俺がオレ主を史上最強の弟子ケンイチに突っ込むと凄まじくツマラナイ話になる。悲しい 作:ミスドナルドーワッフ
夏はとっくの昔に終わりを告げたというのに、どうにも雲行きが怪しい。
空は黒い雲で覆われ、ゴロゴロと鳴り始めていた。雲の中で雷が起こっているのか、時折、稲光が雲の隙間から見える。雨粒が落ちてくるのも時間の問題だろう。
「ここですわね!」
辿り着いた教会跡地、錆びついた門扉が内側に倒されていた。草の倒れ方からしてつい最近倒されたんだろう。ロキか? それとも白浜くんだろうか?
「おーい、二人共待ってくれ」
ゼーハーと息を切らせながら武田先輩が追いついてきた。
「ハニー、気をつけるんだ」
「ええ、まだ伏兵がいるかもしれませんわ」
確かにロキの部下はたくさんいる。確かあのおデブさんが108号だったはずだから、まだ100人くらいはいるか……
100人。それだけいれば気配くらい分かるだろうけど、それらしいのは無さそう。風林寺さんもキョロキョロするくらいで、特に気を張ってるわけではない。
「ぐぅぬぅうううう」
「どうした新島、バテたのか?」
「いや、オレ様、昔っから神社とか教会に行くと気分が悪くなる
「悪魔か? お前……」
宇喜田先輩、そいつは宇宙人だから。いや、悪魔でもあるんだろうか? 悪魔星からやってきた悪魔星人。なるほど! 悪魔星人。辻褄が合うな。
宇喜田先輩は新島の正体を疑いながらも、その背におぶって新島を連れてくる。本当、面倒見の良い人だな。
「ぐぉおおおおおおおおおおお!!」
どこからともなく聞こえてくる雄叫び。あれは白浜くんのものだ。
「あっちですわ!」
「あっちか」
瞬間、僕と同時に風林寺さんが駆け出した。
「あっ! 待ってくれよ、ハニー」
「うぅ…行けぇ、宇喜田ぁ。あっちだぁ」
「うるせぇ、黙ってろ」
後の三人の声を背中に聞きながら考える。ロキのことだ、妹ちゃんを盾にして白浜君をいたぶっていると考えて先ず間違いないだろう。
と、なるとその場に妹ちゃんもいるはず。そうしないと白浜君は暴れるだろうからな。自分の手元に妹ちゃんを置いて、手下に殺らせるってとこだろう。
それとも逆に自分で手を下す、か? 戦う参謀とか自称してる痛い奴だからな、彼は。強さの証として谷本君やジークフリートを倒した白浜君を自分の手でってのは考えられる。
そっちの線だと―――ッ!
「っ!?」
向かう先から、ゾッとするような痛さを伴った熱い風が吹き抜けていった。
これは―――殺気だ。恐ろしく熱い、思い圧力を伴った威勢。この先に恐ろしい何かがいる。一瞬だけど、ものごっつい殺気を放った何かがいる。
まさか、とは思うけど第一拳豪? いや、彼だってここまで強い殺気は放てまい。
……彼らを統率してるっぽいケンセイと言う奴か? 梁山泊で会ったちっちゃい中国のおっさん、馬 剣星ならこの殺気も頷けるけれど、果たして。
「? どうしました?」
「いや、なんでもないよ。急ごう」
風林寺さんは感じなかったっぽい。気のせい、ではないと思うけれど。
チッ、思ったより簡単には行かなそうだ。
「拳聖様の名の前では……まるっきり木偶人形だな、ハーミット」
「っ」
「てめぇはそこでおとなしく見てろ! ライバルが俺に潰されるのをな! ヒャハハハッ!!」
いた。白浜君! にあのコート姿はロキ!しかも本人だな。あそこで突っ立ってる黒マントは谷本くんっぽいけど。
大きな木の真下、白浜君は空手の
「兼一さん! ほのかちゃん!」
風林寺さんの視線の先、建物に張り出した二階テラス?部分。あの上で20号ちゃんにナイフを突き付けられているロープグルグル巻きが妹ちゃんだな。
二階の出っ張り部分まではおよそ5mの高さ、跳躍だけだとキツイか。
僕は巨木を見上げる。……やっぱりいた。なんかたくさん物の入った包みを抱えた道着姿のちょび髭といつぞやの裸にジャケットの顔に傷有り空手家、逆鬼至緒だっけ? 梁山泊の達人の彼らが高みの見物ってことは、妹ちゃんの(命の)安全は担保されてるってことだ。
少々無理しても大丈夫だろ。
なら―――
と、僕は建物内部からの20号ちゃんと妹ちゃんの背後へと回ることにした。
建物の扉は固く閉ざされていたので、建物の反対側へと回ると有難いことに二階部分には人一人が入れる程度に壊れた窓を見つけることができた。
壁を走って(※)二階出っ張り部分へ。割れた窓から内部を確認するとここは礼拝堂だったらしく二階部分に部屋ではなく吹き抜けで廻り廊下になっているようだった。
これは好都合。僕はスルリと窓の中へと滑り込んだ。
石造りとあって軋む音は出ない。それでも細心の注意を払って抜き足差し足忍び足で僕は20号ちゃんと妹ちゃんの背後に回る。
「いで~~~っ!
