俺がオレ主を史上最強の弟子ケンイチに突っ込むと凄まじくツマラナイ話になる。悲しい 作:ミスドナルドーワッフ
秋野道場からの帰り道、着信のベルが鳴る。見れば液晶画面には新島の文字。
「もしもし」
「俺だ。総督様だ。地図の場所に向かえ、用心棒」
言うだけ言って切れた携帯に映しだされた地図の示す場所は工場やラブホテルのある高架線路脇のある一地点。
「まったく」
僕は走りだした。
◇
「うわ~ん」
叫び声を上げながら古賀先輩が宙を舞っている。投げたのは宇喜田先輩。
そして武田先輩の後ろに回って、
「投げの宇喜田はたった今ラグナレクとは一切縁を切る!! 文句のある奴は今ここでかかってこい!」
「スマン、宇喜田」
「ば、ばろー。断じてお前のためじゃねぇ。俺も戻ってみることにしたんだよ! 不良じゃなくて柔道家にな!」
うひょう。何たる展開。何たるドラマ。熱い、熱いじゃん! 僕、こういうの嫌いじゃないよ。
熱い男の友情。いいねぇ。
「いやだ、いやだ。男って熱苦しくって……」
あのスレンダー赤髪が南條キサラさんかな? 確か僕らの一個上の先輩。
僕と趣味が合わなさそうな感想を仰る。残念。
「やっちまいな!」
「オオオオオオオオオ」
彼女の一言で不良どもが気勢を上げて動き出した。だから、僕も一緒に
「うぉおおおお!」
左右はコンクリの壁とフェンス。前と後ろを不良どもに囲まれた武田先輩に宇喜田先輩に逃げ道はない。
でも僕が更に後ろから来たことで混乱が起こる。
「うギャ!」
「なんだてめぇ! ぐぁ」
「ゲァ! 痛ぇ!血がぁあ」
僕を敵と認識した途端、わらわらとやって来てくれるので大変やりやすい。
避けて殴る。先んじて殴る。避けて殴る。先んじて殴る。を繰り返すと、相手は血まみれ。出血も辞さない未知の敵の出現と、味方の被害に士気と狂気が削がれていく。
僕が使ったのは泰斗流の拳技『龍旋』。殴ると血が出る技で、ダメージを与えるというよりも出血により相手の気力を削ぐのが主体な技だ。普通の人は血に慣れていないから、驚くし恐怖する。
「お、おまえ?」
「先輩方、頼まれたので助太刀しますよ」
「……兼一君かい」
「ま、その辺はまたあとで」
見ればキサラ先輩が苛ついた表情をしてる。
「やってくれるじゃないか? 得物を使うなんてさ」
「? 何も持ってませんけど」
ひらひら、と手を振って武器の類を持っていないことを示してやる。
じつは、こうした無手で相手に出血を強いる技は別に珍しい技じゃあない。有名なところじゃムエタイの肘打ち。肘先の硬い部分を使って薄い皮を削ぐように切るものらしい。
『龍旋』もまた、狙いは一緒。ただ拳という柔らかい部分を使うので、それなりに細工はあるけれど。
「ちっ、びびんじゃないよ! 先にそいつから潰しな。武田と宇喜田は私が仕留める」
そういってキサラ先輩が動く。
と、不良どもも一斉に鉄パイプやら木刀やら振り回して僕に向かってくる。多対一は武の世界ではよくあることだけど、練習は中々できない。そう考えると結構お得なのかも。
振り下ろされる鉄パイプを風雅流の体術『纏』でクルリンと回避して、そのまま肘を横っ面に叩きこむ。
「ほげぇ」
とか言いながら吹っ飛ぶ不良1。木刀を振り上げた所にスルッと懐に入って下腹部にパンチ一発。ぐぇって“く”の字になった所で顔面に『龍旋』。顔から血を流しながら崩れる不良2。
その後ナックルダスター装備の不良3、金属バット持ちの不良4、ナイフ出してきた不良5と次々に血祭りに上げていくと明らかに周囲を囲む不良共の勢いがなくなっていく。
攻めてくるでもなく、囲みを解くわけでもなく。
どぉおん!と大きな音と「宇喜田ぁああ!」という武田先輩の叫びにそっちに目をやれば、宇喜田さんがサングラスを割られながら崩れ落ちるところだった。
武田先輩がキサラ先輩に迫る。
左のパンチを繰りだそうとして、そこでキサラ先輩の左足で先に抑えられる。確か、あれはパンチを繰り出す前に止める、ストッピングっていう技術のはずだ。それを足でやるなんて。
「足の力は腕の三倍!!」
と、言うけれどそれ以上に足をそこまで正確に使える事自体が凄い。
「フシュ!!」
「速いっ!?」
顔面を狙ってきた後ろ回し蹴りを武田先輩は身をかがめて避ける。だけど、その蹴りが一瞬空中で静止して、
「チッキ!」
そのまま先輩の後頭部に叩きこまれた。
「がっ」
武田先輩が膝をつく。あれはまずい。
「先輩!」
駆け出そうとした瞬間、目の前に何かが降ってきた。ぶぅん、と空気を斬る音。咄嗟に制動を掛ければ目の前を手刀が通りすぎる。
