どうしてこうなるかなぁ……。
とりあえず、今回は割と賛否両論割れそうな展開です。
詳しくは本文にて。
まぁそれはそれとして、征服王実装が近そうなので楽しみです。孔明はどんな反応を見せるのやら。
あとは、アヴェンジャーでアンリが来るのを待つばかりです。性能的には☆1でも不思議はありませんが、その辺りは実装後のお楽しみですねぇ。
というか、空の境界コラボがあったのですから、月姫コラボもきっとあるはず。志貴だと式と色々被りますし、きっとアルクなのでしょう。☆4枠でシエルかなぁ。シエルはアーチャーとして、アルクは……バーサーカー? それともファニーヴァンプ? これはこれで楽しみです。うん、きっとくるよね? 来ると信じてます。
九校戦の開会を明日に控え、会場である富士演習場にはこの時期独特の緊張感が満ちていた。
現地練習場の使用機会は基本的に遠方校に優先して割り当てられているが、さすがに開会前日ともなればその限りではない。
今更焦っても意味はないが、勘を鈍らせないためにも選手たちは積極的のこの機を活用している。
富士演習場を包む張りつめていながらも熱気を帯びた雰囲気は、そうして醸成されたものだ。
竜貴もまた、宿舎であるホテル裏の雑木林で一人黙々と鍛錬に勤しんでいる。
ただし、彼の鍛錬の内容は九校戦において行う試技の物ではなく、日々の鍛錬と代わり映えしないもの。
柔軟からの走り込みで体を解し、各種筋トレを経て剣の鍛錬へ。流れも内容もいつもと全く同じ。
違う点があるとすれば、普段なら投影した真剣なり竹刀なりを用いて行うのだが、いま彼の手には何も得物が握られていないことだろう。
投影はもとより、軍の施設であるため真剣の持ち込みは不可なので、これは仕方ない。
とはいえ竹刀ぐらいは持ち込めるし、事実竜貴は一対の竹刀を荷物に入れていた。
なのにそれを使わないのは……彼なりに思うところがあるからであり、空の手を振るえば振るうほどそれを強く自覚する。
「セイッ……! シッ! ハッ………………………………はぁ、やめやめ。こんな体たらくじゃやらない方がましだ。まったく、我ながらまさかここまで身が入らないとは……」
構えを解き、大きく溜息をつくと共にらしくないほど乱暴に頭をかく。
本来、竜貴にとって実際に得物を持っているかどうかなど些末な問題だ。
イメージと魔力で剣を編み上げる彼にとって、実体の有無など関係ない。
ただ、いつもそうする様に思い浮かべるだけでいい。魔術を以て剣を編み上げる時と同じことだ。
違いがあるとすれば、魔術回路を開いているか否か程度。
―――――――創造の理念を鑑定し
―――――――基本となる骨子を想定し
―――――――構成された材質を複製し
―――――――製作に及ぶ技術を模倣し
―――――――成長に至る経験に共感し
―――――――蓄積された年月を再現する
これらの工程を、魔術を介さず進めていく。
すると、やがて手には柄の感触と剣の重さが、目には鋭い輝きを宿した切っ先が、鼻には鍛えられた鉄独特の香りが、耳には刃が割く空気の音が、五感のすべてが剣の存在を肯定する。
実際には剣など握られていないにもかかわらず、竜貴はそこに確かに剣を感じ取ることができるのだ。
衛宮である竜貴だからこそ可能な、究極と言って差し支えないイマジネーション。
普段なら、呼吸するようにたやすく行えるそれが、今は思うようにいかない。
つまりはそれだけ、竜貴の集中が乱れているという事だ。
彼が「身が入らない」と鍛錬を切り上げた所以である。
しかし、それも無理からぬことだ。
昨夜遅く、奏の部屋を訪れ交わされた会話の内容は、それだけのことだった。
(わかっては、いるんだけどね……)
奏の推察も、その果てに導き出された結論も正しい。
別にその解を出した奏に対して思うところがあるわけでもない。
ただ単に、導き出された解が竜貴にとって好ましくないというだけのこと。
(はやく、折り合い付けないとなぁ)
理性はその正しさを認めている。あとは、竜貴自身がそれと折り合いをつけること。
いつまでもそれを引きずっていては、それこそ奏に対して申し訳ない。
思い返すのは、昨夜交わされた会話の内容とその際の奏の姿だった。
「なぁ、ホントにお茶請けいらないのか? 簡単な物ならすぐに……」
「こんな時間にカロリーを摂取させる、鬼畜ですかあなたは」
「むぅ……」
「良いですから、それを置いて早く座りなさい」
奏に宛がわれた部屋に招き入れられるや否や、腰を落ち着ける間もなく茶を淹れ出す竜貴。
本人としては茶請けに軽食か菓子でも出したいところのようだが、それはすっぱり断られてしまう。
奏の言う通り、日付こそ跨いでいないものの、夜も更けたこんな時間にカロリーを摂取するのは乙女的にアウトだ。
というか、普通こういったことは招いた側がするものだが、二人ともそのことには違和感がないらしい。
まぁ、会話を聞く限り本人が好きでやっているのだから、それも当然かもしれないが。
「……フェンネル、ですか」
「うん。リラックスするためのハーブティーの定番はカモミールだけど、アロマ効果と鎮静作用の両方があるから試してみた。こんな状況だし、少しはね」
なにしろ、彼らが宿泊するホテルには物騒極まりない結界が準備されている。
魔術回路を励起させ、体内に魔力を循環させれば防ぐ事ができるのは過去の資料から明らかとはいえ、それでも巨大な生物の胃袋の中にいるような感覚がなくなるわけではない。
ただ滞在しているだけでも、知らず知らずの内にストレスがたまるのは必然だろう。
故に、リラックス効果の高いハーブティーを選んだ竜貴の配慮はなかなか悪くない。
とはいえ、それで素直に礼を言うような少女でもないのだが。
「まったく、そのマメさをもっと別のところで使えないのですか、あなたは」
「ほっといてくれよ。って、マリーは?」
「寝ましたが、それが何か?」
「はやっ!?」
「ああ、あなたは知りませんでしたか。あの子には活動時間に制限がありますからね」
「ふ~ん、それってアインツベルン製のホムンクルス全般?」
「いえ、あの子は身体能力に特化して調整されているので、そのせいでしょう。
フランケンシュタインの力を得て多少制限時間は伸びましたが、最低八時間は機能を落とす必要がありますから、あなたもそのつもりで」
「わかった、気を付ける」
如何に奏と言えど、錬金術において最高峰の位置にいたアインツベルンが鋳造したホムンクルスである彼女を再調整することはできない。
それでも、一日の三分の二を活動できるのなら、普通の人間とさして変わらない生活が送れるはずだ。
「ところで、叔父さんはどうなんだ?」
「どこも基本的には不干渉ですね。まぁ、変に動かれるよりかはマシなわけですが」
「まぁ、確かになぁ……」
今回の九校戦、本来招待されていたのは遠坂家の現当主であり、奏の父である公司だった。
にもかかわらず奏が足を運んだのは、その招待を軽んじたからではないし、奏に経験を積ませるためでもない。
