アラクネ三姉妹と変人男   作:結城悠

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ノリと勢いだけで数時間で書いた物です。
過度な期待はしないで下さい。
ちょいエロ要素?はありますが、チョイです。


アラクネ三姉妹と変人男の出会い

 他種族間交流、いつの日からか始まった、人と人ならざる者との交流。

 ネットやテレビなんかではよく見かけるが、実際に街で見かける事は無い。それは、多くの審査や調査を必要とする法律がある為、他種族が外を出歩く事がほとんどないからだ。

 それに、もう一つ。重大な問題が、この街にはあった。

「えー、で、あるからしてですね。我が市町村区では、他種族間の交流に対しては慎重に慎重を重ね・・・」

 テレビから流れる男の声、60を過ぎ、頭の毛が薄くなったしわの目立つ男が、気だるそうに言葉を並べる。

「・・・そろそろ時間か」

 テレビの電源を消し、誰も居ない家の中に向かって挨拶をする。

「行ってきます」

 扉を閉めると、家に鍵も掛けず、車に乗り込んだ。

 

 織部朱(おりべあか)、今年で二十歳になる、自由人。もといフリーターだ。

 家族は健在だが、今は離れて暮らしている。その理由が、他種族間交流法にあった。

「朱くん、おはよう」

「おはよぅっす。・・・なんか、少なくないですか?」

 朝礼をする筈の休憩室には、まばらに人が座っているだけ。先月から比べれば半分になっている。

「今度は三人、引っ越しだってさ・・・」

「あー、マジですか」

「今月に入ってから二桁を超えたよ・・・、本当に勘弁して欲しいよ」

 目の下にクマを作った彼は、錦野悟(にしきのさとし)。この繊維工場を任された年若き工場長だ。

 正確には、押し付けられた、が正しいのだが。

「できればね、僕も他種族とは係わりたくないんだけど、上の命令じゃ、どうしようもなくてね」

「錦野さん、そういう愚痴は社員同士でやって下さいよ」

「・・・僕以外に社員が居るのかい?」

「えっ、まさか辞めた三人って・・・」

 そう言って、ほの暗い笑みを浮かべる錦野に、俺は何も言えなくなってしまった。

 少なくなった人を集め、朝礼が始まった。とは言え、これだけ減った人員ではまともな仕事などできる筈もなく、今週末に来る新人の為に、社内のレイアウト変更をする事になるのだった。

 

