俺がオレ主を史上最強の弟子ケンイチに突っ込むと凄まじくツマラナイ話になる。悲しい 作:ミスドナルドーワッフ
「と、言うわけで僕には女の子と仲良くなるためには遊びに誘う時間が必要だと思うんです!」
秋の道場での稽古も終わり、案の定ズタボロになった僕は意を決してズタボロにしてくれた張本人、秋野武彦さんと秋野千住老に休みの必然性を説くことにした。
僕の熱い思いが伝わったのだろう、二人は静かに話を聞いてくれた。
「ほう……なるほどのう」
「じゃあ!」
「ところで、お前が先日言っておった馬 槍月じゃがな。梁山泊で会うたであろう、あの背の低い中国人。弟の馬 剣星に後れを取って姿を消したそうじゃ」
……Oh!スルーされた。
そのうえ目の前の爺さんつまり秋野千住老が横浜の中華街であったらしい顛末について話をしだした。けれど、ふーん、へぇ、そうなんだ、と気のない返事しか返せない。
だって正直どうでもいい。そりゃ谷本君の師匠の話だし白浜君もその場にに居合わせたらしいけれど、僕に直接関係ないしね。
そんなことよりもですね、
「……北斗」
「武彦さん?」
「女に気を回す余裕があったのか。なら―――」
千住老の話が終わるのを待って口を開いた武彦さんの次の言葉は聞かずとも分かる。当然、地獄が更に地獄と化して煉獄とか辺獄とか凄い地獄の修行へと変貌することを宣告されるに決まっている。
させるか、そんなこと!
「いや! いやいや武彦さん! 武門において嫁取りは重要ですよ! ね、千住様!?」
「ぬ?」
そう、武門において跡継ぎのあるなしは超絶重要だ。分家とはいえ
「……神谷は死合を経て風雅の長女と夫婦となった。風雅もまた己に放たれた刺客の女と懇ろになっている。そうやって相手を嫁にすれば良い」
た、武彦さん…あんた、アホですか? そんなの普通、ならないですよ! 第一、嫌です!
僕はもっとこう嬉し恥ずかしランラランの青い春の物語的な出会いを経て楽しげかつ幸せでラブラブエロエロな日々を謳歌したいんです。
あまりの言葉に千住老へ助けを求めると、なんとも言えない顔をしていた。さすがの千住老も武彦さんの今の言葉には思うことがあったようだ。
「まぁ、武彦の言は極端にしてものう。お前は未だ未だ一人前とは言えぬ。それなのに女、女と盛るのは頂けぬな」
「えぇ~」
「早く一人前になることじゃ」
「……明日からは余計なことを考えられぬよう、確り稽古をつけてやろう」
うう、サボりたい。
◇
昼休み。
トイレから手を拭き拭き出たところで声をかけられた。
「ふ、う、が、くーん」
憶えのある声に
「何だい? 忙しいんだけど」
「釣れないな。俺とお前の仲だろう?」
「どんな仲だか」
邪険に扱うも新島は気にした風もない。
「ま、そう言うな。実はな、八拳豪のジークフリートって奴のアジトに探りを入れるからお前ついて来い」
「はぁ? そんなの白浜君に頼めばいいじゃないか」
「兼一には啖呵切っちまったんだよ! 情報を入手してきてやるってな」
「知らないよ、そんなの」
白浜君に対しての見栄なのか、いつも白浜君を矢面に立たせている策士としての誇りなのかは知らないけれど新島も体を張るんだな。
強い奴に媚びへつらって取り入るのが自分の能力だ、と嘯いてたのに。
そんな風に新島のことを再評価しながら真顔で奴の宇宙人顔を眺めていたんだけれど、どうにもそれが交渉従っていると思われたらしい。
「……良い奴、紹介してやるからよ」
一瞬何を言ってるのか分からなかったけれど、直ぐに思い至った。
馬鹿にしてる。
「黒髪の美人だろ。間に合ってる」
「……お前を意識してる女。間違いなく女」
「はぁ?」
耳を疑った。
「同じ学校」
「……誰? 僕の知ってる子?」
嘘だと分かっていても気になる。気になってしまう。気になるだろ、普通。
そうした僕の男の子な心を見透かしたんだろう、新島は三日月に口を歪める。悪魔みたい笑みだな、ホント。
「ヒャハハハ、それが知りたかったら俺様の言うとおりにしろ」
「なーんか、また騙されてる気がする」
「ばーか、何度も騙すなんざ下策だ。一度しっかり信頼させておいてこそ、後の騙しが効果的になるんだよ」
それっぽいことに納得してしまいそうだけど、そんな手に引っかかるのは僕みたいな馬鹿だけだぞ。
「どーだか。……で、放課後?」
「おお、よろしく頼むぜ。用心棒」
へいへいと返事をして、行くのが遅れることを本家へと伝えるため僕は携帯を取り出しボタンを押した。
◇
放課後、新島に連れられてやってきたのは埠頭の倉庫街。
「こんなところに、そのなんだっけ、ジークフリートのアジトがあるの?」
「そうだ。奴はここに頻繁に出入りしてやがるらしい」
「ふーん」
そういうと新島は3mくらいのフェンスをゴキブリのようにカサカサと登って向こう側へ。僕も手と足を引っ掛けて飛び越える。
更に匍匐前進でカサカサと進む新島。その姿はどうにも嫌な気分にさせられる。
「いた。ジークフリートにロキだ」
ある倉庫で新島の動きが止まる。どうやらその倉庫は半地下のようで新島が中を覗いているのは明かりを取り入れる天井付近の小窓だ。
僕も屈んで中を見る。
「へぇ? あ、網々ゴーグル。じゃあ、あっちのがロン毛がジークフリートか」
以前マツエラークで見たロキと殆ど変わらない背格好の男が、机に座って何かを書いている青い髪のロン毛の男に話しかけている。
「おお~~、戦いこそ曲の源ラララ~♪
拳聖様の許可さえ必要なければ、今直ぐ貴方と戦いたい気分です」
おそらくジークフリートこと青髪ロン毛が気になることを言った。
ケンセイ? 馬 剣星の許可が要る? ……ってことは彼も馬 剣星の弟子? 白浜君はそれを知ってんだろうか?
