新聞が踏みにじられる。
人ごみの中、無抵抗に踏まれ続ける新聞をただ眺め続けた
目を逸らすことなく、目の前の現実を直視する。それは、心が抉られていると錯覚するような胸の痛みを少女へと与えていた。
別に、こういう光景を見るのは初めてではない。
少女にとって、新聞を作るという行為は生き甲斐に等しい。それほどまでに、少女にとって”新聞”という物の存在は大きかった。もう何年間も続けてきたその行為なのだが、何年経とうと少女の作った新聞の扱いは変わらない。
必死に作ってきた物が否定されるということは、人間でなくとも堪えるものだ。
風に攫われ、紙は宙を舞う。誰も見向きもしないそれを、少女は表情を歪めながらも掴み取る。
紙を見れば泥だらけで、とてもではないが見れたものではない。だが、泥に塗れる前はしっかりと読むことが出来たのだ。
射命丸文は、新聞についている泥を払うように細く白い右手を動かした。
「きっついなー……」
文の呟きは、人里の喧騒に飲まれて消える。
誰も少女に見向きもしない。妖怪の扱いなどそんなものだ。
だが、妖怪といえど心がある。
いくら文が強い妖怪とはいっても、確かに傷つくのだ。
何日も掛けてネタを探した。何日もかけて写真を撮った。そして、それ以上の時間を掛けて文を起こした。それでも、それが報われた試しはない。
本当、やるせない。
「――?」
ふと、文の目に一人の少女の姿が映った。
人なんて判別できない程に混雑する道の中、踏まれ汚れた新聞に目を通している少女。その後ろには、立ち止まっている少女のせいで軽度の渋滞が出来上がっていた。だが、そんなことなど気にしていないのか、少女は尚も新聞へと目を通している。
長く綺麗な黒髪に、印象的なまでの釣り目。瞳に輝くのは、美しい黒水晶。
彼女は文に気付いたらしく、二人の視線が交錯する。
彼女は文へと視線を向けていた。
誰も見向きもしない中、彼女は文だけを見ていたのだ。その瞳の輝きに、吸い込まれてしまうのではという懸念を抱く。
美しい漆黒の瞳が、文の手にする新聞へと向けられる。
するとどうしたわけか、ずんずんと文へと歩を進め、歩幅二歩ほどの所で足を止めた少女。
突然のことに驚く文を尻目に、少女はそれ以上の衝撃を文へと叩き込む。その綺麗な唇から、文は信じられない言葉を聞くこととなった。
「あの、この新聞って貴女が作ったものなんですか? よければ一部いただきたいのですが」
その時、射命丸文は初めて”読者”というものを得た。
これが、射命丸文とサツキ・マーガトロイドの馴れ初めの一幕である。
◇ ◇ ◇ ◇
目覚ましのけたたましい音で目が覚める。
視界を開けば、映るのは真っ暗な自室の朧げな姿。慣れない暗闇の中に、薄らと見慣れた部屋の輪郭を捉える。
寝覚めで重たい脳に響く目覚ましが耳障りで、止めようと右手を布団から外へ出す。そうすれば、冬の冷気の洗礼が肌を撫でた。
「さむい……」
小さく呟き、それと同時に部屋は静けさを取り戻す。
睡魔など部屋に漂う冬の冷気で消し飛んでおり、二度寝しようなどという気は欠片も起きない。
寒さを堪え上体を起こし、大きく伸びを一つ。
カーテンを開ければ、広がるのは黒く静かな森の姿。何時も暗い魔法の森は、太陽が昇っていない現在において尚の事暗かった。
明かりを付けようと、祈里へと声をかける。
「……祈里、頼む」
右手に魔力糸を繋げ、祈里を動かす。
するとすぐに、部屋は明るく照らされる。その眩しさに一瞬目を細めながら、電気を付けてくれた祈里の頭を軽く一撫で。
一日の始まりを実感し、サツキは着替えをしようと立ち上がった。
そんな時だ、呼び鈴が鳴ったのは。
「はぁ……またか」