 俺の住む市では、いまだに他種族に対して嫌悪感を持つ人が少なくない。老人の多い田舎町、そんな場所には、排他的な人が多いのだ。

 市長はその意を汲み取り、今の今まで他種族間交流を拒否してきた。

 けれど、それにも限界はある。この国のトップが他種族を認めているのだ、小さな市町村が拒否したとしても、圧力でどうにでもなってしまう。

 細かい話になれば、経済効果とか、影響力とか、高度に政治的な話らしいが、あまり興味のなかった俺は、遠回しな表現ばかりの新聞を投げ捨てるのだった。

「簡単に言えば、金に目のくらんだ社長が他種族を受け入れるって言った。って事ですよね?」

「うーん、まぁ、そういう事だね」

 社員としては、会社の愚痴を堂々と言う事も憚られるのだろう。苦虫を噛み潰したような顔で、曖昧な返事を返してくる。

「それで、レイアウトなんですけど、こんなに幅とって大丈夫なんですか?」

「あっ、朱くん、説明聞いてなかっただろう?」

「えーっと、あー、そうですね」

 朝礼の時、レイアウトに関していくつか説明されていた気がするが、念仏程度にしか聞いていなかった。

 多少のお小言を貰う事を覚悟するが、錦野さんは丁寧に説明してくれた。

「うちに来るのは三人、全員アラクネって種族らしいけど、サイズがね。大型らしいんだ」

「横幅だけで二メートルの通路とか、フォークリフトじゃあるまいし」

「あはは、だよね。しかも、蜘蛛みたいな見た目らしいよ?」

「くも? って、あの蜘蛛ですよね」

「そうそう、彼等の糸は高価らしくてね、それで繊維工場、うちに白羽の矢が立ったってわけだよ」

 他種族の情報は詳しく公開されていない。以前から、悪用者が絶えないらしく、都心部では様々な問題が数多く報告されているらしい。

 だから俺も、アラクネという名前だけ聞かされてもピンとこない。ただ、全長二メートルの蜘蛛と言われれば、想像するだけで恐ろしい。

「ホントに、大丈夫なんすか?」

「僕も、できれば逃げたいよ・・・」

 その日から数日、社内の機械を移動させたり、荷物を整理したりで大忙しだったが、俺はいつも通り、平和な日常を送っていた。

 

 そして、問題の日が訪れた。

 いつも通りの時間に出社すると、大きなトラックが三台、黒塗りの車が二台、工場の前に停まっていた。

「そうか、今日だったか」

 今更思い出したかのように、通り過ぎようとした瞬間、俺の車に衝撃が走った。

「な、なんだ!?」

 急ブレーキをかけ、音のした天井を見上げると、穴が開いていた。

 訳が分からず、車の外に出ると、そこに黒く巨大なモノが佇んでいた。

「あっ、やっちゃった・・・」

「あっ・・・、じゃねぇ! ローンがぁあああ!?」

「ひえっ!?」

 中古車だが、腐っても車だ。安い訳がない。フリーターの安月給で車を持つなど、有り得ない話だ、ここが田舎でなければ、車を持とうなど考えもしない。

「お前! 今すぐ降りろ!」

「ひゃ、ひゃぁい!」

 車の天井を突き破った黒く鋭い脚を引き抜き、俺の目の前に佇むモンスター。

 身長は俺よりも少し高い、普通に考えれば、おかしくは無い。俺の身長が180弱と言う事を差し置いても、不思議に思う身長差ではない筈だ。

 問題は、上半身ではなく、下半身。

 そこにあるのは、黄色と黒の入り混じった、八本の細く鋭い脚と丸みを帯びた身体。言い表すなら、蜘蛛。

「今はどうでもいい! 俺の車どうしてくれるんだよ! これじゃ、雨の日に困るだろうが!」

「た、たまたま通りかかったあなたが悪いんだよ!」

「はぁ!? どこの誰が空から人が降って来ると思うよ? 天空の城じゃねぇんだぞ!」

「えー、なに言ってんのこの人・・・」

 口元に手を当てて引いている、目の前の女の子。蜘蛛の身体と同じ、黒く短い髪を揺らし、八つの瞳が、半目で俺を睨んでいる。

「ちょっと、ラケシ! 飛ばないでって言ってるでしょう・・・、って、貴方は?」

 俺が蜘蛛女と睨み合いを続けていると、黒いスーツに身を包んだ長髪の女性が近づいてきた。

 彼女は蜘蛛女の名前を呼んだ、それに、首に下げた名札から見るに、公務員だろう。

「あんたは?」

「私は、他種族間交流コーディネイターのスミスです。この度は、アラクネ三姉妹の交流に関して・・・」

「そんな事はどうでもいい! 俺の車、どうしてくれんだ!」

 俺は自分の愛車を指差し、へこんだ天井をスミスに見せた。

 彼女は物凄くメンドクサそうな顔をした後、頭を下げる。

「申し訳ありません、こちらの不手際で。損害分はこちらで全て負担しますので、後ほど請求書を送っていただけますか?」

「・・・まぁ、ちゃんと修理してもらえるなら」

 少しばかり対応が気に入らなかったが、修理費が出るなら気にしない事にしようと堪えた。

 スミスに連れられ、蜘蛛女が去っていく時に、こっちに向かって、「あっかんべー」をしてきた時には、ちょっとムカついたが。

 

そんな朝一の事件を終え、コーディネイター同伴の自己紹介が行われる事となった。

「わたくしが、長女のクロト・モイラ・アルケニーです。これから、よろしくお願いします」

 一番身体が大きく、礼儀正しい女性が、長女らしい。

 長い金髪と、黄緑の八つの瞳、蜘蛛の身体は白と黄色の短い毛で覆われている。そしてなにより、胸がデカイ。ちょっとお目にかかれないサイズに、男なら惹かれるのではないだろうか。

