俺がオレ主を史上最強の弟子ケンイチに突っ込むと凄まじくツマラナイ話になる。悲しい 作:ミスドナルドーワッフ
と、言った所で闇雲に探そうたって見つかるわけがない。なので、ひょいひょいと屋根の上に乗って見渡す。
この港の近くには商業高校と市役所があるだけで、昼間はそれなりの人がいるけれど夜になると結構に静かなところなんだ。
ポツポツと街頭があるだけの真っ暗な港湾部。月明かりを頼りに目を皿のようにすれば、港から走り去ろうとしている光を二つ見つけた。
車とおそらくはバイクの灯りだ。車の方は風林寺さんが向かったという方角、もう一方はその真逆。
風林寺さんはロキを追っていると白浜君は言っていた。あの“戦う参謀”って呼称を恥ずかしげもなく自称するロキが絵図を描いている。と、いうことは風林寺さんが追ったアッチはたぶん囮。そして裏から遠ざかるのが本命だろう。
白浜君達がどうやってここを特定したのかはわからないけれど、僕にはバレてたんだ。白浜君達がやってくるとロキが読んでいても不思議はない。
ってことは、おそらく白浜君に渡された新島の情報は欺瞞だろう。ジークフリートと白浜君を戦わせるための方便。新島は今もどこかで監禁されていて、そこにロキは向かうってわけだ!
ふっ。見破ったぞ! 策士気取りめ!!
待ってろ、新島。必ず助けてやるから、ちゃんと僕を意識してるって女の子のこと教えろよ!!
僕はそうして遠ざかっていくバイクの光の行く先を見つめ、走りだした。
◇
「“どこはな”と読むのかな? これは」
目の前の看板に書かれた“怒孤華 射撃場”というDQNネームさ具合に少々当惑する。
僕の追った光、つまりロキの乗った原付きバイクは湾岸部から隣町の山際にある射撃場までやって来ていた。
奴は追手を警戒したのか遠回りな上に曲がりくねった道を選んで通ってきた。そのおかげもあってルートを先読みして直線的に走ることで、僕は奴を見失うこと無くこの場所に辿りつけたわけだ。
さて、潜入を、と思っていると車の排気音が聞こえてきたので少し様子を見る。すると明らかに事故車、しかもフロントガラスが粉々に砕けた軽トラがやってきた。
その車から降りてきたのは不良A(※ロキの手下43号)と昨日おっぱい丸出しの刑に処した20号ちゃん。二人共どっかボロボロ。
ああ、なんとなくわかった。この破壊の嵐は、多分風林寺さんの手によるものだろうな。
20号ちゃんがお腹を抑えながら中に入っていくので、僕もその後をつける。不良A君は軽トラの掃除を泣きながらしてるので僕まで気が回ってないっぽい。あれかな、親の車とか、かな?
「白浜兼一さ! くそ……俺の読みをことごとく覆してくれるとはな」
「何!? ケンイチ!?」
20号ちゃんが向かった先は射撃場。そこにはロキと白いスーツを着た痛い奴が居た。
僕は少し離れた茂みに身を潜める。ここなら奴らの話がどうにか聞こえるんだけど、白浜君の名前を聞いた白スーツの驚きようがヤバい。
あれ誰だろ? 八拳豪の一人かな? 白浜君にめっちゃに反応してるあたり中学時代の知り合いか何かだろうか?
ビー!
急にブザーが鳴ったので、なんだ?見つかったか!?と焦ってると目の前の白スーツめがけてなんかが飛んできた。
それが当たる寸前、白スーツは突きと蹴りで砕き落とした。破片がパラパラ地面に落ちる。
あれは、クレー射撃に使う円盤じゃないか? バカンッ!ってすごい音がしてたけど堅いから痛いだろうに。
しっかし、よくやるよ。僕も飛び道具を打ち落としたり、鉄砲の弾を避ける稽古させられるけどそれを、独自にそれをやってるのか。
好き好んであんなことやるなんて……あの白スーツ、相当やるんじゃないか?
「白浜兼一……まさ―――なの―?――ちゃん」(まさか、君なのか?