誰かについてのおおよその目処は立っている。サツキはパジャマの上から白いカーディガンを羽織り、祈里を引き連れ玄関へと向かった。
玄関まではおよそ一分。
サンダルを履き、扉へと身を寄せる。扉の穴から相手を伺い、そこにはやはりというか見慣れた妖怪鴉の姿があった。
相手の気が短いのか、再び鳴り響く呼び鈴。
それにサツキは辟易しながらも、ゆっくりと扉を開けた。
「おはようございますサツキ! 新聞を持ってきましたよ!!」
開け放たれた扉、そこにいるのは一人の鴉天狗の少女。
射命丸文は時間など知らぬとばかりに、肌で感じ取れる程の勢いと大声を携えて、サツキへと綺麗な笑顔を差し出した。
それにやや気圧されながらも、逃げるように視線を壁に掛かった時計へと向ける。
現在時刻、午前六時。マーガトロイド邸、マスゴミに襲われる。
「はぁ」
吐いた溜息の意味など分かるはずもなく、尚も笑顔を浮かべているマスゴミ。
その鳥頭をぶん殴ってやろうかと思案するも、争う事を嫌う魔法使いにそんなことが出来るはずもなく。
「……お茶でも飲んでいく?」
温和な魔法使いの見習いは、妖怪を家へと招待するのであった。
パチパチと薪が燃える音が心地よい。
暖炉の中ではせっせと薪が燃え、それが現在の暖かさへと変化していた。木々の命によって生まれた温もりだと思うと、そこにいるだけでも有り難みというものは生まれてくる。
こんな中、紅茶を飲みながら読書などと洒落込むのも風情があって良いのではないだろうか。だが、残念ながら客の前なのでその案は後日に持ち越し。人並みには礼儀を身につけているサツキにとって、客を放置しておくという案は当然ながら存在しないのだ。
「いやー、温かいですねー。暖炉というものは火桶や炬燵なんかとは違って風情があって素敵です」
「なあ文姉、隣の芝は青く見えるって言葉を知ってるか?」
「さあ、さっぱり分かりませんね。あ、いただきますね」
肩までで切り揃えられた短い黒髪に、特徴的な三伏風の帽子、そして宝石のように赤い瞳をした少女。
射命丸文は、瞳を輝かせながら用意されたベーコンエッグへとフォークを伸ばす。
大きな口でハムへと齧り付く文を、呆れた目で見るサツキ。
そんなサツキの視線など知らぬとばかりに、文は黄身へとフォークを突き立てる。
「相変わらず、サツキは料理が上手なんですね」
「ベーコンエッグで褒められても嬉しくないんだけど」
褒められて嫌がる人間なんて極めて希だ。それはサツキとて変わらない。
だが、何事にも例外というものが存在するように。彼女、射命丸文に対してはサツキもその限りではなかった。
僅かに、サツキは表情を歪める。
「で、今日はどうしたんだ? 文姉が単身でウチに突撃してくるなんて珍しくないけど、最近はあまり来なかったじゃないか」
自分で焼いたトーストに、自家製の苺ジャムを塗りながら問う。
「別に……さっきも言ったじゃないですか、新聞を届けに来ただけですよ。あとついでに朝食にもあやかろうと思いまして」
「後者が本当の理由だろう絶対」
「あ、バレちゃいました?」
この鴉天狗はバレないとでも思っていたのだろうか。
そもそも文は以前から、サツキの前でよく口にしていたのだ。「朝食ついでに新聞を届けに来ましたよ」と。一体全体、どの口が言うのか。
「最近はサツキ、博麗の巫女に付きっきりでしたからねー。姉としては非常に寂しかったわけですよ」
「いや、まあ……そうだけどさ。別に私がどうしようと勝手だろ」
「そう言われると返す言葉もございません」
ここ一ヶ月ほどは、サツキも博麗神社に通い詰めていたことは自覚している。
以前まではよくこうして、文と早すぎる朝食を取っていた。早朝突撃をかまされ、なし崩し的に共に朝食を食べる。そんな朝が多かった。そのことを考えると、確かにこういう朝食も悪くはないかと思えてしまう。
