とある日、八雲紫の屋敷に訪問者の影があった。
「どうも、今よろしいですか?」
「文? ええ、構わないけれど。藍、お茶を頼むわ」
「分かりました」
突然の訪問、それに構わず紫は文を屋敷に招きいれるのであった。
「では私はこれで」
「ありがとう。…それで一体何のようかしら? 何かの取材?」
二人分のお茶を出してその場を去る藍を見送って紫は文をじっと見る、そんな彼女の視線に文は笑顔で話を切り出した。
「ええ、魔理沙さんから少々面白いネタを仕入れたもので」
「魔理沙から? とすると屁理屈推理合戦のことかしら?」
「ええ、そういうことです。なかなか楽しそうに魔理沙さんが語っておられましたから興味を持ちまして」
少し前に偶々彼女と出会った時にその推理ゲームのことを聞かされたのである、それで彼女にそれを教えた紫を訪れたのだ。
「それで私に話を聞きにきたと」
「そういうことです、お願いできませんか?」
「ふむ、そうね…。貴方、魔理沙から基本ルールについては聞いているかしら?」
「ええ、…もしや出題願えるのですか?」
「そのつもりよ、それが一番早いでしょう?」
「あやややや。これはこれは、予想外の収穫となりそうです」
話だけを、と思っていたが実際に体験させてもらえるとは。これ以上の収穫はそう無いであろうと文は喜ぶ。
「貴方の探偵度を試させてもらうわ、即興の謎だから物語はなしよ」
「分かりました、挑戦させてもらいます」
目の前のお茶を一口飲み、紫は謎を語り始めた。
「【はたては死亡している】」
「あの、被害者が知り合いなんですが」
「ちょうど思いついたんだもの、仕方ないわ。【はたての死因は全身打撲によるもの】【はたての遺体がある部屋への出入りはドアからのみ可能】【ゲーム終了時、ドアの鍵はかかっていた】【ゲーム終了時、鍵はドアの内側にあった】」
「ふむふむ、赤はとりあえずそれだけと」
「いきなり全力を出すのもなんでしょう? 上手く私から赤を引き出しなさいな」
それもそうだ、そう頷きつつ文は探偵を始めた。
「では…、『はたては転んで死亡した』というのはどうでしょう?」
「前後の状況が分からないけれどなんとも間抜けな話ね、それだと。【はたては自分のミスで死亡したわけではない】ちょっと微妙な赤で悪いわね、突貫の謎だから色々と難しいのよ」
「ふむ、では『犯人Xがはたてを殺害後、鍵を持って外に出て鍵をかけ、窓から鍵を投げ込んだ』というのはどうですか?」
「【ゲーム開始時から終了時まで、鍵は部屋の外に出ていない】」
「なら、『はたて殺害後、犯人は部屋の中に留まっていた』」
「あー、そうね…」
文の推理に紫は困った顔を浮かべている。
「あれ? 意外とお困りですか?」
「んー…、【犯人は…、ゲーム終了時部屋の外にいる】」
「? なんとも歯切れの悪い赤ですね」
「ちょっと答えにくかったのよ、これをどうとるかは貴方の勝手だけれどね」
「なるほど、そういった魔女の態度も推理の材料にしろと。なかなか奥の深いゲームのようですね、人がいることで最大限機能するゲームであると」
中には苦戦しているふりをして相手を引っ掛ける魔女もいるが、まあそれもまた醍醐味という奴であろうか。
「そういうことよ、それを踏まえて貴方はどう考えるのかしら?」
「んー…、一先ずはおいておきます。ちょっと違う方面に目を向けてみますかね。復唱要求、「はたての遺体は部屋の中にある」」
「【はたての遺体は部屋の中にある】」
「復唱要求、「はたてが死亡したのは部屋の中である」」
「【はたてが死亡したのは部屋の中である】」
「ふむ…」
「そうそう、ヒントをあげておくと部屋と言っても今回は一般的な部屋じゃないわよ」
「一般的じゃない? 複数あるとかですか?」
「そういうことではないわね、赤で言っておくと【このゲームにおいて、部屋、と呼称されるものは一つだけ】よ。要はそれを部屋と呼ぶのかが微妙な話、ということね」
「ふむ? …うーん、復唱要求、「はたては一度も部屋の外に出ていない」」
「【はたては一度も部屋の外に出ていない】」
「なるほど…」
「ヒントを追加すると全身打撲とはどういう状況でなるか、と考えると良いかもしれないわね」
色々と考え込んでいる文に紫はヒントを出す、割と気前の良い魔女である。
「どういう状況か、ですか…」
「効果音で表すと、どーん! かしらね」
「どーん? どーん…」
「紫様、子供っぽいですよ」
「別に良いじゃない、藍」
「では私はこれで」
「…何しに来たのかしら」
何故か唐突に現れてツッコミをいれ、唐突に去っていった藍にぼやく紫。そんな二人にかまわず考え込んでいた文は何か思いついたのか、自信ありげな顔を出口を開く。
「これでいきます、『犯人ははたてを高所から突き落として殺害した』」
「【はたては落下によって死亡したわけではない】」
すぐさま返された紫の赤に、あれ? という顔を浮かべる文、やはり自信のある推理だったようだ。
「あやややや、落下死だと思ったのですけどねえ」
「でも悪くはないわよ、あまり言うと混乱してしまうかもしれないけれど」
「悪くない、ですか」
「それにしても部屋の中で落下死ね。クレーンで部屋ごと持ち上げて落下死、とかあったわね」
「割とよくある奴ですねえ」
「あ、でも今回は逆ね」
