俺がオレ主を史上最強の弟子ケンイチに突っ込むと凄まじくツマラナイ話になる。悲しい 作:ミスドナルドーワッフ
「―――――――――――」
「おい、おーい、風牙」
どこからか涼やかで心地好い声が聞こえてくる。
「――――――――」
「大丈夫か?」
僕を呼ぶ、僕を心配してくれる声。
くてっ、と首だけ回せばとても可愛らしい天使が僕を覗きこんでいた。天使。赤い天使の輪っかを持った天使。
天使が居るなんて、ここは天国か? ああ、そうか。とうとう僕は死んじゃったんだ。んで、天国に来ちゃったんだ。でも、ようやくあの地獄から開放されたのか。助かった。
「良かった。もう地獄を見なくていいんだ、よかった」
「はぁ? 寝ぼけてんのか」
天使が微笑む。
「なんだ、この天使。超可愛い。付き合って下さい。いや結婚して下さい」
「なっ、おま! 何バカ言ってんだ!」
ああ~、天使が去っていく……。
「風牙君、大丈夫かい?」
天使がいなくなって悲しむ僕の耳に聞き知った声が届く。誰だったっけ? 正体を確かめるべく、体に鞭を入れて上体を起こした。
男の子だ。ぽややんとした雰囲気で心配そうな顔をぼーっと見ていると、不意に記憶がつながった。ああ、そうだ。彼は白浜君だ。
「ああ!白浜くんか!」
「えっ、今気がついたの?」
「え?……あー、ハ、ハハハ、大丈夫。ちょっと鍛錬がいつもにまして酷くなったので、そのさ、ハハ」
どうやら僕は大分参ってるみたい。そういや、ここ学校じゃんな。
変なこと口走らなかったよな、僕?
「新島から聞いたよ。ごめん、また巻き込んだみたいで」
「いや、いやいや、今度のは自分から巻き込まれたんだから謝らないで」
謝られると逆に苦しくなる。
「そうだぞ、兼一。コイツはオレ様が同意の下で雇った用心棒だったんから文句をいう資格はない。しかも、案外役に立たなかったしな!」
「面目次第もない」
「そんなことないよ! 美羽さんが言っていたけれどあのハーミットって奴は相当な遣い手だって。それをずっと足止めしてたんだから」
「きぇええええ! ばかものー!! 世の中結果が全てだぁ!! 努力しましたぁ、だけでは誰も認めてくれんのだ」
このこの、くのくのとじゃれ合いを始めた新島と白浜君。
ハーミット。谷本 夏とか言ったよな。あれほど実戦的、というより正統派な通背拳に八極拳を習っている奴がこんな近所にいるなんて。まぁ、梁山泊なんて凄いところもあるんだから、あるところにはあるんだろうけれど。
「でも、風牙君が武術をやっているなんて全然知らなかったよ。新島はよく知ってたな。実は仲良い?」
「仲良くないよ。見破られただけ。」
「ウキャキャキャ! オレ様の情報網にかかれば
新島が自慢する情報ってのに、少し思いついたことがあった。
「ああそれそれ、情報」
「ん?」
「新島、拳豪の情報はどのくらい集まったんだ?」
「あ~ん?」
「うちのほら……キサラ先輩だっけ? 見た感じあの人はテコンドーだと思うし、ハーミットは中拳、それも実戦的と言われる通背拳に八極拳の遣い手だった。もしかして拳豪ってのは皆なんかの遣い手なんじゃないか?」
「ふん? 戦った中での生の情報か。中々良い所に目をつけるじゃねぇか、用心棒」
PDAをいじる新島に白浜君は何か言いたそう。やっぱり奴らの情報がほしいのかも。敵を知れば、って孫子の兵法にもあるし。
「しかし新島、いつまで風牙君を巻き込むつもりだ」
「あーん? 風牙は既に我らが新白連合の用心棒として収まってるぜ、兄弟。死ぬまでに決まってんだろ」
「は?」
「え? 白浜くんの許可でたんだ。でも僕はあの時限りの用心棒だろ?」
きょとん、と新島を見ればウンウンと頷く。白浜君に視線を移せば、能面のような顔になってる。
「おーい、新島ー。目を覚ませー。それは夢だー。夢だぞー」
感情の抜け落ちた表情で、ぶべべべべべべと往復ビンタを新島へとかます白浜君。あーあー、新島の両頬が風船みたいに膨らんでいく。痛そう。
「白浜君、それくらいで」
「あっ」
ゴトン!と新島が落とされる。いい加減白浜君の新島の扱いが容赦なく酷くなっていくな。
「あははははー。この頃、力の加減が難しくて。でも、新島の言うこと真に受けちゃ駄目だからね」
「あ、ああ、うん、わかってる」
……日に日に常識人離れしてないかい、白浜君?