全身を覆う黒いマントに黒いシャツと黒いズボン。革製の篭手とブーツ。
まさか、こいつが新島の言ってたもう一人の拳豪、ハーミットってやつだろうか? と思えばキサラ先輩の声が飛ぶ。
「ハーミット! そいつも私がやる!手を出すんじゃないよ」
「面白い敵だ。俺がもらう」
すると奴はスウっと両腕を広げる構えをとった。
「その構え……まさか通背拳? テコンドーに通背拳(※)。拳豪ってのは武術家気取りばかりってか」
「ふん、よく勉強している」
風雅流の中には通背拳に通じる拳技が残されている。泰斗にだって残されている。そんなこんなで僕には中国武術への造詣もそれなり。
「これでも武辺者の端くれなもんで―――なっ!!」
ザッ、と突きを放たんと一気に間合いを詰める。すれば後ろに回されていた腕がブンッと空気を斬り裂き飛んでくる。気血を送られ鋼と化した手刀。
僕の肩にめり込む瞬間、僕の体はズルッとずっこけさせた。スライディングのようにハーミットの足元に滑りこむと同時に片足を奴の顎めがけて蹴りを放つ。
「ちぃ!」
ハーミットの奴は顔を傾けることで躱す。だが―――
滑り込んだ勢いのまま片方の腕を奴の足に当てることで強引に方向を変えた。同時にその反動を利用して片方の腕で逆立ちをしてみせて、もう片方の足で首の後を狙う。
風雅流六芸表芸『
ガッ 手応えあり! だけど浅い。
前に倒れるように体を逃したハーミットには、有効打にはならなかったようだ。
互いに飛び退り間合いを取った。
「ちっ、初見だろうに。よく避ける」
「頭部への急所打ち、打点をずらされたとしても頭部を揺さぶる攻撃か……我流じゃねぇな」
さて、どうするか……と相手の出方を伺っていると、
「あー!! 宇喜田も武田も終わってんじゃん」
宇喜田先輩に投げ飛ばされてフェードアウトしてた古賀先輩が壁をよじ登っている姿が目に入った。
「古賀さん、遅いっスよ。こいつらキサラ様が伸しちゃいましたから」
「今、もう一人をハーミット様が終わらすところだぜ」
「あーん? もう一人?」
古賀先輩がこっちを見る。そして驚いた顔をした。
「余所見をする暇があんのか?」
ブンッ!
さっきよりも激しい音とともに手刀が繰り出される。それを『纏』でクルリンと躱すけれど、次の瞬間、鳩尾へ肘が迫る。
懐に入り込まれた!
「くぅっ」
堪らず体をねじって受け流せば、今の技が何なのか思い至る。ザッと後退。鼻先を固めた拳が通り過ぎる。
「くっ、やはり八極拳」
「ふん。劈掛で入って八極にて決める。有名すぎるのも考えものだな」
まずい、まずすぎる。コイツ強い。通背拳に八極拳とくれば八卦掌をやっててもおかしくない。
武術家気取りなんかじゃない。たぶん僕と同じく修行中の身だけれど、こいつは真っ当な武術家だ。気を抜けば、あっという間に負ける。『龍旋』で出血、戦意喪失を狙おうとあの両腕に巻いた皮の篭手で防がれる。
それにこれ以上時間をかけると、
「なーんだ、足止めされてんじゃん。なら! イッツ・ア・しかえし・ターイム!
いいよね? キサラ様」
「好きにしな」
「ひゃっほーい!」
狂気じみた古賀先輩が笑いながら武田先輩を蹴る。そして不良どもも古賀先輩に促されて武田先輩に制裁を加え始めた。
不良どもが!
「くそっ」
「行かせるわけがないだろう」
すぐさま駆けつけたいのに、ハーミットが立ちはだかって動けない。
「宇喜田には僕を投げた礼をしないと。腕をへし折って蹴りの古賀の恐ろしさを世に知らしめてやるもんね~」
ニタリと笑う古賀先輩。
それに僕は愕然とする。腕を折る程度で怖さを知らしめるようなそんな程度の低い奴らに抑えこまれて僕は先輩達を助けられないなんて。
ギッ、とハーミットを睨みつけた。
「――――僕は風雅流六芸、風牙北斗。名乗れ!」
「何っ?」
相手がアホな不良に与しているとはいえ、武術家なら僕の言葉の意味がわかるはず。
まどろっこしいのは無し! 決着をつけるぞ!!
「……ふっ、そうか、本気ってわけかよ。こんな所でこんな奴に出くわすとはな。……拳豪鬼神、馬槍月が弟子、谷本夏」
ハーミットは、こっちの意図を確りと察してくれたらしい。スッと姿勢を正すと抱拳礼を取った。それは流派の、師の名に恥じぬよう全身全霊全力を持って相対する決意の現れだ。
多分、ハーミット、いや谷本夏も一撃必殺を狙って来ると思う。
「そいつ、腕ぶっといから勢い付けてっと。いっくぞ、せーのっ!」
楽しげで狂気じみた古賀先輩の声。
くそっ、焦るな。気にするな! 集中しろ、僕!