白スーツの呟きはちょっと小さくて聞き取りづらかったけど、やっぱり白浜君を気にしているようだ。
うーん……まぁ、いいや、考えたって分からんし。それより、新島について何も喋らないな。どうしよう、こいつらは無視して家探しをするべきか、ぶっ転がして居場所を吐かせるべきか。
「ところで、君は誰だい?」
「何!?」
その瞬間、白スーツと目があった。
やべ、バレてたのか。隠形は習ったこと無いから、頑張って静かにしてたつもりだったんだけどな。ロキは白スーツの言葉に驚いているから、気がついてなかったんだし黙っててくれれば良いのに。
いや、そりゃダメか。……仕方ない。
僕はすっくと立ち上がって、体についた土や葉っぱを払う。
「風牙 北斗!!」
おや? ロキさんや、僕のフルネームを知ってたんだ?
ちゃんと調べてたんだな。
「
「そ、そんな!」
それは違う。
「おいおい、自称“戦う参謀”くん。 20号ちゃんのせいにするんじゃない。僕が尾行したのはお前だよ。お前がミスしたんだよ、他人のせいにしちゃいけないな」
僕は、右手の人差指を立てて、チッチッチッ!と振るとロキの間違いを訂正してやった。勿論、勝ち誇った表情付きで。
「なっ!?」
驚愕に震える奴に僕は追い打ちを仕掛ける。
ふふふ、駄阿呆め、策士気取りが己の無能を思い知れ! お前の策略なぞ稀代の軍師、竹中半兵衛重治の教えを連綿と受け継いできた風雅家の
「わかったら、とっとと新島を出しな! 船に載せたってのがハッタリってのはわかってんだよ!」
愕然とするロキに指を突きつけ、かっこ良く決めてやった。
フッ、決まった。僕は今、最高にイケてる!!
「いや、本当に箱詰めして貨物船に載せた。アイツは今頃とっくに海の上さ」
「フン、そんな戯言はいいから新島は何処だ?」
「あの……本当に載せちゃいました」
「20号ちゃん黙ってろ。また、ひん剥くぞ」
「……」
「……」
「……どうした、早く新島を出せって言ってるんだ!」
「……ロキ、その新島とか言う奴は?」
「チーフ……部下からは確かに貨物船の荷物に紛れ込ませたと報告を受けた」
「そう、か」
……何、この空気。
「え? その、マジで?」
ロキを見る。目を逸らされた。20号ちゃんを見る。目を逸らされた。
白スーツを見る。首を横に振られた。
「え? ちょっとそれ、洒落になんないでしょ。だって、オマエ等、馬鹿だろ? やり過ぎだ。通報するわ」
僕は携帯の入ったポケットへと手を伸ばす。
「20号!」
「はいロキ様っ!!」
ロキの叫びに、20号ちゃんが背のバックから拳銃タイプのモデルガンを取り出してこっちに向けるや否や「パンッ、パパパンッ」躊躇なく撃ちやがった。
だけど幾ら距離が近いとは言え、さっき言っただろ? 銃弾を避ける練習もやらされてるんだって。
うちの家伝の武芸、風雅六芸。そして僕が併修させられている泰斗六術。そのどちらにも共通な六という数字は、柔、剣、弓、槍、馬、そして鉄砲(火縄銃)の六つを指している。
鉄砲つまり銃の扱い方、使い方、戦い方、そして当然対処の仕方がそこには含まれるわけで。秋野の現当主、武彦さんは相手の見えないところから撃って来られても悠々と躱せるし、風雅本家の一平さんも僕と同い年の頃には真後ろからの投げ苦無を避けられたらしい。
だから、というわけじゃないけど銃口の向きと引き金を引く瞬間が目で見えている状態から弾を避けるってのは、僕にも出来ちゃうんだな。これが、さ!!
「嘘っ! こいつも、何で!?」
とは言え、さすがにポッケから携帯を取り出して開いてボタン押して「もしもし」と言えるほど、余裕ぶっこいてるわけじゃない。
ビックリしてオタオタしてる20号ちゃんまでの間合いを一気に詰めると
「邪魔」
蹴りを食らわせれば、どうやら風林寺さんから受けたダメージが残ってたらしく、彼女はあっさりと倒れ伏す。
でも意識はまだあったので起き上がってまた来られても面倒だから止めを差しておこうと手を伸ばしたら、
「ぉおおおおお」
20号ちゃんに構ってる間に近づいて来たロキがパンチの雨あられを降らせてきた。
けど、その全てが僕の体に触れる前に叩き落とされるか、払われるか、逸らされるか、弾かれる。
そして、グイッと手首を掴んだ所で―――
「くあっ」
焦ったようにロキは強引に腕を振って、僕から距離を取った。しかも多めに。
もしかして昨日、五塊陰殺で心臓を一旦停止させられた恐怖が残ってるんだろうか? 僕に攻撃させないように手数で押してきたって感じを受けたけれど。
「ほう、君は制空圏が使えるのか」
「せーくーけん?」
不意に白スーツが喋った。
せーくーけん。聞かない単語だ。セイクウケン、制空権? いや、知ってる、知ってるよ。戦争の用語でしょう? でも制空権を使うってなんだ?
