当ゲームにおける基本ルール
1.【】で囲われたものを赤き真実とする。赤字の内容は絶対の真実である。
2.『』で囲われたものを青き真実とする。探偵が己の推理を提示する際に用いる。
ただし、探偵の提示する青は魔法を否定する内容でなければならない。
3. 魔女は提示された青字に対して、赤字を使って反論する義務を持つ。
青字を否定できない場合魔女側はリザインを宣言し、探偵の勝利となる。
なお、赤字での反論が有効かどうか、探偵はよく検証する必要がある。
4. 人間側は「」で囲われた文章を提示することで、
魔女に対しその文章を復唱することを要求できる。
ただし、魔女側はそれを行う義務を負わない。
5.探偵は、復唱要求や青き真実を使うまでもない疑問、質問を魔女に問うてもよい。
ただし、魔女側はそれに答える義務を負わない。
以上
「……んー、じゃあとりあえず二つほど思いついたから言うぞ」
しばしの沈黙の後、まず口を開いたのは妹紅だ。
「はい、どうぞ」
「まずは一つ目、『地点Aあるいは地点Bが自ら移動した』」
「【地点A、地点B共に移動していない】」
「エレベータはなしと。じゃあ二つ目、『動力源を持たない乗り物を使用した』」
「具体的には?」
「人力車とか、馬車とか。前者はともかく、後者なら出来そうだし」
「ふむ、個別に切ってもいいけど、面倒ね。じゃあ……【動力源が外部に接続されているような乗り物は使用していない】とするわ。言いたい事は伝わるでしょう?」
「ん……まあ、そうだな」
「もういいかしら?」
「……癪だが一度下がる」
それは良かった、とからかうように言って、さてと輝夜は永琳に視線を向ける。
「じゃあ、さっきの妹紅と同じく、外部動力の存在を考えて、『歩く歩道の類を使用した』」
「時速六十キロの歩く歩道って、歩けなさそうね。まあともかく、【歩く歩道の類は使用されていない】わ」
「ならスケールを大きくして、『地球の自転、あるいは公転運動によって阿求は移動した』というのは? 座標を宇宙的に見るのであれば、これもありだと思うのだけれど?」
「……んー……そうねえ……」
と、輝夜の答えに対し、永琳は少しばかり考えるような素振りを見せたあと、
「いいわ、【阿求は地球の自転、公転運動で移動したわけではない】」
「あら、切るのにちょっと時間がかかったわね?」
「ブラフ、という言葉があるのは知っているでしょう?」
「……いや、盤外乱闘するなよ」
フフフ、と何やら互いに含みのある笑みを見せあう二人に、妹紅がやや引いたような視線を向ける。無言の殴り合いでもしていそうな二人の空気を吹き飛ばすように、パンと慧音が軽く手を叩く。
「はいはい、そこまでだ。私も先生に青をぶつけたいから、こっちにターンを回してもらえるかな?」
「ああ、ごめんなさい。どうぞ、慧音先生」
「では、ちょっとぶっ飛んでいるかもしれない推理だが、『地点Aでの阿求と地点Bでの阿求は別人だった』というのはどうだろうか? 名前の継承で、擬似的な移動を行ったという推理なんだが」
「残念ながら、【開始時の阿求と終了時の阿求は同一人物】よ」
「それはあくまで終了時だろう? 今回のゲームで、阿求が地点Bに到達した時点でゲームが終了したと聞いていない。名前の継承を二度行えばその赤は無効になると思うが」
「ああ、言われてみればそうね。じゃあ、【ゲーム中、阿求という名前を名乗ったのはたった一名だけ】とすればいいかしら?」
「ふむ、了解した。こちらは復唱要求だが、「今回のゲームにおいて、阿求、小鈴以外の生物は存在しない」」
「もう一人の女はいいのか?」
「多分魔女だと思うからな。無駄は差っ引く」
「まあそこは当たり。【今回のゲームにおいて、阿求、小鈴以外の生物は存在しない】という赤も提示しておくわ」
