問題児たちが異世界から来るそうですよ? 〜 一般人の問題児 〜 作:not Give
13話です、よろしくお願いします!
飛鳥たちが門を閉じると生い茂る木々が門を絡めるように退路を塞ぐ。木々は光を遮るほどの密度で立ち並び、あたりは昼間だというのに薄暗い。
「ガルドが襲ってくる可能性もあるから注意しなきゃね」
「そうですね、ガルドは虎ですから森の中では警戒しないといけません…」
飛鳥の言葉に同意し辺りを見回すジン、しかし耀の鋭い嗅覚がその可能性を否定した。
「…大丈夫、近くからは誰の匂いもしない、もしかしたら何処かの建物に潜んでいるのかも」
「匂い…それも春日部さんの“お友達”の力なのね」
春日部耀のギフトは動物と友達になることでその特性を得られるものであり、その数が多ければ多いほど効果が強まる。そして数十匹の犬と心を通わせていることでその嗅覚は並の獣を凌ぐだろう。
「ちょっと見てくる」
そう言った耀はガルドの居場所を突き止めるため、生い茂る木々を足場にして軽やかに登っていった。その身のこなしはさながら猫のようだ。
「春日部さんのギフトはいいわね…」
耀の背中を目で追う飛鳥はそんな言葉を口から漏らした。
その言葉に含まれていたのは、尊敬、感嘆、それからほんの少しの嫉妬。
友達を作ることで強くなれる耀に対し、飛鳥の
そのことを無意識のうちに比べてしまっていたのかもしれない。
「羨ましいわ、でも私だって…」
全てが満たされ、つまらなくなってしまった元の世界では感じたことのない感情だった。自分の思い通りにならないことがある、自分には無い、他人だけが持つモノがある。
悔しい、歯がゆい、もどかしい
だからどうしたというのだ。
一瞬暗い思いを抱いたがすぐに改めた。
満たされた世界では感じたことのない感情を知れたことは喜ぶべきことだ。
自分の思い通りにならないことがある、そんなことは当たり前だ。
自分には無い、他人だけが持つモノがある、それなら自分だけが持てるモノだってあるはずだ。
3人は森を散策し始める。奇妙に蠢く木々は家屋を飲み込んで生長したらしく、ほとんどが木の根や枝に食い破られていた。
黒ウサギは“フォレス・ガロ”に大きなゲームを仕掛けることは不可能と言っていたが、この短期間でこの奇怪な森を作り上げたガルドの力は油断ならないものだろう。
「彼にしてみれば一世一代の大勝負だもの。今まで温存していた隠し玉があってもおかしくないということかしら」
「ええ。彼の戦歴は事実上、不戦敗も同じ。明かさずにいた強力なギフトを持っていても不思議ではありません」
森を散策する二人とは別に、耀は木の上からガルドを警戒していた。
「……駄目ね。ヒントらしいヒントも指定された武器も見つからないわ」
そういったとき上からガサっという音がした。その音に飛鳥とジンはガルドが襲ってきたのかと警戒したが、それは上からガルドを探していた耀であった。
「ガルドは本拠の中にいる。影が見えたし、目で確認した」
彼女の瞳は普段とは違い、猛禽類を彷彿させるような金色をしていた。おそらく鷹やフクロウにも友達がいるのだろう。鳥の視力をもってすれば造作もないことだったはずだ。
「じゃあ本拠に向かいましょうか。決戦よ!」
飛鳥たちは警戒しつつ本拠の館に向かい始めた。本拠に近づくにつれ、侵入を阻むように絡み合っていた木々の壁が厚みを増す。
(これだけの量を鬼化させるなんて…やはり彼女が……)
先ほども考えたことであったが、すぐに振り払う。彼女が此処にいるはずがないのだ。
「見て。館まで飲み込まれているわよ」
“フォレス・ガロ”の本拠に着いたが扉は無残に取り払われ、窓ガラスは砕かれている。贅が尽くされていたであろう外観は塗装もろともツタに蝕まれて、剥ぎ取られていた。
「ガルドは二階にいた。入っても大丈夫」
内装もやはりひどいものだった。己の力を示すように置かれていた豪華な家具や調度品は窓から侵入した木々やツタによってなぎ倒されている。
三人はここまでくるとこの舞台に疑問を持ち始めた。
「この奇妙な舞台は…本当に彼が作ったものなの?」
「分かりません…“
「代理を頼むにしても、罠の一つも無かったわよ?」
「森は虎であるガルドのテリトリー。だから奇襲に有利なこと舞台にした……わけでもなかった。それなら本拠にいる必要もないし、壊す必要だってない」
耀を言葉にこのゲームの歪な部分を認識し先ほどまでとは違う緊張感の中で周りを見渡す。
瓦礫や家具を隅々まで調べるがヒントや武器は見つからなかった。
指定武器はもしかしたら一本の針かもしれないし持ち上げることが不可能な鉄塊かもしれない。そんな不利な条件で戦っているのだから用心するに越したことはないだろう。
