俺がオレ主を史上最強の弟子ケンイチに突っ込むと凄まじくツマラナイ話になる。悲しい 作:ミスドナルドーワッフ
「はぁ……」
ちょこっとマズイことになってる。
埠頭でのロキとのじゃれ合いの後、結局新島は見つからなかった。携帯に電話をしても繋がらない。
奴らのアジトに戻ってみても、もぬけの殻。
世界が滅んでもゴキブリと新島だけは生き残るだろうから、生きてはいると思うけれど。
「はぁ……」
新島は今日は登校してないらしく、連絡もないそうだ。
完全に囚われの身だな、こりゃ。
「はぁ……」
何度も何度も溜め息を
どうしてか、って? 同じ拳豪であるジークフリートのアジトの場所を聞くためだよ。
「ここ、かな?」
見上げる建物はでっかい廃ビル。武田さんの脱会リンチの後、南條先輩の手下は大分散り散りになっちゃったらしく、ここにいる人もあまり多くはないらしい。
それなら余り大騒ぎにもならず穏便に情報が聞き出せるはず。出せるといいなぁ。
「ごめんくださーい」
スタスタと中に入って行くとたむろってた不良が数人、こっちを見た
と思ったら彼らは急に青ざめて、ガタガタと震え始めた。一人なんて椅子から転げ落ちて尻餅撞いたぞ。え、何? どしたの?
「ふ、風牙! 血塗れ風牙だぁああ」
「うぉ! キサラ様ぁ、血塗れ風牙が襲撃に来ましたぁ!!」
おい。血塗れって……。あー、龍旋で兵隊さん達を血だらけにしたこと言ってんのかな? 人聞きの悪い。
もしかしてトラウマになっちゃったのか知らないけれど、僕のことを悪し様に言いながら奥に引っ込むのは止めて。
そうこうしている内に、わらわらと人が出てきた。
「風牙! おまえ!」
「あ、古賀先輩。南條先輩いますか?」
出てきた不良達の中に蹴りの古賀さんがいたので、調度良いやとばかりに要件を伝える。
でも、
「前は、よくも!」
古賀さんはこっちの話を聞かずに蹴りを放ってきた。あーまたか、と呆れつつも降りかかる火の粉は払わねばと龍尾衝の餌食にしようと思ったけど
代わりにひょいと前進することで蹴りを躱すと手を古賀先輩の内ももにかけ、軸足に足を飛ばす。そしてもう片方の手で上半身を廻してやる。くるん、と古賀先輩の体の天地が逆さまになった所で上半身を押さえつつ背中から床へと叩きつけた。
風雅流表芸、
受け身も取らせず、衝撃をまともに受けた古賀先輩は白目を剥く。せっかく古賀先輩に案内してもらおうと思ったのに、突っかかってくるから伸してしまったじゃないか。
仕方がないので取り囲んでる不良さん達に、
「南條先輩に聞きたいことがあって来たんですけど―――」
「私に用事かい?」
居ますか? と言いかけた所で奥から赤髪半ケツねーちゃんが現れた。発達したフトモモとお尻が凄い健康的なエロスを醸し出してる。見せつけてんのか、このやろう。
直ぐ側にはウェーブのかかったロン毛のイケメン。南條先輩の腹心兼彼氏ってとこかなぁ?中性的な美男子だ。滅べ滅んでしまえ、糞イケメンめ。
「キサラ様、ここは私が」
「白鳥、気を付けな。そいつは出来るよ」
「はい」
おーおー、彼女の前だからってはしゃぎやがって。その御自慢の顔は潰してやろうじゃねぇか、お?
