日も暮れたころ、セイバー、騎士王アルトリアは居城で何者かの侵入を察知する。
ライダーの宝具
二匹の牛にひかれた大きなチャリオットは迅雷を駆りながら空中を駆け抜けていく。
何をしに来たかを臨戦態勢のセイバーに問われれば、酒樽を抱えながら騒然たる声でライダーはそれに答える。
「一献交わしにきたに決まっておろうが!」
その征服王イスカンダルによる号令で王たちの酒宴、聖杯問答は始まった。
第五話 聖杯問答
英雄王ギルガメッシュが到着したとき騎士王と征服王は向かい合い、宴はすでに始まっているようであった。
舞台は城の中庭。
整えられてはいるが超一流のみをよしとするギルガメッシュには不満が多かった。
さらに前にランサー陣営の襲撃を受け、城のところどころ崩れているのも見苦しい。
さらに王は自分ただ一人であるというのに、すでにいる二人が王だ、なんだと言っているのも腹立たしい。
「戯れはそこまでにしておけ、雑種。」
その言葉と共に霊体化を解く。
英雄王の参加を知らない騎士王は身構え、征服王が歓迎を告げるがその言葉を無視し、隠さない苛立ちを振りまきながら不満を噴出させる。
「よもやこんなうっとうしい場所を王の宴に選ぶとは・・・。まあいい。」
怒りの矛を収められたのは最近機嫌がよかったにしても奇跡だった。
そして、いよいよ宴も始まろうとしたが、征服王の渡すこの時代、その町の市場の逸品ではギルガメッシュが満足するはずもなく、
その酒はまさしく極上の美酒。
征服王は感嘆を隠そうとせず、表情の硬かった騎士王すら目を見張る。
酒に絡めて英雄王は語る。
王の酒を見よ。
そして思い知るがいいと。
サーヴァント同士の格など二人の酒の差のように分かりきったこと。
聖杯に託す大願など聞かれれば、願いなどはなく自らの物である聖杯を奪う賊を裁く。
王としてそう課した己の法が参戦理由なのだ。
完全に自己完結した理論。
そこには善悪はあれども、真偽など存在しはしない。
その答えに征服王は王を名乗るものとしては納得する気はないが、共感する。
彼の願いは受肉。
そしてその先にある世界征服。
一つの命として地に足をつけ、かつての夢の続きをしようとしているのだ。
そのために何が何でも聖杯が欲しい。
そして、欲したからには征服し略奪する。
それが彼の王としての法。
「お前が侵し、俺が裁く。問答の余地などどこにもない。」
それがすべてであった。
自らの敷いた法を貫き通すのが王。
ならば、異なる王が会いまみえ、そして相容れないのであればどちらかが妥協し王を捨てる必要がある。
どちらもそれをしないのなら、もはや殺し合いで決着をつけるのみ。
ギルガメッシュはこの会話を通して認識を改める。
ライダーを取るに足らない有象無象から、自ら倒すべき己の法を貫かんとするものへ。
そこへ今まで会話に入らなかった騎士王が言い放つ。
「そんなものは・・・王の在り方ではない。」
言われた二人の王のうち征服王はその真意を、大望を問う。
騎士王は二人を見据え
「私はわが故郷の救済を願う。万能の願望器をもってして、ブリテンの滅びの運命を変える。」
歴史を変えてまで、自らの行いを否定してまで望むそれ。
王とは自分勝手に国を、民を導き、だがそれと同時にそれらすべてを背負うもの。
その治世に善はあろう。
悪もあるであろう。
だが、そこに間違いなどあろうはずがない。
否、それが間違いなどと言ってはならないのだ。
それは当時、王と共に生きたすべての人々に対する侮辱に他ならないから。
ましてや、間違いであったから覆すなど言語道断。
だからこそ征服王は騎士王の言葉の真意を問い、それを否定する。
