この時間帯にやっていたテレビを見てそう思った。
「よいしょっと」
食堂を見つけ、そこに一旦荷物を置く提督。そこからタブレットを取り出し、まずはメールの確認を行う。ないことを確認し、今度はあるアプリを起動しながら、さらにある物を取り出す。将棋盤だ。しかも、起動したアプリも将棋系。
と、言うのもこの提督、結構日本文化が好きであり、一部からは「オタクの域」とも言われているほど。
将棋もその一環とも言え、だが、一緒に指してくれる相手もいないので仕方ないのでコンピュータを使って、さらには実際のモノを使って指すと言う、どうも分からない変な趣味を持っている。
コンピュータをいじり、将棋を指し、それの繰り返し。静かで、尚且つ、駒の置かれる音が静まり返っている食堂に広がる。
数分しただろうか。ガララ、と、扉が開く音を聞き、一度手を止める。振り返ると、女性が四人。服装も全く似通ってない彼女たちとご対面し、一瞬慌てふためくも、心を落ち着ける。
「……初めまして。本日付でこの鎮守府に就くことになりました―――」
「迷子?」
「ですよね……。最初はそう思われますけど……でも、一応、提督です」
癖なのか、後ろ手で頭をかく提督。提督の言葉に四人は思わず顔を見合わせる。
「……あ! 今日だったのですね! すみません、何の迎えもなくて……」
「気にしてませんよ。僕だって今でも驚いていますから」
メガネで巫女服っぽい、大人の女性に大丈夫と示すように提督は言う。
「あ、自己紹介を忘れてました。私は霧島と呼ばれています。それと……」
「うふふ。龍田、よ。よろしくね? 提督さん?」
「は、はい……」
女性に対する耐性がないのか、それとも、龍田の言い方が少し怖かったのか、提督は目をそらす。
「そして、後二人は……」
「加古ってんだ。よろしくな。提督」
「……山城、です」
「うん。よろしくお願いします。……えっと、山城さん、大丈夫ですか?」
どことなく暗い山城に提督は声をかける。山城はコクコクとうなずいただけで、それ以上は言わなかった。
「……え、えっと……霧島さん。……もしかして、遠征ですか?」
「えぇ。今日は2グループに分けての遠征を行ってました。成果をお見せしましょうか?」
「……ううん。みんな休んでからでいいよ」
「え?」
驚いたのは山城だ。目をぱちくりさせて提督を見る。気づいた提督は、後ろ手で頭に回し、言う。
「いや……普通そうなんじゃないのかな……。だから、休んでいいですよ。僕はここにいますし、もしいなかったら提督室にいると思います。多分」
「……了解しました。……ありがとうございます提督」
そう言って、霧島、山城、加古の3人は食堂を後にする。残ったのは龍田だ。
「龍田さんも、戻っていいんですよ?」
「……うふふ。ありがと。……優しいのね?」
「ふえ? ……い、いえ……そんなことない……です」
恥ずかしそうにまた目を逸らし、頭をかく提督。クスクス笑いながら龍田は近づき、少々小柄な提督を、弟をしつけるようにこういった。
「……貴方は、亡くならないでね?」
「え……だ、大丈夫ですよ。……むしろ、龍田さんたちが心配です。でも、今の言葉……」
質問しようとした提督だが、それより早く龍田も「じゃあ、休んでいるわね」と言って後にする。あ、と声を出したときにはもう、提督は一人になっていた。
「………なんだったんだろう……さっきの山城さんと言い、龍田さんと言い……この鎮守府、何かあったのかな……」
大鳳さんや天龍さんに相談しようかな、と思ったが、踏み込んではいけないと思い、知りたい気持ちを抑えて、もう一度辺りを見渡す。食堂、だけあってアレはあるのかもしれないと思い、一度タブレットを閉じ、キッチンに立って冷蔵庫を開ける。
「………よし」
*****
「……提督?」
大鳳が食堂に入り、鍋を使って料理をしている提督を見つけ、近づく。足音が聞こえて提督は大鳳のほうへ向く。
「ん……? あ、大鳳さん。すみません、勝手に台所借りちゃって…」
「そんな……提督の手を煩わせるわけには……」
「いいよいいよ。いきなりなのに僕の……あぁ、前の提督の部屋を掃除してたみたいだし、霧島さんたちは遠征に行ってたみたいだし、だったら僕が……ね」
「いえ……提督もわざわざ遠くから来たらしいので疲れてるのでは……」
「だから、大丈夫だから。……掃除終わったんだよね? ずいぶん時間かかってたみたいだけど……」
「あ、え! ……えっと、怒らないで聞いてくれますか?」
「うん」
提督は、どうしたんだろうか。と思いながら大鳳を見る。大鳳は目線を逸らしつつも、提督をみて、逸らして、を繰り返し、やがてじっと提督を見つめ、こういった。
「……すみません! バケツの水をひっくり返して提督の荷物に直撃してしまって!!」
「え?」
一瞬、頭が真っ白になった提督。
だが、あはは、と笑って許した。
「大丈夫だよ。あれ、ノートとかしか入ってないし、着替えもすぐ乾くだろうし、何より大切なものはあっちのバックに入れてたから」
「そ、そうなのですか……よ、よかった……」
ほっと胸をなでおろす大鳳。でも、提督は、はぁ、とため息をついた。
「でも、ノートや教科書への直撃はちょっとショックだな……。まぁ、もう一度書けばいいし、大丈夫、かな」
「……お、怒って……ますか?」
「え?」
おずおずとした表情の大鳳に、提督は一瞬不安になるが、すぐに首を横に振った。
「いや、あれロクなものは書いてないから。大丈夫だよ。教科書は……乾かせば使えるはずだし」
「……よ、よかった……」
「……でもちょっと異常じゃないかな? いくらなんでも、直撃程度でそんなに怖がることはないし……。ねぇ……大鳳さん……」
一瞬、どうしてなのか訊きたくなった提督だが、口をぎゅっと閉じて横に振る。いくらなんでも、聞くのはダメかもしれない。そう思ったからだ。
代わりに、提督はこういった。
「……ちょっと手伝ってくれる? 実は米を炊くのを忘れちゃって……」
あはは、と自嘲するように笑って大鳳に手伝ってくれるか聞いてみる。大鳳は元気よく「はい!」と答え、提督と共に夕飯を作ることになった。
西の山へと沈む夕日が、彼女と提督を祝福してるように明るかった。
ちなみに、前回と今回の艦娘は全員改にすらもなってないので大鳳はノーマルカラーです。