制空権は取るもので、制空圏は制空権が確立している範囲のことでしょう?
「ん? 先に開展を求め、後に緊湊に至る。この緊湊に至った時に見えてくる自分のゾーン」
白スーツの言いたいことを考える。
「きんそー? あ、確か中拳(=中国拳法)の教えだったはず。……ゾーン?」
ゾーンて、最近スポーツの分野でもてはやされている気力体力の多可はどうでも極度の集中による全身体機能の覚醒状態のことか?
僕はそんなところまでは行ってないし、意識的に使えたりはしないぞ。スポーツで言うゾーンかどうかは分からんが、身体機能を覚醒する技はうちにもあるけど。
「その領域に進入するものは全ては排除する技術のことだ」
「ああ、なんだ……自分の間合いのことか。 そういうのを他流じゃ結界(※)とも言うとか何とか」
「へぇ、古武芸の中ではそんなふうに言うのか。勉強になったよ」
こいつ……
中国拳法にセイクウケンなんて用語は多分無い。武道にも古武術にも無いと思う。少なくとも僕は聞いたことがない。
セイクウケンが制空権、制空圏だとすれば飛行機での戦闘が始まった第一次大戦前後に生まれた武術、システマやクラブマガのような軍隊格闘術だろうか?
チッ、駄目だ。僕の浅い知識からは白スーツがどんな武術を使うのか見当つかないな。
「チーフ! 邪魔すんな! こいつはここで片付ける!!」
「ハッ、出来るなら最初からやりなよ。できるならさ」
「ぐっ、てめぇ……」
ビキビキッ!って音が聞こえるぐらいに体に力が入ってるロキ。結構煽り耐性無いよね、この人。参謀自称する割には。
今にも突っかかって来そうなとき、
「待て。
―――確か風牙……北斗くんだったね?」
また白スーツが声をかけてくる。
静止をかけられたロキがスッゴイ見てるんだけど……ゴーグルあるから分かんないけれど、君がめっちゃ睨んでる白スーツの彼はチーフってんだから、偉いんでしょ?
いいのんだろうか? 上にそんな反抗的で。
「僕らの仲間にならないか?」
「なっ! チーフ!!」
「……」
「君の報告じゃ、ハーミットとほぼ互角。そして今のやりとりから君を退けたと言うんだ。実力は十分だろう?」
ギリッと網々ゴーグルから歯ぎしりが聞こえた。
「どうだい? 拳豪の地位を用意してもいい。」
「っ!」
と、言われてもなぁ。不良の仲間入りなんてしたくないよね、普通。しかもロキさんは大反対のようですよ。
それに僕はそんなことよりも、
「……誘ってくれるのは嬉しいけど、断るかな」
「へぇ、新白連合への義理立てか?」
少しだけ険しい表情になる白スーツ。
「まさか。ちがうちがう。不良集めて遊ぶ暇があったら鍛錬に費やさなきゃ。そりゃ用兵学の実地訓練っていうのじゃ、お誘いには一理あるけどね」
「ふむ……」
「じゃあ、お前はなんで新白連合に入ってる! 俺の情報じゃ事あるごとに出張ってきてるだろう!」
ちょっと。偏差値低い馬鹿高校に行ってるからって、不良の仲間入り認定は止めてよね。僕は至って真面目な普通人だ。
事ある毎にって言うけれど、新島が依頼してきた時にしか僕は出張ってない。
それにしたって新島が
「女の子紹介してくれるって言うから手を貸しただけだし」
「は?」
「だからぁ、女の子を紹介することを報酬に僕は助っ人をしてるだけ。ただの数合わせ。賑やかしのモブだよ。
僕は新白連合には入ってない。だいたい、んな不良グループに入ったら女の子寄り付かないじゃないか」
ポカンとした顔の白スーツとロキ。あ? なんだよ、僕等くらいの歳なら一日中、女、女、エロ、女、エロ女って考えてるだろ。
行動の理由が彼女欲しさだって良いじゃないか。ったく、これだから彼女に不自由してなさそうなイケメンは嫌いなんだよ。滅べよ、滅んでしまえ。
「じゃ、じゃあ、俺がお前に女を紹介してやると言ったら、新白を裏切るんだな?」
「は? だから、裏切るも何もないって」
ロキがそんなことを言ってくるけど、こいつは本当わかってない。僕は新白連合とは関係ない。
