俺がオレ主を史上最強の弟子ケンイチに突っ込むと凄まじくツマラナイ話になる。悲しい 作:ミスドナルドーワッフ
季節は夏も終わり、衣替えも済んですっかり長袖の服を着ることが当たり前になった今日この頃。
白浜君の様子がいつにもましておかしくなってた。休み時間になると一目散に教室を出て、事あるごとにキョロキョロとあたりを見回し誰かを探している。
谷本くんが帰ってきたらしいことを新島から聞いたから彼を探しているのかと思ったけれど、まだ学校には出てきてないらしく、そんなことは直ぐにも知れた。
よくよく観察すれば、どうも風林寺さんを避けているっぽい。今だってほら、
「おー、白浜。風林寺が探してたぞ。一緒に帰るんだろ?」
「ぎゃああーーー!!!」
「うわぁあ、な、何だよ! 大声出すなよ」
風林寺さんに集中しすぎて姫野さんの不意打ちに気がつかない。いや彼女の言った風林寺って言葉に驚いたのかも。
「ひ、人違いですぅー」
「はぁ? 何言ってんだ?」
顔を手で覆ってダッシュで逃げていく白浜君。
「何なんだ? アイツ……」
「大方、風林寺さんと喧嘩でもしたんじゃない?」
呆然と走り去った白浜君の背を見ていた姫野さんに話しかける。
すると彼女は何故かビクッと体を震わせて飛び退いた。
「うぉ! なんだ、
「酷い。そっちが勝手に驚いただけっしょ」
別に気配を抑えてたつもりはないし、同じクラスなんだから授業終われば急がない限り大体一緒の辺りにいるもんじゃないか?
気がつかないそっちが悪い。そう思うんだけど、
「女の子の背後から黙って近づくなんて痴漢もいいとこだぞ」
「えぇぇ~、そんな理不尽な」
せっかく疑問に答えたのに、この仕打ち。やってられん。
とは言え、強く言えないこの悲しさ。よく思われたいっていうか、なんというか、中途半端に優しいって言うの? 女の子に免疫ないから強気で行けないんだよねぇ。
「しっかし……そうか風林寺と。でもよく気がついたな?」
「だって今日ずっと白浜君、風林寺さんから逃げまわってたし」
そう、今日の白浜君はどこか風林寺さんを避けていた。何があったのか知らないけれど、白浜君は顔を合わせ辛そうににしていた。
風林寺さんはそんなことはなさそうだったので、どうにも罪悪感を持っているのは白浜君のほうだけのようだったけど。
「ふーん……こりゃひょっとしてチャンス到来?」
「え!?」
「っ! びっくりしたぁ。なんだよ、もう、さっきから」
「姫野さん、白浜君狙ってたんだ?」
姫野さんの漏らした言葉に驚いて思わず声が大きくなる。
「は? バッ、なんで私があんな冴えない
「え? だって白浜君って最近いい感じじゃない。 ほら、前に姫野さんもそんなこと言ってたし」
「はぁ? そんなこと言ったっけ? 覚えてないぞ。 とにかく私じゃない……泉だよ、泉」
「ああ、泉さん? やっぱそうなの?」
「やっぱりって……まぁバレバレか」
同じクラスの泉さんの白浜くんへの思慕は結構わかりやすい。なんとなく視界に入った時、彼女の視線を追うと大体白浜君の姿に行き着く。
好きな人を知らず目で追ってしまう、というやつだろう。青春してるなぁ、と思うと共に白浜君ばかりうるおっててムカつくなぁとも思う。
「泉も白浜と一緒に帰ろうと頑張ってるんだけど、いっつも邪魔が入って最後には
「へぇ、泉さんって思ってたより積極的なんだ」
「うーん、そうでもなかったんだけど一念発起っていうのか、高校デビューっていうかさ。ま、親友としちゃやっぱ応援したいじゃん」
泉さんと風林寺さんは同じメガネッ娘だけど、セックスアピールは風林寺さんのほうが断然強い。古賀先輩が言ってた通り彼女はおっぱいちゃんだし、稽古での身体的接触も多いだろうしね。
そういう点じゃ勝ち目があまり無い気もするけれど、確かに泉さんも泉さんでタイプの違う可愛いさだし、頑張ればなんとかなるかも。
だってほら僕らはいっつも頭ン中エロいことばかり考えてる男子高校生だし、据え膳があれば飛びつきたくなる年頃だもの。
「そっか。……泉さんは可愛いし頑張れば振り向いてれる可能性も出てくるかも。白浜君は鈍そうだけどね」
「ふふん、そうと決まれば泉に教えてあげないと」
「あれ? 今日薙刀部は?」
「もち、行くよ。お前は? 新白連合だっけ? あれに行かなくて良いの?」
姫野さんの指摘した事実に愕然とした。自然と渋面を作る。
おのれ新島め。お前のせいで僕が仲間だと思われているじゃないか。誤解を解かねば。
「どうしてそう思ったのか知らないけど、僕はあんな妖しげなグループのメンバーじゃないぞ」
「ふーん、そうなのか?」
「そーなのだ」
「じゃあ、お前何部に入ってんの?」
「帰宅部」
「うわ、だっさ」
「おい」
「あはは、怒った」
ケタケタと笑いながら僕から逃げようとする姫野さんは僕を見ていて気が付かなかった。
白浜くんが物凄い勢いで走ってくるのに。
「ごめん! どいてッ!!」
「っ!」
気がついた時にはもう手遅れ。今からじゃ、姫野さんが回避行動を取る間もなく、走ってきた白浜君とごっつんこしてしまう。
だから、
「こっち」
僕は彼女の引っ掴んで抱き寄せた。
瞬間、白浜くんがビュンと風を起こしながら目の前を「ごめーん」という謝罪にドップラー効果を残して駆け去っていく。
「わ、わりぃ」
「ああ、うん……」
胸元の姫野さんからの謝罪に僕は生返事を返す。普段ならそんな事もないんだけど、今回は特別。姫野さんよりも白浜君の方が気になったから。
彼の作っていた鬼気迫る表情は、何事か変事があっただろうことを告げるに十分だ。
「……風牙、その」
「ん?」
「もう、大丈夫だから」
何のことだろう?と見れば少しばかり頬を赤く染めて、居心地悪そうにこちらを見上げる彼女の顔。
そこで僕は気がついた。自分の行い、つまり彼女を胸に抱き寄せたままだったことに。すっかり忘れていた。どうりでなんか好い匂いがすると思った!!
