俺がオレ主を史上最強の弟子ケンイチに突っ込むと凄まじくツマラナイ話になる。悲しい 作:ミスドナルドーワッフ
『白ヤギさんからお手紙来たよ♪』
メールの着信を知らせる音に携帯を開く。
新島からだった。相手が相手なので無視しようかとも思ったけれど、件名に『例の報酬』と書いてあるので仕方なく光の速さで内容を確認することにする。
「前に話した黒髪の美人との約束を取り付けた。明日2時にマツエラークに来い。紹介してやる」
なんと!? でかした、新島! 褒めてつかわす!!
ふふーん、ふふふーん♪ ついに僕にも潤いある日々がやってくる。わはー。
「風牙。おまえ、何、気持ち悪い顔してんだ?」
「えー? ひどいなー、姫野さんはー」
キモいッて言われようと今の僕には堪えない。堪えないんだよ、姫野さん。うぷぷ。
「うゎ……マジで何があった?」
「へへー、実は僕にも彼女ができるかも、なんだ!」
「は?」
「新島の奴がさー、どうしてもどうしても紹介したいッて言うんだ。黒髪の女の子だって! いやー参ったなぁ、もう」
「へぇー、そー、ふーん」
あれ? 姫野さんの反応が冷たい。ここはオメデトウの一言があってしかるべきじゃ。……ん…殺気? あ、行っちゃった。
殺気を感じた気がしたけど気のせいかな、と去っていく姫野さんを眺めていたけど、何やら自分のロッカーでゴソゴソしてる。そして何故か薙刀持ち出して帰ってくる彼女。
え? 何?
「いっぺん死ね!」
「わゎっ!」
ヒュン、って振り下ろされる木刃をヒョイって
「
「
一体何がどうしてこうなった? 何が彼女を凶行に駆り立てているんだ? 分からない。わからないけど、彼女を力尽くで止めるのは武門の人間として違うと思うわけで。
となると、ここは―――逃げるが勝ちだ! スタコラッシュ!
「待て!逃げるな! この女の敵!
「ひ、人聞きの悪い事をー」
薙刀を振りかぶりながら追っかけてくる姫野さんに恐怖を抱きながらも、ちょっと楽しいなと思ったのは内緒だ。
◇
翌日。
待ち合わせのマツエラークに、僕はおめかしをしてやってきた。その、せっかくだしね。
壁にかかった時計を見れば、約束の時間にはまだ大分ある。時間より前に来ることで誠実さをアッピルしようと思ったが、これだとガッツキ過ぎと引かれるだろうか? うーん、もしそう思われたら嫌だなぁ。
「メロンクリームソーダお代わり下さい」
「はい、ただいまー」
まだ時間あるなー、と思いつつ店内を見渡せば、思いの外お客さんがいる。しかも同年代。鼻ピアスやらモヒカンやらガラの悪いのがチラホラ。なんか知恵の輪?をカチャカチャやってるコートに網々ゴーグルの変な奴までいる。
あんま関わりあいになりたくないや。
そうこうしているうちにようやく約束の2時近く。まだかなー、まだかなーと扉の方を見つめていると新島が新白連合の隊員を五人ほど連れてるのが見えた。何で新白連合の隊員かってわかったかというと、確か、松井くんだったかな? 彼が新白連合の旗持ってるから。
「いらっしゃいませー」
「一人で来いと言われたら、5人は連れて行くのが新島流。む、河原で見たやつ。よう、お前がロキだな!」
新島は僕には目もくれず網々ゴーグルに声をかける。
あれれー、どういうことかな? 新島くーん。……僕に女の子を紹介するって言ったのは嘘じゃないよなぁ。もし、嘘だったらお兄さんちょぉっと本気出しちゃうよ。血塗れよ、君。
「ケッ、何が戦う参謀だ! 俺が一人で来ると思ったか、マヌケ! てめぇには聞きてぇことが山ほどある。ちょいと
「フッ」
「あーあー、抵抗しても無駄だぞ! こいつらは新白連合の精鋭だ! 例え三人で50人倒せる八拳豪でも刃が立たねー強者だ!」
