轟音と揺れが襲いかかってきた。
「……さっきのエルザたちか? いや、それにしては随分遠くな気もするな」
そう呟きながら、ナツの来た方向からメビウスが現れた。肩に乗っているネクが、ルーシィたちに手を振る。
「自己紹介からしたほうがいいかな? はじめまして、
「もう皆エドラス王国の狙いはわかってるよね?」
ネクの問いにその場の全員が縦に首を振る。ナツとウェンディも、捕まった際に自分たちの魔力を使って何をするのか聞かされていた。
「竜鎖砲を発動を防ぐには、鍵を奪うのが手っ取り早い。そうすれば、こっちが竜鎖砲を利用できるからね」
「利用? オレたちにその竜鎖砲ってやつは必要ねえんじゃないか?」
「そうだよ、壊しちまうのが手っ取り早え!」
グレイの問いとナツの言葉に首を傾げるメビウス。ミストガンが色々と説明していると思っていたが、そうではないのだとここで理解した。
「この世界で滅竜魔法は魔水晶にされた人間を元に戻せるんだよ。ん……あれ? そういえば、君はどうやって魔水晶から戻ったんだ?」
「ガジルっていう鉄の滅竜魔導士がいてな。そいつが元に戻したんだ」
「滅竜魔導士が4人もいたのか。なるほどね……まあ、それは置いといて。
とにかく、滅龍魔法で砕いてやれば魔水晶は元に戻るんだ。だから滅龍魔法を鎖として発射する竜鎖砲は、君たちにとっても必要なんだ」
「なるほどな。それで、その鍵ってのはどこにあるのかわかるのか?」
「残念だけどそこまでは……重要なものだから隊長以上の権限の誰かが持っているはずだ。少なくともエルザは持っている素振りはなかったな。持っていたら、私と戦わないだろうし」
メビウスが紙を取り出して広げる。
「これは……地図? でも、城の作りにしてはおかしいような……」
見たままの感想をいうルーシィ。しかし、自分の知っているどの城の作りにも当てはまらないため、自信のない感じだった。
「いや、ここの城の作りであってるよ。見ての通り、これだけ広いから鍵を探すために分かれても効率が悪い。だから、鍵を探す者と竜鎖砲を発動させるための部屋に向かうものをわけたいんだ。それと――」
「ステラ、それはいいよ。あんな国、なくなっても誰も困らない」
ネクがメビウスの言葉を遮る。
「駄目だよ。君が嫌いでも、故郷は大切だ。
……万が一に備えて、エクシードたちに避難するように伝えてほしいんだ」
「私も反対よ。あんな国、どうなってもいいじゃない」
「ちょっと、シャルル!」
ネクとシャルルの似たような反応。それを互いのパートナーが咎める。
「私が行きます」
「ウェンディ!?」
「ネク、君も行ってやれ」
「な!? どうしてだよステラ!」
そして、互いのパートナーの提案に驚くネクとシャルル。どっちも納得していないのは明らかだった。
「……エクシードの女王に、この手紙を渡して欲しいんだ」
そう言って、メビウスは日に焼けてしまった紙を取り出した。
「私の母が、最後に送るはずだった手紙だ。もっとも、戦争のせいで渡せずに、どうしてか私に回ってきたんだけどさ」
「……じゃあ、これは」
横に首を振るメビウス。
「気になるなら、君も読んで構わない」
そう言われたが、ネクはその手紙を受け取ってしまい込んだ。
「……さて、竜鎖砲には私が向かうよ。この地図を見ても正確な場所はわかりにくいだろうからね。あ、地図は……君に渡したほうが良さそうか」
そう言って、メビウスはナツとグレイを見たあとに、ルーシィに地図を渡した。
「おい、なんかすげー失礼な目で見ただろ……」
「いや、アースランドの私から聞いてたけど……服はちゃんと着てよ。それに、あんなに叫びながら駆け回ってた人に地図渡すのもちょっとね……」
――君の仲間は話通り随分と愉快だな。
少なくとも、アースランドのステラは自分より出会いに恵まれて良かったと、メビウスは思っていた。
「……そういえば、アースランドの私はどこにいるんだ?」
「それがナツとウェンディを助けたあとにどっかに消えちまったみたいでな。あいつのことも探さないといけなくてよ」
「オレたちの知ってるステラもいたのか!? 聞いてねーぞ!」
「ステラさんが私たちを?」
「ああ。ルーシィから聞いたが、結構な傷を負ってるのに無茶をしてるみたいでよ」
腕を組んで何かを考え始めるメビウス。その表情は曇っていた。
「……倒れている仲間をおいていった? いや、そういう薄情な子じゃないと思っていたが」
アースランドのことを尋ねた際に仲間のことも含めて嬉しそうに話すステラの姿を思い出すメビウス。そんな子が、倒れている仲間をおいていくような子だとは思えなかった。
「それはないよ。僕たちだけでこの部屋に向かっているとき、彼女は必死に仲間を助けようとしていたから……けど」
「けど?」
メビウスの呟きをネクが否定する。しかし、何か煮え切らない様子で言葉を続ける。
「途中から様子はおかしかったんだ。凄く厭な感じだった。焦って周りが見えてなかったみたいだし」
「だとするなら、助けられなかったと勘違いして自暴自棄になってる可能性がある……か」
メビウスの言葉でナツとグレイ、そしてルーシィが顔を見合わせる。過去何度も、ステラは決まったことで無茶をしていた。仲間のためなら自分のことすら犠牲にする。もし、彼女がそんな勘違いを起こしていたら、自暴自棄どころで済まないと三人は感じていた。
言葉には出さなかったが、ヤバい。という考えは言わずとも互いに理解していた。