「次女のラケシ・モイラ・アルケニーでーす。よろしくでーす」

 そして、コイツが俺の愛車を傷モノにしてくれやがった奴だ。

 長女とは違い、つるっとした身体は、ツヤツヤと光を反射している。三姉妹の中で、一人だけ特徴的な身体つきだ。

 そして、残念な程に胸がない。もし気にしているようなら鼻で笑ってやろう。

「三女の、アトロ・モイラ・アルケニー、です。ご迷惑にならぬよう、が、頑張ります!」

 俺の胸のあたりに顔がある、一番小さく大人しそうな子が、顔を赤くしながら必死に声を出している。とても可愛らしい。そして、長女にも負けず劣らずの豊満な物をお持ちで。

 この子の身体もまた特殊で、柔らかな皮膚に似た見た目で、真っ白な見た目は、三姉妹の中でもっとも目を引いた。

「それでは、従業員の皆さま。これからこの子達の事をよろしくお願いします」

 そう言ってスミスさんが締めくくったが、返事をする者は誰一人居なかった。

 

「あたしも、逃げようかしらね」

「あんなのだとは思いもしなかったよ」

「この歳で新しい職場なんて、見つかるかね」

 この流れはマズイな。

 そう思いながら、パートのおばちゃん達の内緒話を聞かぬ振りをする。

 少し考えたのだが、俺はおかしいらしい。もちろん、変人、奇人という意味でだ。

 三姉妹を見ても、特に何も感じなかった。普通とは逆に、「よくもまぁ、綺麗どころを揃えたもんだ」と感心した位だ。

 しかし、普通の人はそうは思わなかったらしい。いくら綺麗な顔をしていても、あれほど大きく、不気味な蜘蛛の身体が目の前を歩いていれば、恐怖の一つも感じるのだろう。

 確かに、俺は昔から恐怖心の薄い人間だったとは思っている。自覚している分、マシだろう、と思いたい。

 休憩室の外では、錦野さんが一人で工場の説明を行っている。彼しか社員が居ないのだから仕方ないのだが、見るからにビビっている。

 面倒事は嫌いだが、このままにしておくと更に面倒な事になりかねない。そう思い、補佐くらいならできるだろうと立ち上がった。

「で、でで、こ、こは。製品を、紡ぐ場所で、ですね」

「あの、もう少し詳しく教えて頂けないでしょうか?」

「ははっはい! すみません!」

 近くに寄ると、錦野さんの悲鳴にも似た声が聞こえて来た。もはや聞きとるのも困難なほどだ。

「ちょっと、姉ちゃん、この人大丈夫なの?」

 ラケシが姉の後ろから顔を出す。その時、嫌な音が工場内に響き渡った。

 鉄を削るような、鋭い響き。それは、ラケシが機械の側面に足を当てた音だった。

「ひっ!?」

 鉄板の側面に、抉ったような掻き傷が作られていた。ラケシは「テヘペロ」とでも言いそうな顔をしていたが、錦野さんの顔は真っ青だ。

 当たっただけで鉄を抉るような身体、それが自分に向けられた時の恐怖。人としての生存本能が、彼をその場から逃がそうと全力で警報を鳴らしていた。

「コラ! てめぇ、俺の車に続いて会社の備品まで壊すんじゃねぇよ!」

「げっ、うるさい奴・・・」

 錦野さんは九死に一生を得たとでも言いたそうな顔で、俺の後ろに隠れてしまった。

 その姿を見ながら、長女は残念そうな顔で俯くのだった。

「やはり、私達は・・・、恐ろしいのでしょうね」

「お、お姉ちゃん。やっぱり、無理なのかな」

「だから言ったでしょ! 人間なんて脆弱な生き物、私達には必要ないって!」

 俺の存在を無視するかのように、三人はお互いだけで話し始める。それが、気に食わない。

「おい、お前ら。ちょっとデカイからって何言ってんだ?」

「お、おいっ!? 朱くん!?」

 俺の態度に驚いた錦野さんが必死に服の裾を引っ張って来るが、それを振り払い、溜まっていた鬱憤を吐き出す。

「こっちはお前達の所為で大変なんだよ、会社は金の事しか考えない、俺達働く側は二の次三の次だ、給料は変わらない癖にお前達みたいな新人を押し付けられる、キツイ、汚い、給料が安い、いいところは家から近いってそれだけだ、文句も言いたくなるだろうが!」

