余り時間が取れないので不定期更新となると思いますが、宜しくお願いします。
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4回表タチバナの攻撃に移る。
1巡したことだし向こうも動きを見せてくることが考えられる。
翼
「さぁここから作ってこう!」
仙波
「おう!」
監督代行の神木くんから激が飛び、先頭打者の仙波君がそれに答える。
「ボールッ!」
寺河
「っと。」
坂内
(…揺さぶりをかけてきたか。)
バントの構えをすることにより、寺河さんのリズムとスタミナを削ろうという作戦--と見るのが妥当だろう。
その後10球を投じカウントは2-3となる。
際どいコースはカットで逃げるなどバットコントロールを持った選手だということがわかる。
寺河
「ふーっ。」
こういう選手は本当に相手に回すと面倒だと改めて思う。
寺河
(はーったく、純粋にこういうやつは相手にすると鬱陶しい。つくづく思うぜ。)
大きく振りかぶり投じられたボールは---外角低めに構える坂内さんのミットに収まる。
「ボールッフォア!」
反動で落ちた帽子を拾い、マウンドの堀を手直しする。 こうやって自分の時間を作るのも落ち着くのに効果的だと言われている--らしい By 朴木。
みずき
「仙波くんナーイス!原くんわかってるわね!?」
原と呼ばれた2番打者が細い目を更に細めながら頷く。
寺河さんは1塁ランナーを見ながら投球モーションに入る。
瞬間、1塁ランナーである仙波君がスチールを仕掛けてきた。
寺河
(初球から!舐めるなよ!)
寺河さんから放たれたスピードボールを確認しながらセカンド返球のカバーに入るために2塁ベース後ろに走り込む。
捕球から
これなら---「セーフッ!」が、惜しくも刺せない。 大きなスイングが坂内さんの送球を少し遅らせたのだ。
みずき
「仙波くん、原くんナーイスッ!完璧よ!」
タチバナベンチで水色の髪の毛の少女---橘みずきが笑顔を見せる。
寺河
「くっそ」
コンッと勢いを上手く殺しはバントは投手前に転がり寺河さんが捕球するが3塁は間に合わない。 反転し1塁に送球しアウトカウントを1つ増やす。
みずき
「ナイスバント!」
原
「おおきにみずきちゃん!」
1アウト、ランナー3塁。 ピンチの場面が訪れる。
原くんか。 さっきのバントもそうだったけど、坂内さんの送球を遅れさせたのは驚いた。 守備妨害を取られないギリギリの範囲での妨害、あれはほんとにいやらしい技術だ。
翼
「聖ちゃん頼んだよ!」
小さく頷いて右打席に立つのは六道聖さん。 シニア時代に何回か目にしたことがあるけど非常にミート能力に長けている。 ミートが上手いということは即ち彼女も
つまり---僕と同タイプの人種だ。 それも、僕より確実に上の眼を持っている。
ここはどう動くのか、学べることは学ばせてもらおう。
坂内
(3番の六道に恐らく初球スクイズは無い。六道自体は鈍足と言ってもいい。それよりミートで拾われる方がヒットになりやすい。ここは内野定位置で、セカンドは前進気味で行こう。)
--坂内の読みは正しかった。六道は初球を見逃す。 初球ストライクをとった寺河はテンポよく投げ込み簡単に追い込んだ。
4球目内角低めに投じられた球は更にそこから内へと変化をする。
ギィィィン!
