当ゲームにおける基本ルール
1.【】で囲われたものを赤き真実とする。赤字の内容は絶対の真実である。
2.『』で囲われたものを青き真実とする。探偵が己の推理を提示する際に用いる。
ただし、探偵の提示する青は魔法を否定する内容でなければならない。
3. 魔女は提示された青字に対して、赤字を使って反論する義務を持つ。
青字を否定できない場合魔女側はリザインを宣言し、探偵の勝利となる。
なお、赤字での反論が有効かどうか、探偵はよく検証する必要がある。
4. 人間側は「」で囲われた文章を提示することで、
魔女に対しその文章を復唱することを要求できる。
ただし、魔女側はそれを行う義務を負わない。
5.探偵は、復唱要求や青き真実を使うまでもない疑問、質問を魔女に問うてもよい。
ただし、魔女側はそれに答える義務を負わない。
以上
「さてそれじゃ、第二問を始めましょうか」
少しの休憩を挟んだ所で、永琳がそう宣言する。すると、輝夜と慧音、そして意外と乗り気になってきたのか、妹紅もまた特に何か不満を言うでもなく、自然と永琳に視線を向ける。
そうすると永琳は、きちんと自分に注目が向いていることに、満足そうに一つ頷いて、
「ではまずは、いつもの幻想から始めましょうか――」
『ああ、失敗したっ!』
道を全力で走りながら、焦ったように阿求が叫ぶ。体が弱く、普段は絶対にこんな事をしないだろう彼女が、何故息を切らしながら全力で走っているのか。
『何でこういう時に限って寝坊する!? これじゃ小鈴に本当に怒られるじゃないの!!』
待ち合わせに遅れてしまう。それが、彼女が本気で焦っている理由であった。その程度、と思うかもしれないが、今回ばかりは、本当に遅れてはいけない待ち合わせであった。それこそ、普段はどちらかというと、小鈴を叱る立場である阿求が、逆に滅茶苦茶に叱咤されてしまうことが目に分かるほどに、重要で絶対に遅れてはいけない待ち合わせなのだ。
しかし、現実は無情と言うより他ない。ちらと阿求が時計を見れば、既に待ち合わせの時間まで十分を切っている。まだまだ待ち合わせ場所までの距離は遠く、運の悪いことに近くにはタクシーの一台も走っていない。そもそも、本来であれば使う予定であった車が、当日になって故障してしまった時点で、もうお仕舞いだったのかもしれない。
『間に……合わない……!』
体力を使い果たして立ち止まり、荒い息を吐きながら、阿求は万事休すとうなだれる。もうどうしようもないと、彼女が諦めてしまった、その時だ。
『――助けてあげましょうか?』
『え?』
謎の声に、阿求が頭を上げてみると、そこには一人の女性が立っていた。長い金髪と紫の衣装、そして大きな日傘を持ったその女性は、荒く息を吐く阿求に向かって、妖艶な笑みを浮かべて言う。
『貴女、何処か遠くに行きたいんでしょう? よろしければ、私が連れて行って差し上げますわ』
『ありがたい……申し出ではありますが……もう、時間がないですから……』
疑うよりも先に、阿求は時間がないことを理由として、女性の申し出を断った。疲れと焦りから頭が回っていなかったが故の返答であったが、それに対し女性は、クスクスと笑って、
『大丈夫ですわ。今からでも、十二分に間に合いますもの――こんな風に』
『え? ――わっ!?』
パチン、と女性が指を鳴らす。次の瞬間、阿求の足元に、何やら穴のようなものが空き、その中に吸い込まれるように阿求は落下した。一瞬の浮遊感の後、阿求の体は再び地面に足をつけた。
すると、
『……阿求? え、あれ? いつの間に来たの?』
『………………は?』
いつの間にか目の前に、友人である小鈴の姿が現れていた。何故と思い、そして周りの景色から気付く。小鈴が急に現れたのではない。自分の方が、彼女のいた待ち合わせ場所に現れたのだと。
『一体……何が……?』
怪訝そうな表情を浮かべる小鈴を無視して、阿求は周囲を見渡す。一体、何が起こったというのか。その答えが、さっぱり彼女には分からない。分かるのは、あの女性が何かをしたのだろうということくらいだ。
『……これが魔法ですわ』
はたして、気の所為なのだろうか。驚愕する阿求の耳に、あの女性の声が聞こえた気がした…………
「――以上、これが今回の幻想描写よ」
さて、と幻想を語り終えた永琳は、これからが本番であると言いたげに人差し指を立てながら言う。
「赤を述べましょう。【ゲーム開始時において、阿求は地点Aに存在した】【ゲーム開始時において、小鈴は地点Bに存在した】【地点Aと地点Bは十キロメートル以上離れている】【ゲーム開始から十分以内に、阿求は地点Bに到着した】の、まずはこの四つの赤から、推理を始めてもらいましょうか」
永遠亭での屁理屈推理合戦、第二幕の始まりである。
「とりあえず、移動系の謎か。単純に考えると、まあ何か乗り物を使ったってことになるんだろうが」