単に、公司には別件で以前より予定が入っていただけのこと。
それは、今なお遠坂や衛宮と多少なりつながりのある魔術世界……より正確には、神秘の側に属する者たちとの会談。公司は、時にセイバーを同伴者として各地を回り、現在の状況を知らせた上で牽制を行っている。
元々俗世への関心の薄い連中ばかりだが、万が一にも「魔術師の始末は魔術師が付ける」と暴走されてはかなわない。今は事実上「衛宮」だけが動いているからこそ、波は最小限で済んでいるのだ。
しかし、この波が大きくなれば思わぬ大物が動きかねない。
「せっかく割と平和になったのに、怪物連中に動かれたら偉い事だからなぁ」
「魔法師や政府の人間が聴けば、世間知らずと思うでしょうね」
「まぁ、気持ちはわからなくもないけど……少なくとも、目下の脅威が同じ人間と天変地異に絞られたんだから、まだマシじゃないかなぁ」
何しろ、百年前はまだ吸血鬼をはじめとした怪異がそれなりに跋扈していた。
もみ消されてはいたが、怪異による被害はそれなりの数に上る。
とはいえ、多くの魔術師が魔術を失い神秘がより一層薄れたことで、多くの怪異がこの世界を離れた。
結果、魔術師らしい魔術師による被害も、その手の怪異といった理不尽も激減している。
その事実を知る身からすれば、世界は「人間に優しくなった」と言えるだろう。
なるほど、世界はいまだに多くの火種を抱え緊張状態が続いている。
人間は自らを焼き尽くす炎を手にし、更なる力さえも得てしまった。
それでも、理不尽に見舞われる要素が減ったことに変わりはない。
ならば、ほんのわずかでも平和に近づいたのは事実だろう。
「さて、いい加減本題に入りましょうか。結界については今更なので、今後のことを……」
「あ、待った」
「なんです、あまり無駄な時間は使いたくないというのに……下らない内容なら仕置きしますよ」
「いや、重要なことだよ。結界のことだけど、一応確認だけはしておこう」
「なぜ? 性質も仕掛け人もどう見ても明らかではありませんか」
「うん、僕もそう思う。そう思うんだけどさ、ほら、お前ってあれだろ? なんというか、こう…………………一番基本的なところを失念してポカすることあるし」
竜貴としては、遠坂家で連綿と受け継がれる「うっかりの呪い」を警戒しての提案だった。
気を付けても気を付けても、どういうわけか発現してしまうそれを未然に防ぎ、フォローするのも衛宮の役目。
基本的にはあらゆることをそつなくこなす遠坂の最大の欠点だからこそ、彼はそのことに言及したのだ。
しかし、奏としては配慮の方向性はともかく、その言い回しが気に食わなかったらしい。
普段は徹底的に何重にも分厚く被っている猫が僅かに剥がれ、彼女の素顔が露わになった。
「あ”?」
「ごめんなさい、すみません、どうか生命だけは勘弁を」
「……………………………………………………………いいでしょう。確かに、遠坂の呪いは私も例外ではありません。ええ、潔く認めますとも」
(すっごい不服そうだよなぁ……)
「では、結界の性質……よりも、仕掛け人の確認ですか。それで必然的に性質もわかりますし」
「だね。ちなみに、僕の友人に霊視系の能力持ちがいるけど、その人は『巨大な目』のイメージを視たらしい。正確には『蛇みたいな目』だってさ」
「ああ、そういえばそんな報告がありましたか。しかし、なるほど……本当に良い目の持ち主ですね。私がその方を幸か不幸か決めつけるべきではありませんが……さぞ、生き辛いことでしょう。
ところで、あなたは大丈夫なのでしょうね?」
「因子は基本的に不活性だし、それなりに備えているから」
確かに、美月の目なら竜貴の奥の奥に潜むものを見抜くこともできるかもしれない。
だが、竜貴とてそのあたりの備えはしているし、元より因子は不活性状態で表に出てくることはない。
衛宮の魔術を感覚的に見抜かれるかもしれないが、そちらも一応備えてはいる。
「よろしい」
「あと、その人には暗示をかけてあるから、とりあえずは大丈夫だと思う。少なくとも、よっぽどのことがない限り今の状況は思い出さないはず」
「ふむ……まぁ、その辺りは私も機会を見て確認しましょう。
あなたの暗示は当てになりませんから」
「悪かったな……」
「それで、あなたの見解は?」
「十中八九、メドゥーサで間違いない。結界から受けた印象、美月さんの視たイメージ、何ヶ所かに刻まれた起点、どれも資料と合致する」
「私も同感です。となると、結界は結界でも宝具ですか」
「うん。確か、桜さんの話だと
「ええ。種別は対軍、ランクはB、内部に入った人間を融解し血液の形で魔力へと還元・吸収する、極めて危険な宝具ですね」
それは、最後に行われた聖杯戦争で召喚された
本来は英霊として招かれるような存在ではないのだが、冬木の聖杯は歪んでいたために召喚された反英雄である。
「確か、魔術師なら問題ないんだっけ?」
「正確には、抗魔力があれば、ですね。まぁ、それもワカメの人が代理マスターの時の話。もし相応のマスター、例えば桜さんならどうでしょうね。魔術師でも、あるいは抵抗できないかもしれません」
「ワカメって……いやまぁ、ワカメか。でも、今はそこまで考えなくてもいいはずだろ」
「ええ。人間を依代としての憑依召喚では、ワカメの人以上の性能という事はあり得ません。魔法師は魔術回路を開いていませんし、魔力も抗魔力もないとはいえ、ある程度以上の基本性能の持ち主なら意識を保てるでしょう」
「………………そのための魔唱か」
懇親会において、奏が魔性を用いて行った微弱な魅了。
その理由に、竜貴はようやく合点がいった。つまり奏は、鮮血神殿内で意識を保ち活動が可能そうな、基本性能の高い魔法師を選定するためにあれを行ったのだ。
「結果は?」
「並みの魔法師では話になりませんね。せめて、十師族クラスの潜在能力は欲しい所です。会場全体でも、十人に満ちませんが」
そもそも、魔術回路の開発もしていない人間が、宝具にまで昇華された結界内で活動するのが無茶なのだ。
むしろ、それができる人間がいることの方が驚きである。
だが、今最も問題にすべきことはそこではない。なぜ奏が、そんなふるいをかけたのか、だ。
「もちろん、再現の度合いによっては並みの魔法師でも活動できるでしょうが、期待できそうなのは十師族か師補十八家だけでしょうね」
「まぁ、そんなもんだろうとは思うけど……どういうつもりだ? そんなことしなくても、九島烈だっけ? その人から話を通せば……」
恐らく、竜貴たちからの言葉では弱いかもしれないが、九島烈を介せばその限りではない。
克人から聞いた話からして、魔法師社会に対する影響力は尋常なものでないことは明らかだ。
だからこそ、竜貴は最も効果的であろう人物の名を口にした。
しかし、奏はそれを一切考慮することなく否定する。
「いいえ、魔法師側にこの件は一切の情報提供を行いません。結界が発動するその瞬間まで、私たちは静観し、口を閉ざします」
