当ゲームにおける基本ルール
1.【】で囲われたものを赤き真実とする。赤字の内容は絶対の真実である。
2.『』で囲われたものを青き真実とする。探偵が己の推理を提示する際に用いる。
ただし、探偵の提示する青は魔法を否定する内容でなければならない。
3. 魔女は提示された青字に対して、赤字を使って反論する義務を持つ。
青字を否定できない場合魔女側はリザインを宣言し、探偵の勝利となる。
なお、赤字での反論が有効かどうか、探偵はよく検証する必要がある。
4. 人間側は「」で囲われた文章を提示することで、
魔女に対しその文章を復唱することを要求できる。
ただし、魔女側はそれを行う義務を負わない。
5.探偵は、復唱要求や青き真実を使うまでもない疑問、質問を魔女に問うてもよい。
ただし、魔女側はそれに答える義務を負わない。
以上
そろそろか。そう紫が思ったと同時、霊夢が頷きの後に口を開く。
「いくつか青を出すわ。『洞窟内にアスレチックのようなものがあり、小町はそれを突破できなかった』『小町は出口まではたどり着いたものの、出口が何らかの要因で塞がっていた為に脱出できなかった』『小町は実は子供ないしは幼児であり、成人ならば脱出できる洞窟も脱出できなかった』『地図は特殊インクのようなもので描かれており、特定条件化でないと解読が出来なかった』と、こんなところでどう?」
「一気に来たわね。でも残念、【洞窟内にアスレチックのようなものはない】し、【小町の身体的理由から脱出できなかったわけではない】これで子供云々も切れるわね。そして【ゲーム中、洞窟の出口は常に開放されていた】【地図は一般的なインク等で描かれており、あぶり出しや夜光塗料などは関係がない】」
「じゃあ出口じゃなくて、『通路に障害物があった』」
「【洞窟内の通路は常に通り抜けられる状態にあった】わ」
「『そもそも小町は他の通路から切り離された場所にいた』という可能性は?」
「【小町の居る地点から出口までのルートは常に存在していた】わ」
「なら、『洞窟が桁外れに広く、小町はゲーム時間内に脱出できなかった』あるいは『ゲーム時間が極めて短かった』というのは?」
「ふむ……纏めて斬りましょうか。【ゲームは小町が脱出するだけの十分な時間行われた】加えて、【小町は常に脱出の可能性を有していた】わ」
「それはつまり、その気になれば小町は脱出できたと?」
「そうね。ああ、言っておくけれど、【小町には脱出する意思が常に在った】わ。別に小町のやる気がなくて出られなかったわけじゃないということね」
「となると装備の不足……いや、でもそれは十分な装備があると赤で提示されているし……」
ふむ、と霊夢は顎に手を当てながら考え込み始める。代わり、今度は魔理沙が口を開く。
「じゃあ、今度は私が。ちょっと地図関連で攻めてみるぜ。『実は小町は地図を地図だと認識しておらず、洞窟から出るのに用いることができなかった』とか『小町は地図上において、自分が今何処にいるかを認識できなかった』あるいは『光源が暗かったので地図が見られなかった』というのはどうだ? ……まあ、三つ目に関しては洞窟内を照らせるのに地図は見られないってのはどういうことだってなりそうだが」
「そうね。【小町は地図を地図として認識していた】し、【誰であろうとも、地図を適切に用いれば現在位置の把握は可能】な上に、【光源は地図を見るに十分なものであった】から、最後の言葉だけは間違っていないわ」
「おうおう、言ってくれるぜ」
嫌味ったらしく言われた最後の文に肩をすくめた後、魔理沙は思い出したように手を叩く。
「あ、そういや確認していなかったが、洞窟って普通の洞窟だよな? 洞窟って名前の建物とかじゃなくて」
「ええ、【洞窟とはその言葉が示す通りの場所であり、洞窟という名の異なる施設、場所ではない】わ。世間一般における洞窟、まあ穴が掘られていて曲がりくねっていて、とああいうので間違いないと思って頂戴」
「合っていたようで良かったよ。じゃあ改めて、こういうのはどうだ? 『地図は複数存在しており、小町はどれが正しいものかを当てられなかった』あるいは『実は洞窟は二箇所あり、地図の洞窟と小町が居る洞窟は別のものである』とか」
「【地図は正しいものが一つだけある】し、【このゲームにおいて、洞窟と呼ばれる場所は一つしか存在しない】と切りましょう」
「駄目か。んー、じゃあ『地図はとても高い所に設置されていて、小町は見る事が出来なかった』とか、『地図の縮尺が出鱈目で読み取れなかった』ってのは? あ、『そもそも小町には地図を読む能力がなかった』とか!」
「【小町は地図を見ることも触ることも出来た】し、【地図の縮尺は読み解くのに適切なもの】だったわ。加えて、【小町は地図を読む能力を有している】上に、【地図は小町に解読可能な言語、描写で成されている】ものよ」
