デート・ア・ライブ ~ルートα~   作:龍竜甲

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高峰プロローグ

――――空間震。

およそ三十年ほど前から確認されている災害で、言わば空間で起こる地震のことを指す。

発生原因不明。発生時の被害範囲も予測不能な現象で発生した場合、その地域一帯が壊滅する場合もある。

現に世界で初めて観測された空間震の被害は、ユーラシア大陸のど真ん中。

ゆうに一億五千万人もの人口がまるで大地ごとくり抜かれたように消失した。

それがユーラシア大空災、一夜の出来事であった。

もちろん日本でも被害が確認されていて、元東京都から元神奈川県一帯の大地が円状に破壊され、日本の行政並びに経済は大きな被害を受けた。

教科書にも載っている、南関東大空災である。

そして現在、その空間震を受けた地域一帯が新たな都市に生まれ変わり、五年ぶりに空間震の被害を受け始めているというのだ。

その都市の名は――天宮市と言った。

 

 

「あー、しまった。卵買い忘れた」

とある休日の夜、遅めの夕飯の買い出しに出かけた青年が、帰路である住宅街にある街灯の下で手にした買い物袋を見ながら言った。

どうりで何も気にせずに袋を手荒く扱えたワケだ。

割れる心配をすると言うことが初めから欠けていたからである。

「・・・・今晩オムライスにするつもりだったんだけどなぁ」

青年は一人呟くと卵は諦めたのか、再び舗装道路を街灯頼りに歩き始める。

青年が住んでいる地域は、天宮市ではない。

天宮市の次に空間震観測の多い、西日本の地方都市である。

青年はそこで三人の娘と暮らしていた。

娘、と言ったが正確には彼女らの父はこの青年ではない。

闇夜を歩く青年はまだ大人と呼ぶには若すぎる外見だが、少々特殊な仕事を生業としており、その給料で彼女たちを養うといういわゆる保護者的な立ち位置にあった。

青年はある一軒家の前に立つとポストに入った一通の封筒に気がついた。

・・・・家を出るときにはなかったはずのものだ。

つまりこの封筒は青年が買い物に出てから投函されたものと言うことになる。

切手や差出人の表記は無し。

どうやら郵送ではなく直接投函されたものらしい。

青年はその場で開封し、入れられていた書類に目を通す。

差出人は青年の勤務する職場――自衛隊特殊部隊の上司からだった。

前書きにざっと目を通し、続いて本文―――と言うところで青年は突き飛ばされた。

一体何に?

もちろん突如蹴破られたドアに、だ。

 

「おっっっっっっっっそい!! 一体何時だと思ってんのよ! いい加減にしないと家出するわよ!」

 