金属バット特有の音が鳴り響き、やや詰まったような当たりになるがボールはショート基宗さんの頭上を超えていく---タイムリーヒットだ。
金属バットの特性とも言える“打ち取ったのに”ヒットという正しくそういう打球だった。
翼
「聖ちゃん!ナイスバッチ!」
神木くんの声に1塁ベース上で六道さんが答える。 不味いな、攻撃のリズムが繋がり始めている。
それにしても、今のは寺河さんの決め球であるフォッシュボール。 それを初見で外野まで運ぶなんて…とても眼とバットコントロールが優れている。 ギリギリまで呼び込み、足を開いて腕をムチのようにしならせて打ち返した。 あれには強靭なリストが必要になってくると思うけど、それが女性でも出来るのか。 いや---女性だからと言って決めつけるのは良くないね。 早川あおいさん、
みずき
「神木くん!ここで打たないとどうなるかわかってるわね!?」
翼
「何で打席に入る前にそんなにプレッシャーかけるかな!?上ずるじゃないか!」
のほほん、とした空気を感じさせる神木くんの顔付きが打席に入った瞬間変わった。 表現するなら春の野原からまるで南極に移動したかのような冷ややかな刺すような圧を感じる。
初球だった。
坂内さんの要求したのは内角低めへのフォッシュ。 恐らく狙いは鈍足の六道さんを考慮してのダブルプレー。 その為に内に投げ込むという物だと僕は考えた。 フォッシュとはその名の通り、簡単に言えばシュート回転をしたフォークボールだ。 滑りながら落ちるボールなんてちょっとやそっとじゃ対抗は出来ない代物の筈。 その考えを神木くんは容易く上回った。
キィィン! と芯で捉えた甲高い音が鳴り鋭い打球がライトフェンスに突き刺さる。
…反応出来なかった
瞬きの間に僕の近くを通り越したのかという打球の速さ。 全く洒落にならない集中力を持っていると感じる。 同じ2年とは思えもしない。
が、落ち込むのは一瞬だけだ。
「アウトッ!」
信弥
「ナイスボールや!」
翼
「聖ちゃ〜ん…」
打球の強さが幸いしたのか六道さんの進塁を防ぐことは出来た。
それにしても
「足取りが重かったような」
翼
「言わないであげて!試合前にきんつばを食べすぎたみたいで聖ちゃんの足が遅いとかそういう訳じゃないんだ!」
2塁ベース上に居る神木くんが慌てて言葉を入れてくる。やばし、声が漏れてた。
あはは、と2人して乾いたぎこちない恥じらいを含んだ笑を作る。
面白い人だなぁとグラブで顔を隠しながら少し微笑んでしまった。
続く打者は5番を打つ天城君。
彼の持つ雰囲気も第1打席とは比べ物にならないものになっている。
初球真ん中低めに糸を引くようなストレートが投げ込まれる。 バックネットに設置されたスピードガンが計測した球速は145km/h。
春の県大会で記録した球速を上回っている。 これは最後の夏にかける思いは自分に返ってくるということを解らせてくれる。
2球目は内角低めに制球される。 内角は甘く入れば長打の危険もあるが力みを誘って打ち取ることも可能なコースだ。
今回は後者だ。
坂内
「セカンド!」
キィン!と小気味よい音が鳴り鋭い打球が僕を襲う。 でも--正面だ。
「アウト!」
丁寧に捕球し、一塁に送球する。 これでこの回は終了、何とか最少失点で切り抜けた。
寺河
「ナイスセカン!」
グローブ同士を合わせ軽くハイタッチをする。 会心の当たりでも打球が野手の正面に行くのは良くあることであり、それは一般的に投手が勝った時になると言われている。 ポジションとはそれを元に構成されたらしい。
4回裏 僕たち親切高校の攻撃に移る。
打順はクリーンアップ、3番坂内さんから始まる。
坂内
(先の回の投球、あれを見ると初回等は力を抜いていたという事か。理由は解らないが、手を抜かれたと言うならそれは---
「心外だな!」
キィーン!と芯で捉えた打球は鋭く、天城君の横を抜けていく。
原
「こなくそ!」
センター前に抜けると思ったその矢先、聖タチバナのセカンド原君が好守を見せる。
車坂
(なるほど…やはり相当鍛え上げられているな。今回の試合を今後に上手く活かすことができれば良いのだがな。)
続く4番信弥はボールを選んでいくも、インローにくい込むシンカーの前に三振。 亮は積極的に振っていくも内野ゴロに倒れてしまった。
