人形術師の義娘   作:霞音

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お待たせ致しました。
 


10.スキマの中で彼女は笑う

 

 太陽が地平線へと沈みゆく。

 酷くゆっくり、だけど確かに。最後の悪足掻きに、陽光が幻想郷中を橙色に染め上げる。山を、里を、森を――余すことなく照らし出す。その様は哀愁が漂い、とても健気で儚いものだ。もう五分と待たずに、太陽は姿を消してしまうだろう。

 

 黒を主色にした洋服を纏い、それよりも深く美しい黒髪を携え、サツキ・マーガトロイドは、生まれつき鋭いと揶揄される眼光を沈みゆく夕日に向ける。肩には、常に主と共にある人形の姿があった。

 サツキの眼差しは、何かを惜しむかのような光を備えている。

 

「もう日没か」

 

 吐いた息は白く、空へと溶けて消える。

 

 冬の日没は早い。

 夏とは比べ物もないくらいに早く、太陽は地平線へと姿を消す。妖怪ならいざ知らず、太陽と共に生活してきた人間がそれを惜しむのは、至極当然のことだ。だが、同時にそれが酷く尊い物に思えてくるのもまた事実。

 短いからこそ、その時間に焦がれ求める。だからこそ、夜の帳にも意味を見出すのだ。

 

 もっとも、妖怪が抱く感想は真逆のものなのだろうが。

 

「夜は夜で、風情があって良いと思うけどな」

 

 そこは個人の主観だ。夜が好きな人間が居れば、その逆もまた存在する。

 どちらかと問われれば、サツキは前者でも後者でもなく、両者と答える。朝は朝、夜は夜にしかない魅力が存在する。それを探すのは、非常に楽しい。

 

 それを理解できない者が多いのは、少し寂しいが。

 

「一日再び晨なり難し」

 

 耳を打つ、透き通った綺麗な声。

 

 声の主へ視線を向ける。

 どうゆう原理か、境内に大きな穴が開いていた。問題は、穴の空いている場所。空中から覗く隙間より顔を覗かせるのは、金色の髪をした綺麗な女性だった。

 

「朝は一日に一度だけ、時間を大切に勉学に励め……だったか?」

 

「あら、博識なのね」

 

「勉学少女を舐めるなよ」

 

 隙間が大きく開く。

 中に蠢く悍ましいナニかに対する理解は、残念ながら及ばない。だが、言い知れぬ嫌悪感をサツキは抱く。何より、誰のものかも分からない眼球がこちらを凝視しているのだ。良い感情を抱くわけがない。

 

 金髪の女性は、開け放たれた隙間を出て、地に足を付ける。

 そうしてようやく、彼女の全体像を把握することができた。

 

「あんた、妖怪か?」

 

 紫のドレスを纏い、右手には日傘だろうか。もう日も沈むというのに、彼女は微笑みながらも日傘をかざす。

 

「あら、なんで?」

 

「何となく」

 

「大雑把ね」

 

 そんなことを言われても、それこそ感覚でそう思ったのだから仕方がない。

 少なくとも、ただの人間ではないことは確かだ。先ほどのアレは、ただの人間が起こせる事象を遥かに凌駕していた。

 

「まあ、当たっているんだけどね」

 

「……」

 

「それで、どうするの? 私を退治でもしてみる?」

 

「興味も無いんで遠慮しておくよ」

 

 知らぬとばかりに両手を広げ、関係ないと相手へ示す。

 どの口が言うのか知らないが、彼女はよほどの猛者だ。“数年前のトラウマ”とは、また強さの次元が違う。少なくとも、相手の力量が分かるくらいには、サツキも成長しているのだ。

 それに、博麗神社へ堂々と踏み入ってくる妖怪が、害をなすわけがない。思考が出来る妖怪ならば、そもそも神社に近づきもしないのだ。

 

「それ、花梨の前で言ってみろよ」

 

「興味が無いんで遠慮しておきますわ」

 

 どこから取り出したのか、女性は粉雪が描かれた黒い扇子で口元を隠す。

 