「馬鹿め!」
しかし、気になってしまったものだから仕方ない。気がついた時には目の前に谷本の手刀があった。『纏』を使ってそれを避け、こちらの掌底を奴の肋骨と胸骨の間に叩き込んで、と思った所で俺の胸に当てられた掌に気がついた。
寸勁!? いや、これは―――まずい!!!
「破ッ!!――――ゲフッ」
体を波紋のような伝わっていく衝撃と気の流れ。これは、この技は受けたことがある。泰斗では狂水死鳴と呼ばれる中国拳法北派の透かし技。つまり、浸透勁。
体の奥から込み上げる不快感に吐き出せば、それは血の塊。未だに口からはダラダラと血が出る。まずいまずいまずい。内蔵にダメージが行ってる。
崩れ落ちる体を立て直せない。負けた、負けた。これは……死ぬ。
「自らの発勁で俺の浸透勁の威力を弱めるなんてな。いいものを見せてもらったぜ。」
谷本の声が頭上から聞こえる。
「だが、仲間の安否に気を取られて隙を作るなんて、とんだ間抜けめ。他人のためなんかに戦うから、そうなるんだ」
言い返す言葉も、言い返す力もない。意識がだんだんと遠くなる。
「きさまらぁあああ! ぉおおおおおおおおおおお!!」
そして何処か遠くから聞こえる白浜くんの声を耳にしながら僕の意識は深く暗闇に落ちていった。
◇
目が覚めるとベッドの上。目で探れば知らない医院だった。
「……ぼろい」
「ひどい言い草ね」
声の方を見れば小さいおっさん。中国人のおっさん。
「ここはおいちゃんの鍼灸院ね。」
聞けばここは、例の梁山泊、風林寺家の裏手にある鍼灸院だった。この中国人小さいのおっさん。馬 剣星さんがやってるそうだ。
あの後、血反吐を吐いてぶっ倒れてた僕は、慌てて白浜君たちにここへと連れて来られて蘇生処置を受けたらしい。
「中々に内功が練ってあるね。師父にはよく感謝することね。なんの後遺症もなく治るのはそのおかげよ。まぁ、相手が未熟だったのもあるけれど。 あ!勿論、おいちゃんの腕もあるね」
「……ありがとうございます。ご迷惑をお掛けしたようで」
「お代はちゃんと貰うから問題ないね。じゃあ、師父を呼んでくるね」
「え?」
お代というところで驚いたんじゃない。師父を呼んでくるというところで僕は固まった。
「おぅおぅ、無事だったようじゃのう、北斗や」
「ゲゲッ」
現れたのは、好々爺とした着物のつるっぱげのお爺さん。そして、その横には着流し金髪のでっかいお爺さん。
「風林寺殿、うちの親類が迷惑をお掛けした。後日改めてお礼に伺わせてもらいましょう」
「なんの。若いうちはこのくらいやんちゃのほうが寧ろ頼もしいというもの」
「ほんに、お恥ずかしい限り」
こっちに見せる顔は笑顔。でも目が笑ってない。やばい。千住様めっちゃ怒ってる。やばい。超やばい。帰ったら半殺しで終わらないぞ、きっと。
「さて、動かして良いようなら連れて帰りたいが」
「ふむ、どうなんじゃ剣星?」
「問題ないね。内功もよく練られてるし、うちのケンちゃん以上に頑丈ね」
え? 白浜君って僕と比較できる位なの? 白浜君って高校に入ってから武術始めたんだったはず。一体どんな人体改造を味わっているのよ、彼。
「ならば、そろそろお暇しようかのう。北斗」
「は、はい!」
帰り際、白浜君と風林寺さんが僕に何くれとなく話しかけてくれたけれど、全部まとめて後日学校でということにした。
だってこっちを見てる千住様が怖いんだもの。
「じゃあ、また、学校で」
そう言って僕は梁山泊を後にした。
◇
車の後部座席、僕の隣には秋野千住老。
「さて北斗」
「は、はい……」
超怖い。冷や汗ダラダラと流れでて着ているシャツがぐっしょりだ。
「他流に遅れを取るとは、よもや安々と許されると思うておるまいな」
「は、はい。わかっています」
「少しばかり厳しゅうなるが、これもまぁ自業自得。死ぬでないぞ」
「……ひゃい」
声が裏返ったのは言うまでもない。
※通背拳と劈掛拳
ともに中国武術北派に属し、河北省(劈掛拳の場合は河北省滄州)で伝えられていた。
流派の術理は共に放長撃遠(背筋や肩関節をゆるめて腕を遠くに伸ばす)。つまり技術的内容の大枠が共通でかなり似通っている。
そのため、劈掛拳が通背や通臂拳に属する拳法とされ「通臂劈掛拳」と呼ばれた過去もあり、同一視されることが多い。
しかし、厳密に言えば異なる門派。
と、いうオリ主の認識から出た本文の発言。