俺がオレ主を史上最強の弟子ケンイチに突っ込むと凄まじくツマラナイ話になる。悲しい 作:ミスドナルドーワッフ
今日学校に行ったら、面白い噂を聞いた。
白浜君が格闘研究会とかいう不良を病院送りにしたらしい。更に昨日一日で街の不良グループ三つを潰したんだそうだ。新島がホクホク顔で喋ってた。
「待ってくれ、みんな。僕はやってない!」
白浜君がクラスの皆に訴えるけど、みんな信じない。「好き」と言ってた姫野さんも白い目だ。そりゃそうだ。
いくらその人が真実、正義、善良であったとしても、武術をやってるってだけで力で解決する傾向にある性格だと見られやすいのに、白浜君の場合は実際に力を振るってる。
学校で不良を蹴り倒してたりしてるし、新島相手のおふざけとはいえ、頻繁に取っ組み合いをしてる。手を上げることに躊躇いを感じない性格なんだと見られてるだろう。
事実、白浜君は相手に対して拳をためらわない。なぜならそれはその拳の先が不良、すなわち悪にに対してだから。
―――でも、それだけじゃないと僕は睨んでいる。
そこにはきっと、この間までと今の彼の境遇が関係しているじゃないだろうか? いじめられっ子、という弱者であったという境遇と絶対強者の弟子という境遇。
過去、いじめてくる相手は常に自分より強い者だった。故に全力で立ち向かわねばならない。そして今、相手は何をしても敵わない絶対の強者。故に全力で望まなければならない。
いつだって誰にだって全力。そこにためらう余地はない。
彼はまだ理解していないんだ。自分が身につけた力の大きさを、そして恐ろしさを。だから、新島とのじゃれあいでも力加減を間違える。
そんな危うい状態のまま彼にちょっと悪い噂が流れれば、たちまち疑念の目を向けられることになるさ。今のみたいに。
それは彼の信念だとか、心根だとか、そういうものがどうであれ関係なく生まれてくる。
……ま、十中八九、谷本君の仕業だろうな。風林寺さんを籠絡して、学校での白浜君の評判を落とす。
精神の摩耗を狙うのか、対決の時に全てをばらして怒りを誘うのか、こういう搦め手はまどろっこしいなぁ。苦手だ。それに、相手の動きを制限出来たりする人質と違って効果も薄い気がするし。
もっとスッキリサッパリシンプルに、さぁ戦おう、さぁさぁ、さぁさぁさぁ!ドカ!バキ!グシャ!で良いのにね。
脳筋って分かっているけれど、そういうのの方が僕は良いな。色々考えなくて済むから楽で。
◇
相変わらず、白浜君の疑惑が晴れない、というより人望が下がり続ける中、今日も今日とて谷本君は風林寺さんを籠絡中。まぁ、言っても演劇の練習してるだけだけど。
この間の教室での初顔合わせの際に、谷本君は演劇部の公演に人手が足りないとかで風林寺さんに協力を仰いでいた。その後、あの無敵超人の孫娘って言っても風林寺さんも女の子。ヒロインってことで嬉し恥ずかしで二つ返事。
ここ数日は、谷本君とべったりだ。なもので白浜君は日々奇声を上げたり奇行に走ったりしてる。
まさに谷本君の狙い通り。効果は抜群だ!
谷本君は、このまま関係を深めていって演劇の発表会が終わった後にでも風林寺さんをデートに誘って自分のものにして、それから傷心の白浜君をフルボッコの凹凹にするつもりなんだろうか。
風林寺さんのオッパイは大きいし、彼、本気で口説くかも知れないな。
どうなる、白浜君の恋の行方!?
あー、僕に全く被害のない他人の恋愛って見ていて楽しいね。モキュモキュするわ。
◇
日曜日。
本家に行くバスの中、時間を潰そうと携帯を開いた所で、メールが届いているのに気がついた。新島からだ。
件名は『緊急連絡 新白連合全隊員へ!!』。本文を開けば、『本日の会合は本部使用不可につき、延期とする。今日はこれよりの活動のために各自で英気を養うように。 総督 新島春男』という僕に全く関係のない内容。
奴の頭の中では僕は連合の隊員になっているらしい。今度きちんと話をしなければ。
ふと、本部ということで学校のことを思い出す。そう言えば例の演劇は今日体育館で行われているんだった。
谷本君は無事白浜君と風林寺さんの仲を裂くことに成功したんだろうか? それとも白浜君が谷本君の陰謀を阻止して風林寺さんとの仲を進展させたのだろうか? はたまた風林寺さんをめぐって決闘!とかになってたり!!
うぷぷ、いやー、明日三人に会うのがドキドキするね!
ドォン! と、いう音がバスの天井から響いた。ん? なんか屋根に落ちてきた? 他の乗客も気がついたのか天井を見上げてる。ダムッ! あっ、また。
なんかなぁと後ろを見れば丁度バスは歩道橋をくぐり抜けた所。まさかね……あそこにいるの風林寺さんじゃね?