 正面から博麗の巫女へ喧嘩を売るということは、それこそ自殺行為に等しい。妖怪退治に特化した博麗の巫女は、妖怪という存在に対して恐ろしいほどに強かった。

 

 ならば残る線は限られてくる。

 

「で? アンタは花梨の知人か何かか?」

 

「そうね……友人ではないし、知人が一番近しいかしら」

 

「何しに来たか、教えてもらってもいいか?」

 

 少し考えるような素振りを見せ、女性はただ笑みを濃くしただけだった。

 

 頭痛を覚える。

 言葉遊びをしている感覚だ。女性の言葉の一々が裏を含んでいるようで、自然と深く考えてしまう。知識量だけなら魔法使いに敵う相手などいないと思っていたのだが、認識を改める必要があるようだ。

 

 サツキの眼前に佇む女性が抱える知識量は、魔法使いである母を遥かに凌いでいる。

 

「あんた、何者だよ」

 

「ただのしがない妖怪よ。それ以上でもそれ以下でも、ましてやそれ以外でもないわ」

 

 ただのしがない、つまり取るに足らないと彼女は語る。

 それは謙遜か、はたまた冗談か。どちらにしても質の悪い話であることに変わりはない。

 

「しがない妖怪ねぇ。何時からこの幻想郷は、あんたみたいな理不尽がうじゃうじゃと闊歩する魔境になったんだ?」 

 

「さあ? 割と昔からだったと思うわよ」

 

「つまり最初からここは魔境だったと」

 

 女性は楽しそうに頷いた。

 今ここに、幻想郷魔境説が提示されたわけであるが、それに付き合うつもりは、残念ながらサツキにはない。

 相手の用事については見当を立てている。これ以上の時間の消費はお互いによろしくないだろうと、黒く染まりかけている空を仰いで思考した。

 サツキは背を向け、女性へと背中越しに言葉をかける。

 

「アンタの用事って、どうせ花梨なんだろ? すぐ呼んでくるから、ここで少し待っていてくれ」

 

 縁側を後にしようとするサツキの背に、女性の声がかかる。

 僅かばかり振り向けば、金色の瞳がサツキを射抜く。その瞳は力強く、底冷えするかのような冷ややかさを孕んでいた。

 初めて見る、彼女の妖怪としての顔。

 

「サツキ・マーガトロイド。貴女は夜がお好きかしら?」

 

「……」

 

「ねえ」

 

 心の底を見られているかのような錯覚を覚える。

 嘘は許さないと、彼女の瞳が告げているように思えた。

 

「……嫌いじゃないよ」

 

 後ろで、何やら満足げに微笑む姿が見えた。

 それを最後に、もう声が掛かることは無い。振り向くことなく、サツキは花梨を呼ぶために居間へと向かう。

 

 ただサツキは、女性が自分の名前を呼んだことだけが妙に気になった。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「花梨のことをよろしくね」

 

 八雲紫という名前らしい女性は、最後に私へ言葉を残して夜道を帰っていった。どうやら食材を届けに来ただけなのだそうで、隙間から一通りの食材を”私”に預けると、さっさと帰ってしまった。本当、あの隙間はどういう原理なのか。

 

 未知のことに好奇心を掻き立てられるのは、魔法使いの端くれだからか。

 その原理を理解したところで、あれを扱おうとは思わないのだが。それほど、紫が言うスキマというものは悍ましかった。

 

「それにしても、紫さんが直接届けにくるのは珍しいですね」

 

 博麗神社の居間。夕食の席で、花梨は思い出したかのように呟いた。

 

「ってことは、普段は違うのか?」

 

「ええ。普段は紫さんの式である藍さんが来てくれるんですけど、何か他に用事があってそのついでとかですかね」

 

「いや、私に聞かれても分からないんだけど……」

 

 八雲紫とは本日が初対面。話だけなら花梨から聞いていたのだが、会話をするのは今日が初めてだ。胡散臭いながらも信頼は出来る女性というのが、彼女と直接会話をした私の感想である。ただ、注意も必要だとは思っているのだが。

 

「なあ、あの人って花梨の親みたいなものなんだろ?」

 

「そうですね……間違いではありませんけど、正確には私の保護者みたいなものです」

 