身を隠しつつ覗えば妹ちゃんが20号ちゃんに噛み付いてる。20号ちゃんは強い言葉で脅す。
妹ちゃん、ナイフにも怯えないなんて強い子だなぁ。白浜君の妹だけあって肝が座ってるのかも。お兄ちゃんのピンチにそれどころじゃないってのが、本当のところだろうけれど。それに引き換え……でも―――これでわかったことがある。
「わからない。 君は強いんだろ? どうしてこんな卑怯な真似をする? 正々堂々の組手なら幾らだって―――」
「ククッ、
20号ちゃんは妹ちゃんを血塗れにする気もなければ、その覚悟もない。
だったら、
「悪の美学さ」
「何っ!?」
「悪の美学がそうさせるのさ。だろ? メガネカトンボ」
「チッ、影ども。あと十分保たせられなかったのか!」
宇喜田先輩に背負われてようやく到着した今にも死にそうな新島の言葉にロキの注意が向いた。
「アンタたち、ロキ様に手を出したらこのちびっ子が大変だよ!」
「ほのかはどうなっても良いから、お兄ちゃんを助けろ!ムチプリ!!」
「うるさいっ、大人しくしろ」
「お兄ちゃん! お兄ちゃん! お兄ちゃん!」
そして20号ちゃんの意識も新島達と妹ちゃんへと完全に向いた。
「まぁ、ギャラリーが増えたところで処刑を再開するとしようか!」
再びロキの注意が白浜くんに向いて、あの5・インパクトなんちゃらとかいう俺が考えた武術技を叩き込む。
「ぐっ、ぅう」
「ハハッ!潰れろ、白浜兼一!!」
「お兄ちゃん! っ!」
兄のピンチに居ても立ってもいられない妹ちゃんの頬に20号ちゃんのナイフが傷をつけた。血がちょびっと出る。
それに驚いて20号ちゃんは慌ててナイフを引いた。ほら、やっぱり。でもね、20号ちゃん、それは失着だよ。
「あっ! い、言わんこっちゃない。あ、あんたが悪いんだからね」
「お―――お兄ちゃん、負けないでぇ!」
ガッシャーン!
「えっ!?」
窓ガラスを突き破って二十号ちゃんの細首を掴む。細首のお陰で頸動脈を片手で押さえ込める。これなら上手いことすれば
暴れる20号ちゃんのナイフが僕の手に突き刺さる。瞬間、筋肉を締めてナイフを抜けなくするとともに、彼女の意識を落とした。でも、
「わっ、わわ」
「あ、――風林寺ぃ!!」
あ、まずい! 暴れる20号ちゃんの煽りを食って妹ちゃんの体勢が崩れた。落ち―――ると思って風林寺さんにフォローを頼むべく名を呼んだ。
―――でも、そんな必要なかった。
「風牙ッ! てめぇ、もうちょっと
バッ!