フルオープンとなった玄関から顔を出したのは見目麗しい長身の少女だ。

切れ長の瞳につり上がった眉。笑えばきっと誰しもが可愛いと評するだろうが、今はその顔が怒りに染まっていた。

彼女の名前は神代(かみしろ) 真理無(まりな)。青年が養っている一人目の少女だ。

ドアによる殴打を受けた青年は尻餅をつき、地面についたその手でビニール袋を潰すグシャという音を聞いて青ざめた。

「お、おまっ! なんつーことしてくれたんだ真理無!? 卵は入ってなかったが間違いなくケチャップとか潰したぞ!?」

「え、それ本当・・・って、そんなとこに立ってるあんたが悪いんでしょーが!」

「いきなりドア蹴破る奴もどうかと思いますがね!?」 

青年は立ち上がると赤く染まったビニール袋を見てため息をついた。

「・・・・・どーすんだよこれ。ケチャップ補充しろって言ったの真理無だぞ」

「べ、別に無くてもどうってことないし!」

「ほう、良いんだな? オムライスにソースで味付けしても本当に良いんだな? だって仕方ないよなぁ。ケチャップ切らしてるんだし」

「ちょっ、(とおる)あんた、そこでオムライス出すのって反則・・・・!」

毅然としていた真理無の態度が急に弱々しくなる。

大好きなオムライスの味付けが、塩辛くて酸っぱいソース味になるのが真理無はとても嫌なのだ。

かといって真理無自身がケチャップを買いに近所のスーパーへ行くわけにも行かず、オムライスの味を守るためには透と呼ばれた青年が再びスーパーへ行くしか方法はない。

だが、他人にお願いする、それも透にお願いするという事をプライドの高い真理無の精神はよしとしない。

だから真理無はどうすればいいのか分からず、狼狽しているのだ。それも泣き出しそうなほどに。

「う、ぅぅ・・」

「うおっ、ちょっと真理無ストップだ!冗談、冗談だから! 卵買い忘れたからもともと今晩はメニュー変えようと思ってたんだよ!」

この時間に泣かれるのはまずい。

それを身をもって知っている透は、泣き出すのを阻止すべく直ぐ様行動に移った。

「ぅ・・・・それ、本当? ソースオムライスじゃないの?」

「マジマジ。ガチでソースオムライスじゃないからな。だから泣かないでくれよ真理無」

「わ、わかったわよ・・・」

真理無は目元をぐしぐし拭う。

「それじゃ、すぐにご飯作りなさいよ。二人とも待ってるんだから」

「了解っと」

透は封筒をポケットに押し込むと玄関に入りドアを閉める。

透の家は普通の家と違って様々な機能が盛り込まれている。

機能と言っても変形するだとか実はお菓子の家だ~とかではなく、防音とかそういう方向の機能だ。

透の家はちょっとした事情によりそれらの機能に霊波遮断機能が付いていた。

廊下を渡り、明るい光で溢れるリビングに入ると更にその光量が増し、目を開けていられなくなる。

「おう、今帰ったぜ実零(みれい)。ちょっと眩しいから抑えて貰えるか?」

「ん、わかった」

光が弱まり、リビングを見渡せるようになると、ソファーには一人の女の子がちょこんと座っていた。

彼女の名は(かんなぎ)実零。名字は違うが真理無の妹という位置にある。

彼女はそれ自体が輝いているんじゃないか? というくらいに眩い輝きを放つ金色の髪を持ち、体躯は幼く弱々しい。膝を抱えてソファーに身体を沈めている所なんて可愛いくてしょうがねぇな、と言うのが透の感想であった。

「にしても一段と光ってたな。なにかあったのか?」

「ん、お腹が減ったからイライラしてる」

「ああ、なるほどな」

透は納得という顔をすると急いで支度を始める。

ケチャップまみれになった野菜類を水道で洗い、続けて加工食品も同じように洗っていく。

冷蔵庫内の食材を見ると冷凍うどんがあり、この間作ったカレーの残りがあった。

「おい二人とも、ちょっと虚穂(うつほ)呼んできてくれ。そんで晩飯カレーうどんでいい?」

「別にいいわよ。ソースオムライスじゃなきゃね」

「ん、わかった。実零が呼んでくる」

「おう、頼んだぞ」

実零はピョンとソファーから降りると、トテトテとリビングを出ていく。

実零が出ていったリビングは少しだけ暗くなったような気がした。

「・・・・やっぱりあの子が居ないと暗くて敵わないわね」

真理無が照明を上げながら言った。

「そうだなぁ。まぁ、この間空間震で電線やられたときはスゲェ助けられたしな」

透は数日前に起きた小規模の空間震がこの町のインフラを破壊した事件を思い出しながら言った。

数日間は電気無しで過ごさなければならないはずだったが、身体が光るという特性を持つ実零のお陰で夜でも明るく過ごせたのを皆感謝していた。

「空間震が起きたってことは・・・また出たのよね」

「んー、あの時は俺も出動したけど霊波反応も無かったし多分すぐに引っ込んだんだろうな。つまるとこ『精霊』との接触は無し」

「そう・・・・」

真理無はクッションを抱えて寂しそうに言った。

 

「―――お母さん、死んでないよね」

 

ドキリ、とした。

「な、なにいってんだよお前。アイツがそう簡単にくたばるワケが無いだろ? 戦った俺が言ってんだから間違いない」

鍋を持つ手が震える。

うどんの袋を破ろうにも力が入らなくて上手く開けられない。

やむ無く包丁で切り込みを入れて調理を再開したが、リビングには少しだけ重い空気が流れた。

そこに二人ぶんの足音が響き、実零に連れられた虚穂が眠たげに入ってきた。

「もー、何なのよー。人が折角寝てたって言うのに・・・。おまけに玄関壊れてたから直しといたよ。お金ちょうだいお金」

ぶつくさいいながらもソファーに座り、チャンネルをくるくる回す少女が虚穂である。

染められた茶髪は寝癖でボサボサだが、くしゃくしゃTシャツの胸の部分からはそのスタイルの良さが伺えた。

「アホか。この間皆に小遣い配ったばかりだろうが。一体何に使いやがった?」

うどんにカレーを絡ませながら透は言う。

スパイシーな香りがリビングに漂い始め、実零が率先して器を用意し始めた。空腹に耐えかねたのかもしれない。

「えーっと、新作のグロスにアイライナー。あとキャミにパンツに帽子も買ったかな~」

「・・・・お前そんなに買ってたのか? 言うわりには着てるとこ見たことないぞ」

虚穂の格好と言えば普段からTシャツにジーンズというラフなものが常だ。

お洒落に気を使う性格なんだったら普段着から気を付けてほしいものだ。

「当たり前じゃん。透だもん」

「どういう理由だそれ」

注ぎ分けたうどんをテーブルに運ぶ透と実零。

上の二人はなにやってんだか。

「よし、用意できたな。助かったぜ実零。―――おい出来たぞ二人とも」

実零に礼を言ってから二人を呼ぶ。

「やっとできたの? もう八時よ八時」

「あんまり遅いと太っちゃうじゃん・・・」

「ん、二人とも。あまり文句は言わない方がいい」

三人が三様の反応を見せて席につく。

実零の皿には感謝の意味も込めて好物のフルーツトマトを入れておいた。

「んじゃ、食べるか!」

「「「いただきます」」」

唱和する声が重なる。

透はその様子を満足げに見ると、自分の料理に箸をつけた。

 

これが、高峰透(たかみねとおる)の日常。

透が守るべき日常の象徴がここにはあり、それは透が守り抜かねばならない者達だ。

だが、この日常は儚くも崩れ去ることになる。

たった一通の茶封筒によって。

 

――さぁ、私達の戦争(デート)を終わらせましょう。透。

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