 二人で炬燵を挟んで腰を下ろす。祈里には汚れてしまわぬように部屋の隅へと退避してもらっている。

 夕食の席で発した私の疑問に、花梨はあっさりと答えてくれた。

 

「私には両親がいません。なので、博麗の知識も技術も、紫さんや藍さんから教わりました。それに、先ほどのように食材なんかも持って来てくれるんです」

 

「へぇ。つまり、ここの家計はその二人によって支えられていたわけか」

 

「まあ、そういうことになりますね」

 

 少し照れくさそうに花梨は笑った。

 

 ただ考えてみれば直ぐに分かることだが、神社というものは意外と儲からないものである。纏まったお金が入ってくることはあっても、それが安定して入ってくるかと聞かれれば首を横に振らざるを得ない。もう三ヶ月近く通いつめて分かったことは、参拝客が絶望的であるという事実だけだ。となれば、どのようにして食料などを用意しているのかという疑問に行き着くわけで。

 

 ただ、疑問といえばもう一つあった。

 

「紫さんって、花梨の保護者なんだろう? 一緒に住んでないのか?」

 

 小坊を口に運びつつ、短く問う。

 

「八雲はこの幻想郷において、とても大きな名前です。そんな紫さんが私と懇意にしていると、色々と不都合が生じてきますので。だからこそ、紫さんは私から距離を取っているんだと思います。私が博麗であることも関係があるとは思いますが」

 

 慣れましたけど、と花梨は笑顔で言う。

 美味しそうに味噌汁を啜る花梨を見ていると、あまり気にはしていないのだろう。

 

「へぇー……。八雲ねぇ」

 

 私と花梨は、境遇としてはあまり大差ない。違うのは、共に暮らす人がいるかいないか。そこだけでしかない。二人共実の両親がおらず、保護者として血縁関係でない母親のような存在が居る。

 それでも、花梨は一人だった。そこが一番大事なところだとも思う。

 

「なあ、花梨は一人で寂しくないのか?」

 

「寂しいですか? そうですね、最初は確かに寂しいと思ったことはあります。子供だったということもあると思いますが、何より博麗を継ぐ前は一緒に暮らしていましたから」

 

 昔を懐かしむような表情を浮かべる彼女は、幼少期をどのような気持ちで過ごしたのだろう。

 

「でも、巫女を正式に継いでからはこの広い神社で一人暮らしが始まって。最初は暖かかった頃を思って泣いたりしましたけど、今となっては懐かしい記憶にすぎません。八雲の皆さんは今でも好きですけど、家族とは少し違う感じがして」

 

 今では一ヶ月に五度会えれば良い方なんだそうだ。

 それを彼女は慣れたような表情で、その実何でも無いことのように語る。

 

「こうしてたまにでも面倒を見てもらえるだけ、私は恵まれているんだと思います。中には、保護者もなく一人で生きていかなければならない孤児もいるそうですし」

 

 だからと、花梨は笑顔で言い切る。

 

「私は一人でも、寂しくはありません。それが博麗の巫女として必要なことなのならば、私は全てを受け入れます」

 

 そう語る花梨の姿に私は始めて、巫女としての彼女を見たような気がした。

 

「……巫女業も大変なんだな」

 

「そんなことはありませんよ。慣れれば楽しいものです」

 

「そんなもんなのかねぇ」

 

 生き甲斐、なのだろうか。

 花梨にとって博麗の巫女というものがどういう意味合いを帯びているのか。沢庵を咀嚼しながらそんなことを考える。

 

 もっとも、答えなんて出るわけがないけれど。

 

「それに、巫女をしていたおかげでサツキとも出会えましたしね」

 

「ぶっ!?」

 

「あ、お茶が……」

 

 突然の言葉に口元が緩む。

 咳き込みながら、花梨に渡されたタオルを受け取り口を拭った。

 

 まったく、今のは不意打ちもいいところだ。予期していなかったので、恥ずかしながら口に含んでいた緑茶を吹き出してしまった。だが幸いにも料理に被害は無く、そのことに軽く安堵する。

 

「……花梨は恥ずかしくないのか?」

 

