「何やってんの、アンタ?」
まるで他にも誰かがいるかのような紫の発言、気になった霊夢が突っ込んでみたが。
「お気になさらず」
紫は何処吹く風、といったようすだ。
「……まあいいわ」
あまり気にしてもしょうがない、紫が胡散臭いのはいつものことだ。そう霊夢は判断することにした。そんな霊夢と紫の問答はそっちのけで自作のメモを見ていた魔理沙が顔を上げる。
「……なあ、ゲーム開始時とか終了時とかって何だ?」
「何よ急に」
「いや、赤を纏めていたら気になって」
「まめね、アンタ」
「いや、基本だろ?」
まあ記憶力に自信がなければメモを取った方がいいのは確かだ。じっくりと複数の赤を眺めることで新たに生まれる青もある。
「ゲーム開始時終了時というのは文字通りの意味ですわ、意外とこれがトリックの根幹を握っているときもある重要なものです。今回がそうだとは言いませんが」
「ならその時に説明しなさいよ」
「忘れていましたわ」
「歳……」
悪びれもせずに堂々と言う紫に対し霊夢がボソッと呟く。
「何か言いましたか?」
「何でもないわ、とにかくゲーム開始時終了時の定義を教えなさい」
「そうね……【ゲーム終了時とは藍が死亡した時点を、ゲーム開始時とは藍が死亡する五分前を示す】こうしておきましょうか」
「何か雑ね」
「まあ、ぶっちゃけると正直そこまで重要な点じゃないもの」
このゲーム終了時の定義によって生まれるトリックもあるのだが、今回は完全にスルーしてもらっていい、ということなのだろう。
「藍が刺されたのはどのタイミングなんだ?」
「ゲーム終了時になるわね、藍は即死だから」
「赤で頼む」
「【藍は即死】これでいいかしら?」
「いいぜ」
「しっかし、だからどうしたって感じね」
「だから言ったじゃない」
「アンタが最初から説明していれば問題なかったのよ」
「それに関しては一応謝罪しますわ」
そうは言うがどう見ても謝っているようではない、まあ気にしてもしょうがないかと霊夢たちは思うことにする。
「とにかく、だ。今は謎解きの続きをしようぜ?」
「それもそうね、とは言ってもちょっと息詰まってきたかしら?」
そう言って霊夢は魔理沙のメモを覗き込む、現状の赤を踏まえて考えるとかなりの可能性がつぶされているのが分かる。
「道具も仕掛けもなしにどうやったらナイフが百メートルも飛ぶのか、だな」
「割と困った感じね、どう考えたものか…」
ふーむ、と二人して考え込み、それを紫が楽しそうに見守っている。
「……あ、じゃあこんなのはどうだ? 『水の勢いを利用してナイフを刺した』」
「ごめんなさい、どういう意味なのかしら?」
考え込んだ後提示された魔理沙の推理、しかし説明が簡素すぎて魔女役である紫にはピンと来ていないようだ。
「いや、ホースの口を押さえた状態で水を流すと勢い良く水が噴出するよな? あんな感じで水流に乗せて飛ばすって推理なんだけど」
本人もきっちりとしたところまでは推理していないのだろう、ふわっとした説明であったが今度はどういう考えであったのか紫にも分かった。
「ああ、そういう推理なのね……ううん、どう返したらいいかしらね……【橙の周囲には川、湖、海などは存在しない】これで頼むわ」
「んじゃ同じ発想で風は? 『空気の流れを利用してナイフを刺した』」
「また面倒なことを……ぶっちゃけるとそんなトリックじゃないわよ。でもまあ、【気流等は関係ない】一応これで頼むわ、正直いまいちな赤だけれど関係なさ過ぎて斬りづらいのよ」
あまりにも想定の範囲外の推理だと逆に赤で斬りづらい、魔女の意図に反した推理が出てくるのもまたこのゲームの常ではあるが。
「見当はずれってことか、ちょっとだけ自信があったんだけどな。しっかしこうなるとどうすっか、何もなしに百メートルもナイフを投げるとか無理じゃないか?」