◇
今日も今日とて新島が白浜君に絡んでいる。新島の前にハーミットが現れたらしい。なんでも白浜君の道場の場所を聞き出そうとしてたとか何とか。
なんでそんなことを?と思っていたら、視界の隅で珍しく風林寺さんが白浜君と新島以外の男子と話しているのが見えた。
周囲の女の子の話から察するに谷本 王子君というらしい。
「初めまして、ボクは谷本 夏っていいます」
違った。王子くんじゃなかった。眉目秀麗、成績優秀、運動神経抜群、性格温厚、更に金持ちだからプリンスってほうの王子って言われてるらしい。嫌なあだ名だね。
しかし、谷本 夏? ハーミットがこの間名乗った本名がそんなふうだった。じゃあ、彼が? 確かに声も、体格は似てる。
……もし本人だとして風林寺さんになんで近づいてるんだ? 分からん。
ので、わからないことは聞くことにした。簡単に話してくれるとは思えないけれど、一応ね。聞くは一時の恥、訊かぬは一生(もしくは末代まで)の恥、と云うから。
放課後、谷本君が一人になるところを見計らう。白浜君や新島に白々しい挨拶をしてたところを見ると自分がハーミットだと隠しているみたいだし。
彼は、なんか知らないけれど校舎裏に行くみたい。僕らは、なんたって青い春の真っ最中。一人になりたい時だってある年頃だもの。彼もきっとそうだろう。
て、わけで
「ちょっと待って、ハーミット」
瞬間、谷本君はズザッてその場を飛び退いて、左腕を伸ばし右手を自分の胸元に持ってくる構えをとった。
「その構え、八卦掌の托槍掌だっけ?」
「てめぇ、風牙」
声の正体が僕だとわかっても谷本君は構えを解かない。いや、わかったからかな? 僕も構えこそ取ってないけれど、彼の間合いには入らないからね。
ついこの間、戦った間柄だから互いに警戒して当たり前だ。
「……この短期間でよく起き上がれたな? いくら威力を減殺できたとはいえ、十分透ってたのによ」
「たまたま連れてかれた病院が良かったから、助かったんだ」
「ふん」
実際あのまま放って置かれたら、普段の生活に支障が出るか出ないかのギリギリ。武術家としては致命的なダメージを負ってただろうからね。
白浜君達には感謝してるよ、ホント。
「谷本君でいいかな? しかし、驚いた。同じ高校で同じ学年だったなんて」
「……で、何の用だ? もう一度、戦り合おうってのか?」
「そっちがその気なら戦ってもいいけれど」
武断だなぁ、と思う。僕も他人のことは言えないけれど、どうしてこう武辺者は血気盛んなんだろう。脳筋だ、脳筋。
「今度こそ戻って来れなくしてやるよ」
「……この間、君に負けたせいで鍛錬が厳しくなっちゃって最近は地獄を行ったり来たりだよ。さすがに二度も敗北なんて恐ろしくて出来ないな」
「はっ、恨み言か? 自分の功夫の足らなさを棚に上げてよく言う」
「いい返す言葉もない」
僕と彼、二人の間に緊張が走る。ヒリヒリと肌を焦がしながら空気が張り詰めていく。そして―――
「でよー」「マジかよ」誰かの話し声が聞こえた瞬間。
刹那の激突。
「ちっ」
「……」
一瞬の工作の後、谷本君がすかさず間合いを取って腕を抑えた。僕にダメージはない。谷本君の手刀は僕の貫手に弾かれて軌道を変えられ届かなかったから。
でも、谷本君にもダメージはないはずだ。だって手応えがなかったんだもの。だけど、服に穴は開いたかな? 抑えているところは多分そこだと思う。
「纏絲勁? いや……この間といい、見たこともねぇ技を使いやがる」
「家伝の武術さ」
「ふん、なるほど……」
人の気配が更に近づいてくると、谷本君は構えを解いて気を鎮め始めた。見られるのが嫌なんだろう。それについては僕も同意見だったので、同じように戦闘態勢を解くことにした。。
谷本君は、さっき迄柳眉を逆立てていた顔を一転させ、笑顔を僕に向けてきた。まるで仲の良い友人と喋っているかのように。
「で、風牙君。用事は何だい?」
「……」
「……用がないなら行くけれど」
「ああ、待って、待ってよ。用事というか聞きたいことがあるんだ?」
そのギャップ、あまりの変わり身に僕が呆然としていると谷本君は、踵を返そうとするので慌てて引き止める。
そうこうしているうちにやって来ていた生徒達は僕らを気にすることもなく、通り過ぎていった。そして人の気配が大分遠のくと、
「とっとと喋れ。お前と違って俺は忙しいんだよ」
この落差。……何でこんなに外面取り繕ってんのかなぁ。厨二病でもこじらせてる?