そういや谷本君の師匠は横浜にいたらしいけれど、前に彼に教えた時から考えてギリギリ会えたか会えなかったかってところだろうけど、どうだったんだろ?
「そっちはどうなんです? 新白連合の弱点を見つけたと言っていましたが、弱点を探さねばいけないほどの相手なのですか?」
「相手がどんな弱小組織でも完璧な策で叩き潰すのが俺の“美学”」
美学ねぇ……ん?
ロン毛と網々ゴーグルの話は続いているけれど、どうやらここまでのようだ。
「おい、新島―――」
「っ!? なんで俺等の姿が!」
「逃げるぞ」
「何!?」
新島の首根っこをひっつかんで強引に立たせると回りはロキ似と不良どもでいっぱいだった。
そして、その中の一人のヘソ出しゴーグル迷彩パンツの女の子が、
「キャハハ、ロキさまー、ゴキブリは追い詰めましたよぉ! ほめてほめてー」
「油断するな20号」
彼女が手にした携帯から聞こえたその声に同意するよ。
「ホント、油断するな」
彼女がはしゃいでる間に一息で間を詰める。20号と呼ばれた彼女のゴーグルの下から見上げた瞳を僕はまっすぐ見下ろしていた。
「え?」
ビリィイイ
布地が裂ける音とともに彼女の着ていた黄色いTシャツが破れ、瑞々しい双丘がこぼれ落ち夜風に揺れた。
泰斗流拳技「龍旋」。軽く放てば衣服を破り切ることなんて造作も無い。
「きゃあああ―――ぎぉ!」
女としての羞恥に胸を隠そうとした瞬間、僕は女の喉を一突き、そのまま気道を掴み、体を持ち上げる。軽いなぁ。
ぐぐぐっ、と力を込めていけばその子は「ぐっ、あぐっ」と呻きながら拘束から逃れようと僕の腕に爪を立て、蹴りを放ってくる。
そのたびに体の割に大きな胸がバインバインと跳ねるだけで、腰の入っていない攻撃は意味を成していない。
「20号!」
そこでようやく半地下から出てきたロキとジークフリート。
「この子を殺されたくなかったら道を開けるんだな」
「ハッタリだ! 包囲を解くな」
不良達が僕の恫喝に包囲を緩めようとした瞬間、ロキが声を張り上げる。
ビクッと不良達の動きが止まる。
なるほど、統制がよくとれている。特にロキ似の奴らは直ぐにでも飛びかかってこれるよう全く構えを崩さない。やっかいだな。
「そうだハッタリだ。だから包囲を解くな。見捨てろ。そうすりゃ、この子が死ぬところが見れるぞ。お前たちの決定がこの子を殺すんだ」
「ぐぅ、ぁっっ、がっ」
20号ちゃんの気道を締める指の力を緩めたり強めたりして彼女の窮地を彼女自身の手で喧伝してもらう。
そして、一歩。また一歩と包囲の外へ向けて歩けば、人垣が割れていく。
そりゃそうだ。人が痛めつかられるところ、それも仲間が傷めつけられているところを見るのはかなりのストレス。それを緩和しようとするのは当然だろう。
「くっ」
ロキが臍を噛む。ジークフリートは動かない。
そして完全に包囲に穴が開いたのを確認して、新島を顎しゃくった。
「行け、新島」
「すまねぇ、風牙」
バビューン!!ってオリンピック選手並みのスピードで逃げていく新島の後を僕は20号ちゃんを引きずってゆっくり追う。
新島はフェンスの扉を開けて逃げ去っていった。それを見届け、僕はその扉の前で立ち塞がった。
「ほい、返すよ」
軽く明るい口調でそう言いつつ息も絶え絶えな20号ちゃんを放り、そこにダメ押しの蹴りを放つ。
衝撃によろめく彼女を受け止めたのはロキ。サッと自分の着ていたコートで彼女の体を包むとお姫様抱っこしやがった。
いやぁ、紳士だねぇ。ラグナレクで1,2を争う美男子だって武田先輩が言っていたけれど……20号ちゃんみたいなオッパイ大きい子を侍らせているなんて、これだからイケメンはムカつくよ。
「てめぇ、よくも20号を」
「自分で荒事に駆り出しておいてよく言う。大事ならしまっとけ」
鼻で笑ってやるとロキが激高する。
いいぞ、怒れ怒れ。戦う参謀とか、自分を賢いと思っている奴は我を忘れさせるに限る。
だって僕とは頭の出来が違うから何してくるか分かんないからね。奴が頭を働かせられないようにしないと。
「くっ、ジーク! お前は新島を追え。俺は、こいつを殺す!!」
「ふむ、彼との戦いも捨てがたいですが、追いかけっこというのも良いでしょう」
「行かせると思う?」
ジークフリートが動く前に距離を詰め、その足を踏み抜いた。
「ぬ?」
これで動けまい。固めた右拳を左の掌で打ち、そのまま体当たりのように右の肘叩き込む。風雅流表芸、
「ゲハっ」
動きを止めた上での鳩尾への追撃にジークフリートがその場に膝をついて蹲った。止め!