さらに元来面倒見がよいのであろう彼はそれを諭そうとする。
ギルガメッシュは笑いをこらえることができなかった。
この騎士王と名乗る小娘ははじめ王といいながら、冗談としか思えないことを言い。
そのことを征服王に諭されれば、自らの法を通し切れず動揺し。
人の身に余る理想に苦悩し。
騎士としての理想と王としての在り方に葛藤している。
その生きざまは彼にとってこの上なく愉快な娯楽であり、さらに、セイバーに興味がわいた。
時臣にとってこの聖杯戦争の命運は彼のサーヴァント、ギルガメッシュの評価規格外を誇る宝具、
時臣はこの聖杯戦争初めての賭けへ出る。
聖者と同様のタイミングで。
その手からは一枚のカードが放たれ虚空へと消えた。
うろたえていたセイバーは新たなサーヴァントの気配を感知し騎士として冷静さを取り戻す。
気付いたのはほかの二人のサーヴァントも同様。
とくにライダーはそのことを歓迎し姿も見せぬサーヴァントへ酒を勧める。
しかし歓迎は酒を酌んだ柄杓への投げナイフの一撃で拒絶、挑発される。
ライダーは激怒した。
その周りに現れたのは百人近いサーヴァント。
体格や髪形は違うものの一様に黒い全身に髑髏のような白い仮面をつけている。
アサシンが持つ多重人格を一つ一つの別個体として分離させることのできる能力である。
複数人での他陣営の監視を行っていた。
さらに、この宝具によって分離した個体の一人をアーチャーに始末させアサシンの脱落を装っていたのだ。
その偽装を明かしてまで他陣営の前に姿を現したのは己のマスター綺礼と、そして彼と裏で手を組んでいる時臣の計画であった。
城の中庭の一角という密集した場所であれば、例え敵サーヴァントが近くにいたとしても敵マスターと刺し違えることができると考えたのが一つ。
そして、そのような状態に追い込むことで他陣営に切り札たる宝具の使用を強いるのがもう一つの狙いでああった。
そして、挑発も相まってライダーは最大の宝具を展開しようとしていた。
彼を中心に風が激しく吹き荒れる。
それは目を開けるのもやっとなほど。
「セイバー、そしてアーチャーよ。これが宴の最後のとりだ。そも、王とは孤高なるや否や。」
それは周りの人間に対してみせる彼の生き様そのもの。
彼自身の真の王たる姿。
まばゆい光に包まれ発動する。
光がおさまった時、そこにあったのは見渡す限りの砂漠。
先ほどまでの景観はかけらも残っていない。
「固有結界ですって!?そんな馬鹿な!心象風景の具現化だなんて!」
そう発したのはセイバーに寄り添われ事態を不安そうに眺めるアイリスフィール。
その言葉はほぼ全員の思いを代弁していた。
なぜ、魔術に精通していない征服王イスカンダルが固有結界などというものを発動できるのか。
答えは地平線の彼方からやってくる。
「ここはわが軍勢がかつて駆け抜けた大地。余と苦楽を共にした勇者達が等しく心に焼き付けた景色だ。」
不揃いでそれぞれ別の格好をしたイスカンダルのかつての臣下、兵士たち。
それはイスカンダルが死に、自身が死んでも忠義を誓う者たち。
「この世界、この景観を形に出来るのはこれが…我ら全員の心象であるからさ!!」
今やサーヴァントとして召還された、彼らすべての心象風景であるからこそ、生み出される固有結界。
それが彼らすべての絆の宝具、
地平線を埋め尽くす大軍勢の壮大な雄叫びに誰もが息をのむ。
敵対しているアサシンはなおさらだ。
数で押し切るはずであったアサシンの作戦は瓦解し、平地であるが故アサシンとしての技術も生かせない。
さらに分離することで個体としては弱体化しているアサシンたちに勝ち目はない。
投げられる槍に、振りぬかれる剣に一人、また一人とやられてゆく。