別にサツキは射命丸文という妖怪が嫌いなわけではないのだ。むしろその逆、二人はそれなりに親しい間柄なのである。
少なくとも、お互いがお互いの事を姉や妹と認識する程度には。
居間を見回すように頭を動かし、文はサツキへ疑問を投げかける。
「それで、アリスさんは何をしてるんですか?」
それは愚問である。アリス・マーガトロイドという女性を知っているのなら、そのような問いは無意味というもの。
もっとも、文自身もそのことに関しては聞かずとも分かっているのだが。その辺りは会話のネタのためだ。
「寝てるんだよ。聞かなくても分かるだろう」
「やはりですか。いやー、アリスさんの寝坊癖は相変わらずのようで。サツキも苦労しますねぇ」
文の指摘は正しい。だがそれを肯定するのは、アリスの娘であるサツキには些か憚られた。
サツキは無言で、右手を時計へと向ける。それに釣られる鳥頭。
「現在時刻は午前八時。まだ寝ていても可笑しくはない時間帯なの。文姉が早すぎるだけ」
「ほら、私って幻想郷最速ですから」
「威張れる状況じゃないと思うんだけど」
何も早起きの最速など目指さなくとも良いものを。
何でもかんでも最速を自称する彼女は、その実あらゆる面において最速であった。それこそ、不必要だと思えるようなことまで。
「何を言うんですか。清く正しい射命丸と言えば、最速でなければならないのです。でなければ、神出鬼没・浮雲朝露であるスクープになど到底間に合うはずもありません」
「まあ、そういう文姉のジャーナリスト魂は嫌いじゃないけど」
活きのいいネタを、鮮度を保ち提供する。何というプロ意識の高さ。
だがしかし、彼女の作る新聞の八割は捏造である。それだけで、彼女の言葉が軽く薄っぺらいものに聞こえてしまうのだから、人間印象が大事だということがよく分かる。もっとも、射命丸文という少女は、人間ではなく妖怪なのだが。
「それで、新聞は?」
文が最後の一口を飲み込むのを見届け、サツキは寄越せと右手を動かす。
「もちろん持って来ましたよ。これが最新号になります」
「どうも」
新聞を受け取り、懐から金を取り出す。
数少ない定期購入者ということで、値段は格安だ。なので、あまり痛い出費ではないのだが、それもかさばってくると意外と堪える。
それでも買うのは、サツキにとって出費に見合う見返りがあるからなのだ。
「……」
新聞を開き、軽く流し読みする。
一枚一枚ピラピラと祈里が捲ってくれるので、割く労力は欠片もない。それでも流し読みなので、頭に入ってくる情報はとても少なかった。
新聞に目を通すサツキと、そんなサツキを眺める文。
そんな二人の視線を集めたのは、居間へと降りてきた家主だった。
「おはよう母さん」
「あ、アリスさん。お邪魔してますよー」
上海を引き連れ、まだ眠たげな目をしているアリス。
母がやって来たと見るや、即座に新聞を置き挨拶するサツキ。こういうところに育ちの良さが見受けられるのだが。文に関しては軽い、とてつもなく軽かった。
「おはよう」
短く言葉を発し、アリスは視線をサツキの対面に座る文へと移す。
起きたら住人ではない人物が居間にいる。情人ならば多少なりとも驚くものなのだが。寛容なのか無関心なのか、アリスは別段驚いた様子もなく軽く右手を上げた。
「いらっしゃい文。相変わらず朝早いわね」
「そういうアリスさんも、随分と早起きになりましたね。以前はまだ三時間ほど眠っていたのに」
現在時刻、九時。つまり、以前は一二時に起きていたということだ。
そんな二人の会話を聞きながら改めて、サツキは母の生活習慣が改善されたことに安堵の溜息を吐く。
