アーク・クレイドルの召喚に成功したZ-ONEは早急に移動を済ませていた。
モーメントの輝きをたたえながらZ-ONEは今後どう動くかを考えていた。
だが、その考察も深まらない間に謎の飛行物体の高速接近をとらえる。
黄金の船体にエメラルドグリーンの翼、翼と同色の軌跡を描き夜の闇を引き裂きながら飛行している。
それに乗るのはギルガメッシュと神父の服を着た大柄な男。
ギルガメッシュが悠然と座っているのに対し、神父のほうは顔に困惑の色が見て取れる。
敵の拠点にこれだけの早期に突撃してくるのは、たとえ未知の敵でも倒されることはないという自信だろうか。
外への迎撃手段が乏しいのは確かだが、それ以上に人類最古の王その思考が気になった。
最初というのはそれだけ特殊だろう。
それにもしも出会いがしらにバーサーカーに向けたような神秘の武器による掃射を行われたとしても、Z-ONEの召喚できる時械神なら難なく対抗できる。
そう考え、Z-ONEは少し逡巡したのち、二人を招き入れることに決めた。
第四話 ギルガメッシュの冒険
アーク・クレイドル内部、無尽蔵ながれきに埋め尽くされながらどこか整然とした一室でZ-ONEとギルガメッシュ、言峰綺礼は向かい合っていた。
さらにZ-ONEの背後には時械神メタイオンが控えている。
「ようこそ、我が城アーク・クレイドルへ。英雄王ギルガメッシュ。と、お連れの方。」
ギルガメッシュと名前が呼ばれたとき本人の眉がぴくりと上がり
「ようやく我の威光を理解する雑種が現れたか。神の使いを侍らせるだけはあるか。」
その言葉にZ-ONEは沈黙をもって肯定する。
その二人の会話に驚愕したのは綺礼であった。
高々英霊であるサーヴァントが神霊を召喚するなどあり得ないし、さらにその神霊が自分たちの信仰する天使であるというのだから。
自身の異常性に苦悩する彼にとって信仰は呪縛であり、最後のよりどころでもあった。
綺礼が異常性を自覚したのは神父である父、璃正によってもたらされた信仰。
それによって世の中の倫理観と自身の感性の乖離を知ったから。
そしてそのことに苦悩し続けたのは彼が誰よりも正しくあろうとしたからであった。
だからこそ魔術、武術の鍛錬のほか、あらゆる手をもって矯正を試みたのだ。
この葛藤を生んだのが神であるのならば、目の前の神に連なる者が、それを呼び出す英霊がその答えを知るのではないのかと。
そんな思いをよそにギルガメッシュとZ-ONEの会話は続く。
「私の名前はZ-ONE。最後の英雄です。」
共に世界の英雄の末端でありながら最初と最後。
それは全く正反対にありながら表裏一体。
その言葉にギルガメッシュは倉庫街で見たときの洞察に納得する。
反対に綺礼は困惑していた。
英霊とは英雄が死後、人々に祀り上げられ精霊化したもの。
祀り上げられる存在がいて、祀り上げる人々がいて初めて成立するものだ。
人類に起源がある以上、最初の英霊は存在する。
だが、人類が存在する以上最後など存在しない。
人類が存在する限りは。
「まさか・・・。未来の英霊ということか。」
その答えに行き着いたとき、綺礼の口から思わずつぶやきが漏れる。
人類が存在する限り英霊に終わりはない。
ならば、目の前の英霊は未来、それも人類が絶えた未来から来たということだ。
最新ではなく最後という以上彼よりのちに人類はいないことになるのだから。
「そうです。厳密には違いますが。」
律儀にZ-ONEは答える。
二人の反応に対しZ-ONEはおくびにも出さないが驚愕していた。
最後の英雄という言葉から即座に自分の時代を導きだすとは神父、言峰綺礼はかなり聡明なようである。
だがそれにもまして、ギルガメッシュの表情は予想外だった。
あの表情は即座に理解したのではない。
何かに納得したようだった。
初めから何か知っていたかのように。
Z-ONEは続けて問う。
「英雄王ギルガメッシュ。世界のすべてを手に入れたあなたがなぜ聖杯戦争へ参加するのですか。」