 照れながら問えば、相変わらず表情一つ変えない花梨が首を傾げながら答える。

 

「……恥ずかしい?」

 

「あ、もういいです」

 

 どうやら羞恥心に悶えていたのは私だけだったようだ。

 別に間違いというわけでもないし、そういう言葉を聞くのは素直に喜ばしいのだが。やはり恥ずかしく感じてしまうのは、私が気にしすぎているだけなのだろうか。

 

 あまり考えすぎるのもどうかと思い、一旦思考を頭の隅に追いやる。

 

「そういえば、サツキの両親はどんな方々なんですか? まだ一度もお会いしたことないですよね」

 

「へっ?」

 

「……本当に大丈夫ですか?」

 

「あ、ああ……大丈夫」

 

 少し心配そうにこちらの顔色を窺ってくる花梨に軽く右手を上げる。

 かれこれ二か月の付き合いになるのだが、未だに私の身の上を詳しく話したことがないことを朧げながらも思い出した。

 私だけ花梨の身の上を知っているのも悪いと思い、丁度良い機会だと口を開く。

 

「私も花梨と同じく実の両親が居ないんだよ。母さんはその辺のことは教えてくれないし、私も覚えてない。物心つく頃には母さん……義理の母だけど、母さんと一緒に暮らしてたから、赤ん坊ぐらいの時にはもう実の両親は居なかったんじゃないかな」

 

「じゃあ……サツキは今、義理の母親と二人暮らしなんですか?」

 

「ああ。花梨とこと違うのは、そこだけかな。後はあまり変わらないよ」

 

 だからこうして、一緒にいるのもある種の必然なのかもしれない。非科学的で魔法使いらしくない考え方だが、まだ私が見習いの身だということでここは一つ。

 

「サツキのお母様ですか、一度お会いしてみたいですね」

 

 まだ見ぬ我が母を思ってか、花梨の視線は虚空へ向けられている。

 私個人としても、いつかは花梨を母に紹介したいと思っているのだが、実のところ母はあまり外出を好まない。頼み込めばどうにかなるだろうとは思うが、こればかりは実際に話をしてみないと分からないか。

 

「とりあえず、話だけはしておくよ。あんまり外出を好まない人だから」

 

 魔法の森は私たちのような特殊な人間でないと入ることはできないので、花梨が母と会うのなら母に出向いてもらう必要があるのだが、そこは私の努力次第。なるようになるだろうというのが結論だ。

 

「はい、お願いします」

 

 期待の眼差しを向けられたら、嫌でも説得しないといけなくなる。

 はてさて、どのように説得したものか。とりあえずはありのままを説明して、私の”お願い”として頼み込んでみよう。

 

 だから一つ、頷いて見せる。

 

「まあ楽しみにしててくれ」

 

 こうしてまた一つ、しなければならない事が出来た。

 

 そっと箸を置き、視線を障子の隙間から覗く満月へと向ける。

 あの人も何処かで、あの月を眺めているのだろうか。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 風が金糸の束を攫い、髪が靡く度に放光が女性を彩る。

 夜空に浮かぶ星星の僅かな煌きよりも遥かに美しく、月光を浴びて彼女の金髪は光を放つ。見る者を魅了する輝きは、時として毒にもなり得た。

 

 見事な金髪の女性――スキマ妖怪、八雲紫。

 ここ幻想郷の管理者であり賢者でもある女性は、己の能力であるスキマより降り、音も無く地に足を着けた。少し遅れてドレスが舞う。

 

 ここは幻想郷にある秘境。何処にあるのか、それを知っているのはここに暮らす八雲紫とその従者たちだけである。

 辺りに生える木々はその葉の尽くを枯らし、酷く見晴らしが良い。空には一面に黒い世界が広がり、瞬く星の一つ一つが際立っていた。そんな中、我が物顔で天に輝く満月の何と美しいことか。

 

 高所なのだろう。吹き抜ける風は強く、少し肌寒かった。

 

「おかえりなさいませ、紫様」

 

 主の帰還を察知したのか、そこには九つの尾を持つ女性の姿があった。

 無言で主より荷物を受け取る姿は紛う事なき従者のものだ。九尾の彼女は、従者としても式としてもとても優れていた。

 

