俺がオレ主を史上最強の弟子ケンイチに突っ込むと凄まじくツマラナイ話になる。悲しい 作:ミスドナルドーワッフ
肉まんを買ってコンビニMATUEを出ると雨が降ってた。
天気予報じゃそんなこと言ってなかったから傘なんて持ってない。とは言え、ビニール傘を買おうとは思わない。
105円だろうと無駄使いはよくない。105円を笑うものは105円に泣くのだ。
ちゃっちゃと家に帰ろうと住宅街を抜け―――
「ノワール、危ない!」
「ぎゃ!」
どこぞで聞いたことのある声。ひょいと角から覗けば、なんだか数人の女の子が手に手に武器を持って大立ち回りを演じていた。
その中心、囲まれている人は見知った人。南條先輩だった。
「あっ!! ノワール!!」
先輩の抱いていた子猫が中に投げ出された。
猫ならば空中で投げ出されようが体を捻って難なく着地、と行かずその子猫は道路に投げ出され強かに体を打つ。
「ふん! コイツがそんなに大事か?!」
何を思ったか、南條先輩を囲んでた女の子の一人、黒肌もじゃツインテールがその子猫を足蹴にしようと―――
「くッ」
道路に滑りこんで子猫を抱きかかえた南條先輩。
アスファルトにスライディング。やればわかるけど、そんなことをすれば服は破け擦り傷で肌がグズグズになってしまい、まともに動けなくなる。
何て無茶を。
ブンッ べちゃ!
「ッ! うぇえ、な、なに!?」
黒肌もじゃツインテは後頭部に受けた衝撃に手をやり、そしてその残骸に悲鳴を漏らし、振り返った。
そして他の女の子たちもその異変に気がついたのだろう、その原因である僕の方を向いた。
「ふ、風牙!」
南條先輩の声に俺は我に返る。
黒肌もじゃツインテに投げたのは何だったか? 手にしていた食べかけの肉まんは入った紙袋は何処に行ったのか?
僕はそれを思い出した。
「うぁあああ、俺の肉まん(105円)……
僕の嘆きも何のその、女の子たちがこっちに武器を向ける。
「こいつ!」
「風牙……新白連合の用心棒だ! 潰せ!!」
手にした武器は、トンファー、
「先輩」
「く、助けて貰う謂れは―――」
「この間の礼です。行って下さい」
この間、と言っても大分前だけれども白鳥ちゃんの頭を床に叩きつけんと脅してジークフリートさんのアジトを聞き出した件。
一応あの場で貸し借りなしの関係だったとはいえ、お礼をきちんとしてなかったのは事実。
調度良いのでこれでチャラにして貰おう。
立ち上がった先輩はずっと片手で胸に子猫を抱いたまま、拳を前に突きだしている。
「子猫、心配なんでしょう?」
「うっ」
「早く行け、手遅れになる」
脅し文句に南條先輩は顔をしかめ、「くっ、すまん」と駈け出した。
「ちっ、逃すな! ひびき!!」
立ちふさがる形になった僕越しにトンファーちゃんが声を掛けた。
伏兵がいたのか? と振り返れば、
「グぁッ!」
「逃がしませんよ」
鎖分銅を脚に巻きつけられて転倒する南條先輩。
「ちっ、世話のやける」
「余所見をして!」
と、一斉に手にした武器を振り下ろしてくる彼女たち。その攻撃をクルリ、クルリと躱していくとアッという間に鎖分銅のひびきちゃんの目の前に着いた。
「あっ!?」
彼女は、手にした鎖を振り下ろそうとして
バチコーン! どーん!!
僕の放った平手打ちで大きく顔を歪ませながら吹っ飛んだひびきちゃんは塀に盛大にぶち当たった。
「武器に執着しすぎ」
「ひびき!」
「さっさと立て! 敵は待っちゃくれないぞ!!」
僕は、衝撃に蹲るひびきちゃんに言ったのだけれど、どうやら自分への言葉だと思ったのか南條先輩は「言われ、なくて、も」と立ち上がって走っていった。
「くそっ―――追え!」
「行かすわけ無いだろ、
「何ぃ!!」
「武器を持ってるくせに子猫なんて弱っちいもんを蹴ろうとする餓鬼なんて、よく吠える犬以下でしょ。
第一、子猫を虐待とか……女の子として、いや人としてどうよ?」
うわぁぁあ、ッて感じで見つめてやれば、彼女たちもウッと言葉に詰まる。そして、
「そ、それは……うん、確かに」
「アレは無いな」
「ちょっとなー、あれはオレも引くわー」
「あ、あれは! その場の勢いでッて言うか! 本気じゃなくって! 蹴る真似しようとしただけで!
