「…………寝つけない」
提督の部屋に取り付けられている扉の、小さな就寝室。ベットと白い壁とそれに取り付けられている時計に木の床、小さな窓から月の光が照らしている以外はほとんどない、まるで牢獄みたいな部屋だ。ただ、床の跡からして、本当はテレビやそれを置くための物もあったのかもしれない。
そんな部屋の中、提督の制服を脱いでジャージ姿となっていた提督は窓の外をぼぅっと眺めて、ため息をついた。
前の提督はどんな人だったのだろうか。さしずめ、僕よりも優秀で、的確な指示を出していたに違いない。それほどまでに、自分の何もない能力を恨んでいた。
「………何で僕なんかが、この鎮守府に配属されたんだろう」
他にも優秀な人物がいたのかもしれないのに。ほんの半日前までは候補生だった自分なのに。
なのに……何故、自分なのか。
答えを知る人物は、この中には誰もいなかった。
「…………」
ベットから起き上がり、扉を開け、部屋の明かりをつける。パチパチッ、と光がついて、部屋を照らす。
タンス、机、ソファーにテーブルと、まさに執務室のような印象で、どれほどまでに、彼の想像した前の提督の印象を加速させたのだろう。
…………僕は、何もできなかった。
そんな僕が、いてもいいのか―――――――――
―――コンコン
「!? あ、は、はい! 起きてまう!」
最後の方をあわててしまったために噛んでしまった提督、しかもジャージ姿だと言うことをあわてて思いだし、だが、それよりも早く、「失礼します」と言う声が聞こえて、提督は動きを止めてしまう。
「……起きていたのですね」
「……た、大鳳さん……」
無意識に目を逸らしてしまう提督。パッと見た限り、大鳳も寝るようで、ジャージだった。
それを悟ったのか、大鳳は扉をしめ、だが、その場から動かずに提督を見る。
まるでそれは、夕飯前の提督と大鳳の立場を逆にしたかのようだ。
「……あの、単刀直入に聞きます」
「……うん」
「………自分には、力がないと思っていますか?」
「っ……うん」
正直に、痛いところを突かれたが、嘘も隠さずに答える。大鳳はまだ提督を見て、そっと告げる。
「……そんなことはありません。提督は、十分に支えになってくれています」
「……嘘は言わないでよ。……僕は、全くできてなかったじゃないか」
「嘘は言ってません。提督が嘘を言わないのなら、私も嘘をつきません」
「………」
「提督。……あなたが今日配属されてよかったと思うわ」
「……どうして」
若干自暴気味に提督は大鳳に言葉をぶつける。だが、大鳳は一歩も引かず、それよりも、さらに一直線に提督を見据える。
「私は嬉しかったの。今回の戦いの際、私達の身の安全を最優先にしてくれてあの命令をかけてくれて」
「そんなの、普通だよ……別に、僕なんかじゃなくたって……」
「それに、夕飯の際も、私達と一緒に食べていた。さらに、遠出の筈なのにもかかわらず、夕飯を作ってくださった。そして……」
「……言わないでくれ。もう、言わないでくれ。……別に、別に僕なんかじゃなくても、どんな提督でも同じだろ!?」
思わず叫んでしまう。あ、と思ったころには、提督はやってしまったと思い、目を伏せてしまう。嫌われたのか。
……否。大鳳はずっと一直線に提督を見ていた。冷たい目なんかではない。母のような、暖かい目。
「……前の提督は、そうではありませんでした」
「………」
「作戦を第一にし、我々艦娘たちの命を軽視していた」
「………」
「だから………貴方が今日、ここに配属されて、私は………いえ、私達は本当に、嬉しいのです………っ……」
ポタポタと、大鳳の目から涙があふれ出す。ピチャンと、床に落としたはずなのに、部屋に響く音。その音に、提督はゆっくりと、顔を上げる。
「……た、大鳳………」
「そう思うと………そう思うと………私は、私は……っぁ……」
「………ッッ!」
思わず、走り寄って確認も取らずに大鳳を抱き寄せる提督。自分も、大鳳も、震えていた。
少女らしく、小さく震えていて、提督も、それにつられて、自分の弱さ、そして、彼女たちが持っていた傷に泣いて。
「本当に、本当に、本当に…………僕なんかが提督で……いいの……?」
「はい………はい……どうか、どうか……提督は……ずっと、そのまま優しさを、ずっと……」
「………ごめ……ん……大鳳……本当に……ごめんな……!!」
……もう、泣かせたくない。ギュッと強く抱きしめ、誓う。
仲間を失う悲しみ、僕に非道な作戦を出さないでほしい願い、そして、彼女自身を泣かせないように―――。
僕は…………強くなりたい。
無力だけど………誰も失いたくない。
艦娘の―――大鳳の涙を………もう、見たくない――――――