「あら、そうなると魔理沙は魔女に屈することになるけれどいいのかしら?」
「まあそれはそれで癪だな、もうちょっと考えてみるか……」
「そんなに難しくはないのだけれどね、視点を変えて考えてみれば一発のはずよ」
「視点、ねえ。この状況でどう変えればいいのやら」
紫の発言に魔理沙は指をつーっと横にスライドさせる、おそらくナイフが飛ぶ様子を示しているのであろう。すると当の魔理沙ではなくそれを見ていた霊夢が何かに気付いた。
「……ああ、なるほど」
「霊夢?」
「あら、気がついたのかしら?」
「たぶんね、ちょっと回りくどく行かせて貰うわ。復唱要求、「橙と藍は百メートル以上離れた場所にいる」」
これは気がついているわね、そう思いながら紫は霊夢の復唱要求にこたえる。
「【橙と藍は百メートル以上離れた場所にいる】」
「復唱要求、「橙と藍は水平方向に百メートル以上離れた場所にいる」」
「へ?」
どういうことだ? という顔を浮かべる魔理沙と違い、紫は微笑みながら首を横に振る。
「……拒否しますわ、理由は言うまでも無いわね?」
「ええ、もう分かったからいいわ」
「それじゃあ貴方の推理をどうぞ、霊夢」
「『橙は藍の百メートル以上高い場所に居た、その地点から眼下の藍に向かってナイフを落とした。ナイフはその勢いのままに落下地点に居た藍に刺さり彼女を死に追いやった』、どうかしら?」
「――はい、正解。霊夢の推理通りよ」
霊夢の青の真実を否定する赤の真実は無い、つまりは魔女の敗北だ。紫は勝者である霊夢に対してパチパチと拍手をして称える。
そしてようやく合点がいったのだろう。魔理沙は若干悔しそうな顔で軽く頷く。
「……ああ、なるほど。普通に水平方向で考えていたぜ、そういうことだったんだな」
「このゲームはそういった思い込みが邪魔をするゲームだから、柔軟に常識を捨てて考えないと魔女に化かされるわよ?」
こうに違いない、そんなはずはない。それに囚われているとこのゲームにおいて勝つことは出来ない、絶対の真実は赤のみなのだから。
「肝に銘じておくぜ、それにしても良く分かったな」
「視点を変えるって言われた時にアンタが指を横に動かしていたからね、横を変えたら縦だなって思ったのよ」
「じゃあ私のおかげで分かったってことだな」
「調子に乗らないの。それにしても、言っておいてなんだけど刺さる、これ?」
「理屈上可能であればいい、実際の成功率はある程度投げて考える。あくまで屁理屈、そういうことよ」
現実で考えると不可能だろう、しかし出来ないとも言い切れない。屁理屈推理とはそういうものだ。
「まあ、そういうことならいいんだけど」
「それに考えてもみなさいな、普通のミステリーのトリックだって常識的とは言いがたいわよ?」
「……まあ、そうかもね」
と言ったところで紫は二人に問う。
「さて、二人とも初めての探偵役はどうだったかしら?」
「まあまあね、暇つぶしにはなったわ」
「結構面白かったぜ、当てられなかったのが悔しいけど」
「じゃあもう一問する? ストックはまだあるのだけれど」
「今度ね、今日はもういいわ」
「あら、そう? 魔理沙は?」
「んー……一人でやってもしょうがないか。私もパスで」
「それならまた今度にしましょうか」
では、本日はここまで、ということで。そう言って、紫はパンと扇を閉じた。
解答編です、とても簡単な真相でした。これで屁理屈推理合戦に興味を持ってくれる人が少しでも居ればよいのですが、どうなのやら。しかし地の文がいらんよな、これ。まあ台本形式嫌いですし会話文だけだと文字数少ないし、致し方ないか。
さて、次回は気が向いたらまた書きます。たぶんまた簡単なトリックになるでしょうね、私の頭はそこまで良くないのです。次回があるとして探偵役はどうしようか、もう一人ぐらい増やそうかな。ではまた。