だが、今にも勝鬨をあげようかというその時、事態は新たな展開を迎える。
―――次元の裂け目より生まれし闇よ、時を越えた舞台に破滅の幕を引きなさい―――
空に突然巨大な影が浮かぶ。
それは黒い鱗、翼に白銀のラインが入る、どこか近代的な、だがまさしくドラゴンであった。
「げ・・・幻想種・・・!」
とは、いったい誰のつぶやきであったのか。
さらに光の粒子が集まる。
「ランサー!なぜ!?」
セイバーは声を上げる。
なぜなら、現れたのは彼女の眼の前で消滅したランサー、ディルムッド・オディナであったからだ。
しかしその顔には白黒の模様の入った仮面で覆われている。
それだけで、一言も発さず槍を構えるランサーはひどく無機質なものに感じられる。
ランサーは近くにいる兵士たちに駆け寄ると、彼らを二本の槍による突き、一閃によって次々に屠られてゆく。
兵士たちも奮戦するが投げられた槍はランサーの槍の振りによってはじかれ、振るわれた剣は交差させた二本の槍によって止められる。
背後を取ろうとも、高い敏捷を生かした立ち回りで無力化されていった。
そのランサーを呼び出したであろうドラゴンの黒い鱗は金属質な見た目通り槍や剣で傷つけることはかなわず。
ランサーを巻き込まないように放たれた咆哮は、深い闇の光線となり兵士たちを飲み込んでゆく。
イスカンダルの勇敢なる配下たちであろうとも、未知なる敵に恐慌が広がってゆく。
王による度重なる叱咤も及ばず兵士は先ほどアサシンにしたように蹂躙され、やがてその数を半数以下に減らしたとき、世界が悲鳴を上げる。
これほどの固有結界を魔術師として二流のウェイバーが展開できていたのは、軍勢全員の魔力で維持されていたため。
軍勢が減れば、減るだけ残る者たちへの負担は大きくなる。
そしてそれが耐えられなくなったとき、
砂漠の風景は兵士を巻き込んで崩れ去ってゆく。
すると、今まで兵士たちを蹴散らしていたドラゴンは急に標的をライダーに変更する。
そして、その咆哮が彼らを飲み込もうとした瞬間、全員は結界からはじき出される。
時臣の思惑は最悪な形で成功した。
アサシンを犠牲としたものの、ライダーそして、完全に未知数であったキャスターであろうサーヴァントの戦力まで推し量ることができた。
しかし、ライダーの評価規格外の固有結界にキャスターの幻想種の召喚。
彼の心労は増すばかりである。
元の中庭に初めの面々は戻っていた。
そこにドラゴンやランサーの姿はない。
ライダーは突然の乱入者、さらにはアサシンと違い姿さえ見せなかったドラゴンの主に対して怒り心頭。
彼は宴の〆の言葉を投げ捨て、轟音と共に去ってゆく。
その声色には彼のマスターですら、恐れるほどの怒りを含み、まだ問答に不満の残るセイバーですら口出しすることはできなかった。
さらに、絶句する残された面々の中、口の先を愉悦にゆがめたアーチャーが光の粒子となり消えたことで今宵の聖杯戦争は完全に幕を閉じる。
ついにZ-ONEの初戦です!
今日のキーカード
Sin パラドクス・ドラゴン
モーメントの膨大な魔力のバックアップによって顕現する竜種。本来ならパラドクスのモンスターであるが、イリアステルの絆の象徴としてモーメントを含めて宝具化している。ほかのモンスターと違いモーメントの全面的な支援の受けられるアーク・クレイドル内以外でも召喚可能だが、固有結界内のみ、召喚は三回までという制限を持つ。並のサーヴァントでは手におえない強さを持ち、咆哮は対城宝具と比べても勝るとも劣らない。宝具としての固有の能力として、顕現した時にすでに脱落したサーヴァント一人をを再召喚、再契約を行うことができる。