「あ、あんた、なんの話し?」

「あー、つまりだな。ここに来た以上最低限の仕事はしろって事だ、俺は詳しく知らないけど、お前達三人はその為にここに来たんだろう?」

「へぇ、貴方は彼女達の事を、三人って言うのね」

 言いたい事を言って少しすっきりした俺は、不意に背後から声をかけられた。

「あんたは、スミス、さん? だっけか」

「まったく、安月給でこんな地方まで飛ばされて、嫌気がさしてたところだけど、面白い人もいるのね」

「あ、あの。それで、私達は・・・」

「あー、それなんだけどね。私、いい事思い付いちゃったの」

「「「はい?」」」

 全く流れの読めない会話に、その場に居た一同が頭にクエスチョンマークを浮かべていた。

 サングラスの奥で嫌な光を浮かべるスミスの眼光の意味を知るのは、俺が家に帰った直後だった。

 

「で、なんであんた達がここに居るわけ?」

「うふふ、それはね」

 俺の後をついて来たのか、家の前には三姉妹とスミスが立っている。家の中を覗き込みながら、何かを考えているようだ。

「ところで、ここは貴方の家でいいのよね?」

「・・・違う」

「そう、広さは問題ないわね。片方は古いわね、でも、この広さなら問題なさそうね」

「おい、無視すんなよ!」

 手に持った用紙に何かを書き込んでいるスミス。なにかとてもよくない事が起きている。そんな気がしてならなかった。

 俺の家は二つある。家が金持ちとか、そういう訳ではない。田舎特有の広い敷地があるだけだ。しかも、片方は築百年を超えるボロ屋だ。

「どう? いけそう?」

「え、ええ。わたくしのサイズでは少し狭いですが、丁度いいスペースもありますし、巣も張れそうです」

「なら、当面は問題ないわね」

「おーい! 俺を無視して話を進めるなー!」

「あら、無視しているつもりは無いわよ。それじゃ、これ。よろしくね?」

「・・・はい?」

 手渡された書類には、他種族間交流・ホストファミリー委任状と書かれていた。

「ちょっと待て、俺は一言も・・・」

 俺の言葉を最後まで聞かず、黒塗りの車は遠くへと消えて行った。

「くそがあぁぁぁぁ!」

 俺の咆哮は、虚しく空へと消えて行くのだった。

 

 

 

 現在、俺の身体は空中に浮いていた。

 俺自身、「何を言ってるんだコイツ」と思うだろうが、一言でいえばそうなってしまうのだ。

「なぁ、家壊れないか?」

「大丈夫ですよ、私達は見た目ほど重くは無いですし、家の方に補強もさせていただきましたから」

「そ、そうか。ならいいんだけど」

 家と家の間、中庭に当たる部分に、大きな蜘蛛の巣が出来上がっている。長女によって特別な作られ方をした蜘蛛の巣は、頑丈で伸縮性が高くなく、粘着性もない。俺の動きやすいように作られていた。