「っ! お前……」
「静かに、マリーが起きます」
「……自分が何を言ってるか、わかってるのか」
思わず怒声を上げそうになるのを何とか堪え、努めて声量を抑えて問う。
その間、奏に一切の動揺は見られない。口調も表情も落ち着いたまま、特に力みも硬さもない。
あくまでも平常心のまま、彼女はホテルに滞在する数百人に上る生命を危険に晒す。
それこそが、最善であると確信を持って口にしているのだ。
「無論です。何か不服でも?」
「あるに決まってるだろ。第五次の時の状況から考えて、解除までの時間によってはホテル内の人間の何割かは病院送りだ。いや、最悪の場合、少なくない死者が出るぞ」
「でしょうね。十師族クラスの魔法師でも、結界発動中は長くは持たない可能性が高い。
その意味では、十師族とはいえ老齢の九島烈も危険かもしれません」
「そこまでわかっていて、なぜ……」
「竜貴、今の時点で魔法師側にこの話をすれば、どうなると思いますか?」
「どうって……」
「これはある種のテロ行為のようなものですが、あちら側からの脅迫の類はありません。恐らく、九校戦の妨害そのものが目的ではないのでしょう。それならば、結界の存在に気付く可能性のある私たちにも脅迫を行い、結界の存在が真実であり、解除が不可能なことをわからせるはずです。
また、私たちを狙っているにしては杜撰すぎます。それこそ、メドゥーサに襲わせれば済むことですから。
となると考えられるのは、九校戦を妨害するのではなく台無しにすること。さすがに、選手がまとめて病院送りではそれどころではありませんからね」
とはいえ、その目的まではわからない。単に九校戦を失敗させたいのか、それとも魔法協会や政府・軍の面目を潰したいのか。
もしかするともっと別の目的があるのかもしれないが、情報が少なすぎるのでこの考察には意味がない。
「では、このことを知った魔法師たちが九校戦を中止ないし延期するか。答えはNo。一度テロに屈すれば、そこから先は泥沼です。それに、色々と体面の問題もありますから、できてせいぜい宿泊先の変更位でしょう」
「体面、か……それどころじゃないだろうに」
「その危機感を私たちと彼らは恐らく共有できませんよ。危険性を理解するには、彼らはあまりに私たちを知らなさすぎる。まぁ、その辺りはこちらにも責任はありますが……それに、体面というのもバカにできません。
何事も、舐められたり軽んじられたりしては碌なことになりませんから」
目の前の危機とその打開こそ重要と考える竜貴にとって、体面や体裁といったものを重視する思考は理解できない。そんなものより大事なものが、いくらでもあるではないかと思ってしまう。
とはいえ、奏の言うことも一理ある。長期的に見れば、テロに屈したという事実は後々に尾を引く。
そんな悪しき前例を作らないために、今のリスクを受容するのも一つの選択だ。
「そういう、ものか」
「そういうものです。ハッタリにせよ、恫喝にせよ、口先だけで実行する度胸のない相手が口にしても意味がないのと同じです。言葉には、それを裏付ける力がいるのですよ。実戦の駆け引きならともかく、決して交渉事が上手いわけではないあなたがなんとかやっていられるのも、『魔術師の得体の知れなさ』という力があるからだという事を自覚なさい。
それに、宿泊先が変われば今度はもっと直接的に生徒を狙うでしょう。急な変更ですから、場合によっては宿泊先が分散する可能性もあります」
「ああ、それはまずいな……」
何しろ、竜貴も奏も体は一つしか持っていない。
同時に複数の場所を守ることはできないのだ。
「それならいっそ、狙いが一か所に絞れてる方がありがたいか」
「ええ。なにより、今の段階で話せば魔法師側に主導権を持っていかれてしまいます」
「そうなのか?」
「ここは彼らの領域ですからね。自分たちの主導でやりたいと思うのは当然ですし、私たちは見るからに若輩。軽んじられるのは目に見えています。それに、一度主導権を握れば私たちとの関係も有利になると考えるでしょう」
「上手く主導権を握れないのか?」
「無理ですね。九島烈の相手は今の私では手に余ります。交渉しても、丸め込まれるのがオチです。そうでなくても、こちらから情報提供を行えば『私たちでは解決できない』と言っているようなものですから」
この状況下では、情報提供をするということ自体が不利に働いてしまう。
そして、魔術師である奏たちは一度でも魔法師の風下に立つわけにはいかない理由がある。
「いいですか、彼らは結界の存在も、私たちが結界の存在に気付いていることを知らない。これを最大限活用します」
「つまり、自体が起こってから素知らぬ顔で恩を着せるってことか?」
「恩を着せるとも言いますし、彼らが役に立たない状況を打開して力を示すとも言います。
要は、今後の流れにおける主導権を握るためです」
「そんなに主導権が大事なのか? 大勢の生命がかかっているんだぞ」
「では聞きましょう。今数百人を助けるために、明日その数倍の生命を危険に晒しても構わないと?」
「それは……」
「主導権を持っていかれれば、私たちは思うように動けなくなりますし、発言力も制限されます。要らぬ妥協を強いられることもあるでしょう。
もちろん、専門家としてそれなりには尊重されるでしょうが、結局は魔法師社会の枠の中に押し込まれることに変わりはありません。あなたの方がわかっているはずですよ、竜貴。神秘の世界は幻想法則が残る領域。現代社会のやり方では、対応しきれないことも多い。
明日の、あるいはもっと先のために、私たちは彼らに縛られない程度の力を保持する必要があるのです」
また、いずれ事態がある程度治まった時には、再度魔法師たちと距離を置かなければならない。
いや、そもそも今の段階でもあまり近づきすぎるわけにはいかないのだ。不必要な接近は、他の神秘側の存在……他家の魔術師だけならまだしも、未だこの世界に残る怪異の類まで刺激しかねない。
それらを考慮すれば、「ある程度距離を保ったまま影響力を行使する」という無理難題が発生する。
これを曲がりなりにも実現するには、主導権を握り続けなければならない。
「明日のためです、堪えてください」
「………………………………………………………………………………わかった」
歯を食いしばり拳を固く握って、荒れそうになる心と口調を押さえつける。
竜貴もわからないわけではないのだ。奏の出した結論は、単に自己の利益を追求した結果などではない。それどころか、様々な方面に配慮した結果として導き出された結論なのだという事を。
彼女にとって、このホテルに宿泊する魔法師たちは庇護の対象ではない。
それでも、徒に危険に晒したり犠牲を強いたりするような対象でもない。
奏が魔法師たちを危険に晒すのは、偏に長期的に見た最善のため。
衛宮は目前の事態にあらゆる手を尽くして最善を追求し、遠坂はより長期的な視点から最善を模索する。