とは言え、その申し出に頷くことは出来ないな。出来るわけがない。そんなこと僕の心情が許さない。
「でも、無理に決まってるだろ!!」
「な!?」
「だって、お前“戦う参謀”とか自称してるじゃん。お前に紹介された女なんてハニートラップとか仕掛けられる可能性が高くてやってられないよ。惚れて最後に泣くのは僕ってオチが見える」
「っ、じゃあ、新島はどうなんだ!」
「宇宙人の命令で男に股を開く女なんて世の中にいない」
僕は、青い春の嬉し恥ずかしトキメキらんららんメモリアルがしたいんであって、こいつ本当は
「……なるほど、どうあっても敵ということかな?」
「君らが襲ってこなきゃ良いんだよ」
白スーツがメガネをクイッと直して、その奥から見つめてきた。こっちもその視線を見返す。
「残念。交渉は決裂だな」
その言葉に戦闘を予感した。体に意識を通す。
だけど、白スーツはこちらから意識をそらし、ロキへと話しかけた。
「ロキ、その新島とか言うリーダーが無事な可能性は?」
「……チッ。あの港に入っていた貨物船はちゃんと調べがついてる。船籍、行き先、積み荷、乗組員もな。奴の口は塞いでないから、直ぐにも見つかって連絡が来るだろうさ。ただし、戻ってくるのには二、三ヶ月後になるだろうがな」
「――だ、そうだ。時間はかかるようだが、無事戻ってくる公算が高い。これで納得かな?」
騒ぎ立てるな、ということだろうか?
とは言え、そういうわけにも行くまいて。
「……明日、いや明後日までに新島の居場所の連絡が来なかったら通報するから」
「それでいいな、ロキ」
「……」
「では、ここまでだ。我々は帰るよ。君も帰らないといけないんじゃないか? こんな夜遅くまで夜遊びだなんて不良だと言われるよ」
「っ、言ってくれる」
嫌味なやつだなコイツ。
クルッ、と奴が背を向けた所で、ふと思い出したことがあったのでその背に声を掛けた。
「そうだ、白浜君に何か伝えることがあるんじゃないのか?」
「っ!?」
ピタリと足を止めた白スーツは、探るようにこっちを見る。
「白浜君の名前を聞いた時、驚いていたから」
そう理由を話せば少し考えて納得したのか、奴はフッと自嘲らしき笑みを浮かべた。
そして首を横に振る。
「いや、近いうちに直接会いに行くよ。本当にそうか分からないしね」
「……ふーん、そうかい。そう言えば、アンタの名前聞いてなかったね」
「第一拳豪 オーディーン とだけ名乗っておこう」
そう言うと彼は今度こそ僕を置いて去っていった。
ロキも気を失ったままの20号ちゃんを姫抱っこして去っていく。見せつけやがってリア充が。滅べ。それかモゲろ。
僕の呪いに気がついたのか、奴は最後に僕の方を見たけど結局そのまま何も言わずに射撃場を出て行った。
はぁ……、結局今回も僕はいいとこ無しだった。
一人残された射撃場で僕は空を、海のあるほうの空を見上げた。今頃、新島は太平洋沖の貨物船の中。もう発見されただろうか? それともまだか?
無事戻ってきてくれるといいけれど。……今の僕にはどうしたりようもない。せいぜい、無事を心配し、帰還を祈るくらいか。
星に願いを、と手を合わせ祈り、そして見上げた夜空。
そこに、
―――な、なんじゃ、ありゃぁああ!?
※結界
マガジンで連載していた武術漫画「コータローまかりとおる!」の
元ネタは“能”における扇子の役割から。扇子は内(=自分)と外(=他者)を隔てる仕切り=境であり、その外側は基本的に上位者(能の場合は神)。扇子は上位者に対する結界を貼る道具であり、その境目の証。
そこから正座をし扇子を前に置くことで結界を張ったとみなし結界の内側にのみ意識を向けることで、そこに入り込む存在、それが例え死角(真後ろ等)からであっても絶対に感知し迎撃すると言う技。
しかも、「おなら」と言うガス攻撃に対しても扇子をあおぐことで防御するという鉄壁さを備える。