 変わりに、彼女達が少し動き辛いらしいが、垂直に作られていないのでさした問題ではないらしい。

 なぜこんな物が必要だったのか、それは、我が家に長女が入らなかったからだ。

 幅は問題なく、窓を外せば入る事はできるが、高さが問題だった。彼女の身長は俺よりも高く、真直ぐに伸ばせば2メートルを軽く超えている。

 一般的な民家に、そんな高さの天井は用意されていない。窮屈な思いをさせるくらいなら、いっその事、と思い提案したのが、水平に作られたこの巣だ。

 俺の自室は2階にある。窓から外へ出れば、彼女の部屋だ。部屋と言っておこう。

「しかし、よかったのですか? 私達がここに居ても」

「しょうがないだろう、あの人帰っちゃうし、追い出すわけにもいかないだろう」

「あ、ありがとうございます」

 次女と違い、長女は凄く丁寧にお辞儀をする。次女と違い、なんてまともな人なんだろうと感心する。

「それじゃ、二人の様子も見てくるからっ、おおっと」

 次女は旧家の方に、三女は新居へ招いている。広さ的に、別れてもらった方が過ごしやすいだろうという配慮だ。

 他の二人の様子を見に行こうと立ち上がった時、バランスを崩してよろけてしまった。

 クロトはすかさず、前足と両手で包み込むように支えてくれる。

 しかし、その姿勢では、俺の顔が彼女の胸に埋まる事になり。

「うおっ!? やわっ・・・、す、すまん!」

「い、いえ。大丈夫ですか?」

「あ、ああ」

 触れてみて、初めて気付く事もある。

 彼女の上半身、人と同じ部分は温かく、驚くほど柔らかかった。生まれてこの方、母親以外の女性とは縁もなかった俺が、その柔らかさに理性を失うのも時間の問題だ。必死に自分を抑え、なんとか踏みとどまった。

 しかし、抗えない探究心もある。

「あー、その。失礼ついでに・・・」

「は、はい? 何でしょう?」

「か、身体を、触ってもいいか、な?」

「えっ!?」

「あぁー! なんでもない! 忘れて!」

 つい、言ってしまった。どうしても気になったせいで、我を忘れてしまうなんて、絶対に引かれた。

「は、はい。少しなら・・・」

「えぇっ!?」

 今度は俺が驚いてしまった。普通に考えれば殴られてもおかしくない質問だったが、クロトは顔を赤くしながらも、良いと答えてくれた。

「で、では。どうぞ・・・」

「あ、ああ。それじゃ・・・」

 手を後ろに組み、目を逸らし、何かを堪えているようにもみえる。

 ここは、紳士的に辞めた方がいいのか。だがしかし、こんなチャンスはもう二度と、二度とないかもしれないっ。

 そして、心の中で「俺も男だ、吐いた唾は飲まないし、二言は・・・ないっ!」そう叫んだ。

「んっ。・・・ん?」

「あっ、やっぱり。もっと荒いのかと思ったけど。気持ちいいぞ?」

 彼女の身体、体毛はさわり心地が良く、犬や猫とはまた違う、ふわふわとした感触が心地よかった。

「えっと、朱さん?」

「ん? ああ、すまん。キモかったな俺・・・」

「い、いえ。触るのは、身体ですよね?」

「あ、ああ。さっき助けてもらった時、毛の感触が気になって。やっぱり嫌だったか?」

 申し訳ない、と言うように俺が頭を下げると、彼女は口元を抑え、御淑やかに笑って見せた。

「ふふふ、貴方は、変な人ですね。てっきり、この身体の部分をご所望かと思いましたよ」

 そう言って彼女は、その豊満な胸を揺らして見せた。胸元の大きく開いたビキニのような服からこぼれんばかりの振動が、俺の童貞心までも揺らしてくる。

「なっあっ!? いや、それはそれで、いや、なんでもない」

「初めてですよ、この身体を触りたいなんて人は」

「そ、そうなのか?」

「ふふふ、そうなんです。こっちなら、もう少し触ってもいいですよ?」

「あ、じゃぁ。遠慮なく」

 クロトは前足の一本を俺の近くに寄せてくる。ふわふわとした感触を楽しんでいるうちに、足の根元部分を触ってしまう。

「きゃ! そ、そこは・・・」

「あっ!? ごめん、ちょっと夢中になっちゃって!」

「姉ちゃんに何すんだ! このヘンタイ!」

「っ!?」

 俺の頬へ、鋭い痛みが走る。そこから滴る紅い雫が、耳元まで流れ、零れ落ちた。

「ラケシ! 辞めなさい! 他種族間交流法で、傷付ける事は禁止されているのよ!」

「姉ちゃん! なんで庇うんだよ! コイツ、姉ちゃんに変な事!」

「私が良いと言ったの。こっちの身体を触らせるくらい、どうってことないわよ?」

「姉ちゃん! こいつに騙されてるんだよ!」

 俺の上に乗っかって、ラケシが喚き散らす。他種族による傷害事件は即強制送還、以前ニュースで聞いた事があった。

 もしも俺がこの頬の傷を報告すれば、こいつはそうなる訳だ。

 だが、それじゃ面白くないだろう?