「お粗末な作戦だ……本物の伏兵ってのはこうやるんだよ!」
そう網々ゴーグルが言った途端、その場に居た客が手に手に得物を持って全員立ち上がった。驚いたことにウエイトレスさんまで得物を持ってらっしゃる。
「う、うぉおおお?」
「今日はここ、ラグナレクの貸し切りなのよね」
あーらら、どうするの新島? ピンチじゃんな。
「は、ははは、笑わせんなぁ! こ、こっちだってなぁ、風牙ぁ!」
あーあー、聞こえなーい。新島がこっちを指さしてるけれど、僕は関係ない。
「ああ、情報通りアイツも新白連合の仲間で良かったわけだ」
「ヒャハハハァ! 風牙はなぁ! 第六拳豪ハーミットと互角にやりあう凄腕だぞ! いくら第四拳豪だからって―――」
「でも負けた。だろ?」
「ぐっ」
ピキキ……網々ゴーグルくんの聞き捨てならない言葉にちょっと青筋が立った。
言ってくれるじゃないか。ああ、確かに僕は谷本君に負けたよ。負けたさ。だけどさぁ……
僕はすっくと立ち上がると不良どもを睥睨する。
「言っとくが、君等ごときに遅れは取らないよ。……新島、少しの間、自分等の身は自分等で守れるよね?」
僕と新島達のところまでには二重三重にラグナレクの兵隊さんでいっぱい。さすがに、すり抜けることも飛び越すことも不可能な距離だ。
「み、密集隊形~!!!」
「そ、総督! か、数が多すぎます! 用心棒の風牙だけでは! 我らが三将軍はまだ来ないのですか!」
「ええい、ともかく今は俺を守ることだけを考えろ」
……相変わらず自分本位だな新島。清々しいほどのクズっぷりだ。
まったく行きがかりとはいえ、こんなやつを助けにゃならんとは。世の中、ほんと、世知辛い。
「どれ、お前らの実力、見せてもらうとするか」
パチン、と網々ゴーグル第四拳豪ロキが指を鳴らすと身の程知らずの不良どもが一斉に動き出した。
「うらああああ――ヒボっ」
「わぁあ――ゲバァ」
「おらぁああ―――ウゴっ」
群がるアホどもを千切って投げ、殴っては蹴り、叩いては潰す。
「やぁあああああ」
「お!」
ちょうど良い具合にウェイトレスに扮した不良女がヌンチャクを振り回して突貫してくるので、ヒュッと龍旋を加減して叩き込む。すると彼女の来ていた制服が上も下も見事に破け、下着姿が露わになった。
それに目が行き動きの止まった男達に掌底を叩き込み、沈黙させる。女の子にはギッと殺気を向けて、歯向かう気を挫いておいた。
「ちっ、思ったよりやりやがる。お前ら、そいつは囲んで動きを封じろ。その隙に、新島君をやっちゃいな」
その指示で僕の方に更に人が集まってくる。数にして敵の半分ほど。
うー、面倒臭い。真っ昼間のファミレスでの乱闘騒ぎだから流血させないよう、怪我をしないよう手加減してるってのに、僕の親切を逆手に取りやがって。いや、この場所を会談に選んだのも戦術のうちか。
くそっ、ええい、この距離なら!
テーブルと不良の肩を飛び石のように踏み台にして跳ぶ。トン、と着地した場所は新島達の直ぐ側、瞬間周囲の不良達の顎を揺らして無力化した。
「新島、逃げるが勝ち。穴は開けてやるから」
「そ、総督、三将軍は!三将軍はまだですかー!?」
「切り込み隊長は、白浜さんはどうしたんです!?」
多勢に無勢な状況に僕の言葉に信がおけないのか、皆は密集隊形を維持したまま。
体を張って守ってたせいで皆はボコボコにされてボロボロだ。今は僕が不良どもを近づけさせないけれど、僕の腕は二本しかない。カバーしきれなくなるのは目に見えている。
まずいな、守りを放棄して
……誰か加勢してくれないかなぁ? と店の外を見やる。
「ふん、新白連合。チームとしては取るに足らないチームだな。将を守ろうとする捨て身の兵。教育は中々だけど……どれ?
