俺がオレ主を史上最強の弟子ケンイチに突っ込むと凄まじくツマラナイ話になる。悲しい 作:ミスドナルドーワッフ
谷本君と白浜君の教会での死闘の後、またどっかに消えるんじゃないかと思ってた谷本君は翌日何事もなかったのかのようにシレっと学校に来てた。
相変わらずの優等生っぷりを取り繕って谷本王子をしっかりやってるっぽい。
白浜君達との関係もまぁそれなり。
新島が時折、新白連合に入れ入れと勧誘し、その度に打ちのめしているらしい。
白浜くんとは結構仲良さげに必殺技がどうとかっていう話してるところを、1のBの教室を横切った時に見ることがあったので雨降って地固まるじゃないけれど友達になったんだな。
戦って出来た友達、戦友。意味違うけどさ。
僕の方はといえば近頃は新島からの呼び出しもないので至って平和。
ごくまれに一人のところをラグナレクに関係のない不良達から襲われたけれど、自重を止めて瞬殺し(=戦意喪失or気絶させ)た後はスタコラサッサと逃げてるで今のところ警察のお世話にはなっていない。
勿論、日々の修行で血塗れ、痣まみれ、傷まみれなんだけれど、それは生まれてからこの方ずーっとなので異変のうちに入らない。……自分で言っててアレだけど、嫌な日常だ。
変わったことと言えば、偏差値ド底辺の馬鹿高校生がやったからって早晩どうにかなるわけじゃないけれど勉強するようになった。
ちょっと思うところがあって慣れないけれどやり始めた。
そんなこんなで放課後。
物理の先生にサッパリ理解できないことを教えて貰っていたら先生をかなりの時間拘束してしまって、その見返りとしてちょっとした依頼を受けた。
ずっと前に物理部に貸していた本を取り返してきて欲しいんだとのこと。物理部って今じゃあ……。
そのことを分かっていて先生もお願いしてきたんだろう。うーん、この間の姫野さんといい、やっぱり僕も仲間だと思われているんだろうか?
……い、行きたくないなぁ。
「し~ん、ぱぁく! し~ん、ぱく!! し~ん、ぱく!!!」
廊下の遥か向こうから聞こえてくる掛け声に気力をゴッソリ持っていかれるのが分かる。僕は重たい足取りでそこへ向かった。
しかし丁度、扉の付近で中から聞こえてきた話に足を止めた。
「字名はトール。ラグナレク第七拳豪! 実戦相撲を武器とする巨漢だ。
拳豪の情報と居場所、これが同時にわかってる。
わかるか? これはチャンスだぞ」
「何が?」
「ラグナレクみたいに力と恐怖で出来た組織を潰すには、その核つまり拳豪をぶっ倒してその求心力を削ぐしか道は無ぇ」
「まさか! こっちから仕掛ける気!?」
「ヒャハハ オレ様の情報とお前の力。ラグナレクを潰すにはこの二つが必要不可欠なのよ!」
耳に飛び込んできたのは宇宙人が白浜君に説く組織壊滅論。
組織を潰すには末端を潰しても駄目だけど頭を潰せば…っていうのよく言われることなので驚きも感動もない。
しかし、やっぱり
まぁ、今回は不良だし、拳豪なんて厨二ネーム付けてて分かりやすいっちゃ分かりやすいんだけれど。
「……どうせ、そうやって口八丁手八丁で利用する気なんだろ?」
「うん」
「こいつ!」
「この寄生虫が!!」
「ウヒャハハッ、もっと褒めろ、ヒヒヒヒヒ」
ドア越しに新島の清々しいまでのクズっぷりに一緒に聞いていたらしい武田先輩と宇喜田先輩の怒りの声が聴こえた。
全くどうしようもない奴だけど、徹頭徹尾そうなのだから、そう考慮に入れてしまえば付き合えないことはない。付き合いたくないけれど。
……いかんな。もしかして毒されてる? 僕。
「うーん……しかし、新島のくっだらない野望を手助けするのは嫌だけど、ラグナレクみたいな危ない奴らは誰かがどうにかしないといけないと思うし」
おや?