「逆?」
「【部屋、はそう大きなものではない】ということよ。部屋の中で落下死できるほどの大きさじゃないってこと」
「ああ、そういうことですか。…うーむ、なかなか難しいですね」
「難しいというよりは、といった謎だと思うのだけれどね。部屋、という文字にこだわると無理かもしれないわ」
「『部屋が小さいもので、部屋ごと投げられて殺害された』確実に違うでしょうが、一応」
「…割と近いわ、どう返そうかしら」
「え?」
思いもがけない紫の反応、予想外の返答に文は驚く。
「【部屋は投げられていない】ということで頼むわ。投げられる部屋、ロッカーかしら?」
「ですね、それをイメージしていました。ふむ、『部屋の外から攻撃されてはたては殺害された』というのはどうでしょう?」
「…ああ、その青はきついわ。と言うか返せないわね」
非常に困った表情を浮かべる紫、しかし赤を返せないということは。
「と、言うことはリザインですか?」
「そうね、そうなるわ」
「肝心の部屋の正体が分かっていませんが良いのですか?」
「わりとあるのよね、全部の謎は解いていないのに根幹の部分を崩されてリザインというのも。魔理沙達とやったときは真相をほとんど解いたけれど」
「なるほど、これもまたこのゲームの特徴、と」
「どうする? 全部ばらすか部屋の正体を探るか、貴方の好きにして頂戴」
「ではもう少しやってみます」
延長戦、最後の謎を解くために文はさらに頭を回転させる。
「復唱要求、「部屋の大きさは一畳よりも小さい」」
「ん…、ちょっと待っていて。一畳の大きさを確認してくるわ」
そう言って席を立ち実際に確認しにいく紫、それを見送った後文は今気がついたような反応をしてから出されたお茶を飲んだ。
「…お待たせ、面積的には一畳よりも大きそうだったわ。でも復唱は拒否させてもらうわね、ちょっと言いにくいことがあるから」
「分かりました」
「でも、一畳よりも小さな部屋もありそう、とは言っておくわ」
「複数あるのですか? でも一つだけと赤で言っていたような気がしますが」
「ゲーム中に出てくるものは一つだけよ、でもいくつか種類があるのよ」
「ふむふむ、そういう部屋だと」
部屋、とゲーム中呼称されているものは複数の種類が存在する、そういうことであろうか。
「まあ、今回の大きさはそれなりにあることにしましょうか。でも小さいものもあるでしょうし、もしかしたらはたての場合はそうだったかもしれないわ。ちなみにとても大きなものもあるわね」
「うーむ…、分かりませんねえ」
そう色々と聞かされたがどうにもピンと来ない、先ほどまでのように何かが降りてくるということもない。要は手詰まりであった。
「答え合わせ、する?」
「…お願いします」
どうにも思いつかない、ということで文は降参の意思を表明する。とはいえ紫にリザインを言わせている以上ゲームとしては文の勝ちではあるが。
「答えは車よ、【はたては交通事故によって死亡した】」
「あー、なるほど」
言われてみれば確かに、そういう反応を文は見せる。こういう発想は出る時は簡単に出るのだが、出ない時は何をやっても出ない、そういうものだ。
「一応小さな部屋、密室ではあると思ったのよね。窓はあるけれど出入りは難しいし。それと一人乗りの小さな奴もある、わよね?」
「はい、ありますね。ふむ、ドアは一つとか復唱要求しておけば良かったですね」
「そうなると流れは変わっていたでしょうね」
たった一つの推理や疑問が全体の流れを変える、それが今回の総評であろうか。何にせよ、魔女と探偵どちらにとっても楽しいゲームであったのは確かだ。
「あやややや、話には聞いていましたがやはり面白いゲームですねえ」
「そうね、私も魔女としてなかなか楽しませてもらったわ。まあそのうち探偵役に回りたいとは思うけれどね。というわけで」
「私がこのゲームを広めれば良いのですね?」
新聞で屁理屈推理合戦を広めれば魔女や探偵も増えるかもしれない、そうすれば紫もまた探偵役としてゲームを楽しめるようになる。魔女も魔女で楽しいのだが、探偵役をやってみたいという欲求もあるのである。
「お願いするわ、なかなか良い時に来てくれたこともあるし」
「良い時?」
「今度博麗神社でまたやるつもりなのよ、良ければ貴方もどうかしら?」
「ああ、それは喜んで参加させてもらいますよ。では私はこれで、早速記事に興したいと思います」
「ええ、それじゃあまた会いましょう」
「はい、ではまた」
その後、文は今回のゲームを新聞にするのだが、それを読んだはたてに絡まれるのはまた別の話だ。
はい、前書きで書いたとおり今回は今日のお昼過ぎに行われたセッション、正確にはセッション前のウォーミングアップのようなものですが、それのログを元に書いたリプレイとなっています。一対一、思いつきの謎で行ったものであったので割と短めです、なので今回は一話に纏めました。大体一時間ちょっとぐらいのセッションだったようです。やはり一人で考えるのではなく実際に誰かとやってみるとそれだけで物語になりますね、すごく書きやすかったです。台本があるのだから当然かも知れませんがね。
今回初めて実際に魔女をやってみましたが楽しかったです。それと次回もまたリプレイとなるでしょう、とはいえ書くのは先のことでしょうが。ではまた。