ねぇ、君らもさ、好い加減退きな。将を引き渡せば、見逃してやるから。君ら中々忠誠心厚いしね、ラグナレクに拾ってやってもいい。新島君は手足の二、三本折るけどぉ」
追い詰めた上で仲間を売らせる口上をしつつも、ロキは入り口までの動線には人を置いて逃げ道を確保させない。
絶対に逃さないつもりみたい。
「風牙君だっけ? 君も手を引いてくれないかい? 確かにハーミットに負けたとはいえ、僅差だったと聞いてる。実力を見せてもらう限り、その通りみたいだ。感嘆するね。
その気なら君のことを上に口利きしたって良い」
「……だから新島を売れって?」
「ああ、君ら、新島君以外の子たち全員の身の安全のためだ。悪い取引きじゃあ無いだろう」
ロキは口角を上げつつ言う。実に、嘘臭い。
「お、お前らぁ、奴の口車に乗せられるなぁ」
「ぐ、でも、このままじゃもう」
「三将軍が一人も来ないなんて……」
流石の新島の舌先三寸でもこの状況は覆すには言葉の切れがない。
「そうそう、頼みの綱の三将軍とやらは来ないようだし。こんなに君らがピンチなのに! 見捨てられたんだよ、君らは」
そう言って絶望を煽るロキ。だけど―――
「違う! 白浜隊長は来る! 絶対に!!」
「み、水沼?」
「白浜さんは、白浜さんは、いじめられ、かつあげされ、皆の笑い者だった僕を助けてくれた。体を張って助けてくれたんだ!
頑張れば、いじめられっ子だって誰かを守れるヒーローになれるって、彼が教えてくれたんだ!!
彼は、白浜さんは来る! 来てくれる! あの人が仲間を見捨てるもんか!」
水沼君が吠える。!!
白浜君は信頼されてるなぁ。まぁ、たしかに彼はお人好しだからね、こんな状況を見たら放っておけないだろう、例え相手が新島でも。
そうだよね、店の外の白浜君?
「そうだね。こんな地球外生物でも白浜君にとっては数少ない中学時代からの友人、らしいからね。彼は目の前でピンチに陥っている友達を見捨てるような腑抜けじゃない」
「ふーん、だったら来ない援軍を期待にしながら潰れろよ」
ロキが顎をしゃくれば不良共が一斉に――――ゴッ、「ギャッ!」ドンッ
「まったく」
入口付近の二人の不良が崩れ落ちる。
「風牙くんまで。僕は仲間とか友達とかいう言葉に弱いんだから、やめてよ」
ジャケットを脱ぎ捨て、首もとを緩める姿は正にヒーロー見参!って感じだ。……あれ? なんか今日はおしゃれな感じだね、白浜君。
それに―――
「はぁ~い、諸君。パーティなら僕らも混ぜてよ」
「へっ、これから用事だってのによぉ」
「突きの武田に投げの宇喜田!? この裏切り者共が、まだ楯突くか!」
良かった良かった。武田先輩と宇喜田先輩も加勢に来てくれたし、これで手加減したままやり過ごせるよ。
「新白連合バンザーイ! 新白連合バンザーイ!」
「新白連合バンザーイ! 新白連合バンザーイ!」
「ウヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!! やれ!新白連合三将軍の力、今こそ見せつけてやるのだ!」
援軍の登場で調子に乗った新島に武田先輩と宇喜田先輩が渋い面。でも、そんなことしてる間に不良どもが押し寄せてきた。
そこで僕は目を見張った。武田先輩に背中を回した三方の敵とはいえ片手だけで全員を相手にしていく。いくら蹴り足にスピードが乗ってないとはいえ、片手でのストッピング。
これだけ手が使えるとなると、足捌きもよく修行してあるんだろう。
「ワハハハっ、すげー早技じゃねぇか。俺等を倒したのもうなずけるってもんよ」
「皆張り切ってるね、じゃあボクはロキを貰うとするよ!―――――チッ、邪魔じゃな~い」
大分減ったおかげで肉壁は僕が跳び越えた時ほどじゃないけど、二重三重。倒しながら近づくのは面倒臭いだろう。
僕が行こうかな? と思った瞬間、白浜くんが跳んだ。
「!?」
その跳躍力やたるや人垣を飛び越え、ロキの目の前に着地する。
白浜君の下半身、足腰のバネの強さに僕は目を見張った。そういう身体能力というのは生来生まれ持ったものが大きく、それがある者は幼い頃から駆け回るのが得意というのが相場だ。
だけど白浜君の場合はそうじゃない。いじめられっ子だったのは彼の要領の悪さや、本ばかり読んでいる素行にもあったけれど、彼が運動が駄目だということもあった。
それなのにこの身体能力の高さ。梁山泊での肉体改造の技術は凄いと思っていたけれど、これほどだなんて。