決めかねているけれど珍しい白浜君の乗り気な発言に、僕はひょいと顔を見せて口を開いた。
「まさか、行く気?」
「え? あっ、風牙君!」
「いよぉ、風牙ちょうど良い所に」
部屋の中に入れば、白浜君や新島、武田さんに宇喜田さん他、新白式挨拶を練習してた短い茶髪を逆立てた上岡君、いつも長ランの木元君、相変わらず帽子を脱がない倉本君、旗持ちの松井君達が次々と
なんか、こう、なし崩し的な感じで……すごく
「そりゃ行きたくは無いんだけど……。実戦相撲、相撲かぁ」
そんなことを内心思っていると白浜君が僕がさっき口にした疑問に答えようとして、うんうんと唸る。
「相撲なんてデブのやるもんでしょ。白浜隊長の敵じゃぁないですよ」
「どすこーい、ごっつぁんです」
ケタケタと笑いながら上岡君と倉本君の私服組二人が言うので、少し気になった。
「本気で言ってる? まぁ、相撲ってテレビ見る限り強そうに見えないからなぁ」
「え?」
「?」
「ど、どういう意味?」
まさかの白浜君までそんなことを喋ったので、少し認識不足を指摘しておいたほうが良いのかもしれない。
「その拳豪、
「
「ぶちかましは2トンね」
「
僕の話に白浜君が素っ頓狂な声を上げる。他の皆も驚いた表情をしてる。宇喜田先輩なんかは知ってても良さそうだけど、そうでもないのか。
正確には自分と相手、ぶつかり合う反対の速度、つまり相対速度から考えた撃力となるんだけど、まぁその辺は細かく言ってもわからないだろう。だって僕ら馬鹿だし。僕も最近勉強始めたばっかで、よく理解してないし。
それにそれは話の本筋じゃない。
「相撲を舐めちゃ駄目だよ。
昔、ペリーの黒船がやってきた頃にね、力士のボクサーの異種格闘技戦があったんだけどボクサーに打たせるだけ打たせてから張り手一発で相手を吹き飛ばしたって記録が残ってるんだ。
水兵三人とレスリングをして楽々勝ったっていう話もある。」
と、そんな僕の語りにピクッと反応した人がいた。
「ボクサーが負けたってのは聞き捨てならないじゃな~い」
武田先輩だ。シャドーボクシングを始めながら不敵に僕を見る。
まぁ、自分の流派が――武田先輩の場合はちょっと違う気もするけれど――負けたと言われるのは、許せないものがあるってのは、分からなくもない。
だから、
「……力士じゃないけど、やってみましょうか? 先輩」
「え?」
ポカンとした武田先輩を置いて、皆に少し場所を開けてもらった。
僕と先輩、結構な距離を開けて両者が対峙する。
先輩の拳が上がったのを見た僕は、スッと腰を落とし片足を空に、そしてドンッと打ち下ろす。そう、僕は四股を踏んで、そしてそのまま両拳を床に付く。
「さぁ、どうぞ」
「うっ、これは……」
クイッと上げた視線の先で、武田先輩はトントンとリズミカルに拍子を刻みつつもどこか困惑した顔を見せた。
どう手を出せば良いか考えあぐねていると言ったところ。
それでも、先輩は円を描くように僕の後ろへと回り込もうとするんだけど、僕はそれに合わせて向けを変える。
「チッ、めんどうだね」
何度かそういったことを繰り返していると、やがて先輩は業を煮やしたのかキュッキュ!とステップでフェイントを入れて間合いに入ってきた。
そしてグッと腰を落としてボディブローを放つようにして顔面をめがけて――
―――瞬間、僕は立ち上がり掌打を放つッ!
バンッ!