その上で両者の意見を比較検討し、よりよい結論を導き出す。
それが、今の時代における遠坂と衛宮の役割なのだ。
「でも、具体的にはどうするつもりだ?」
「基本的には私たちで対処しますが、動けそうな魔法師には護符を配って残りの人員を任せましょう。護符については……」
「わかった、用意しておく。でも、材料も時間もないから投影になるけど」
「ええ、構いません。数は……十もあれば十分でしょう。
あとは緩和用の結界を張っておけば、運が良ければ酷いことにはならないかもしれませんね。
結界そのものについては、マリーに礼装を持たせれば大丈夫でしょう」
護符の助けを借りてもいくらかは消耗させられるだろうが、それなりの時間活動することはできるはずだ。
できれば全員を結界外に避難させてやりたいが、それは現実的ではない。
できて、即席の結界を張って一時的な緩和空間を用意し、そこに避難させるくらいか。
「まぁ、そのあたりも再現の度合いによりますが……」
「再現? ああ、そりゃホムンクルスは貴重だろうからなぁ」
「ええ、劣る素体を用いる可能性が高いとなれば、性能の低下は確実です。
私なら、とりあえず宝具及びスキルの再現に力を入れるでしょうね。英霊の最大戦力は宝具ですし、メドゥーサならスキルも強力でしょう」
「まぁ、
「魔法師には抗魔力はほとんどありませんから、余程距離が開いていない限り視界に入った瞬間に詰みでしょう。私なら、最大戦力である宝具と共にこの利点を可能な限り残せるよう調整しますね。
その意味でも、私たちが対峙するしかありません。下手に魔法師に出しゃばられれば、かえって事態が悪化します」
ノインの側にどの程度素体となるホムンクルスがいるかは不明だが、気安く使い捨てにできるものではあるまい。
いや、マリーは割と気安く使い捨てられたが、試行段階だったからこそホムンクルスを利用せざるを得なかったと考えるのが妥当だ。性能の低い素体を数頼みで利用するのも効率が悪いし、素体の確保にも難が生じるが故だ。失踪者が多くなれば、それだけで足が付きやすくなるのだから。
となれば、必然的に大半の敵はマリーよりも劣った素体になる。
その分の性能低下を、どうやりくりするかが重要と考えるのは当然の帰結だ。
魔術師を確保して素体に……というのも現実的ではない。
「とはいえ、サーヴァントという存在そのものが、ある意味調整の結果なのですけど」
「そうなのか?」
「あなたももちろん承知の上でしょうが、英霊を完全な状態で召喚できないからこそ、クラスという枠を設定したわけです」
「まぁね。クラスごとに方向性を付けて、それに合致する形で召喚してるんだろ?」
「そうです。逆に言えば、クラスに合致しない部分は削ぎ落しているという事です。
彼の英雄王がわかりやすい例ですね。能力や性質的な部分で相性が悪いのは確かですが、剣や斧、あるいは自らの拳で戦う伝承のある彼が、お爺様に追い詰められるというのは少々不自然です。
恐らく、ギルガメッシュは力も霊格も強大過ぎたのでしょう。彼は第四次において
「ああ、なるほどね。で、逆に近代どころか未来の英霊だったエミヤは神秘も霊格も低いから、生前の技能のほとんどをねじ込めたわけか」
神秘の側の存在にとって、蓄積した年月……要や歴史や神秘は大きな力だ。
ギルガメッシュは人類最古の英雄王。蓄積された神秘・歴史共に最上クラスであり、三分の二が神と本人の霊格も極めて高い。そんなほとんど神様のような英霊をねじ込むには、クラスという枠は狭すぎたのだろう。
逆に、英霊エミヤは特別な出自でもなく、その時代以降に発生する“かもしれない”英霊。未来というのは、ある意味最大の未知……ある種の神秘かもしれないが、それでもギルガメッシュとは比較にならない。
その辺りが、両者が生前に身に付けた白兵戦技能の再現度合いに差を生んだのだろう。
話によれば、鍔迫り合いになって拮抗したこともあったという。
いくらなんでも、ギルガメッシュのステータスから言って力押しできたはず。
なのに追い詰められたという事は、そういった別の事情があると考えるのが自然だ。
「まぁ、あくまでも推測ですが」
「で、それと同じように魔法師を素体にしたら色々削がれるから、宝具やスキルに重点を置いて残すようにしてるかもしれない、と」
「どこかを削がなければならないのなら、満遍なく削ぐよりも宝具に重点を置くでしょうね。私ならそうします」
確かに、奏の言う事には一理ある。
ステータスの低下は小さくない代償だが、宝具は英霊そのものと言ってもいい代物。
宝具とステータスを天秤にかけるなら、基本的には宝具に傾くだろう。
だがそれも、宝具の性能によってはステータスをあまり犠牲にできない場合もあるが。
「とはいえ、それも実際に見てみないことには…………ほぅ、ずいぶんと活きの良い人がいるようですね」
「どうかしたのか?」
「ホテルの敷地内に侵入者がいました」
「っ!」
「動く必要はありません。学生らしき人が取り押さえました。ああ、一人は司波達也さんですね」
「達也君が? っていうかお前、結界張ってたのか?」
「一時的な物ならともかく、鮮血神殿の影響下にある場所でまともな結界なんて張れるものですか。周囲に使い魔を配していただけです。敷地が広いので、見つけられたのは偶然の色が濃いですが」
ホテル周辺はそれなりに緑があるので、万が一にも発見されても不自然にならない小動物を模した使い魔を奏は放っていた。
魔術の基本は秘匿。周囲に怪しまれないのが最低水準だ。
達也は気配を消しても見抜けてしまう眼を持っているが、気配を偽る分にはその限りではない。
ネズミをはじめとした小動物がいてもおかしくない環境なら、余程まとまった数が集まっていない限り、彼でもそれを怪しいと思うことはないだろう。
「ところで……」
「?」
「使えそうな人材にだれか心当たりは? できれば、魔法師社会にそれなりに通じているとよいのですが」
「克人さんじゃダメなのか?」
「彼は十文字家の次期当主でしょう? さすがに魔法師社会の中枢に近すぎます。
私が聞いているのは、それなりに名のある家の出で魔術に興味を持つ人物です。もちろん、ある程度有能であれば言うことはありませんが」
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………いや、知らないな」
「嘘ですね。キリキリ吐きなさい、というか吐け」
「し、知らな知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らないったら知らないぞ―――――――――――――っ!! っていうかなんでそんなこと聞くんだよ!? 絶対碌なこと考えてないだろ!?」
「別に、ちょっと魔術回路開いてみようってだけですが、何か?」
「それ大問題じゃん!? 下手なことして刺激するのは不味いってわかってるよね、お前!?