ロキとの戦闘を開始した白浜君は一撃貰うも、すぐに空手、ムエタイ、少林拳(いや心意六合拳かな?)、柔道の技を上手くつなげた連続技でロキを沈める。
上手いもんだ。技の終わりが次の技を発動させやすい姿勢になっている。でもこの繋ぎ方は彼の師匠達が考えたわけじゃないだろう。
一流を修めた者が他流の技を組み込む場合は、そのままの形か、術理を解して組み込むってのが普通。それぞれの動きが違い過ぎるからそのまま繋げようとはしないはず。
と、なるとこれは白浜君オリジナルじゃないかな? しかし考えて出した技っていうよりも体に染み付いて技がその場に応じて自然と出たって言う感じだ。
なるほど、谷本君が苦戦するのも頷けるよ。そのレベルにまで鍛え上げられてるんだから。
「……」
敵の大将が倒され戦勝に沸く新白連合の隊員&新島を尻目にボスを置き去りにして逃げていく不良達。
実はロキが影武者だとか、向かいのビルに変な格好の女がいたとかあったけど、僕にとっちゃどうでもいいこと。
あー、終わった終わった。さ、これで黒髪の女の子を紹介してもらえるぞ。うぷぷ、これで僕も彼女持ち。夢にまで見たバラ色の高校生活が送れると気がやってくる。
「この辺にあるマツエラークって店知らねーか? 待ち合わせでな!!」
「え!?」
「なんだよ、武田……。お前も待ち合わせだろ、早く行けよ」
「僕も待ち合わせなんだ。マツエラークで」
「ええ!? 僕もです」
その待ち合わせ場所のマツエラークってここだよ? よくよく見れば、三人の格好は僕と同様どことなくお洒落。まるでこれから女の子にでも会うかのような格好だった。
同時に三人が同じ場所におなじ便箋の手紙で呼び出された。そして、呼び出し場所で待っていたら伏兵の役割を押し付けられた僕。
嫌な予感に新島を見れば、奴は何処からとも無く取り出した黒髪のカツラを被った。
「うっふ~ん、ラブレターの地図、分かりづらかったかしらぁ? でも、みんな時間ピッタリに来てくれるなんて、わたしウレシ~。みたいな~。きゃ」
くねくねと気持ち悪い動きと声を出す新島に、僕を含めぜんいんが固まった。
そして―――
「こ、ここ、殺す!」
「新島、きさまぁあ」
「ドタマに来たぞ!」
「ウッキャアアアキャキャキャ!!」
何かを察して新島をとっ捕まえようとした白浜君達の手をニュルンと躱した新島は店を飛び出しアッという間に駆け去っていった。
なんだと?
「あぁっ! 待て!!」
「許さねー」
「ヒヒヒヒヒ」
いつも走りこんでいるはずの武田さんや白浜君を置き去りにしてグングン距離を離していく新島。あれ? もしかしてこれは戻ってこないパターン?
つまり、そういうことなの? 新島くん?
「ふ、ふふ、ふふふ、ふくくククク」
「ふ、風牙?」
残された隊員の一人、えっと…上岡くんだったかが僕を見るけれど、そんなものはどうでもいい。
新島、君はやっちゃいけないことをしたんだ。
「俺の純情弄びやがって……」
報いは受けてもらうぞ!!
「逃すと思うかぁあ! 新島ぁぁああああああ!!」
僕は、逃げた奴の後を追うため本気で走りだした。
◇
あくる日。
僕はどよよ~んとしたダウなー気分で教室の机に突っ伏す。
遂に潤いの日々がやって来ると思えばこそ、これからの地獄にも耐えられようものと思ってたのに新島の糞のせいで上げて落とされた。もうダメだ。ダメダメだ。
「おー風牙、今日はいつにも増してクタバッてんなー」
「あ~?」
「うわ、目が死んでる」
聞き知った女の子の声に顔を上げれば、声の主は姫野さんだった。
「彼女できて幸せ満点の予定じゃなかったっけ?」
「……うるさいなぁ。予定は未定。時々変更ありなんだよ」
「はいはい、ご愁傷様」
他人の不幸をどこか楽しげに
とは言え、ここで何か言い返そうにも上手く言葉が見つけられない。なので、僕はブスっとしたまま顔を横に向けた。
「ま、落ち込むな。その内お前にもいい子が見つかるって」
「……それっていつ?」
「あー……そのうち? きっと、たぶん、もしかしたら?」
「疑問形じゃん!」
からからと笑う姫野さんは逃げるように泉さんのほうへと去っていった。
全く……。
くたり、と再び机に突っ伏す。でも何処か僕の心は先程とは違っているような気がした。
……だ、だってしょうがないだろ? そりゃ女の子と喋れば自然と気分も上向くよ。僕だって思春期真っ盛りな男の子なんだから。