と、真っ黒いマントが僕の前に降り立つ。それは、その胸に妹ちゃんを掻き抱いた谷本君だった。
僕を見る目は明らかに怒っていらっしゃる。突き刺さったままのナイフを抜いて、ポイッと捨てた。
「ごめんごめん。そんなに睨むなよぉ。妹ちゃんは君が助けに来たおかげで助かったじゃないか」
「てめぇはいつも詰めが甘ぇんだよ」
「……あ~、その、はい、反省します。もしかして、僕が余計なことしなかったほうが良かったかな?」
「チッ」
視線を逸らす谷本君に僕は少し笑う。妹ちゃんが僕と谷本君の顔を不思議そうに交互に見た。
「風牙、ハーミット! てめぇら!」
ロキの声に振り返れば、間抜けにも敵を前にして振り返って隙を見せる阿呆と限界まで引き絞った矢を今か今かと放つ瞬間を窺う武人の姿。
ならば、
「白浜兼一!」
「白浜君!」
図らずも僕と谷本君の思いは一緒だったようだ。
「「やっちまえ!!」」
「何っ!?―――――!!?」
三戦からの解放で繰り出された正拳突き。それをまともに食らったロキが吹っ飛ぶ。
湧くギャラリー。……木の上からもなんか聞こえた気がしましたが、やっぱ弟子の優勢は師にとっても嬉しいものなんですね。
「ぅぐっ、おお、ちくしょう食らっちまった。計画通りだったのに、くそっ、白浜っ、風牙―――ぐっ、血?血だと!? 俺をコケにしやがって、生かしておけねぇ! それに―――」
なんかブツクサ言ってるロキ。何、あの人、危ない、近寄りたくない。
20号ちゃんはよくあんな痛い奴についていけるなぁ。惚れた弱みって奴なんだろうけど。羨ましい、憎い、イケメンは滅べ。いや、僕のこの手で滅ぼすべきではないだろうか?
そうだよ。ロキも谷本くんも白浜君も潤ってるイケメンは皆滅ぼせばいいんじゃね? そうすりゃ僕にもお鉢が回ってくるはずだ。
「ハーミットぉ!! 拳聖様の勅命に逆らいやがって! ラグナレクを裏切って覚悟はできてるんだろうな!!」
「フンッ。ラグナレク、ラグナレク、組織の名前を出さなきゃ威張れねぇお前と一緒にするな。そんなもの、たった今から抜けてやるよ」
「なっ!? てめぇえええ! 降りてこい!! 白浜も、風牙も、てめぇも全員まとめて始末してやる!!」
……無理に決まってんじゃん。多勢に無勢。そんなことすら分からないなんて馬鹿なのかなぁ。
彼は激昂するとホント視野狭窄するよな。いや、だからこそ、いっつも俺参謀、俺参謀とか言って自分を頭良いキャラとして創り上げて、弱点をコントロールしようとしてるのかも? 自己暗示。
まるっきり位負けして、失敗してるけれども。
「風牙」
「ジャニーズ?」
今まで抱きしめてた妹ちゃんを僕に渡してきた谷本君は、ひょいと飛び降りた。そして、白浜君を背にロキに対峙する。
僕はさっき捨てた20号ちゃんのナイフで妹ちゃんのロープを切って、「飛び降りるから確り掴まって」と妹ちゃんを腕で固定しつつ飛び降り、衝撃が行かないように配慮してフワリと着地した。
風林寺さんが走ってくる。
「谷本君、ロキは僕が――」
「ロキを潰した後にてめぇとは決着を付けてやる。黙って妹についてろ」
「……うん、ありがとう」
谷本君と何事か話した話した白浜君がやってきた。思った以上にロキから受けたダメージは大きいようで特に左頬が腫れ上がりつつある。腫れが引くまで左目の視界が無くなるんじゃないか?
「お兄ちゃーん!!」
「ぎゃ!」
妹ちゃんの低く勢いのある見事なタックルに彼は尻餅をついた。かなり足に来ている。それでも白浜君は妹ちゃんを抱きとめてその無事を喜んでいた。
そんな兄と妹のホームドラマに風林寺さんが羨ましがってる間に、あっちでは一触即発、第四拳豪vs第六拳豪が始まりそうだったので視線をそっちにシフト。
「もともとてめぇは扱い辛かったが、使えない道具は処分しねぇとな! ハーミット!!」
「ぐだぐだ御託を並べてないで来やがれ、無能参謀」
ロキが腕をゆらゆら、変な踊りを踊りだす。谷本君は両手広げた劈掛拳のいつもの構え。
「劈掛拳に八極拳」
「あ?」
「てめぇのスタイルは研究済みってことだ」
「……そうかよッ!」
谷本君がは、そういうと同時にグルンと回した手刀で空気を引き裂きロキへと迫る。
「チッ」
だけどロキは素早くその身を躱す。
しかし後ろに下がれば谷本君はそれを追って上から下、下から上、右手左手をブンブン回して攻め立てる。左右に逃げれば前から後ろへと右手左手を回し交わして追い立てる。おそらく通背拳の套路(型)の中にある烏龍盤打、金龍梱珠の一打だろうけれど。それにしても切れ間がない。
ロキが手出しせずに回避に専念してるのは隙を見つけられないためか、それとも……。しかし、逃げに徹していては倒せないし、通背拳独特の歩法からいつまでも逃げ果せるわけが―――と思った瞬間、
「っ!」
ロキが不用意に出したパンチを掴み外に捻ると同時に谷本君の手刀が首筋に入る。そして首を固めて膝を腹へと突きこんだ。刹那―――
バチンッ!!「ぐぁ!!」
何かが弾けるような音と谷本くんが悲鳴を上げる。よろめき、ついでにロキへの拘束も解けた。
「はっはぁっ!」
笑うロキが谷本くんを追う。
手には偽者達も手にしていたスタンロッド。そりゃそうか、本物が手にしていなければ偽者が手にしている理由が無い。あの弾けるような音の正体はあれか。
ロキの貫手が谷本君の仏骨を突き、そのまま指を曲げて作った拳で咽喉を打った。
「ガッ」
しかし、ロキはそのまま止まらず肘を彼の顔面に入れ、そしてそのまま肩と背ごと体当たりをかました。背が当たった瞬間、地を蹴るように強く踏み込んでいた。あれって、まさか、鉄山靠?