だ、第一、キサラを襲おうって言ったのだってリーダーが子猫を巻き込めば勝てるっていったからでしょ!」
「あ、あれは!」
喧々諤々、仲間割れが始まった。
おー、やれやれー、まったく、こっちはもうびしょ濡れだから、もう諦めたぞ。好きにやれー
と、思ったら雨上がるし……くそっ、こんな面倒に巻き込まれるならもう少しコンビニで時間を潰せばよかった。潤いもなければ、運もないって本当嫌になる。
「何をしている?」
不意に凛とした女の子の声に視線を向ければ、ひびきちゃんに肩を貸しつつある新たな女の子。
お揃いのジャージ?&スカートとは違って、スポーツタイツ?に、上はこれまたぴったりフィットのTシャツにジャケット、浅黒い肌の短髪黒髪の女の子。左頬に刀傷みたいなのがあるのがチャームポイント?
「フレイヤ様!」
リーダーと呼ばれてたトンファー娘ちゃんが驚いた声を上げる。
「キサラが内通していると連絡が来たが?」
「はい。新白連合の女とこの数日密会しているところを確認しています。制裁を加えようとしたところ、ついさっき逃げられました。」
「そう、か……」
そう言うと視線を下げ少し考え事をするフレイヤさん。そして、ふとこっちを向いた。
「コイツは?」
「新白連合の風牙です。制裁の邪魔をしてきて、それで―――」
「わかった。コイツは私が相手をする。お前たちはキサラを追ってワルキューレ全員では制裁を加えろ」
「ハッ」
ふらついてたひびきちゃん共々ワルキューレ?ちゃんが逃げていく。
いかん! 逃しはせん!逃しはせんぞ!! 逃げる前に――――
「肉まん弁償してけぇ!」
追いかけようと前に出た瞬間、頭を挟みこむように、
ブンッ
と振られた拳を躱し―――いや!
更に伸びた間合いにグイと背筋を使ってマトリックス避けからの
「なんだ?! 小太刀? 二刀流?」
「さてね?」
確かに両手に二本の棒を持っていたが、今目の前の彼女はほぼ真半身。体の陰に得物を隠してて、間合いを掴ませない。
なるほど、ワルキューレちゃん達よりしっかりしてる。
「フレイヤさんだっけ? 退いてくれない? あのモジャツインテールには肉まんを弁償させなきゃいけないんだ」
「……そんな程度幾らでも奢ってやろう。私を倒せたら、な」
言うが早いか、突き出されたソレに目を見張った。小太刀やナイフの間合いよりも遥かに長い。
「チッ」
躱し、それを掴んだ瞬間、グルリと回転しながら引き抜かれた。
掌に伝わった丸い感触と間合い、
「なるほど、棒か。いや乳切木? にしては短い、二尺五寸程度。継ぎ手式?」
二本刀や木刀とほぼ同じ長さ。ワルキューレちゃんの一人が持っていた棍に比べて圧倒的に短い。
しかし、彼女は両手に棒を持っていたはずだ、となると入れ子型の自在棍ではなく継ぎ手を使った合体式の棒と考えるのが普通か。
「よく分かったな。これは携帯しやすいように私が改良したものさ」
「へぇ。
しかし見事な構えだね。この距離からでも見た目、棒を持っていると分からない」
だが、武器の正体は判明した。間合いを測るにはそれで十分。
武器を目で追って対処するっていうのは、ハッキリ言って無理。だから、対武器の場合、その武器の特性、すなわち危険部位や間合いを念頭に入れて後は遣い手本人を観て対応するのが定石。
観見の目付というやつさ。
棒自体は隠せても、その起こりまでは隠せない。体に、目に、心に、端々にその影が映る。
「ふっ!」
突きが迫る。
全身の力を抜いて……突っ! と、先端が体に触れた
「クルクルと、よく躱す」
「そりゃまぁね」
その稽古を、生まれてこの方ずーっとやってきてるんだ。躱せなくてどうするよ。
突き出された棒を躱し、戻されると同時に間合いを詰め拳を放つ。
「ちっ」
とフレイヤさんが一歩下がった瞬間、突き手に変化を加えた。肩をぐりっと内に入れ、腕にひねりを加え、正拳から二本拳に。
「なっ! 伸びる?!」
中国北派通背拳と同じ伸肩法を用いた風雅六芸の拳技、呼撃。トンッ、ムニュと彼女の
慌てて後退し、まるで棒を天に伸ばすように真っ直ぐ構えたフレイヤさんに一言。
「一本」
「貴様、手加減したのか?」
「……突きを全部躱され、防御出来ずに糸も容易く打ち込まれた」
その言葉の意味は実力に差があるということ。眉間に皺を寄せ、ギッと睨んでくるフレイヤさん。
そうかい。そんなに気に入らなかったか?