――あれ?――いや、いやいや待て待て、僕はここに争いに来たんじゃない。僕はただ単に話をしにきたんであって、イケメンを
うん、いけない。いけないな。うるおいが、余裕が無いからこういう醜い嫉妬をしてしまうんだ。
「呆っとして!」
「え?」
イケメンの声に我に返れば、いつの間にか間を盗まれていたらしい。
目の前に迫る長い足。
「
それをクルリと
「
次が飛んできた。回し蹴りから、軸足を入れ替えての後ろ回し蹴り。遠心力で振り回される軸を抑える体幹の強さとバランス。
こいつ―――
「
左側頭部を狙った踵蹴り。それを体を曲げることで避ける。必然頭の位置は下がるわけで、
「
そこ目掛けて反対の脚が振り上げ、下ろされる。
技の組み立て、上背がある分の威力の高い攻撃、バランス感覚。よくよく修練を積んでいる。こいつ、やるじゃん。でも―――
打ち下ろされた踵が僕の頭蓋を叩き割る瞬間、蹴り足がその場を通り抜ける。
今度は僕の番。
纏を使って、つまり胴体ごと回ってそのまま蹴り足を伸ばす。回転胴回し蹴り。
「っ!」
こんな死に体な体勢から蹴りが飛んでくるとは思ってなかったんだろう、イケメンは顔に驚愕を貼り付けて後ろへと間合いをとった。
「へぇ、白鳥のあれに触れもしないなんて」
南條先輩がこちらを見ながら感心したかのように呟いている。
それを聞いたイケメン。見限られるとでも思ったのか、猛然と前に出てきた。
「
そして言うが早いか真っ正直に蹴りを放ってくるので、ついと僕は一歩前へ。イケメンの背中側へと逃げ、奴の右袖を右手を掴みながら腰を落とす。
イケメンが蹴り足を戻そうとするけど遅いよ。
ズボッって効果音を入れたくなるほど豪快に空いた手を奴の股ぐらに突っ込みフトモモを腕で固定。そのまま逆さに持ち上げた。
泰斗流、
「
硬いコンクリートの床目掛けて
「キャァアアア!!」
「白鳥っ!」
イケメンの顔面が床にぶち当たり醜く潰れる寸前、僕は彼女を拘束する手に力を入れた。ビタッ。と、顔面があと床まで3cmくらいの所で止まったっぽい。
良かった良かった。イケメンの根絶は世のため、人の為、俺のためだけど、美少女の絶滅は俺のためにならん。分け前が減る。潰さずに済んでよかった。どうして白鳥ちゃんが女か分かったかだって? そりゃ抱きしめてれば筋肉や体臭が男のそれじゃなく女のものだと分かるでしょ。
そうして白鳥ちゃんの天地上下を戻して拘束を解いてやれば、力無くへなへなとその場にへたり込んだ。
「てめぇ……」
代わりに鋭く睨んで来るのは南條先輩。
やばいやばい、一戦交える気だ。この人。もしかして白鳥ちゃんはレズの相手だったとか? でもそれなら綺麗な顔は潰さなかったんだから、許してよ。
「待って、待って下さい。僕は何も喧嘩売りに来たわけじゃないんです」
「どの口が!」
「今日、最初に突っかかってきたのはそっちからですよね?」
「あ? …………あー」
どうやら思い出してくれたらしい。
「それに最初に先輩に聞きたいことがあって来たといってたんですけれど」
「……」
「……」
おおう、ジーっと睨んでるよ。
そんなに見たって僕は頭悪いんだから罠とか何もないですよ。看破する必要もないですよ。
「……私に聞きたいこと?」
「はい。拳豪のジークフリートのアジトの場所を教えてくれませんか?」
「はぁ? 何で私が」
ですよねー。困ったなぁ、教えてくれないとなると力尽くでってことになるから、それはちょっとなぁ。
うーん、うーん
「チッ……詳しくないけど」
「え?」
「埠頭のほうの廃倉庫のいくつか自由に使ってるらしい。ピアノを持ち込んで作曲がどうとか」
うんぬん
昨日行った倉庫にはピアノなんて置いてなかったぽいけれど、僕の見落としか? 他の倉庫もアジトになってたって言うのなら、そっちにあったんだろうか?