「二階に上がるけど、ジン君。貴方は此処で待ってなさい」
「ど、どうしてですか?僕だってギフトを持っています。足手まといには…」
「そうじゃないわ。上で何が起こるか分からない以上、ここで二手に分かれて貴方にはこの退路を守って欲しいの」
確かに理に適った回答だが、それでもジンは不満だった。
しかし退路を守ることの重要性は彼も理解している。ジンはしぶしぶといった感じで階下へ降りていった。
飛鳥と耀は根に足を取られないよう慎重に、尚且つ音を立てないようにゆっくり進む。そうして最奥にあった大きな扉の両脇に身を寄せた二人は機会を窺う。
飛鳥が三本の指でカウントダウンをする。
三、 二、 一、
意を決した二人が勢いよく部屋に飛び込むとそこには
「ギ…………」
「ーーーーーーGEEEEEEYAAAAAAAAAaaaa!!!」
言葉を失った虎の怪物が、白銀の十字剣を背に守り立ち塞がった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「っ!今のは!」
門前で待っていた凜達の耳に獣の咆哮が届く。
作られた森に忍び込んでいた野鳥達が一斉に飛び立ち、逃げていった。
「ああ、間違いない。虎のギフトを使った春日部だ」
「あ、なるほど。ってそんなわけないでしょう!!幾らなんでも失礼でございますよ!」
スパコーンと黒ウサギがハリセンでツッコミを入れる。最早様式美になりつつあるが十六夜も本気で言ったわけではなく、肩をすくませて訂正した。
「じゃあ怒鳴ったお嬢様だな」
「本人に言いつけんぞ」
「それは勘弁」
額に青筋を浮かべる飛鳥を想像し前言を撤回する十六夜。凜はよくこんなシリアスな場面でボケられるな、と若干感心しつつ咆哮が聞こえた本拠へ思いを巡らせる。
(今の咆哮は十中八九ガルドのもの。ということはいよいよ戦闘が始まったのか)
「今の咆哮といい、この舞台といい、前評判より面白いゲームになっているじゃねえか。見に行ったらまずいのか?」
「お金を取って観客を招くギフトゲームも存在しますが、最初の取り決めにない限り駄目です」
「いいじゃねえか。“
「だから駄目なのですよ。ウサギの素敵耳は此処からでも大まかな状況が分かってしまいます。状況が把握出来ないような隔絶空間でもない限り、侵入は禁止です」
チッと舌打ちをした十六夜が八つ当たりをするように近くにあった枝を縦に引き裂きながら呟く。
「……貴種のウサギさん、マジ使えね」
「せめて聞こえないように言って下さい!!本気でへこみますから!」
ペシペシと叩く黒ウサギ。
だが状況が分かってしまう黒ウサギは内心でハラハラしながら三人の無事を祈っていた。
(この鬼種植物……必ず彼女が関わっているはずです。ならこのゲームは公平なルールで提示されているはずです。三人ともどうかご無事で)
「じゃあ黒ウサギがここから向こうの様子を実況してくれないか?気になるんだよ」
凜がそう提案すると黒ウサギはそれくらいなら、と承諾して状況を説明し始めた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
目にも留まらぬ突進を仕掛ける虎に反応出来たのは耀だけだった。
飛鳥を突き飛ばし、辛うじてガルドの突進を避けた耀は飛鳥に向かって叫ぶ。
「逃げて!」
互いに後の言葉は続かない。ガルドの姿は先日のワータイガーではなく、紅い瞳を光らせ獲物を狙う虎の怪物そのものとなっていた。
物音を聞きつけ、2階に上がったジンはガルドの姿を見るや否、彼の身に起こった事態を把握する。
「鬼種!やっぱり彼女が」
「つべこべ言わずに逃げるわよ!」
飛鳥はジンの襟を掴んで階段から飛び降りる。
飛鳥とジンを標的と定めたのかガルドもそのあとを追いすがる。
「GEEEYAAAAAaaaaーーー!!」
「待って下さい!まだ耀さんが中に!」
この状況で尚、耀の心配をするジンに飛鳥は、
「
飛鳥から発せられた命令にジンの意識は濁流に呑まれたように途切れた。
耀と合流するという気持ちは隅に追いやられ、ここから逃げることにのみ神経が集中していく。
「一気に逃げます」
「え?」
飛鳥の手を握ると腰から抱きかかえ、齢十といくつかの少年ではあり得ない脚力で床を蹴り館の外に出た。
外に出た後もジンはツタや根の絡む道を獣さながらに走り抜ける。
ガルドはあの館から出られないのか、ジン達が逃げたのを見送り、館内へ戻っていった。
「ちょ、ちょっと!」
ジンに抱きかかえられた飛鳥はガルドが追ってこないことを確認したがジンは止まってくれない。館から必要以上に離れてしまうのは計算外だと飛鳥は慌てて言葉を重ねた。
「もういい、もういいわ!