大体、パンフレットの
死徒二十七祖の一角『魔城のヴァン=フェム』。
死徒の中でも最古参の一人とされ、精巧さに欠けるものの巨大な物を作ることにかけては最高の人形師だ。
とはいえ、ここ数百年は吸血手段を用いずに勢力図を増やしていくという試みを行っている変わり者でもある。
魔法関連に出資しているのも、いつもの道楽の一環だろう。何しろ地球環境を憂えてエコロジーに関心を示し、度々カジノ船で人々の挑戦を受け、魔術協会の問題児と友人になったりする死徒の中でも生粋の変人だ。
彼にばれただけなら、それほど問題はない。恐らく、適当に見逃して不干渉を決め込むだろう。
問題なのは、彼の周囲だ。相手は仮にも祖の一角、この情報が万が一にも拡散すれば他の祖の知るところになる。
いや、知られただけならまだ対処の仕様もある。しかし、疑似サーヴァントの存在が社会に広まれば神秘との境界が緩んでしまう。
これまでは神秘と科学でキッチリと線引きがなされ、魔術協会や聖堂教会などがこの境界を維持していた。だが、今やどの組織も弱体化し過去程に境界を維持することは期待できない。
この二つが重なれば、神秘の側の存在がさらに流れ込んでくる可能性も十二分にある。
そうなれば、事態はもはや竜貴たちに収拾できる段階を超えてしまう。
「大半が裏に隠居したとはいえ、それでも残りの祖の一部が動いただけでもノインどころじゃなくなる。いや、それどころか釣られて埋葬機関とかその他諸々まで出てくるかもしれない……」
「ああ、それは大変です。教会も秘跡をほとんど失って勢力的にはだいぶ弱体化しましたが、あの連中には関係ありませんしね。概念武装や秘宝も山ほど溜め込んでますし、そもそも一人一人が天災みたいなものですから、私たちでは手に余りますか。他勢力の例外も、似たようなものでしょう。事と次第によっては、アルズベリ以来の大戦争に発展しかねませんね」
「最悪のシナリオじゃないか……」
奏の語る未来予想図に、竜貴は頭を抱えてしまうが無理もない。
実際問題として、竜貴では彼らを相手に「道連れ」にするのが精一杯だろう。
死徒と魔術師は神秘への在り方が同じであるため、力の差がもろに出てしまう。
竜貴は継承する魔術の性質上、比較的マシとはいえ限度があるのだ。
奏も十年後、魔術師として完成されて以降ならともかく、今の段階ではほぼ不可能に近い。
「何を言っているのですか。本当の最悪は、最終的に大蜘蛛を起こしてしまう事ですよ」
「それもう、最悪とかってレベルじゃないだろ」
「ですね。大師父はその辺りも懸念して、お婆様を通したわけですし」
「余計な刺激は与えない方向でってなると、大師父自身が出張った時点でアウトだもんな」
神秘が極めて薄くなったこの時代でも……いや、だからこそ『魔法使い』の名はより一層重さを増している。ましてや、それが二十七祖の一角も為す彼の「宝石翁」ともなれば尚のこと。
彼が僅かでも動きを見せれば…それどころか、彼の存在を匂わすだけで各方面を刺激する結果になる。
故に、宝石翁は自身の高弟でありながらも隠居の身の遠坂凛を通し、具体的な内容には一切触れないという迂遠な形で衛宮を動かすしかなかったのだ。
幸いにもというべきか、神秘の世界では衛宮家初代の数々の掟破りは未だ耳に新しい。何かあっても、多少のことなら「また妙なことに首を突っ込んでいる」で済む。
だからこそ衛宮が動き、そこへ遠坂が関与するだけなら然程大きな波にはならない。無論、それなりの根回しや工作は必要なので、現当主の公司はそれなりに忙しくしているわけだが。
「まぁ、大蜘蛛程ではないにしても、他のお歴々も十分過ぎるほどに危険物ですけどね。
あのレベルが相手では、疑似サーヴァントも相手にならないでしょうし」
「基本性能が同等以上な上に、死徒は宝具の加護を否定できるからな」
「不純物抜きの英霊か、フラガの様に長く宝具を継承してきた家系やあなたの様に宝具を『所有』できる術者でないと、宝具そのものを無力化されるのがおちでしょうね」
疑似サーヴァントはしょせん英霊の力を借りているだけだ。
竜貴だけはかなり英霊に近いレベルで宝具の力を引き出せるが、他人が彼から宝具を借り受けてもあまり意味はないだろう。
かと言って、宝具や疑似サーヴァントに頼らずに戦うのも自殺行為。
ベクトルこそ異なるが、英霊に比肩しうる領域にある二十七祖に通常の物理攻撃は効果が薄い。
何しろ核兵器や化学兵器ですら、専用装備で身を固め対怪異用に鍛え上げられた代行者と同程度のダメージしか与えられないのだ。それも、この場合の相手は二十七祖ではなくそれなりに高位の死徒。二十七祖では、さらに与えられるダメージは減るだろう。引き起こされる事象そのものは純物理な魔法でも、似たようなものだ。
その上、二十七祖の中でも上位勢は通常の概念では打倒できない。彼らを討てるほどの概念武装となると、かなり限られる。
「そこまでわかってるのに、なんでまた……」
「もともと派手にやるつもりはありませんよ。
開発するといっても、一人に絞る予定ですから」
「一人? なんでそんな半端なことを……」
「交渉のためのカードですからね。魔術回路を用いて魔法を使えば、まぁ多少は恩恵を得られます。
それを知れば、魔法師たちから妥協を得ることも楽になりますからね。一人が得られたのだから、交渉次第では……と考えるでしょう」
(え、えげつない……)
要は、その一人にだけ魔術の恩恵を与え、後は与える気のないエサをちらつかせようというのだ。
魔法に対して少なからず恩恵があるとなれば、わかっていても乗らざるを得ないだろう。
「でもそれだと、繋がりを切る時が面倒にならないか?」
「それは今も大して変わりありませんよ。むしろ問題は、その恩恵を与える一人でしょうね。
なにしろ、一人だけ抜け駆けをするのですから、やっかみも多くなるでしょう」
「お前……」
「安心なさい。仮にも教えを授ける相手となれば、我が家の郎党の一員です。責任は持ちますよ」
「いや、その辺りは信頼しているけど、叔父さんには言わなくていいのか?」
「問題ありません。今回の件については、結界の存在が分かった時点で全権を委任されていますから」
竜貴も、その点については心配していない。
魔術師は基本的に碌でなしの人でなしだが、身内のことはそれなりに重んじる。
特に奏の場合、一度懐に入れたら相手が裏切らない限りは絶対に見捨てないだろう。
とはいえ、だからと言って知人を魔術世界に引き込むような真似には躊躇いがある。
実のところ、魔術回路を開く程度ならさほど問題はないのだ。
魔術回路だけでは魔術は使えない。せいぜい、魔力を体に流し強化の魔術ほどではないが基本性能を底上げし、魔術に対する抵抗力を得られる程度。あとは、魔力を対象にぶつけるのが限度だ。それも、魔術という形式を使えない以上、大した威力にはならない。
問題なのはそれが無秩序に拡散してしまう事だが、それもしっかり管理した上でなら問題とはならない。