もう一度行ってみる価値はあるぞ。
「ありがとうございます、先輩」
と、踵を返し駆け出そうとした所で制止の声が係った。
「なんです? 情報源のことなら告げ口しませんよ」
「そうじゃない。さっきの白鳥との戦い……」
裏切りってほどでもないけれど、情報を漏らしたことへの懸念かなぁと思ったら違った。
白鳥ちゃんのことっぽい。見れば白鳥ちゃんは他の不良に介抱されて大分復活してはいたけれど、戦う前までの男前な感じではなくか弱い女の子って感じが全面に出てた。なにあれ、萌える。
「……白鳥が女だから、最後手加減したのか?」
「は?」
何言ってんの、この人? そりゃ僕的には女の子を潰さなくて済んで大変喜ばしいよ。でも、武の道に親も子も、男も女もあるわけないでしょうに。
戦いの最中にあるのは己とお相手のみ。そこにはどんな関係性も関係ないもんだよ。
「失礼な。僕はそんなことで手加減なんてしません」
「……」
「確かに手加減はしてましたよ。でも、もっと根本的な理由です」
「……どうしてだ」
「それを本人の前で聞くんですか?」
手加減をする理由なんて一つしか無い。
実力差があるからだ。実力差があるからこそ、手加減するのだし、手加減できるんだ。そうしないと勉強にならんだろう? 大体、赤ん坊の手をひねるのに全力で力込める奴がいるなら、そいつは只の気違いだ。
つまり、白鳥ちゃんが弱いから手加減したんだ。でも、そんなこと本人に聞かせられないだろうに。
それに、
「あの子、白鳥ちゃんは悲鳴を上げたじゃないですか。その時点で自分の負けを宣言した。なら、そこで立ち会いは終わり」
「……そう、か」
「そうですよ」
そういうことにしとけ。理由の半分くらいはそれでもあるから、あながち嘘ってわけでもないし。
「……次は私が相手をしてやるからな」
「その時は勉強させて下さい」
じゃあ、と手を上げて僕は今度こそ南條先輩のアジトを後にした。
◇
昨日の夜に続いて再びやって来ました港の倉庫街。
すっかり夜になっちゃった。新島はどこだ? ロキとジークフリートが今日もいると良いけれど。
「ラッラ~♪ ララララララ♪」
何? 歌? 鼻歌?
「くそ、今度は手加減しないぞ!」
「そうです! 怒り! 焦り!感情の爆発こそがメロディー!!」
あ、今の白浜君の声だ。
声のした方に行くと青髪ロン毛と白浜君が確かに
上段と中段に突きを放つ空手の抜塞大の山突き。それがジークフリートにクリーンヒット。きりもみ状態で吹っ飛ぶ青髪ロン毛。
……いや、幾らなんでも吹っ飛び過ぎじゃないか?
「さぁ、頼むから教えてくれ。新島を載せた船は何処だ?」
「白浜君!」
「っ!? 風牙君、どうしー――!! ぐぎゃ!」
僕の声に気を取られた白浜君に蹴りを食らわせ、悠々と立ち上がるロン毛。ごめん、悪い事しちゃった。
しかしあの青髪ロン毛、昨日も僕の
「ふぅ……貴方の攻撃は相手を思いやる鈍さがある。命をかけてこそメロディーは降りてくるのです。
昨日の彼の攻撃は良かった。私の体を雄々しくも荒々しい旋律が突き抜けていくのを感じました。こんなことなら彼とまた―――」
チラリ、とこちらを見てくるジークフリート。――来るか?
しかし、そこでジークフリートは被った帽子に手をやってあらぬ方向を見た。
「新島さんとの追い駆けっこでは軽妙で愉快な
そうなると、もし、あの美女を傷めつけたならどのようなメロディが降りてくるか?……うむ、そうしましょう。女などいつの世も芸術の糧に過ぎませんからね」
そう言うと奴は白浜君と僕を無視して背を向けた。あっちに風林寺さんがいるのか?
「行かせるか! 美羽さんに手出しはさせない!!」
「ぬ? 放しなさい!」
白浜くんがジークフリートに追いすがり、彼を羽交い締めにする。
「風牙くん、行ってくれ!
新島がどっかの船に詰め込まれたらしい。美羽さんはロキからその場所を聞くために追っていったんだ!」
え? あ、うん、お、おう。行くのね? わかった、行くよ。行きますよ。
白浜君の熱い言葉に空気を読んで、僕は彼らを後に夜の闇の中にいるであろうロキと風林寺さんを追って走りだした。