「引かないの? 潔く負けを認めたら?」
もしこれが中国人+中国拳法の組み合わせだったら、僕は絶対にこんな風には言わない。きっちり最後までとどめを刺す。
中国では「男子が膝を折るのは黄金の価値がある」と言うように、中国人武術家はそう簡単に負けを認めない。最後の最後、逆転の望みが薄かろうが動ける以上勝利を諦めない。
しかし日本人は違う。負けを認める潔さも美徳とするきらいがある。どちらが良い悪いじゃない。
ただ今回は同じ日本という文化圏の中の相手だから、僕は彼女にそう告げた。どうにもフレイヤさんの武の根底は日本のものっぽいし。
でも――
「これは、不良のケンカなんだ。それとも、女だからと手加減してくれたのか?」
「……あ、そう。わかった。次は打つ」
「望むところだッ!」
ブンッ と袈裟に振り下ろされる棒に合わせて前傾し、そのまま片手を付いて一回転。踵を彼女の顔面に蹴り込む浴びせ蹴り。
しかし、そんな大技が決まるわけもなく、クルリと回転して避けたフレイヤさんはそのままの勢いで着地した僕の胴に目掛けて棒を振るった。
「貰った!」
「まだだよっ」
その瞬間、纏の拍子でクルリと棒を流し、そのまま回し蹴りを蹴り入れる。
しかし、その蹴りを受け止める事無く躱したフレイヤさんに、僕は背中を向けてしまった。
その背に向けて、
「フンッ!!」
フレイヤさんの棒が打ち下ろ――――
バシンッ!!
振り返り際の僕の裏拳がフレイヤさんの棒を持つ手を弾き、手首を掴む。そしてその勢いのままもう片方の肘を彼女の頬に打ち込み、掴んだ手首を前へと引っ張り体を崩す。
そしてその手を放して、後ろ首に手刀を叩き込む。そしてそのままクルクルと回転しながら背中から心臓、肺臓、肝臓、腎臓、脾臓へと拳を叩き込んでいく。
中国拳法 八卦掌に見られる脱身化影法のように虚の隙を利用した一手。体を限界まで
風雅流
「か、はっ」
カラン……
手にした棒を取り落とし、フレイヤさんは膝をついてうつ伏せにぶっ倒れた。
「あっ、やべ!」
フレイヤさんも真っ当な武術を齧ってるぽいし、覚悟もありそうだったから調子に乗ってしまった。
ボクシングじゃあ後頭部や後ろ頸部への攻撃はラピッドパンチ、背面から腎臓打ちはキドニーブローっていう反則技になっているほど非常に危険な技だ。
まずいまずい。病院に連れて行かないと。
「……こっからだと梁山泊かなぁ?」
◇
フレイヤさんを
馬 剣星さんでも良かったと思うけど、なんか知らんが岬越寺さんだけが受け持っていた。
「風牙君、だったね」
「はい……」
「ま、問題ないだろう。明日には腫れも痛みもひく。2日ほどは血尿が出るだろうがね」
「うっ」
岬越寺さんは分かってて、こう言っているんだろうな。
うう、良心が、僕の中のなけなしの良心が痛い。
武芸者だもの、仕方ないとは理解してるし納得もしてるし気にも留めないんだけど、やっぱりちょっと咎めちゃう。
「……私は若い頃多くの柔術流派の下に勉強に出向いた過去があってね。その中には君の風雅六芸もあるのだが……」
その言葉の寝耳に水さに驚いた。まじまじと岬越寺さんの顔を見てしまう。
「先代、風雅
風雅の先代、風雅一真さんはもう大分前に病気でこの世を去っている。今は弟の風雅
しかし、先代とこの髭ダンディの岬越寺さんに接点があったとは。
「風雅は今も昔も殺法を伝える武芸。なればこそ活法も使えねば、とね」
つまり活殺自在。
ちゃんと手加減できなきゃ、片手落ちってことか。そうだな、そうだ。
「……はい。貴重なご助言、ありがとうございます」
僕は頭を垂れた。