他に問題点を挙げるなら、半端に魔術の領域に踏み込むことで厄介ごとに巻き込まれる危険性くらいか。
「あなたの懸念はわかります。ですから、最終的な決定権は本人に委ねましょう。
決して、こちらから強制するようなことはしません」
「…………………わかった。とりあえず、話だけはしてみる」
「任せましたよ」
「ああ」
「それと今夜中とは言いませんが、明日の内には折り合いをつけておきなさい」
「…………わかってるよ」
魔術回路の開発については、多少不安はあるものの竜貴の中で折り合いはついている。
最終的な決定権が本人に委ねられているのもあるが、情報の拡散が防がれるなら最悪の事態にはなるまい。
どのみち、ノインを放置していれば他の連中が関与してくるのは時間の問題なのだ。
多少危ない橋を渡るのも、やむを得ないだろう。
むしろ竜貴にとって自身を納得させるのに苦労するのは、目の前の事態を静観するという方針だ。
奏の正しさは竜貴とて理解している。長期的に見れば、ここで主導権を握るのは重要だろう。
わかっているのだが、できることがあるのに何もしないという事が耐え難い。
そして、もう一つ。
話の間、一切の動揺を見せることなく魔術師に徹した奏。
彼女に対して、竜貴はどうしても一言言わなければならなかった。
彼は衛宮であり、遠坂奏の従兄であるが故に。
席を立ち、部屋を退出するべくドアを開く。
しかし、部屋を出る前に立ち止まった彼はそれをしっかりと口にした。
「これだから俗世に関わるのは嫌なんだ。
まったく、どこのだれか知らないけどカタギを巻き込むんじゃないっての。
おかげで余計な荷物を背負い込む羽目になる」
それは、誰がどう聞いても現状に対する不満であり、奏の決定に対する非難であると思うだろう。
だが、それを向けられた奏はそこで初めて僅かに肩を震わせ、消え入りそうな声を竜貴の背に投げた。
「ありがとう…………お兄ちゃん」
もう何年も昔に、奏がまだ幼児だった頃に使われていた呼称。
敢えてそれを使った奏の感謝に、竜貴は何も答えず部屋を後にする。
彼女がそれを求めていないことを知っている。アレはあくまでも、聞かなかったことにすべき一言だ。
だから当然、奏の方を振り返ったりすることもなく扉を閉じる。
「まったく……あんまり、無理するなよな」
話の間、遠坂の魔術師に徹し一切の心の揺れを見せなかった奏。
しかしそれは、彼女がそのことに何も感じていなかったわけではない。
奏はただ、胸の内にある何もかもを鋼の自制心で抑え込んでいただけだ。
言葉にせずとも、態度には表れていなくても、竜貴は知っている。
本当は、あの決定を下した彼女本人が、自身の決定を竜貴以上に嫌悪していたことを。
無辜にして無垢な儚き人々を危険に晒さなければならない、己の無力を呪っていることを。
しかし、上に立つ者が動じては取り零しが出てしまう。故に、それを決して表に出すわけにはいかないという、悲しくも優しい強さを知っている。
だからこそ、竜貴は彼女に代わって弱音を口にした。
彼女は決して口にすることのできない、その思いを代弁したのだ。
気休めでしかないだろうが、少しでも彼女の心の負担を軽くするために。
きっと今頃、奏も自分自身と折り合いを付けようとしている。
そして、明日には何事もなかったような顔をしているのだろう。
例えそこにどれだけの葛藤があろうと、それを漏らすような少女ではない。
ならば竜貴も、彼女にばかり重荷を背負わせてはならない。遠坂と衛宮の本家と分家という間柄は、通常のそれとは意味合いが違う。両家のそれは、互いに互助するためのもの。
故に、竜貴には荷物を分かち合い、彼女を支える責務がある。
奏一人に背負わせては、衛宮の名折れだ。
昨夜のことを思い返すと、竜貴は自分の不甲斐なさに恥じ入るばかりだ。
今頃、奏はもう普段の彼女を取り戻しているに違いない。
折り合いがついたかどうかはわからないが、ついていなくても彼女は決してそれを悟らせはしないだろう。
ならば、竜貴もいつまでも足踏みしていてはいけない。
「なんだかんだ言っても、あいつ……まだ、十二歳なんだもんなぁ」
そうは思えないくらいに頭が切れ、肝の据わった従妹だ。
十二歳の少女というには、あらゆる意味で強いことは事実。
だからと言って、それに甘えてしまっては立つ瀬がなさすぎる。
竜貴はふと目に留まった壁へと歩み寄ると、手をついて頭を引く。
そして、思い切り勢いをつけてコンクリート製の壁面に額を叩きつけた。
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ」
恐ろしく鈍い音共に、壁が浅く陥没し僅かにひび割れる。
強化どころか魔力を通してさえいない状態では、竜貴の頭部も常人の強度しかない。
そんな状態でたたき付け、コンクリートを凹ませる威力を出したのだから、相当なものだろう。
実際、当の本人は言葉にならずその場にうずくまってしまっている。
不合理極まりないが、人間そういうことが必要な時もある。
竜貴にとっては、今がそうだったというだけのことだ。
「……………………………よし! 切り替え終わり!」
それまでのどこか覇気に欠けた表情は鳴りを潜め、竜貴の目には強い光が宿っている。
活を入れて、少しはマシになったという事だろう。
にしても、やり方というものがありそうだが。
「さて、そろそろ吉田君が来る頃だけど……」
昨夜のうちに呼び出しはしておいたので、あちらがまだ魔術に興味があるのなら乗ってくるはずだ。
その上で、本当にこちら側に来るかどうかは幹比古自身が決めること。
まぁ、個人的にはやはり関わり合いにならない方がいいとは思っているが。
その辺りについても、奏はしっかりと説明をした上で決めさせるだろう。
これは誠意などではなく、奏にとって吉田幹比古という人物は現状では駆け引きなどを行うような対象ではないというだけのこと。なにしろ、彼の存在は奏にとってまだまだとるに足らないものでしかないのだから。
などという事を考えていると、人の気配が近づいてくることに気付く。
竜貴がそちらを振り向くと、気配の主は案の定吉田幹比古その人だった。ただ……
「や、吉田君……って、あれ? どうしたの、固まって」
「き、き、君……な、なんで……」
「えっと、なにが?」
「なんで頭から血を流してるんだ、君は!!??」
その一言で、竜貴もようやく自らの状態に気付く。
どうやら壁に強く打ち付けた際に割ってしまったらしく、額からは止めどなく血が流れている。
そりゃ朝っぱらから流血沙汰に出くわせば、誰だって混乱するだろう。
などというイマイチ緊張感に欠ける一幕はあった物の、幹比古にまだ魔術への関心があることはわかった。
ならば、竜貴がすべきことは彼を奏のもとに案内すること。
ただその前に、一つだけ確認しておかなければならない。
「さて、この扉の向こうに僕の従妹がいるわけだけど……本当にいいの?