「では、馬やらに直接乗るのも無理か……いよいよ移動手段が見つからないな。使えそうな自然現象やら動力やらがいい加減…………ん?」
ふと、慧音が首を傾げ、そして何かに気付いたように両の手を合わせる。
「復唱要求だが、「ゲーム開始時の時点で、阿求は停止している」」
「何だ、それ?」
「いや、よくよく考えてみれば、最初から加速していた可能性があったな、と。例えば時速六十キロになるように阿求が投げ飛ばされたとかして、ちょうどそれで地点Aを通過したタイミングでゲームが始まったんじゃないか、と」
『……ああ、なるほど』
と、妹紅と輝夜はピッタリ同じタイミングで納得したように頷く。すると、互いに少しばかり嫌そうな表情を浮かべ、全く同じ姿勢のままにらみ合いを始めてしまう。
「何タイミングを合わせているのよ、輝夜」
「それはこちらの台詞よ。妹紅こそ、私の真似なんてしないでほしいわ」
「はい、はい。だから、喧嘩をするな。で? 結局、復唱要求はどうなんだ?」
「…………拒否するわ。理由は……」
三人の顔を見渡し、ハアと永琳はため息をつく。
「まあ、そこまで分かっているならもう無理でしょうね。はい、じゃあ後は、その細かい舞台を説明してもらえるかしら。どうせなら、三人それぞれに言ってみて頂戴」
「三人それぞれに?」
「ええ、その方が面白そうだから」
「じゃあ言い出した私からかな? 一応私は、『氷上をスケートなどで移動した』イメージだった」
「そうねえ。なら私は、『宇宙空間で宇宙服を着た状態で加速していた』という場面が浮かぶかしら」
「……その二つ以外に思い浮かばないんだけど。じゃあもう、『直接爆風を受けて空中を飛んだ』ってことで」
正解は、と三人が永琳を見ると、彼女は手を輝夜へと向ける。
「はい、姫正解。今回の真相としては、宇宙空間で時速六十キロ以上に加速した阿求が、止まることなく移動したというものになるわ」
「当てたけど、あんまり嬉しくないわね。慧音先生のいいとこ取りをしただけだし」
「あら、素直ね」
「……貴女は私をなんだと思っているのかしら?」
「性格ひん曲がり姫」
またもやにらみ合いを始めた二人に、慧音は呆れたように頭を押さえる。もう宥めることも諦めたのか、二人は無視して永琳に対し話しかける。
「そう言えば、未来云々というのは何だったのだろうか?」
「ああ、ほら、いくら宇宙でも時速六十キロ超の加速なんて、今の外の技術で軽減できるのか私には分からなかったから、その予防線よ。それと、阿求の身体能力を普通の少女としたから、宇宙飛行士扱いは無理だと思って。気楽に宇宙にいける時代、というバックボーンが必要になったということよ」
「ああ、そういうことか。加速の理由は?」
「突発的な事故の類よ。少なくとも自発的な加速ではないつもり」
「そんな未来になっても、そういう事故は起きるということか」
さもありなん、と呟いて、慧音は視線を、本格的に喧嘩を始めた二人に向ける。
「……この二人も、いつまで経っても変わらなそうだな」
「まったくね」
と、何処か保護者染みた視線を向ける二人であった。
はい、ある意味予想通りあっさりと正解が出たので、急いで書き上げました。ストーリーも何も無いからか、青の候補があればある程度はさっくりと書けましたね。まあ、今回は特にあっさりとした本文になりましたが。というか、そもそもの謎が単純なので、書くことはあんまりなかったという。
次回ですが、一応一つ謎はあります。ただ、これはどちらかというと屁理屈よりもウミガメのスープっぽいので、屁理屈に落とすのはやや難しそうな感じ。とりあえずその作業、あるいは他に謎を思い浮かんだ時にも次話を投稿したいと思います。まあすぐさまは無理なので、次回は気長にということで。ではまた。