俺がオレ主を史上最強の弟子ケンイチに突っ込むと凄まじくツマラナイ話になる。悲しい 作:ミスドナルドーワッフ
貴方はこの話を聞いても信じないと思うけれど、あの夜のことを、三日月がよく見えた雲一つないあの日の夜のことを話そうと思う。
その夜、私の友人は突如として海外への旅に出ることになった。私にはそれを止めることが出来ず、ただただ彼の無事の帰還を星に願うのみだった。
そうしてどれほど手を組み、星に祈ってただろう? 数分?それとも一時間? やがて私が祈るのを止め、ふと顔を上げた時それは目に飛び込んできた。
薄紅色をした巨大な満月。
そう、満月だ。その夜は三日月が天に登っていたはずなのに、そこにあったのは大きな、とても大きな満月だった。
ありえない光景だ。だが、確かにその不気味な色をした満月は私の目の前にあったのだ。
しかし、私を襲う怪異はそれにとどまってはくれなかった。
満月に目を奪われていた私の耳に小さな、しかし確かな音が届く。
聞き慣れないその音は私を酷く不安にさせた。
ショワン、ショワン、ショワン、ショワン、ショワン
近づいてくる。次第に大きくなってくる音に私はそう確信した。
その音は上から、空から、私の後ろの空から聞こえてくる。私は得体の知れない恐怖に衝き動かされ、その正体を確かめずに入られなかった。
恐怖を振り切るように振り返り、仰ぎ見れば―――
紫色の金属光沢を持つ麦わら帽子のようなそれが浮かんでいた。
私は、声にならない叫びを上げた。
ひさしの下にあるオレンジ色4つの丸い半球を妖しく明滅させながらそれは飛んでいた。
私は何故か、それが何かを探しているのだと思った。それに思い至るとゴクリと唾を飲み込んだ。知らず膝がガクガクと震えていた。
ここから逃げなければ、離れなければ、と私は震える体に鞭を入れて一歩後退った。その瞬間――――
奴はそれまでの動きをピタリと止め、一直線に私に迫ってきたのだッ!
頭上、視界いっぱいにはオレンジの光。私の体を一条の白い光が降り注ぎ包み込んだ。それを見た私は覚悟した。私はどこかに連れて行かれる、ここで私の人生は終わるのだ、と。
やりたいことがあった。行きたい場所があった。食べたいものがあった。読みたい本があった。触れたいものがあった。だが、それらも何も、もう届かない。
色々な思いが走馬灯のように浮かんでは消え、消えては浮かび、巡っていく。
悔恨と未練と渇望をないまぜにして私は、頭上の光を見続けた。
しかし、やがて私に降り注ぐ白い光は急速に細くなり、遂には無くなってしまった。
そうして何が起こったのか、何が起こっているのかを私が理解する前に、頭上を覆っていたそれはもの凄い早さで空の彼方へと去っていく。
私はただただ呆然とそれを、奴の去った先を眺めているだけだった。
どれほどそうしていただろう、ふと気がつけば空に薄紅の満月は無く三日月が静かに輝いているのみでそこに異常の欠片は見当たらなかった。
夢…だったのだろうか? ……いや、そんなことはない。
私の胸にはその確信があった。いや、それは予感に似た何かだったのかもしれない。私は何故だか奴を追わなければならないと強く思った。
そして気がつけば私は奴が去って行った先、港の方角を目指して走りだしていた。
途中、向かう港の方角からとても大きな音が、何かがぶつかる音が聞こえた。何か異変が起きている。それはきっと奴に関係することだ。
私は脚に力を入れ、全力で走った。
辿り着いた港には
なんでも出港したはずの貨物船が太平洋沖で急に進路を転身、逆走したうえ港へと突っ込んできたそうだ。幸いと言うべきか、貨物船は岩場で座礁、港湾施設に被害はなく燃料の流出もなかったようだ。
しかし、耳に入ってきた話には宇宙人やらUFOやらの単語が見え隠れしていた。奴だ。奴に違いない。
私は人集りを離れ、その座礁した貨物船を見るため海岸へと下りた。次第に水平線に日が昇る。ウミネコのミャアミャアという鳴き声が聞こえてきた。
「う~、痛ってぇ、頭が割れそうだ。……ここはどこだ? 竜宮城に行ったのは夢か?」
聞き覚えのある声が耳に届き、私は驚いて駈け出した。
果たして、そこには頭を押さえ起き上がる人物が。それは昨夜、海の向こうへと旅立ってしまったはずの友人だった。
その彼の姿を目にして、私は全てを理解した。
彼の身を覆うこの世のものとは思えない光沢を放つ
そう、そうだったのだ。奴が探していたものとは彼だったのだ。奴は彼を連れ戻すために現れたのだ、と。
何故なら彼は――――
◇
昼休みの教室。
「で、新島が宇宙人だからUFOが来たんだって?」
新聞に載っていた貨物船座礁の真実を、その恐るべき真実の告白を聞いた姫野さんがそう呟いた。
その呟きに僕は重々しく頷く。
「そうなんだ。……そうなんだよ、姫野さん」
「……はぁ」
何故か溜め息を吐いた姫野さんは泉さんと顔を見合わせた。
そして、
「あのなぁ、お前。なんかスッゴイ真剣な顔で考え事をしてるから何かと思えば……」
呆れた顔を僕に向けてきたのだ。
さっきまであんな真剣に僕の告白を聞いてくれていたというのに!!
「本当なんだって!」
「ああ、うん、わかってるわかってる」
「ムッカー! ならいいよ、いつか絶対本当だって認めさせてやるから」
「はいはい、いつかそんな日が来るといいな」
そう言って僕の額をデコピンする姫野さんを僕は睨んだ。
にしし、って可愛く笑っても駄目だぞ。ったく。