「おい、ツルペタ、うるさいぞ」

「なぁっ!? だ、だれがツルペタだって!?」

 あっ、やっぱり気にしてたのか。すぐに俺の顔を睨み、顔を紅くして怒って来た。

「お前しかいないだろう? ほら、身体だってこんなにつるつるで・・・」

「わひゃぁ!? や、やめぇ!」

 さっき知ったばかりの弱点。足の付け根をくすぐる要領で撫でまわしてやる。

「うぐっう! おまっ、重い」

「ひゃぅっ! 失礼ね! 平均体重よ!」

 足を滑らせたラケシが俺の上に覆い被さる形になる。つい重いと言ってしまったが、人が潰れてしまう程ではない。見た目よりも軽いというのは本当らしい。

「ちょっ、お前! 締め付けんなっ、くる、し」

「ひひゃぁ、そんな、とこ、触んないでぇぇぇ!」

 しかし、力は人とは比べ物にならない。八本の足で身体を抑えられた俺は身動きが取れず、足を引き剥がそうと必死に掴む。

 しかし、掴んでいた位置が悪かったらしい。俺が掴んでいたのは、脚の付け根の部分。

 震えるラケシは俺の頭を両手でつかみ、自分に引き寄せる。

「おれっ! 折れる! 放せぇ!」

「ひゃぁいやぁぁぁ!」

 なんだよ、ぺったんこの癖に、ちゃんと柔らかいじゃないか・・・。

 全身を抑えられているせいで息ができず、次第に薄れて行く意識の中で、わずかな柔らかさに包まれた俺の顔は、白眼の笑顔で、固まった。

 その後、なんとか一命を取り留めた俺だったが、全身骨折で入院する事になるのだった。

 勿論、理由は蜘蛛の巣から落下した自業自得と言う事になっているが、極秘に入院費用が出たことで、いろんな意味で助かった。

 

「この度は、大変だったみたいですね」

「人事だと思って・・・。これだから公務員は」

「それで、ホストファミリーの件は・・・」

 病室で、スミスさんと話す俺は、二週間にしてほぼ全快という驚異的な回復力を見せた。

 異種族に伝わる霊薬だとか言われたアレは不味かった。しかし、そのおかげで早く回復したのだが。

「どうせ、ノーとは言えないんだろ」

「ノーと言うのですか?」

 まだ数回しか会った事の無い人だが、俺は、この女性が嫌いだ。

「三人とも、家で預かるよ」

「ありがとうございます。三人とも、となるとかなりの負担になりますから、こちらの方で諸々手配しておきました」

「・・・既に手配済みかよ」

 俺がイエスと言う事を前提に、スミスさんは全てを進めていたようだ。多分、ノーと言っても無駄な事だったのだろう。

「それでは、私は帰ります。これから問題があった場合は、別の者が対処に当たりますので、お手柔らかに」

「それはこっちの台詞だよ・・・、お手柔らかに」

 書類へのサインと、母印を押し。不敵な笑みで笑ってやる。

 スミスさんはサングラスを外し、手を振りながら、にこやかな笑顔で去って行った。後に知った事だが、彼女も相当に忙しいらしい。そうは思えなかったが。

 

 久々の我が家に到着すると、俺は荷物を落とした。

「お、俺の、家が・・・」

 大豪邸、そう言っても過言がない程に、広くなっていた。たった二週間でこれほどの家が出来上がるものなのか、自分の常識を疑いたくなったが、頬をつねった痛みが、現実である事を教えてくれる。