「まあ、サツキも一人立ちしてきたからね。あまり頼ってばかりなのも申し訳ないでしょう」
「別に私は気にしないけど」
「通い妻みたいなことしてる娘にそんなこと言われてもねぇ」
「か、通い妻とか……そもそも同性同士なんだから」
頬を染め、露骨に照れてみせるサツキ。そんな娘の反応を楽しみながら、アリスはサツキの隣の椅子を引き、腰掛ける。
「母さん、朝ごはんは?」
「そうね、久しぶりに貴女の手作りが食べたいわね」
「分かった。ちょっと待ってて」
逃げるように台所へと姿を消したサツキ。
残った二人は、そんなサツキを見て小さく微笑んだ。
「ごめんなさいね。サツキを追いやっちゃって」
「いえ別に。こうしてアリスさんと会話するのも嫌いではありませんから」
「あら、嬉しいことを言ってくれるのね。鴉天狗は世渡り上手だという話に偽りはなし、と」
「相変わらず人聞きの悪い」
アリスと文。この二人に関してはあくまでサツキを介した関係しか構築していない。そもそもアリスも文も、必要以上にお互いへと歩み寄ることをしないのだ。
だから、交わす会話に相手への思いやりなど欠片もない。あくまで妖怪と魔法使い。どちらも人外の存在が交わす会話に、人間が干渉できる余地などないのだろう。
「それで……今日はサツキ、博麗神社へは行かないんですか? 三食キッチリ作りに行っていると聞いたのですが」
「今日はあちらさんに用事があって、一日暇なんだそうよ」
「そうですか。では今日一日、人里に取材をしに行くという名の仕事に付き合ってもらうということで」
「却下よ。親子の時間を無碍にするような礼儀知らずには、早いとこお暇(いとま)することをオススメするわ」
火花を散らす両名。
だがその内容に関しては可愛いもので、共に欲するはサツキと過ごす時間。三人で、という案はどうやら存在しないらしく。
互いに譲るつもりはないのか、視線を逸らすことなく睨み合いは続く。
そんな不毛な争いを鎮めるのは、その争いの根本でもある一人の少女だった。
「ほいっ」
文の後ろから突然に現れる両の手。それは問答無用で文の白く弾力のある頬を力強く握り締めた。
鴉天狗の少女は、思わず悲鳴を上げる。
「いひゃいいひゃい! ひゃふひ、いひゃいひぇふ!!」
「ごめん文姉、何言ってるか全然聞こえない」
せめて日本語で話してくれと、サツキは尚もその手を緩めない。だがその表情は嬉しそうで、完全に確信犯であった。
それを見て、アリスは必死に笑いをこらえている。
「美人はどんな表情をしても美しいって、まやかしだったのね……ぷっ」
普段は可愛らしく、明るげな笑顔を浮かべている文。だが、薄茶色をした瞳には薄らと水の膜が張られ、口は口裂け女よろしく開け放たれている現状においては、そんな笑顔の時の面影など欠片もない。
サツキが一際強く頬を引っ張り、それが面白かったのか。堪えきれずにアリスは息を漏らす。
「まったく、目を離したらすぐこれなんだから。母さんも文姉も、あんまり喧嘩は止めてくれよ」
「喧嘩じゃないわ。じゃれてただけよ」
「うぅ……なんで私だけ」
「文姉が一番近かったから」
解放され紅くなった頬を摩る文。まだ少し涙目である。
世の中の理不尽は大抵経験してきたと自負していた文であるが、その認識は改める必要があるようだった。近いだけで泣かされてはたまったものではない。
だが、本人は終わったことだと気にしている素振りもなし。すでに朝食をアリスの前に並べ終え、その隣へと腰を下ろして祈里と戯れていた。
「……ちなみに、サツキの本日の予定を聞いてもいいですか?」
最後の望みを託すように、文はサツキへと問いかけた。
だが、返ってくる答えが期待通りであることなど稀有であり、今回だってその例にもれない。