「貼山靠。てめぇのやってる八極拳の技だろ? 」
あ、れ? 間違えた? 鉄山靠じゃないの? てんざんこうって言うのか。やっべ、声に出さなくてよかった。
谷本君は今の一撃がかなり効いたのか、ロキにも俺の疑問に答えず地面に膝をついてガハガハ苦しんでる。
「卑怯だぞ! そんな武器を使うなんて!」
「ジャニーズ!ジャニーズ!!」
「てめぇ、男なら正々堂々やりやがれ!」
「隠し武器なんて汚いじゃな~い!」
白浜兄妹や先輩達がワーキャー言ってる。
多分、僕が谷本君でも食らったかな? いや、僕はそんなこと無いな、とか思うからってわけじゃないけどロキのアレを卑怯とは思わない。暗器を使うは別に卑怯じゃない。見破れないほうが悪いんだ。
勿論、ロキもそう思っているらしく彼らの罵声など何処吹く風、素早く谷本くんに近づくとスタンロッドの電撃を食らわせ、あのファイブなんちゃらパーンチを食らわせ、ローキックをゲシゲシ蹴り入れる。
「くっ」
白浜君が堪らず助太刀に行こうと前に出た瞬間、風林寺さんがその腕を掴んだ。
「放して美羽さん!」
「邪魔するな、ムチプリ!」
でも風林寺さんは毅然とした顔で首を横にする。
「行けば谷本さんは兼一さんを絶対に許さないと思います。それに――――」
「谷本くんの目は……まだ死んでない」
そう僕は彼を見ながら言った。谷本君の呼吸は既に大分元に戻ってる。ボッコボコにされているけれど、あんな程度で動けなくなるような彼ではないだろう。
武とは殴られ、蹴られ、叩かれ、潰され、飛ばされ、打ち据えられた先で練磨され鍛え上げられていくもの。そうした苦難を彼だって超えて来たはずだ。
あんな、重心のバランスがめちゃくちゃな蹴りを得意気に放つ奴に、負けていいはずがない。いや、僕がそれを許しても君の師が、何より君自身が許さんだろう? だから―――
「負けるな」
僕の口から願いが小さく漏れる。
すれば、それに釣られるかのように白浜君たちもまた、
「まけるな、谷本君!」
「負けてはいけません、谷本さん!」
「ジャニーズ……」
「負けてんじゃねぇ!」
「諦めちゃ駄目じゃな~い」
「反撃しろー、潰し合えー」
と口々に思いを口にする。……一人だけ趣旨が違う気がするが、まぁ良い。いつものアイツだ。
「ふんっ。仲がいいな、
「ッガ!」
ロキの放った蹴りが谷本君の下顎にまともに入った。蹴り上げられた勢いのまま谷本君がのけぞり、全身から力が抜けた。あ、おい、このまま負けるのか? あんな奴に負けて倒れるのか? フザケルナよ!谷本夏。てめぇ、何やってんだ!
「谷も――――
「ジャニーズ!! 負けないでぇ!!!」
僕の声は、妹ちゃんの叫びに掻き消された。
※壁を走って。
中国拳法のにある軽身功、
特に名があるわけじゃない。独自設定