「あー、えっと、ちょっと聞きにくいっちゃ、聞きにくいんだけど……」
「……」
「もしかして風林寺さん、狙ってる?」
途端、ギンッって睨んでくる。
「いや、他人の恋愛に首を突っ込むつもりはないけれど……」
「……」
「あー、ほら、だって白浜君と仲いいでしょ、彼女。んで谷本君はラグナレクとか言う不良で、白浜君に喧嘩ふっかけてるし、ほら、君、外面作ってるじゃん。
それで、どういうつもりなのかなぁと思って」
「……それを知ってどうするつもりだ?」
「え? あー、そうだね。別にどうもする気はないけれど……うーん、後学のため、かな?」
「あ?」
僕の答えが気に入らなかったのか、谷本君は眉根を寄せる。
「只の恋愛なら少女漫画みたいだなーって横から眺めていられるけど、もしこれが戦術の一手なら良い教材だと思うわけで」
「ハッ……悪趣味、極まりねぇ」
「ハハ。で、正直どうなのさ?」
「ふん、さぁな。答える義理があんのか? 自分で見極めろよ」
ま、それもそうか。
でも、わかったことがある恋愛感情にしろ、そうでないにしろ、ちゃんと谷本君は分かっててやっているっぽい。
「俺も
「えー……何? 知ってるか分かんないよ」
「アイツは何処で武術を習っている?」
「? ああ、新島にもそれを聞いたんだってね。でも何で……ってそうか、孫子の兵法か」
自分で言って、すぐに理由を思い立つ。
彼と白浜君は今、抗争の真っ最中。なら彼が身につけている武術を探るのは別段おかしい事じゃない。
「それもある。が、一番の理由はアイツの拳筋が師のそれ似てたことだ」
「君の師匠というと、馬 槍月だっけ?」
「ああ」
ふむ? 兄弟弟子であることを気にしている? 同門で争うことを禁じられているのかな?
うーむ、出歯亀はできても他流のことに立ち入るのは
「師の行方を追っている」
「え?……ああ、そう、そうなのか」
思ったよりもあっさりと、それにしては重いことを言ってくれる。
もしかしたら、彼は自身の武に行き詰まりを感じているのかもしれない。中国拳法と日本の古武術という違いはあるけれど、ずっと武をし続けている身としては指針となる師が側に居ないと思うと……あれ?それって天国じゃね? 地獄見なくて済むし。
いや、いやいやいや、そうじゃない。うん、そうじゃない。不安にもなるというものだ。うん、そう、心細い。
「……白浜君が武術を習っているところは梁山泊っていうところ。風林寺さんの実家だね。そこに馬 剣星っていう人はいたけれど」
だから、僕はベラベラと白浜君の秘密をぶち撒ける。
え? 別に僕は白浜君の味方ってわけじゃないし。新白連合とやらのことも白浜君本人から、気にしなくて良いよ、って言われてるしね。
「馬 剣星……」
「知ってる? 同じ苗字ぽいけど」
「いや」
そう言う谷本君は少し落胆していたようだけど、似た拳筋と同じ馬という名。無関係でもないと思う。師の縁で白浜君とも仲良くなればいいけど、不良だし無理かな?
「……一応、礼は言っておく。だけど、お前白浜を売って良かったのか?」
「人聞き悪いなぁ。流派を知られた程度でどうにかなるなら、誰も名乗らないもんだよ」
「ふん、それもそうだ」
谷本君は凄みのある笑みを浮かべる。この間の戦いのことを思い出したんだろう。
「風牙。次も邪魔するなら覚悟しろ」
「二度の敗北はない。って、さっき僕は言ったよ」
僕は肩をすくめて笑みを返す。
「ふん。せいぜい功夫を積んでおくことだな」
そう背を向ける谷本君を見送りながら、また彼と戦うこともあるんだろうかと思う。今度は無様を晒さないようにしっかりしないと、と気を引き締めた。
しかし、それでも今日ののことを思ったら、ゲンナリしてしまう。やはり僕には、戦い以外の何かが、そう癒やしが必要だと強く思った。
僕のうるおいは何処にあるんだろう?