そこには僕の掌に掴まれた武田先輩の拳。
「本来なら、掌打+頭突き&体当たりで押し潰すんですけどね」
「……こりゃ確かにバカに出来ないね」
ニコリと笑えば、先輩はひったくるように拳を戻し真剣な表情を見せた。
そうして今の立ち合いを見た面々がうんうんと唸りだす。
「あっ! だったら蹴りを入れるってのはどうですか! 白浜隊長はムエタイをやってるんですよね」
「そうだけど……」
良いこと思いついた!とばかりに上岡君がそう提案する。
ふむ、蹴りね? なら、
「白浜君、蹴ってみてよ」
「え? そんな! 危ないよ!」
と、僕がさっきと同じように四股を踏み、腰を落として拳を床にしてそう言うと驚きの声を白浜君が上げた。
「兼一君のローキックは受けたことのある身としてはオススメしない。危ないなんてものじゃないじゃな~い」
武田先輩までもがそんな風に言う。
「大丈夫だよ」
たぶん。
「兼一、風牙が大丈夫と言うんだ。せっかくの機会なんだから試しておけ」
「でも……」
新島の言葉に逡巡するも、白浜君が僕を見つめてきたので見つめ返す。
いやん、そんな熱い瞳で見られたら照れちゃうわ♪ ――と悪巫山戯しないとやってられないくらいジーッとと見てくるので、仕方なく早々に僕は頷くことにした。
「……わかった。お願いして良いかな」
やっとこさそう言うと白浜君が構える。ボクシングに似た、しかしそれよりも脇を開き、両拳を目のあたりまで上げた構え。
リズミカルに前後に揺れながら、すり足ではなく歩くような感じの継ぎ足で近寄って来る。
そうして、その足が間合いに入ったと思った瞬間、
僕の頭を木っ端微塵にせんとばかりに鞭のような
ボグッ
しかして、その蹴り足は僕の頭を吹っ飛ばすこと無く竦めた肩に止められた。
そして、白浜君の蹴りを止めた肩と反対側の肩の先、掌打は彼の腹部に添えられている。
「うっ」
「――と、他には腹じゃなく軸足の膝を砕きに行くのも有りだね」
膝の破壊を想像したのか、白浜君は慌てて飛び退く。
その後、油断なく構えを続けていたけれど、僕が立ち上がると手を下ろして考え始めた。
なら、講義を続けよう。
「先輩、ボクシングにはカエルパンチってのがありますよね?」
「ん? ああ」
「相撲の立ち上がりっていうのは、アレと同じなんですよ。脚の屈伸を利用して威力倍増させる」
武田先輩の頷くのを見て、今度は宇喜田先輩に聞く。
「宇喜田先輩。先輩があの格好をしたらどの位続けられます?」
「あ? そうだな……ま、長くはねぇだろうよ」
「新島、
「ちょっと待ってろ。―――ほら、これだ」
と、新島はPDAを操作して第七拳豪
かなりのデカブツ。見た感じ脂肪ぶくれでなく筋肉をつけた固太りと言う奴だ。
だが、おそらく体重は100
「……あ、そうか基本カウンターなんだ、あれは」
白浜君がつぶやく。
「そう。あの格好は弓を引き絞った状態。いつまでも続けてられないからいつかは立ち上がらなくちゃなんない」
「その状態なら……うん、出来そうな気も…しないでもないかな、たぶん、きっと」
「後は掴まれないことだね。あの体格差での投げ。特にアスファルトとかに落とされれば―――って、これは言うまでもないか」
「ハ、ハハ……」
修羅の道を歩み続けてる自分を振り返ったのだろう、乾いた笑みを見せる白浜君に同情&呆れつつも僕は講義を終えた。
その後「一緒に行こうぜぇ」と、まとわりつく新島を手で払いつつ目的の本を探し出した僕は、逃げるように物理部を後にした。
いつもいつも、付き合ってばっかじゃいられないよ。僕は平和を謳歌させて貰うよ。
◇
「……んな、アホな」
僕がその話を聞いて口にしたのはそんな言葉。
廊下で僕を見つけた旗持ちの松井君が、ご丁寧に白浜君と第七拳豪の詳細を教えてくれたのだ。
第七拳豪が主催しているというストリートファイト場に殴りこみにいったのだが、白浜君の願いで第七拳豪の一騎打ちになったそうだ。
深さ5m以上もある穴の中に鉄板が敷き詰められたリング(第七拳豪は土俵と言っていたらしいけれど)があって、その中で戦ったらしい。
白浜君は最初、吹き飛ばされ、踏みつけられ、投げられて一方的にやられていたらしいけれど、その都度立ち上がり向かっていく。
そして最後にはマツエラークで見せた白浜君独自の連続技で第七拳豪を倒したそうだ。
問題は、最後の最後。
白浜君は、穴の外に第七拳豪を投げ出したことで、第七拳豪自身に土俵を割ったと負けを認めさせたと云う。
第七拳豪が負けを認めたことに驚いたわけじゃない。驚いたのは、白浜君が第七拳豪を
朽木倒しは飽くまで
それなのに白浜君は、100
重心云々の話でなく、腕力のみでなく下半身と背筋、全身の筋肉による純粋な筋力《パワー》の話だ。あの細身に比して異常な筋力。
筋肉の付け過ぎは動きを阻害するので好ましくないから付けていないのかと思ったら……
おそらくは梁山泊の身体改造の妙技。その一端を垣間見た気がする。
「凄いもんだ」
「おう! 白浜隊長が居れば新白連合は無敵じゃい!」
梁山泊の技術への感心を勘違いした松井君の言葉に、少し驚き、そして笑った。
そうだね、確かにその技術を自分の血肉に出来ている白浜君は凄い。