「ご、ごめ!」
「ん…うん」
パッ、と手を離せばおずおずと僕から離れていく姫野さん。やばい……き、気まずい!
何か言わなければとあーでもないこーでもないと頭の中で考えるんだけれど、うまく言葉が出てこないし考えもまとまらない。
こんな時どんなふうにすればいいのか全く分からない。えーっと、えーっと。
と、そんなふうに僕がパニクっているとドタドタと廊下の向こうから複数名が走ってくる足音が響いてきた。見れば武田先輩を筆頭に宇喜田先輩、そして少し遅れて新島に風林寺さんが駆けて来る。
僕と姫野さんが揃って道を開けると、そのまま前の二人は素通り。新島は風林寺さんに何かを説明しながら過ぎ去って、途中
「風牙ぁ! 連合のピンチだ、お前も来ーい!!」
と振り返って僕を呼んだ。
「呼んでるぞ。ピンチだって」
「うっ」
さっきの今、メンバーじゃないって行った手前、のこのこと追いかけるのはバツが悪かった。
「行ったら? 頼りにされてるみたいじゃん」
「……えっと」
「ほら、行けって」
うだうだと迷っているとバンッと背中を叩かれた。
「白浜がピンチってなら泉の代わりに助けて来てやってよ」
別に新島は連合のピンチって言っただけなんだけど、まぁ白浜君がすごい勢いで走っていった後に新島達なんだから嫌でも分かるか。
「分かった。じゃあ、行ってくる」
「うん、行って来い。また明日な」
「うん、また明日」
そう言って小さく手を振る彼女に僕も手を振り返してから、先を行く風林寺さんと新島達に追いつくため走りだした。
◇
先を行く新島と風林寺さんに追いつき事情を聞くと、白浜君の妹、ほのかちゃんがロキに拐われて人質に取られたらしい。それで白浜君は三丁目の教会跡地に一人で来るように言われたそうだ。
白浜君は送られてきた妹ちゃんの写真を見た瞬間飛び出し、皆はその後を追うと。風林寺さんだけでも先行すれば追いつけるんじゃと思ったけれど、その三丁目の教会ってのを彼女は知らないらしく新島と一緒に動いたほうが確実ってことで一緒に走ってる。確かにこの宇宙人は脚が速いからな。とくに逃げ足が。
そうこうしている内に先行していたはずの武田先輩と宇喜田先輩が立ち止まっているのが見えた。宇喜田先輩は少し息が上がってる。先輩はガタイが大きいぶん、走るの苦手そう。
「うっそ~ん? じゃあ兼一君を見失った今、僕らは何丁目の教会に行けばいいんだ~い?」
「し、知らねーよ! 俺に聞くな」
「その角を左に曲がれ!! 三丁目の教会に向かえ、鉄砲玉諸君!」
先輩たちが立ち止まっていた理由に唖然としていると新島が的確に指示を出す。自分たちの失策を指摘されて苦虫を噛み潰したような表情の先輩たちを尻目に先んじて動いた。
「新白連合つづけーっ!!」
すれば先輩たちもその後について走りだした。……やっぱり、こいつはこういう指揮能力高いなぁ。
そして、新島の道案内で先を急ごうとした時、
「悪いけど、ここから先は通行止めだよ」
「ロキ!」
ロキその1が立ちふさがる。
確かに背格好は似てる。だけどこいつは偽者だと、直ぐに分かった。何故って? だって声が違うんだもん。いくら背格好を真似ようと声まで真似られるほど芸達者でもなければ金もかけてない。
しょせん餓鬼のやることだから、この程度が限界ってところだろう。
「ほのかちゃんを……兼一さんの妹を拐ったというのは本当ですの!?」
「そんぐらい汚い手だって平気で使いやがるんだよ、こいつは!」
「失敬だねぇ。そこは優雅に策略と言ってくれよ」
人質を取るくらいで策略とか、アホかこいつ。まさか本物もそんなこと思っていないよな?