そして更に異様な光景に僕はギョ!と目を見張った。後ろの車の上、ひょいひょいと八艘飛びの如く車を渡ってくるのって梁山泊で会った中国のちっさいオッサン、馬剣星さんじゃねーかよ。それに歩道を異様なスピードで走ってるのは前に白浜君に手刀構えを教えてた人じゃんか。
……ってことは、まさかまさか。
窓を開ける。すると聞き知った二人の声が風の音に紛れて聞こえてきた。
「ラグナレクなどしょせん俺には腰掛けに過ぎん。全てはいずれ裏社会を統べる時のための練習さ!!」
「教えてくれ! いったい何処からどこまでが演技なんだ!? 僕と君は友達になったんじゃないのか?」
「フッ…フフフ、フハハハハッ――――全部だよ、マヌケ!!はじめから全部ウソさ」
な、何やってるの二人共! ちょっと青春を謳歌するにしてもバスの上でって謳歌し過ぎでしょ!!、ちょ? え? 待ってよ。
彼らがどんどん常識の外へ走り去っていくよ。ど、どうしよう……
「演劇部を襲わせたのも、奴らを始末したのも俺さ。表社会の人気取りのために美羽にも近づいたのさ。
友達? 笑わせるな! 覇者は常に孤独を求めて頂を目指す!」
な、なんだってー!!!
そうなんだ。谷本君は裏社会と表社会でトップに立ちたかったんだ。なんという向上心。さすが谷本コンツェルンの社長さんだね。考えていることが一般人離れしてるよ。
しかし、てっきり白浜君を追い詰めるために動いているんだと思ってたのに、風林寺さんに至ってはただの人気取りだったなんて……。ぬぅ、やはり他人の思惑を見抜くのは難しいや。
戦っている時なら
そうこうしている内も白浜君と谷本君の話し合い&激突は続いていた。
馬さんは直ぐ後ろの車の屋根に座ってそれを観戦しているし、ムキムキマッチョな人も走りながら見てる。非常に非常識&非現実的な光景だ。
「でも、この近さならその手刀の威力も半減!」
「そりゃあ、てめぇの掌底もだろう!!」
「くらえ! 馬師父直伝の技!」
熱い攻防を直に見れない残念さを噛み締めながら、彼らの実況に耳を傾けてるとバスがグワン!と一瞬傾いた。
な!?と見るとムキムキマッチョさんがバスに蹴りを叩き込んだっぽい。その反動で落ちる白浜くんをキャッチ。ふー、遠ざかる二人+馬剣星さんを見るに無事のよう。
そしてバスにぶら下がっている谷本君も屋根の上によじ登って無事のよう。
……凄い青春送っているなぁ、彼らは。映画か?
◇
信号で停まること無くバスは停留所で停止。運転手さんが先ほどの異常を一旦降りて確認すると言う。
外を見やれば谷本君が逃げるように去っていく後ろ姿が見えた。さすがに屋根の上でふんぞり返る度胸はないらしい。当たり前か。
本家に行くのが遅れるのでどうしようかとも思ったけれど、谷本君が気になったので一旦バスを降りることにした。運転手さんにその旨を伝え料金を払い彼を追う。
追いつくと丁度、彼があの痛いマントを脱いだところだった。
「ハーミ……たーにもーとくーん」
「!?―――風牙……」
「やぁ」
「てめぇ、やけに良いタイミングで現れるな……」
警戒感バリバリに谷本君は僕を見る。ま、わからないわけじゃない。
「バスの上で大立ち回りしておいてよく言うよ。たまたま乗ってたんだよね、僕」
「チッ、偶然にしちゃ出来過ぎだろ」
「まぁ、そうだけど」
「で、なんの用だ。俺は虫の居所が悪いんでな、用がないなら失せろ。それとも力づくで消されたいか?」
白浜君との決着がどうなったかはわからないけれど、聞いてた感じだと最後に一発貰って、それで終了だからよく言ってドロー。
彼自身からしてみれば格下に一本取られて苛ついてるってところだろうな。
「君の師匠、馬 槍月のことだけどね、横浜にある逆鱗飯店ってとこオーナーを訪ねるといいよ」
「何!?」
僕が唐突に言った言葉に谷本君は目を見開いた。
そうか、知らない情報だったか。なら、教えてよかった。
「そこの店主の名は馬 良。日本にいる馬一族のまとめ役らしいから、もしかしたら行き先を知っているかも」
「……どこでそれを? どういうつもりだ?」
「蛇の道は蛇。うちの年寄り連中からの情報さ。
教える理由は、うーん、まぁ、色々だね。同じ武の道を歩んでいる者への同情、善意ってのもあるけど、君がここで迷って足踏みし続けてるのはちょっと嫌なんだよね」
「何?」
「君は僕を負かした。でも、白浜君とは引き分けた」
「っ! 殺されたいんだな、風牙」
殺気の熱気が吹き付けてくるけれど、どこ吹く風と受け流す。
殺気を向けられることなんか、秋野の道場での稽古で日常茶飯事、どころか稽古の最中はずっとだ。それも僕や谷本君程度が見せる殺気なんか大したことない。
「負けた僕が言うのもアレだけど、あの時の勝敗は本当に紙一重だった」
「……」
「今ここで
「ちっ……」
そう、今やりあえばあの時と同じにはならないだろう。この僕の言い分を谷本君も半ば肯定している。
それは彼の修行が独りだから。修行の真価を測る物差しを彼が持ち得ないからこそ来る迷いが、それを肯定させてしまう。
「白浜君と僕、谷本君とは違う所は多くある。各々流派は違うし、年季や才能だって違う。でも最も違うのは、導いてくれる師が直ぐ側に居るか否か」
「……」
覆しようのない事実に谷本君は苦虫を噛み潰したような表情を見せる。
「どうせリベンジするなら、真っ当な君を討ち果たしたいんだ、僕は」
「……後悔するぞ」
「しないよ。相手が強くあることは、武の道を行く者にとってありがたいことだと思うから」
「ふん。礼はてめぇを倒すことで替えさせてもらう」
そう言う彼に僕は笑みを浮かべて返す。
背を向け歩き出す彼を見送ってから僕は時間を確認した。大分遅くなってしまったこと本家に詫びるべく、僕は携帯を取り出した。