「最低でも、平均時速六十キロ以上ということになるから……まあ、同じく素直に考えるのならば、『自動車を使った』ということになるが」
「【自動車、及び動力源を持つ乗り物は使用していない】」
「でしょうね」
切られた赤に輝夜や妹紅、言い出した慧音自身も頷く。流石に、ここまで単純な話だとは誰も本気で思っていない。
「んじゃ、また素直に、『阿求は高所から落下した』というのはどう? ええと……」
「地上から十キロ上空からスタートしたとすると、大体一分と経たずに下まで到達するわね。空気抵抗を考えなければ、ということになるけれど」
「誰も頼んでいないんだけど」
「あら、ごめんなさい」
「まあまあ」
しれっとした顔で暗算をした輝夜に、妹紅が不機嫌そうな表情を浮かべて文句を言い、そんな彼女を慧音が宥める。そんな三人に――正確には二人に対し――苦笑しつつ、永琳は先の青に応えるために口を開く。
「【今回のゲーム盤において、重力の影響による物体の加速、ならびに減速は発生しないものとする】わ。これでいいかしら?」
「……まあ、とりあえずは」
「機嫌を治せよ、妹紅。しかし、乗り物も落下も駄目となると、次は水かな。『水の流れを利用した』というのは? まあ、どれだけ激流なんだという話になるだろうが」
「それは……【阿求は水流を利用した移動を行っていない】で、いいかしら?」
「ふむ? まあ、一先ずはそれで問題ない」
「あとは……んー、『実は阿求は運動能力に優れており、自転車でも時速六十キロ以上を出す事が出来た』というのは? 確か、自転車の最高速度のギネス記録って時速で百キロ以上が出ていたんじゃなかったかしら」
「百キロ? 人力で?」
「かなり特殊な自転車を使ったらしいけれどね」
「ふむ、自転車……」
輝夜の青に、永琳は少し考えるような素振りを見せて、
「……そうね、【阿求の身体能力は一般的な少女のものと同程度】としておくわ。流石に、いくら特殊な自転車でも、動力がない以上普通の女の子じゃ時速六十キロは出ないでしょう」
「さっきの重力云々は、坂道を下った場合も適用されると考えていいのかしら?」
「勿論」
「ありがとう」
「しかしそうなると、一体全体どういうことになるのか……」
ふむ、と三人が考え込む素振りを見せる中、ふと永琳が口を開く。
「ああ、そうそう。一つ、念のための注釈として、赤を追加しておくわ。【今回のゲーム盤は、現在の外の世界と比べてある程度未来の話である】」
「……未来?」
どういう意味だ、と永琳の赤に対し、三人は怪訝そうな表情を浮かべる。
「ええ、まあ、念のためだけどね。私は外の世界における技術レベルや社会構造なんかを厳密に把握しているわけでは無いから、その齟齬を誤魔化す為の赤だと思って頂戴。ただ、あくまで基本的には現在のものだから、よほど無茶苦茶な真相ではないと思ってちょうだい」
永琳の言葉に、じゃあ、と手を上げたのは妹紅だ。
「無茶苦茶っていうのは、例えば『物理法則がそもそも違う』とか、さっきの『一般的な少女の身体能力というのが現実のそれと違う』とか、あとは『全て仮装空間内の出来事であり、現実離れした現象を起こす事が出来る』みたいなことになるのか?」
「そうね、そういうのは違うってことになるわ。だから、【ゲーム盤における物理法則は外の世界のそれと同じ】【ゲーム盤における人類の身体能力は現在のそれと同じ】【仮想空間内での出来事ではない】という風に切る事が出来る。加減が難しいけれど、まあその辺はもう青を使ってちょうだい。面倒でもちゃんと切るから」
「なるほど、把握したわ」
しかしとなると、また色々と考えなければならないことが増えたということになる。一体全体、真相はどういうものであるのか。三人はより深く、思考の海の中に沈み始めるのであった。
今回出た赤字纏め
【ゲーム開始時において、阿求は地点Aに存在した】
【ゲーム開始時において、小鈴は地点Bに存在した】
【地点Aと地点Bは十キロメートル以上離れている】
【ゲーム開始から十分以内に、阿求は地点Bに到着した】
【自動車、及び動力源を持つ乗り物は使用していない】
【今回のゲーム盤において、重力の影響による物体の加速、ならびに減速は発生しないものとする】
【阿求は水流を利用した移動を行っていない】
【阿求の身体能力は一般的な少女のものと同程度】
【ゲーム盤における物理法則は外の世界のそれと同じ】
【ゲーム盤における人類の身体能力は現在のそれと同じ】
【仮想空間内での出来事ではない】
以上
はい、久々の屁理屈です。書く気が湧いたので、前回予告した謎を出すことにしました。まああまり難しいものではないので、あっさりと解かれるかも……って、何か毎回言っている気がしますね。複雑な謎を考えられるほど私は頭が良くないので、当然と言えば当然ですが。
次回の投稿に関しては、反応を見つつ適当なタイミングで投稿するつもりです。少なくとも一週間以上間を開けるってことは無いようにしたいですが、さてさて。ではまた。