祈里を撫でていた右手を止め、顔を向ける。
主人に構ってもらえず不満なのか、祈里にいたっては文を睨んですらいた。
そして、少女の口から決定的な一言が投げつけられる。
「自室で読書。外出はしないから」
その答えは酷く残酷で、そして変えられぬ返答であった。
射命丸文、ボッチ取材確定の瞬間である。
他所の居間で、打ちひしがれる哀れな少女の姿。机に突っ伏し、涙を流す彼女の姿は滑稽ですらあったと、後に人形術師の女性は語った。
◇ ◇ ◇ ◇
「それでは、お暇します」
正午を回ろうかという頃。
玄関において、二人の少女は会話を交わす。
「お昼ご飯、食べていかないの?」
「はい。一応は仕事がありますので。できれば人里について来て欲しかったのですが、あまり無理強いも良くないですし。今回は諦めます」
鴉天狗の少女は、首に下げた愛機を軽く振るう。
それは仕事で使用するカメラであり、彼女の仕事を支える大事な相棒だ。仕事に関わらず、肌身離さず持ち歩くその姿は、サツキと祈里の関係に重なっても見えた。
文は、笑顔でサツキを見つめる。
「なので、また今度で構いません。私の家に来てくれませんか?」
「……確か、文姉の家って」
「はい、妖怪の山です」
「ちょっと待ってストップストップ」
両手を広げ、文の言葉を遮る。
妖怪の山とは、幻想郷に古くから存在する妖怪の住処だ。ある種の隔離地域であり、人間であるサツキが容易く足を踏み入れていい場所ではない。
「あそこって確か、人間は入れないはずじゃあ……」
「人間どころか、外の妖怪ですら満足に入ってこれませんね。私たち天狗や河童に襲われるのがオチです」
「そんな所に行けばどうなるか、火を見るより明らかだと思うんだけど……」
いくら魔法使いといえども、未だ見習いの身。
幻想郷でも上位に位置する鴉天狗や、数の多いその他の妖怪たちを相手取って生還することなど、サツキには不可能である。そんな死地同然の場に赴けとは、何たる暴言。
「ああ、心配しなくても大丈夫です。当日は私が迎えに行きますし、こう見えて私、結構な重役なんですよ」
「……」
「その目は信じていませんね……まあいいでしょう。私の実力はサツキも承知のことだと思います。最悪の場合は、私が全力をとしてサツキを守り抜きます。それならどうですか?」
そこまで言い切られれば、サツキとて首を横に振ることなど出来ない。
文の実力に関しては彼女の言う通り理解しているし、そこいらの妖怪はもちろん同族である鴉天狗の中でも抜きん出ている。それに、文の自宅に行ってみたいと思っていたのもまた事実。
「分かった。じゃあまた今度、行かせてもらうよ」
サツキの返答を聞き、文の顔が喜色を帯びる。
「交渉成立ですね。詳しい日程などはまた後日ということで」
「うん、よろしく」
チラリと視線を右腕へと向ける文。
そこには、鴉天狗の高度な技術力で生み出された腕時計が存在していた。現在時刻を確認した文は、一つ頷く。
「よしっと、ボチボチ仕事に出かけようかな」
「もう行っちゃうんだ」
「ええ、それじゃあサツキ、また今度」
「うん、また」
来た時と同様、風のように去っていく文。まるで台風のようだ。
そんな彼女の後ろ姿を見送り、一つ溜息を吐く。彼女が視界から消えるのに、十秒と掛からなかった。幻想郷最速は伊達ではない。
「うぅ……さぶっ」
木々により多少は遮られている冬風であるが、それでも完全に無くなるわけではない。体を撫でる風に身を震わせ、サツキは背を向ける。
「祈里、帰るぞ」
いつか来る自宅訪問。
そのいつかを思い、サツキは笑顔を浮かべる。
「本当に楽しみだ」
そうして、家の扉は静かに閉じた。
頬を引っ張られ涙目な鴉天狗の少女可愛い(ボソッ