正直、あまりお勧めしないんだけど……」
「……」
「君は魔術のことをまだ何も知らない。一応奏の方からも説明はあると思うけど、はっきり言って碌なもんじゃないよ。身体を弄繰り回すのなんてまだ序の口、文字通り他人を食い物にするような術者だっている。十師族の四葉はかなり業が深いらしいけど、多分魔術師基準で見れば”悪くて”『それなり』程度じゃないかな。
まぁ、遠坂はそういう意味で言えばかなりマシな部類だけど、こっち側に踏み込めばそういうのと関わる機会もあるかもしれない。だから、もう一度よく考えた方がいい」
できるのなら、竜貴としても微に入り細を穿つくらい念入りに説明してやりたい。
しかし、今の状況ではそれもかなわない。
それを話すという事自体が、魔術の世界に踏み入るという事と同義なのだから。
「…………それでも、僕は」
「昨日、達也君といたらしいね」
「っ! なぜ、それを……」
「君の悩みは魔法発動スピードだっけ。達也君は何か言ってなかった? 彼、魔法の構造を見ただけでわかるらしいし」
「……達也には、術式に無駄が多すぎる、って言われたよ。だけど、そんなことあるはずがない。吉田家の魔法は、現代魔法の成果も積極的に取り入れて改良に改良を重ねたものだ。それが欠陥品のはずが……」
「僕にはその辺りわからないけど、一度達也君の意見をちゃんと聞くべきだと思うよ。彼、そういうハッタリを言うタイプじゃないし」
「確かに、付き合いの短い僕でも達也がそういうタイプじゃないのはわかるつもりだ。もしかしたら、本当に達也の言う通りなのかもしれない。だけど、例えそうだとしても、僕は力を得られるのなら得たい。神祇魔法の奥伝の……さらにその先を。他の誰でもない、僕自身の手で……!」
(そういうところが、見込みがありそうではあるんだよなぁ……)
何が一番困るかというと、幹比古の魔術師向きな貪欲さが困るのだ。
誰かが極めるのでは我慢ならない、自分自身の手で……そういうところが、竜貴よりよほど向いていると思う。
まぁ、実際には魔術の探求は基本的に一代ではどうにもならないので、自分自身の手で…ではなく自らの系譜が、という形になるわけだが。
「はぁ……じゃ、いいんだね」
「覚悟はある。だから来たんだ」
「そう……」
「僕の覚悟が嘘だと?」
「そうは言わないけど、覚悟なんて言葉で聞いてわかるものじゃないしね」
正直言って、竜貴はあまり覚悟という言葉が好きではない。
本当に覚悟があるかどうかなど、言葉にしたところでわかるわけがないのだ。
少なくとも、竜貴は言葉にされた程度でその真偽を見抜けたことがない。
故に、竜貴は覚悟というのは真に試される時にならなければわからないと思っている。
命の危機に直面した時、筆舌に尽くし難い苦痛や絶望に見舞われた時。そういう時になって初めて、抱いていた覚悟が本物かどうかがわかるのだ。
竜貴自身、始めて魔術回路を開いた時は苦痛に喘いだ。初めて実戦に出た時は足が竦み、恐怖と生命惜しさで逃げ出したくなった。
それでも、自分が背負わなければならないものを思い出し、苦痛や恐怖に耐えたことを今でもよく覚えている。
あれらの時、初めて自分の覚悟は本物になったのだろうと思う。
だいたい、覚悟なんてものを持つ必要はないのだ。
そんな御大層な物がなくても、割と何とかなる。そう、要は……
(慣れなんだよねぇ。痛いのも怖いのも苦しいのも、場数を踏んで慣れれば何とかなるし)
人は慣れる。穏やかな日常が幸福であることを忘れがちなのは、それに慣れてしまうからだ。
その逆も同じこと。実戦の中で感じる命の危機も、魔術回路の励起に伴う苦痛も、慣れてしまえば当たり前のものになる。覚悟とは受け入れることで、受け入れるために最も手っ取り早い方法は慣れることだ。
覚悟を身に付けたいなら、慣れるまで繰り返せばいいだけのこと。
だからこそ、体験していない時点で語る覚悟は基本的に信用していない。
「まぁ、君がそういうのならいいさ。意志は固いようだし、僕から言うことはもうないしね。
じゃ、開けるよ」
「あ、ああ」
「ようこそ。倫理も道徳もあったもんじゃない、碌でもない世界へ」
そうして招き入れられた幹比古は、奏から魔法師たちは知らない多くを伝えられた。
魔術師とは?
魔術とは?
魔術を使うためには何が必要なのか?
なぜ古式魔法師は魔術を失ったのか?
どうして遠坂は、幹比古にそれらを教えるのか?
様々なことを惜しみなく教えられたわけだが、無論そこまで教えられてただで済むわけがない。
「とりあえずはこんなところですね。
さて、吉田幹比古さん。あなたには二つの選択肢があります。すべてを忘れて元いた場所に帰るか。あるいは、二度と引き返せない泥沼に足を踏み入れるか、です。申し訳ありませんが、結論が出るまでここから帰すわけにはいきません」
「もし、帰ることを選んだら?」
「その際には、あなたの記憶を消させていただきます。多少後遺症は残るでしょうが、しばらくすれば違和感もなくなりますし、日常生活には支障ありませんのでご安心を」
「……時間は、どれくらいもらえるんだい?」
「こちらも色々予定が詰まっているので、正午までです。結論が出ない場合は……言うまでもありませんね」
踏み入る意思なしと見做し、記憶を消す。つまりは、そういう事だろう。
この部屋に入る前の幹比古なら、二つ返事で踏み入ることを選んだはずだ。
しかし、今の彼はそれを躊躇する。
それだけの内容だったという事でもあるが、実の所あまり込み入った話はしていない。
魔術の世界で言えば、本当に触り程度。
ホテルに仕掛けられた結界については触れていないし、死徒などの怪異についてもまた同様だ。
代わりに、奏たちが幹比古に接触した意図はきっぱりと伝えてある。
「僕は魔術を使えないんだね」
「ええ。あなたに
まぁ、魔力の運用方法は教えますし、魔法にも多少の応用は効きますから無意味ではありませんけど」
「君たちは僕を利用するために招いた」
「ええ。私たちにも色々と思惑や都合があるので、あなたとあなたに伝える技術をエサに魔法師側と交渉する予定です。まぁ、それも必ずしもあなたでなければならないわけではないので、断っていただいて構いませんが」
その答えは、当初幹比古が期待していたものから大きく外れる。
彼とて、そう容易く魔術を得られるとは思っていなかったが、まさか魔術の習得それ自体が不可能とは思わなかった。
魔法への応用が効くとはいえ、落胆は小さくない。
だが、一つ疑問がある。
どうして彼女は、こんなにもあけすけに本当のことを教えるのだろう。
幹比古を利用したいのなら、それこそ不利になるような情報は隠してしまえばいいのに。
「…………どうして、そのことを教えてくれるんだ。都合のいいことだけ教えれ……」
そこまで口にしたところで、幹比古の口が凍る。
彼は、知らないうちに虎の尾を踏んでいたことを理解した。
「あまり、私を見縊らないでほしいものです。
あなたを相手に謀る? ハッ! 随分と甘く見られたものですね。
吉田幹比古さん、何を勘違いしているか知りませんが、私とあなたは対等ではありません。私にとって、あなたは探せばいくらでもいる候補の一人。先ほども言ったように、あなたでなければならない理由ないんですよ。
そもそも、謀る理由もその必要もありません。私がほしいのは、それでもこちら側に踏み入る愚か者。自己を追求し、利用される側から利用する側へとなり替わろうとする意気のある者です。それくらいでなければ、招き入れる価値もない。ただ従うだけの狗に用はありませんから。
