東方屁理屈録   作:kokohm

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第十六盤、出題編

 当ゲームにおける基本ルール

 

 

1.【】で囲われたものを赤き真実とする。赤字の内容は絶対の真実である。

 

 

2.『』で囲われたものを青き真実とする。探偵が己の推理を提示する際に用いる。

  ただし、探偵の提示する青は魔法を否定する内容でなければならない。

 

 

3. 魔女は提示された青字に対して、赤字を使って反論する義務を持つ。

  青字を否定できない場合魔女側はリザインを宣言し、探偵の勝利となる。

  なお、赤字での反論が有効かどうか、探偵はよく検証する必要がある。

 

 

4. 人間側は「」で囲われた文章を提示することで、

  魔女に対しその文章を復唱することを要求できる。

  ただし、魔女側はそれを行う義務を負わない。

 

5.探偵は、復唱要求や青き真実を使うまでもない疑問、質問を魔女に問うてもよい。

  ただし、魔女側はそれに答える義務を負わない。

 

 

 以上

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――では、屁理屈推理を始めましょうか」

 

 静やかに、紫が言葉を紡ぐ。博麗神社の縁側で、だらりとしていた霊夢と魔理沙であったが、紫の宣言を聞いてすぐに身体を起こし、面白そうな視線を向ける。

 

「何だ、久しぶりじゃないか」

「なるほど、急に来た理由の一つはそれだったってわけ。いいわよ、私は。久しぶりに頭を使うのも悪く無いわ」

「良い返事。魔理沙はどうかしら?」

「顔を見てくれよ、顔を。これが断る顔に見えるか?」

 

 見えないわね、と楽しげな魔理沙の表情を見て笑い、では、と紫は居住まいを正す。

 

「それでは、魔女は私、八雲紫。探偵は博麗霊夢と霧雨魔理沙。久しぶりの屁理屈推理合戦を、ゆるりと始めていきましょう」

 

 そのような前口上の後、紫は幻想を語り始める…………

 

 

 

 

 

 

「――ああもう、なんでだい!?」

 

 小野塚小町の声が響く。見渡す限り、土、土、土。圧迫感しかない洞窟の中、小町は苛立ちと共に叫ぶ。

 

「歩いても歩いても、何処まで行っても出られない! 地図通りならもう出ていてもおかしくないはずなのに!?」

 

 持っていた地図を投げ捨て、小町はその場に蹲る。いい加減にしてくれと嘆く小町の脳裏に、洞窟の前に座っていた老婆の言葉が過ぎる。

 

「この洞窟には魔女がいる…………まさか、そんなはずが…………」

 

 ありえるわけがない。だが、そうであるならば何故、自分は出られないのだ? それこそが、魔女の存在証明ではないのか?

 

「勘弁してくれよぉ…………」

 

 絶望する小町を嘲笑うかのように、魔女の笑い声のような音が洞窟内を走るのであった…………

 

 

 

 

 

「――以上」

 

 コホン、と幻想を語り終わったところで、紫は人差し指を立てる。

 

「では、これより赤を述べましょう。【ゲーム開始時から終了時まで、小町は洞窟の中に居る】【小町は洞窟から出るのに十分な装備を所持している】【小町には洞窟を出る意思がある】【ゲームは小町が洞窟を出るのに十分な時間行われた】」

 

 しかし、と紫は二人の顔を見渡す。

 

「そうでありながら、小町は終ぞ洞窟を出る事がなかった。手段も、意思も、時間も、十分にあったと言うのに。それは何故か。それは、魔女が惑わせたから」

 

 さあ、と紫は楽しげに笑う。

 

「探偵さん達。小町を襲った魔女の幻惑を、見事晴らして御覧なさいな」

 

 それが、新たなる屁理屈推理合戦の始まりの口上であった。

 

 

 

 

 

「まずは定番どおり、状況を見極めるか」

 

 口火を切ったのは魔理沙だ。

 

「復唱要求だ、「小町は健康体である」「小町は光源を所持している」」

「【小町は健康体である】【小町は光源を所持している】」

「もう少し要求するぜ、「小町は移動を制限されていない」「洞窟内は小町が移動するのに十分な広さがある」」

「【小町は移動を制限されていない】【洞窟内は小町が移動するのに十分な広さがある】」

「ふむ……少なくとも移動の邪魔はされていない、かな?」

「聞いた限りは、だけどね。私も復唱要求、「ゲーム終了時、小町は生存している」」

「それに関しては……そうね、【ゲーム終了時、小町は生存している】わ。小町が死亡したから洞窟を出られなくなった、というわけではない」

「なるほど。しかし、どうにも良く分からないわね。何を取っ掛かりにしていいかも、いまいちあやふやだし」

 

