でもMVP取ったのは加賀さん。瑞鶴にやってよ……。
「……ふあぁ……」
フタフタマルマル。つまるところ、午後10時。
とりあえず夕飯食べて、今いる艦娘や設備の状況をある程度詳しくまとめ、そして、少々厚めのマニュアルに目を通していた。
その傍らにいるのは大鳳。大鳳も提督の傍らで、ときおり提督の質問に答えていたりしていた。
そして一旦マニュアルから窓へ視線を変え、欠伸をする提督。少し遅れて、つられて大鳳も小さく欠伸をする。その声に、提督は、回転式の椅子を回して隣にいる大鳳に声をかける。
「……ねぇ、大鳳さん。……寝ないの?」
「……大丈夫です。夜は慣れてます」
「だめだよ……仮にも女性なんだから、よく寝ないと。……あ、もしかして、僕が起きてるから、起きてるの?」
「え、あ……はい。そうです。提督が寝るまで、いや、提督が快適な睡眠を確認できるまでの務めですから」
「……じゃあ、もう寝よ。続きはまた明日。しおりはどこかな……」
そう言いながら机の引き出しを開けようとして、カギがかかっていたので動かせずに、次の引き出し、また次の引き出しと開けようとするが、どういう冗談なのか、全部が全部カギがかかっており、開けることはできなかった。
「……いいや。これで代用しよ」
提督は自分のカバンから、自分のメモ帳を取り出して一つのページを破ってしおり代わりにして、本に挟めてパタンと閉じる。
「……じゃ、寝る……」
と、言った直後、まさにバット、いや、ベストタイミングでタブレットからピリリと音がして、それが電通の合図を示していた。
「……何だろ」
そう言って提督はタブレットの電源を入れ、メールを確認する。少しの沈黙、やがて、提督がため息をついて、パタンと置いた。
「……どうしましたか?」
「……本部からの連絡だよ。……この鎮守府に深海棲艦が近づいている。数は少数だが、早めの対処を求む、だって」
「………分かりました」
「あ、だめだよ一人で行くのは。……みんなを起こすのは抵抗感あるけど……」
少しの間唸って、やがて諦めのついたように立ち上がり、部屋を出ようとして、大鳳に説明する。
「……しょうがない。僕が呼びに行く。大鳳さんは先に準備をして。僕はみんなを起こしに行くよ」
「……いいのですか?」
「行かせるのには抵抗感はあるけど……でも、ごめん」
それだけ言うと、提督は部屋を出て別館ともいえる、いわゆる寮に走り出す。本当は部屋に連絡用の電話があったのだが、その部分を読んではおらず、だが、もし読んでいたとしても今のように走っていただろう。
「……何でこんな時間に……?」
疑問に思う提督だが、今は遂行するしかない。
同時に、自分は無力だと言うことをかみしめていた。
誰一人失わないためにも、自分は「提督」になろうとしていた。最適な指揮を執り、誰一人として失わないためにも。
だが、いざなってみると、自分には無い、しかも、女性にしかない力がないことを全身で感じていた。
そんな自分が、提督になってよかったのか―――?
「…………ごめん」
誰もいない筈の、本館と寮を繋ぐ外廊下でつぶやく。
自分は…………無力だ。
*****
抵抗感がありつつも、全員を起こし、素早く告げて自分は監視塔へ走り出す。
ここからだと少し遠いものの、少年らしく体力はそこそこあるようで、自分の部屋から寮、そして今まで走っているのにもかかわらず、あまり息はあがっていない。すぐに監視塔へたどり着くと、ポケットからカギを取り出してドアを開け、エレベーターを無視して階段を駆け上がる。
やがて昇り切り、椅子を退けてスイッチを押す。ここの設備は急いで頭に叩き込んでいたので使い方は分かっていた。一瞬にして部屋中の電気がつき、そこから提督はインカムを取り出して装着する。天井にぶら下がっているモニターが簡略的ながらも、全員の熱源反応を確認できるのには十分な表示だ。
『マイクチェック。ワン、ツー。提督。いますか?』
「……うん。いるよ霧島さん」
『心配すんなって。天龍さまがまとめて倒してやるよ!』
「だ、だめだよ単独行動は。傷ついて倒れるなんて……そんなの……」
『うふふっ。大丈夫よ提督さん? 私が天龍ちゃんが暴走しないように見守ってるから、ね?』
「……お願いします」
『ふあぁ~……やれやれ……寝ていたってのに……』
「ご、ごめん加古さん……いきなり起こしちゃって」
『はぁ……これも、不幸なのかしら……』
「山城さん……ごめんなさい……」
『大丈夫よ提督。……初任務、お願いしますね』
「……分かった。大鳳さん」
声をかけながら提督はモニターを睨み付け、キーボードを立ったまま操作して拡大表示をする。……確かに、遠くから敵の反応を示すマーカーが表示されている。
…………誰一人、失うものか―――!
「………全員、出撃してくれ。……できる限り、指示をだす!」
『了解!』