「てめぇは俺が殺すってんだろう!!」
「ちっ」
ロキの貫手が体に触れた瞬間、クルリと体を回転させてその打撃を透かし躱す。風雅と泰斗、その両方に伝わる体捌き、
この動きを会得した者にとっては、手足を使っての攻撃の捌きは比較的容易なもんさ。
例えそれが拳の雨あられでもね。
「ちぃ!」
ロキの拳と蹴りを捌きつつ思う。確かに強い。そこらの喧嘩屋や不良じゃ敵わないだろう。
でも、その技術はどうも系統だった武術のものってわけではなさそうだ。正中線のブレ、足の運び、呼吸、間のとり方、そういった基礎が見えないと言うか矯正の跡が見えない。
キサラ先輩、谷本君がテコンドーに通背拳&八極拳&八卦掌と来たからてっきり何かやってるのかと思ってたけれど彼の場合は……
「喰らえ!
そう、何と言うか、色々な武術の情報を寄せ集めて自分で厨二な俺武術を作っちゃった!!って感じ。男の子として分からなくはない、その厨二心。
だから―――というわけでもないけれど、年月に裏打ちされた技術というのを見せてあげよう。
奴の貫手を捌きそのまま手首を極めて引っ張り懐へ、狙うは胸骨と肋骨の継ぎ目。ひねりを加えた掌打で胸を打つ!!
風雅流奥義、五塊陰殺一位、
「っ!」
五塊とは五臓。すなわち心臓、肺臓、脾臓、肝臓、腎臓。これらを攻撃することで身体機能を停止させる風雅と泰斗に伝わる奥義。
その一位、不心は心臓打ちにより心筋の硬直を呼び血流を停止させ動きを止める荒業だ。
それをまともに喰らったロキは動かない。動けない。
でも思考はハッキリしているはずだ。それなのに、動けと手足に命令しても動かせない。その恐怖はどれほどだろう。
「動けないだろうけど、すぐ元に戻るよ。でも、」
止めは差させてもらう。
人差し指を一本、ロキの喉へと突き立て―――――「ロキ様ぁ!」
ビュンッ
と、僕目掛けて飛んでくる金属棒。ひょいと躱せば更に一本、二本と投げ込まれロキから距離を取らざるを得なかった。
今の今まで手出ししてこなかったロキの偽物共が一斉に本物を守るように立ち塞がってくれる。
「もう、わらわらと―――ん?」
そこであることに気がついた。
倒れていたはずの青髪ロン毛、ジークフリートがいない?!
「ガハッ、ハッ、気づいたか。ジークは疾っくの昔に新島を追っていったさ。今頃奴はアイツの作曲の糧になってるだろうぜ」
「……なるほど。戦う参謀ってのは伊達じゃないわけね。いや、僕が間抜けなだけか」
作曲の糧って言い回しがワケワカメだけど、硬直が解かれたロキのニヤけ顔に僕は自身の失態を自覚する。
あー……まただよ。また用心棒稼業失敗だよ。
直ぐ様、僕は新島を追うべく踵を返して走りだした。不意を突いた格好になったために不良どもがみっともない程に慌ててる。
「逃すな!」
ロキが怒鳴って命令するも、もう遅い。フェンスを駆け上がって飛び越え、僕はそのまま向こう側へ。
埠頭を後に新島の姿を求めて走り去った。
※俺設定技
五塊陰殺一位、不心。
風の伝承者原作一巻には「五塊一位・心臓打ち」とあるが五巻の二位 収威、三位 脾衝のような厨二な名称でなかったので敢えて捏造。
未登場の四位と五位は腎臓と肝臓への攻撃として、四位 肝徹、五位 砕腎と捏造。