「まだまだ! 『地図には出口が書かれていなかった』とか、『地図を動かす事が出来なかったからルートが分からなかった』という可能性が――」
「【地図には出口も含めた洞窟内の全通路が記されている】し、【小町は使用可能な状態のカメラないし携帯電話の類を有していた】わ。勿論、【小町は先にあげた道具を使用できる知識がある】」
「…………うぇーい……どれも違うのかよー……」
途中からぐったりとした様子になりながら、魔理沙は大きく肩を落とす。そんな彼女に対し、呆れたように霊夢が言った。
「こんな所でへこたれていちゃ謎なんて解けないでしょ? というか、なんでそんなに地図に拘るのよ」
「私の魔女としての勘が、地図が一番怪しいって言うからだよ。甘く答えるって宣言があるのに、地図に問題はないみたいな斬り方をしないのも変だしー」
「そこは分かるけれど……いや、言われてみればそうか」
「どうかしたのか?」
「このゲームにおいて、小町は常に脱出の可能性を有していたのよね? だったら、例えば道が塞がっていたとか、そういうのじゃないと考えるのが自然だわ。である以上、小町が地図を読み取れなかったとか、そういう類の答えになる可能性があると思うのよ」
そう霊夢が言うと、魔理沙もだらけていた顔を真剣なものに戻した。彼女は霊夢の言葉に納得したように頷くと、気合を入れるかのように居住まいを正す。
「そういうことなら、もうちょっと頑張ってみるしかないじゃないか。そうだ、『洞窟内に謎を解かないと通れない場所があった』てのは?」
「そうねえ……【洞窟の通路はどの時間においても塞がれていない】わ。そもそも、通り抜けられるとさっき言ったじゃないの」
「あ、そっか」
「焦っても意味がありませんわよ」
「分かっているっての。じゃあもう、あれだ。『地図がバラバラになって読めなくなった』とかだろ」
「……【地図に損傷はない】と言ったはずよ? だから焦っても――」
「それはむしろそっちじゃないの、紫?」
静かな声と共に、霊夢が切り裂くような鋭い視線を紫に向ける。
「今、確かに言いよどんだわよね? 今の魔理沙の青に、根本に繋がる真実があったんじゃないの?」
「あら、言いますわね。だったら、どんな真実が紛れ込んでいるというのかしら?」
「それは…………魔理沙、パス」
「えっ」
ここでか、と正気を疑うような目を魔理沙が霊夢に向ける。それに対し、霊夢はまるで悪びれた素振りもなく肩をすくめて言う。
「だって何が引っかかったのか思いつかないんだもの。そもそもが貴女の出した青である以上、貴女が追求するのが自然というものよ」
「無茶苦茶言うなあ。んー……」
と、魔理沙が腕を組み、周囲を見渡すようにしながら考え込む。うろうろと視線を彷徨わせた後、ふと魔理沙の視線が一所に落ち着いた。そこにあるのは、以前に自分が暇つぶしに持ち込んだ、風景を描いたジグソーパズルだ
「――あ、あれじゃないか?」
「あれ?」
「そう、『実は地図はジグソーパズルに描かれていて、小町はそれを解くことが出来なかった』んだよ。ピースが多ければ解けない可能性はあるだろうし、逆に可能性はあるから脱出の可能性が常にあったってことになる。パズルがバラバラなのは仕様なんだから、欠損もクソもないだろ」
「なるほど……」
どうだ、と期待に満ちた視線を魔理沙と霊夢が向ける。それを数秒ほど受け止めていた紫であったが、ふっと小さく笑った後、お手上げと言うように両の手を掲げる。
「お見事。ここにリザインを宣言するわ。真相もおおよそ魔理沙の言うとおりで間違いないわ」
「――よっしゃ!」
力強く、魔理沙がガッツポーズを取る。そんな彼女にパチパチと軽く拍手を送った後、霊夢は紫に対して口を開く。
「そういうことだったのね。地図の使用が前提の洞窟で、その地図がそもそも完成されていなかったと。よっぽどピースの多いパズルだったんでしょうね」
「ええ。私や勘の良い貴女ならともかく、一般の頭脳しかない人間であれば限界も近いでしょう。端は出来たが真ん中はぽっかり、という風になるのが目に見えているわ」
「ああ、私もピースが多いのやるとそんな感じになるなあ。そうなると途中で飽きて投げ出すんだが、流石に命のかかった状況なら頑張る……かな?」
「その前に、魔法で洞窟を破壊しようとするんじゃない?」
「同感」
「お前らなあ……」
せっかく正解を導いたのにと、からかう二人に対しジト目を向ける魔理沙であった。
はい、解答編です。こういう真相でしたが、如何でしょうか? 納得できぬとも、そうだったのかと思う方もいると思いますが、まあ明るく笑い飛ばしていただけると幸いです。しかし、どうにも地の文で書くことがないからか、あまり長い文になりませんね。やはり出題編を幻想描写メインにして、赤と青の応酬は解答編に絞るというのがいいかもしれません。まあ、その辺は次回、適当な謎が思い浮かんだ時に考えるとしましょう。ではまた。