「おい偽者。そんな阿呆なこと言ってるから本物の小物臭が酷くなるんだ。時間稼ぎは無駄だから、とっとと退け」
「なっ!?」
「な、なんで偽者ってわかるんだ~い?」
「声が違うのさ。そうだろ、風牙」
新島の解答に頷いて肯定する。
さすが新島、ちゃんと覚えてたか。本物と結構長い時間会ってたからな。
「チッ、確かに俺はそうかもしれないが」 パチン
舌打ちとともにロキその1が指を鳴らせば、今まで物陰に隠れていたロキその2~その7までがぞろぞろと現れ完全に道を塞いだ。
それぞれがコート下からロッドを取り出す。バチッ、チリチリと時折鳴っているのは高電圧がかかっているんだろう。
「ろ、ロキが7人も!?」
「いや、あの太った奴はちげーだろ」
「ふん、たった7人で俺たちを止めようなんて片腹痛いぜ」
新島がファイティングポーズを取って珍しく矢面に立った。正直目を疑ったが、次の瞬間、奴はファイティングポーズのまま華麗なステップを踏んで下がっていった。そしてカサカサと電柱に登って高みの見物。
ははっ、さすが戦わない参謀。徹底した卑怯さに僕は感嘆してしまうよ。
「逃げてんじゃん!」
「来ますよ!!」
宇喜田先輩のツッコミの暇もあらば、ロキsが突っ込んでくる。
奴らの手にした武器スタンロッドのように中央部に持ち手があり、その両端を伸ばした形状の武器を
杵本来の役割や見栄えから柄の両端を長くして格好良く敵を倒してる姿がアニメや漫画等で見られるけど、あれはアニメや漫画だからであって。
ロキsもそれなりに練習をしているようではあるけれど……
「ふんっ!」
「ガッ」
振り下ろされる瞬間、すいっと中に入り下腹部に一撃、くぉっと顔が下を向いた瞬間その手を掌打にして顎を打ち上げる。先ず一人。
そこに突き込んで来たのをクルリと体を回しながら避けつつ間を詰めて肩口を殴る。ロッドを落とし後ろによろめいた瞬間、足先を踏みロキその何番目の動きを制限してみぞおち辺りに肘鉄を入れる。これで二人目。
「うぉおお」と雄叫びを上げながら、くるくるくるくる、まるでバトントワリングのようにロッドを回しながら突っ込んでくるロキその云番目。あれで防御と攻撃を兼ねているとでも思っているんだろうか? 回転の隙をついて中心、つまり柄の部分に蹴りを一発。握り手を潰されてロッドを落としたけど、そのままの勢いで掴みかかってくるのでその腕をとって背中に回って反対の手を太ももに。風雅流表芸、
見れば武田先輩はスウェーやヘッドスリップ(※ともにボクシングの身体運用による防御法)でロキのロッドを躱して、左ストレートの雨あられを見舞った後グルグル腕を回してアッパーカット。ロキその○番目が天高く舞った。
宇喜田先輩はロッドに手こずっているけれど、強引に組み行っていた。
風林寺さんは……あー、あれだ暴風を作ってアッという間に二人仕留めたと思ったら、宇喜田先輩の援護に回る。
「お終いッ!」
「ゲフ!!」
風林寺さんの後ろ蹴りを食らって吹っ飛ぶロキ7番目。……あいつ、絶対風林寺さんのパンツ見えたよね。いや、見たいわけじゃないんだけど、その、ね、うん。
「ふっ、俺様の敵ではなかったな」
「戦ったのは俺達だろうが!」
電柱から降りてきて、さも自分が戦ったかのように勝ち誇る新島にツッコミを入れる宇喜田先輩。宇宙人のいうことなんて無視すれば良いのに、律儀で気の好い人なんだな。
「さっ、早く行きますわよ」
「フッ、フフフフ」
風林寺さんの声に促され走りだそうとした瞬間、倒れていたロキの一人から笑い声が。
「本物は……ここさ」
ニヤリと笑うのは太っちょロキ。いや、確かにアンタはデブにしては動きは良かったけど。
彼を無視して走りだす皆。
「待て!お前ら他人を外見で判断しちゃ。いや、そのとおりですけどぉ!!」
彼の叫びが悲しく耳に届き、僕は足を止めてしまった。そして、
「あんた、見た感じじゃこいつらの中で一番強かったと思うけどさ……もうちょっと痩せなよ」
一言だけ彼に言葉を残す。
「く、くそぉおおおおおおお!」
それが彼の心を折る、
※杵
元々は穀類を脱穀するための道具。棒の発展形。
武器としてこの形状を取るものは少ない。というよりほぼ皆無。(作者が知らないだけ)
かろうじて密教系法具(独鈷杵、三鈷杵等)にその形が残るのみ。