私と交渉したいのであれば、せめて私に障害と認識させるくらいになりなさい。今のあなたでは、私の歩みを阻むことすらできないのですから」
「くっ……」
「私はあなたに何ら脅威を感じませんし、この話をあなたが蹴ったとしても無駄な時間を使ったとも思わないでしょう。
わかりますか。あなたに不都合なことすら教えて選ばせるのは、あなたへの慈悲です。敵には容赦しない主義ですが、そうでない者には大いに慈悲をかけるのが我が家の流儀ですので」
そう、基本的に遠坂の人間は慈悲深い。
ただし奏の言う通り、競争相手は周回遅れにし、ケンカを売られれば二度と刃向かえなくするのが遠坂の流儀でもあるわけだが。
とはいえ、今の幹比古ではその容赦のなさが発揮されることすらない。
「屈辱ですか? ですが、自信を失い、道を見失っているあなたには分相応でしょう。
今のあなたには注意を配る価値すらない。期待外れですね、竜貴が候補に挙げた方ですからもう少しマシかと思ったのですが……いえ、竜貴に見る目を期待した私の落ち度ですか。失礼しました、自らの失態を他者に押し付けるなど、責任転嫁も甚だしい。心より、お詫び申し上げます」
(よくもまぁ、そこまで挑発できるなぁ……)
竜貴は奏の性格を熟知しているので、悪し様に言われてもなんとも思わないが、客観的に見て酷い言われ様である。
同時に理解した。吉田幹比古は奏のスイッチに触れたことを。
奏は今の幹比古の様に燻っている相手が大っ嫌いだ。
基本的に骨太というか男前というか、果断な性格の持ち主なのでイライラして仕方がないのだろう。
発破をかける……という意図ももちろんあるのだろうが、それだけではない。
それと同等か、あるいはそれ以上の比率で「折れるならさっさと折れろ」とも思っているはずだ。
折れそうで折れない粘り強さは奏の好むところだが、その状態でフラフラしているのは逆に我慢ならない。
一言で纏めるなら、「どっちにするかはっきりしろ」という事だ。
生憎、慈悲はかけても優しく慰めたり励ましたりするような間柄ではない。まぁ、そういうことをするような性格でもないが。
とはいえ、年下の少女から「注意を配る価値もない」とキッパリ見下されて黙っていられるほど、幹比古は人間ができていない。
彼の中にもまだ、「神童」と呼ばれた頃のプライドがわずかに残っている。
「……………さ」
「なにか?」
「やってやるって言ってるんだ! 見てろ、必ず僕に力を与えたことを後悔させてやる!!」
「ふふっ……ええ、期待させてもらうとしましょう」
そんな幹比古の反応に、奏は実に楽しそうに返す。
間違いなく、「楽しいおもちゃを手に入れた」時の顔だった。
「お前なぁ……」
「まぁ、怪我の功名でしたがやる気になったのなら問題ありません。吉田幹比古」
「呼び捨てなのか……」
「当然です。これより、あなたは我が家の郎党。心得やその他諸々は追々として、とりあえず一つ。
―――――――――――-貴方が我らの誇りに準ずる限り、我らは貴方を決して見捨てません。
あなたは私たちの同胞、家族の一員なのですから」
それまでとうって変わり、奏は慈愛に満ちた表情で幹比古を見上げる。
ただただ優しい微笑みは、それまでの怒りを忘れて息を呑むほどに美しかった。
とはいえ、それもあまり長くは続かなかったが。
「さて、時間もありませんから……軽く地獄を見てもらいましょうか」
「地、獄?」
「ええ、早速魔術回路を開きます。初めてですし、前準備もしていないので相当な苦痛を伴うでしょう。
一応私たちで補助はしますが、流れを乱すと後遺症も残りますし最悪命に関わるので頑張って押さえつけなさい。魔術師たる者、死にかける程度で一々動じてはいけません。これから先、そういうことは日常茶飯事と覚悟なさい」
「まぁ、そういうことだから……幹比古君、ファイト」
「ぇ……え"?」
困惑する幹比古に差し出されたのは小粒の赤い飴玉っぽい何か、奏が念入りに魔力を溜め込んだ
幹比古はとっさに不穏なものを感じ逃げようとするが、いつの間にか背後に回った竜貴に羽交い絞めにされそれもかなわない。
「待て、ちょっと待って! それ何!? せめて説明してくれ!」
「なにって……見た通りの宝石ですが? あ、種類はガーネットです。石言葉は生命力・活力・秘めた情熱。魔術回路を開くにはうってつけですね」
「それをどうしろと!?」
「飲むんですよ、一息にグッと。ああ、消化の心配はいりません。すぐに融解して吸収されるので」
「そういう問題じゃ……」
「良いから飲みなさい。話はそれからです」
抗議しようと口を開くが、言い切る前に宝石を放り込まれてしまった。
反射的にそれを嚥下し、もはや取り返しはつかない。
「んぐっ……ちょ、飲んじゃったじゃないか!」
「当たり前です、飲ませるために用意したのですから。
ほら、詮索はいいですからとにかく気を入れなさい。先ほども言ったように、しっかり押さえないと死にますよ」
「死って……っ! が、ぁっ……」
死という言葉の意味するところ問いただそうとするが、突如体内で発生した熱が遮った。
手足の感覚がマヒし、背中に痛みとしか思えない熱さが走る。
なんとか意識を保つが、立っていることすらままならずその場に倒れこんでしまう。
得体のしれない何かが背骨を起点に体内を蹂躙し、あまりの苦痛に言葉を発することすらできない。
嫌な汗が吹き出し、呼吸は荒く、視界がぼやける。
幹比古は自分が倒れていることすら、もはや認識できずにいた。
「苦しくてそれどころではないでしょうが、聞きなさい。
今の状態を維持すれば少しずつ楽になるはずです。もっとも、体の熱さだけは当分抜けないでしょうけど」
「あのさ、聞こえてないと思うぞ」
「……仕方がありませんか。竜貴、とりあえずベッドに運んであげなさい。そのあとは、交代で診ますよ」
「了解。ったく、スパルタ人間め……僕の時でもここまでやらなかったぞ」
「何か言いましたか」
「いや、別に何も」
時間がない事は竜貴も承知している。あちらがいつ仕掛けてくるかわからない以上、悠長に準備を整えて穏やかに魔術回路を開発してやることはできない。だからこその無茶なのだ。
「まぁ、正しい回路の開き方と魔力の制御は後で教えますから、今はとにかく耐えなさい。
運が良ければ、これでスイッチもできるでしょう。人間と魔術師の違いについても、その際に」
というわけで、幹比古は晴れて遠坂の傘下に。
まぁ、魔術はどうやっても習得できないので、魔術回路を魔法の補助に使いつつ、魔力の運用でなんとか……。
奏も広める気はさっぱりなく、あくまでも交渉の際のカードという位置づけです。
とはいえ、一度教えを授けた以上彼女の方から幹比古を見捨てたり切り捨てたりすることはありませんが。
ちなみに、構想段階ではどこかでキャス狐が召喚され、幹比古の師匠になる…なんてのもあったんですよ。でもって、彼女の存在を魔術基盤代わりにして……と。まぁ、どうやってキャス狐を召喚するか思いつかなかったのでお蔵入りになりましたが。
追伸
竜貴のやってるイメージのみで行う剣の鍛錬は、現在絶賛古代人と立ち合い中の剣豪のそれと同じようなものです。まぁ、あっちは剣を極めた末の境地なのに対し、こっちは魔術の修練の副産物ですが。でも、見方を変えると極めて妄想力の高い人とも言えるわけで……一歩間違うと危ない人ですよね。