「マジかよ、夢じゃないのかよ」

 玄関、というより、門に近いそれを空けると、騒がしい足音が聞こえてくる。

「朱さん! おかえりなさい」

「あ、ああ。ただいま」

「お兄ちゃん、大丈夫だったの!?」

「ああ、なんとかな」

 室内も広くなってた。クロトが背を伸ばしても問題がない程に天井は高く、床は海外のような、土足で生活する仕様に変わっている。簡単に言ってしまえば、新築になっているのだ。

「この度は、妹のラケシがご迷惑をおかけしました。それと、私達を庇って頂いて、ありがとうございます」

「いや、気にするなって。俺も、調子に乗って悪かったし」

 元はと言えば、俺に非があるのだ、それなのに、彼女達を追い出すなど、我儘が過ぎるだろう。

「ごめんなさい、お姉ちゃんが、痛い事しちゃって・・・」

「えっと、アトロだよな。いいさ、これからは家族なんだから、遠慮するな」

 そう言って、照れ隠しに頭を撫でてやる。この子だけは、俺の手でも持ち上げられるほど小さい。癒しだ。

「朱さん、家族と言うのは、それはもしかして・・・」

「あぁ、決めたよ。三人といると、俺も・・・。楽しいからな」

「ありがとうございます! 朱さん!」

「ありがとう! お兄ちゃん!」

 二人が嬉しそうに俺に抱きついてくる。ふわふわでぷにぷにで、なんだこれは、天国か!?

「じぃー・・・」

「・・・擬音を口にするな、恥ずかしい奴め」

「う、うるさい! 変態!」

 廊下の奥、壁の向こうから、顔だけを出すようにしてラケシが覗いていた。

「どうした、お前も混ざっていいんだぞ?」

「嫌だね! 変態には近付かないもんね!」

 一向に近付いてこないラケシに溜息をつき、仕方なく俺から近付いて行く。

「やっ! 入って来ないで!」

「いや、ここ一応俺の家だし」

「くっ、うぅ」

「ラケシ、頭を出せ」

「な、なによ。仕返しでもしようって言うの?」

「ほら、いいから」

 不信感を丸出しにするラケシだったが、病院送りにした罪悪感もあるのか、素直に頭を下げて来た。

「今回だけは、許してやるよ」

「ひゃわっ・・・」

 黒と黄色の混じったサラサラの髪の上を、俺の手のひらが撫でる。

 ラケシは両手で顔を抑え、恥ずかしそうにしていた。手の隙間から、真っ赤な顔が丸見えなんだがな。

「あんたは、私達の事、怖くないの?」

 手で顔を隠したまま、ラケシが尋ねてくる。俺と言う存在が、彼女の中で不思議なのだろう。今まで会った人間と、考え方も行動も、まるで違う、俺と言う人間。

「単純な事だ、会話ができるからだ」

「・・・それだけ?」

「それだけだが?」

 ラケシが顔を上げると、頭に乗っていた俺の手が、流れるように頬へと移る。

 八つの黒い目が、じっと俺を見つめたまま、動かない。

「もし、お前達が本能だけで生きる、それこそ蜘蛛だったら、おれも逃げ出しているだろう。けど、違うだろ。会話ができて、考えを聞けて、一緒に笑い合える。異種族だろうと、同種族だろうと、会話さえできれば、家族にだってなれる。そうだろう?」

「・・・変」

 ラケシは、それだけを呟く。

「なんだよ、またそれかよ」

「でも、あたしも、その考え方。好きになりそう」

 そう言って笑うラケシの笑顔は、ヤバいくらい可愛かった。

「あっ、あー、腹減ったな! よっしゃ、飯にしよう!」

 そう言って誤魔化したが、赤くなった耳は、三姉妹の目に、しっかりと映り込んでいた。

 これから、騒がしくも楽しい、アラクネ姉妹と変人男の日常が、始まるのだった。

 

 

 

 

 




モン娘原作も大好きですが、できればラケシのようなキャラでアラクネっていうのがマイフェイバリッツ!
という妄想から始まった拙い文章です。
本当に、勢いだけで書いてしまったので、読み直しとか修正とかもしてませんw
「こいつの妄想おもしれぇ!」って思っていただければ幸いです。

気が向いたら続けるかも? 多分ないw
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