ギルガメッシュは表情を変えにらむように見据えながら。
「そもそもこの世の財宝はすべからく我の物。聖杯も然りだ。我はそれを奪おうとする賊どもに誅を下すまで。」
Z-ONEがギルガメッシュを計りかねていたように、ギルガメッシュもZ-ONEという存在を計りかねていた。
「故に王として聞いてやろう。貴様のこの聖杯戦争に託す願いとやらを。」
Z-ONEは目を見据えて答える。
「歴史を放っておけば未来は滅びます。」
人類が滅亡してからもZ-ONEは歩みをとめなかった。
それは絶望しながらも希望を失ってはいなかったからだ。
「私はそんな絶望的な未来を変えるためにこの時代へやってきたのです。」
彼にそれ以上語ることはなく、ギルガメッシュはその言葉で目の前の英霊の本質を理解した。
おそらくZ-ONEという男の生涯と行動原理はギルガメッシュとはおおよそ反対の聖者といえるものであったのだろう。
だが、その奥底等しくにあるものは世界すべてを背負う傲慢さ。
世界のすべてを手の内で弄んで、理不尽を押し付けるのだ。
違いなど周りの人々が誰であったか。
その程度の違いだ。
立ち去りながらギルガメッシュは念を押す。
「Z-ONEよ。貴様が聖杯の前に立つ時には俺が直々に相手をしてやる。」
「かまいません。時として王に立ち向かうことが聖者の役目です。」
その姿を見届けたZ-ONEと綺礼。
そして綺礼はあることに気付く。
―――どうやって帰ればよいのだ。―――
と。
自分がすでに脱落したマスターと偽っているとしても、敵サーヴァントに自衛手段がないと悟られるのは危険だ。
だが、あの不遜傲岸を人型にしたようなギルガメッシュが律儀に迎えに来る未来が想像できない。
「Z-ONEといったか。僭越だが私を地上まで送ってはもらえないだろうか。」
この発言と同時に綺礼はアサシンを通して時臣にキャスター、Z-ONEについての知り得た情報を伝える。
その直後綺礼の意識は途切れる・・・。
―――世界を救うために
―――だが、かつてのままではもはや世界は救えなかった。―――
―――
―――
―――そのために
気が付くと綺礼は教会の中に横になっていた。
「今見たものは・・・。」
Z-ONEの記憶、いや魂の告白か。
マスターとサーヴァントのパスさえ存在しないのに、なぜ見えたのか。
そのことよりもその内容が、おぼろげにしか思い出せないそれが自らの探し求める答えであったような気がするのだ。
前からよく街中をうろついていたギルガメッシュは頻繁にアーク・クレイドルへも向かうようになった。
と言ってもZ-ONEに会いに行っているわけではなく、その周りの廃墟を歩き回っているのだ。
未来の都市というだけあって珍しい物でもあったのか。
それとも現代の、現代人の醜悪さを嫌悪していた彼にとって、人のいない廃墟のほうが快適であったのか。
時臣にとって自身のサーヴァントがキャスターの拠点に何の準備もなく突撃、さらには頻繁に行き来しているなど許容できるものではなかった。
だが、最終的にギルガメッシュを根源への到達という目的のために自害させる腹積もりである時臣は令呪をこれ以上消費するわけにもいかず、強く言えないでいた。
その日もどこかへ行くギルガメッシュを時臣は見送るしかなかった。
ギルガメッシュが街中をうろついているとライダーとそのマスターと遭遇する。
そしてライダーに投げられるように王同士での酒宴に誘われる。
ライダーに言わせれば戦いなどしなくてもお互いの格を競い合うことで聖杯にふさわしいのは誰か自ずと決まるというのだ。
ギルガメッシュに行く意味はない。
他の者たちを雑種と呼ぶように彼にとっては取るに足らない存在でしかない。
その認識である以上、格など比べるべくもない。
その上、もとより聖杯は自らのものであるならば、競い合う前提からしておかしいのだ。
だが、自分以外の存在が王を名乗るなど許容できるものではなかった。
だからこそのってやった。
王たる格を、義をそして法というものを教えてやるために。