 確かに、と霊夢の言葉に魔理沙が頷く。

 

「出られないってのは密室関係と同じだが、だからといって同じ考えが出来るって感じでも無いしなあ。まあ、幾つか復唱要求や青き真実を重ねていけば多少は分かるんじゃないか?」

「それがこのゲーム、か。じゃあ、そろそろ青でも考えましょうか」

 

 ふむ、と少しばかり考え込むような素振りを見せた後、霊夢はピッと人差し指を紫に向けながら言う。

 

「『洞窟がかなり複雑で、小町は出るに出られなかった』というのはどう?」

「【小町は洞窟内を完璧に記した地図を所持している】わ。これも装備の内と思ってくださいな」

「『その地図が汚れていたりして読めなかった』という可能性があるわ」

「【地図に汚れや損傷の類は無い】」

「……地図は大丈夫と。じゃあ、そうね、さっき言った光源。『光源が途中で切れた』というのは?」

「【ゲーム中、光源は十分に機能していた】し、【光源は洞窟内を視認可能にするだけの十分な光量がある】わ」

「んー、明るさも問題さなそうか?」

「たぶん、だけれど」

「まあ方向は間違っていない気もするし、このまま行ってみるか。どうして小町は迷っているのか、あるいは動かなかったのか、をとりあえずの疑問として考えることにしよう」

「そうね……『小町は健康体だったが、お腹が空いて動けなかった』というのは? 本人が動けないだけで、移動が制限されているわけではないとか」

「良い屁理屈だけれど、【ゲーム中、空腹により小町が動けなかったということは無い】わ」

「無理か……」

 

 と、考え込み始めた霊夢の肩を叩き、今度は魔理沙が口を開く。

 

「じゃあ、次は私の番だな。『小町の脱出を邪魔する奴が居た』ってのはどうだ?」

「そうねえ……【このゲームにおいて、小町以外の生命体は登場しない】としておきましょう」

「一気に切られた、か。うーん……なら、『洞窟内に罠があって、小町は解除が出来なかった』」

「【小町は移動を制限されていない】けれど?」

「それだと微妙かなって思うんだぜ」

「じゃあ、【洞窟内に罠の類は無い】としましょうか」

「……今回、結構簡単に赤を切っていないか?」

「割と面倒くさいだろう答えなのよ、今回。だからやや甘く答えているの」

「面倒くさいだろう、か。そりゃまた、大変だ……」

 

 さて、と魔理沙もまた考え込み始める。二人の探偵が推理を積み重ねているこの一時の間に、紫は出されていたお茶を一啜りする。もう少しもしたら水分補給の暇もなくなるだろうからという、これまでの経験からの魔女の休憩であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回出た赤字纏め

 

【ゲーム開始時から終了時まで、小町は洞窟の中に居る】

【小町は洞窟から出るのに十分な装備を所持している】

【小町には洞窟を出る意思がある】

【ゲームは小町が洞窟を出るのに十分な時間行われた】

【小町は健康体である】

【小町は光源を所持している】

【小町は移動を制限されていない】

【洞窟内は小町が移動するのに十分な広さがある】

【ゲーム終了時、小町は生存している】

【小町は洞窟内を完璧に記した地図を所持している】

【地図に汚れや損傷の類は無い】

【ゲーム中、光源は十分に機能していた】

【光源は洞窟内を視認可能にするだけの十分な光量がある】

【ゲーム中、空腹により小町が動けなかったということは無い】

【このゲームにおいて、小町以外の生命体は登場しない】

【洞窟内に罠の類は無い】

 

 

 

 以上

 




 思い浮かんだので久々に投稿しました。たぶん、前回の後書きとは関係ない謎です。当時の私がどういうのを考えていたのか、残念ながら今の私には分かりませんので。どっかにメモとか残しているでしょうか…………

 しかし、毎度毎度のことですが、出題編で最低限の文章を稼ぐのが大変です。赤が足りない分は解答編で書ける事が増えるから問題ないんですが、赤が多すぎるとすぐに答えが分かってしまうというか、私が肝心な所ギリギリまで書いてしまいそうになるんですよね。まあ、幻想描写を厚くするのが一番いいんでしょうが、何だかんだこれも大変なんですよね。誰を出すか、も無駄に時間がかかりますし。今回の文も、迷わせるのは小町にしよう、と決めるのが一番時間をかけた気がする。

 次回は反応を見つつ、一週間以内を目処に解答編として投稿しようと思います。その後はまた、適当に時期を空けることになるでしょうかね。ではまた。



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