「それで、どうでしたか紫様。例の少女は」

 

 今回、わざわざ紫が出向いた理由。それを知っている藍は、収穫はあったのかと言外に聞いていた。

 

「ええ、とても大きく成長していたわ。今年で十九歳になるそうよ」

 

「そうですか、もうそれほど」

 

 あと一つで成人となる年齢。

 紫たち妖怪からすれば、二十年などそれこそ光の速さで過ぎ去るものだ。だが、それが人間ともなれば話は別である。そして、彼女たちは人間の二十年が如何に長いかを理解していた。

 

「少し発破を掛けてみたのだけど、思いの外肝が据わっているみたいで反応が薄かったのが残念だわ」

 

「そんなことをしていたのですか……」

 

「もっと萎縮してくれてもよかったのにね」

 

 思い出すのは、縁側での一幕。

 実力差を理解していながら、彼女の瞳は強い光を宿していた。此方の弱み、弱点を探る抜け目無い瞳。あの、人間らしい力強い眼差しを思い出すと、自然と微笑んでしまうのは侮りなのだろうか。

 

 現場を見ていないので理解出来ないのであろう。藍の表情はあまり優れない。

 ただ、と彼女は言葉を発する。

 

「ですが、私は素直に喜ばしいです。花梨の初めての友人。それも同年代で同性、そんな友人が出来て、少し安心しています」

 

 そう言う藍は、少し花梨に対して過保護な気がある。紫もあまり人の事は言えないのだが、どうしたわけか藍は、今代の巫女に肩入れしているフシがあった。情を抱いているようだ。

 

 博麗の巫女は代々、妖怪退治を生業としている。それは人里にも当然知られていて、いざという時は巫女を頼るのが常だ。そうなれば、嫌でも巫女と人里とでは溝が出来てしまう。力を持つ者を崇めるというのは、つまるところ自分たちとは異なる生き物だと認識するということだ。当然、仲の良い相手など出来るはずもない。

 ただ、それは歴代の巫女にも言えることであり、花梨だけの話ではなかった。

 

 それでも藍は花梨に執着している。その理由も、紫は理解していた。

 

「歴代の中でもあそこまで博麗の御技を操る巫女は、初代と彼女くらいのものだものね。それだけ、友人なんてものとは掛け離れていってしまうわ」

 

 少なくとも、歴代の巫女には少数ながら、気を許せる友人はいた。十八にもなって友人がいなかったのは、紫の記憶では花梨だけである。

 

 ただ、藍はもちろん、紫が花梨に対して抱いていた心配も、件の少女のおかげで胡散したわけだが。

 

「サツキ・マーガトロイド。素直でいい子だし、花梨とも懇意にしてくれている。藍も直接会ってみるといいわ」

 

「そうですね。また神社に顔を出した時にでも挨拶をしておきます」

 

「ええ。きっと驚くと思うわよ」

 

 美しく深い黒の髪。同色に輝く瞳。鋭いながらも温かみを感じさせる眼差し。そして何より、相手が何者であろうと包み込んでしまうような雰囲気。妖怪である紫を前にして、あの少女は取り乱すことはもちろん、距離を置くなんてことをしなかった。

 確かに恐怖心はあるのだろう。警戒心というものも伺えた。ただ、その上で少女は紫を目を逸らすことなく見てくれていた。それが、嫌が応にも重なってしまう。

 

 空に浮かぶ満月。手を伸ばし掴もうとするも、虚空を掴めるわけもなく。

 紫は藍に聞かれない程度の音量で、小さく呟いた。

 

「本当、まるで生き写しだわ」

 

 呟きは夜風に攫われ誰にも届くことはない。

 寒さに震える木々には、よく見れば蕾の姿が確認できた。もう冬が終わる。それを確認し、紫は小さな笑みを浮かべた。

 

 幻想郷の四季が巡りゆく。

 命が咲き乱れる、幻想郷の春はすぐそこだ。

 




 
もう幻想郷では冬が終わるようで。
現実でも早く春が来て欲しいものです。
 
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