「はい。……あれ?」
ジンは我に返ったように足を止める。そしてすぐに違和感を感じる。確か自分はガルドの館にいたはずでは?そもそも何故飛鳥を抱いているのだろう?
するとフッと体から力が抜け、ジンは飛鳥を抱えたまま倒れ込んでしまった。
飛鳥が見るからに不機嫌そうにジンの頬を引っ張る。
「ちょっとジン君、少し失礼じゃないかしら?これじゃあ私が重いみたいじゃない」
「い、いふぇ。そんふぁふぉこふぁいでふ(そんなことないです)!」
そう言うと飛鳥は引っ張っていた手を離したためジンは自分の身に起こったこと説明した。
「飛鳥さんの声が聞こえたと思ったら自分でも信じられないくらいの力が溢れてきて……あれが飛鳥さんのギフトなんですか?」
どうやらガルドに襲われたときに焦っていたため無意識のうちにギフトを使っていたらしい。しかしそのことは一先ず後だ。飛鳥は2階で見たことをジンに話した。
「そうみたいね。それにガルドよ。虎の怪物になっていたし、ちらりとしか見えなかったけど白銀の十字剣を守っているようだったわ」
「おそらく鬼化したのでしょう。ガルドが守っていたのは白銀の十字剣……銀と十字架。間違いありません、指定武具はその剣です」
「鬼化?」
「はい。ガルドは元々、人・虎・悪魔から得た霊格によって成るワータイガーでした。しかし吸血鬼によって人であるための霊格を鬼種に変えられたためあのような怪物になっていたのでしょう」
「ではこの舞台を用意したのもその吸血鬼ということ?」
「おそらくそうでしょう。人としての霊格を失ったことで理性を無くしていたガルドにこのような舞台を作ることは不可能です」
「誰か知らないけど生意気なことをしてくれたものね」
不機嫌そうに顔を背ける飛鳥。“ノーネーム”と“フォレス・ガロ”のゲームに部外者が関わるのはそれだけで腹立たしいのだろう。
二人の傍で茂みが揺れたのはその時だった。
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「ハァ、ハァ…」
自分の荒い息だけが聞こえる。呼吸をするために息を吸うとズキリと右腕が痛む。
どこかで思い上がっていたのかもしれない。
自分なら一人でもあの怪物を倒せると。
この
実際あの場でガルドの足止めを出来たのは自分だけだった。白銀の十字剣が指定武具はすぐに理解出来たし、チーターに友達がいるから足の速さだって負けなかったはずだ。
でも、怪物になったガルドはカフェで取り押さえたときなんかとは全然違って…
スンスンと鼻を鳴らして、朦朧とする意識の中で飛鳥の匂いを辿る。目の前の茂みを掻き分けてひたすらに……
「誰?」
良かった、飛鳥の声がする。
「私」
そう言って茂みから出ると飛鳥とジンが血相を変えてこっちに走ってくる。
「か、春日部さん!大丈夫なの!?」
「大丈夫……じゃない。凄く痛い。ちょっと本気で泣きそうかも」
ぼぅっとする意識のなかで飛鳥が心配しないように茶化してみせ、手に持った剣を飛鳥に見せる。
「まさか、たった一人で剣を?」
違う、本当は一人で全部やるつもりだったんだ。一人で出来るつもりだったんだ。
「……ごめん」
何に対しての謝罪なのか言えないまま、私は意識を失った。
読んでくださりありがとうございます。
主人公が若干空気です…
やっぱり登場人物たちは色々なことを思ってるんだろうと思い、(蛇足かもしれませんが)なるべく心理描写をするように心がけています。
感想、評価、誤字脱字がありましたらよろしくお願いします!
更新ももう少し早く出来るように頑張ります!