*
5回表、流れが向こうに行きかけている中、寺河さんはタチバナの攻撃をしっかり3人で切り取った。 これで波を手繰り寄せようと、意気込む僕たち親切だったがタチバナも簡単には手綱を緩めてはくれない。 同様にこちらの攻撃も三者凡退で終わってしまう。
車坂
「よし、メンバーの交代を行う。元より寺河1人に投げさせるつもりでは無かったからな。おい乾!マウンドに上がれ!」
勝利
「はい!」
車坂
「坂内、お前も交代だ。本庄、用意しろ」
6回表が始まろうと言う時、メンバーの交代が行われる。 時間の関係上、1試合しか今日は行えない。 その為練習で調子の良かった選手達を後半から突入するというのは元からの作戦であったらしい。
投手は寺河さんから勝利へ。
捕手は坂内さんから翔へ。
遊撃手は基宗さんの代わりに僕が入り、空いたセカンドに官取君が入るという結果になった。
勝利
「さてと!気合を入れていきますか」
翔
「今日の課題はコーナーを付いたピッチングだ。丁寧に低めを意識しよう」
勝利
「おう、任せとけ!」
翔
「…変に空回りしないでよ」
翼
「へぇ、投手交代か。見たところ左腕だね」
聖
「うむ。どのようなタイプかが肝になってくるな」
丁寧に足場を慣らした勝利が投球練習を始める。
勝利は投手としては珍しい
大きく腕を伸ばして振りかぶり、胸に描かれている親切の文字辺りまで右足を引きつける。 踏み込みは大きく身体を沈めることにより、テイクバックが充分に取れ尚且つリリースポイントを低くすることが出来る。 これによって打者からはボールが下から伸びてくるような錯覚に陥ることがある。
このフォームの利点はまだ有り、身体全体を上手く機能させることにより身体にかかる負担を散らすことが出来ているらしい。
勝利の投球を見た瞬間タチバナの雰囲気がまた変わった。
翼
「…サブマリン投法か。みずきちゃんより、更に低い位置から…」
岬
「かなり本格的な投法だ。居るんだな、高校生にも」
聖
「それはそうだろう。全国は広いんだからな」
翼
「それにしても、これは手こずりそうだな」
振りかぶり鋭く左腕を振り切り、地面スレスレで放たれたボールは翔の構えるミットに綺麗に収まる。
今日の勝利は調子が良いみたいだ。 これは左打者の多いタチバナからしたら痛手だろうなと思う。
「バッターアウトッ!」
2番打者原君をスクリューで空振り三振で三者凡退に打ち取る。 うん、良いリズムだ。
両チーム共に投手が安定し、続々とアウトカウントを増やして行く。
そして試合は中盤、7回に差し掛かった。
この回からタチバナは投手を交代。 左サイドスローの橘みずきさんがマウンドに上がる。
確か、少年野球チームの『おてんばピンキーズ』のエース。社長令嬢とも話を聞いたこともある。
みずき
「いいこと聖!1点もやらないわ!特に!友沢には絶対打たせないんだから!!!」
聖
「熱意は認めるが力を抜けみずき。余計な力が入ると球が走らなくなるからな。いつも通り投げれたら大丈夫だ」
みずき
「任せなさーい!」
それにしても。
「何であんなに敵視されてるの?」
亮
「…理由は解らないが、強いて言うならあいつは負けず嫌いってことだな」
シニアの時から会場で顔を合わす度に絡まれてたもんね…大変だなぁって思います。
因みに前打席はピッチャーフライでした。
亮
「さて、あいつがシニアの時からどれくらい成長しているか見物だな」
その言葉にうん、と短く返しマウンドに立つ少女に目を向ける。
左サイドハンドから対角線上に角度を付けて速球が投げ込まれる。 打者の翔はその球に思わず仰け反ってしまった。
「あの角度から入ってくると左打者はちょっときついね」
亮
「あぁ、だが対策が無いわけではない。ポイントを前にしてヘッドを巻き込んで打てばボールは前に飛ぶだろうからな」
「そんな難しいことさらっとやりそうなの亮くらいだよ…」
3球目、インコースに投じられたストレートに詰まり翔はサードゴロに倒れる。
かなり振り遅れていた。 球速自体は120km/h後半とそれ程速くは無いけど、球のキレが打ちにくさを出している。
こういう投手が居るから野球は楽しいんだ、と思う。
続く4番信弥は右打席に入る。
一般的に左に対して右は有利と言われている。 球の出所が見やすいのがその所以とあるけど、このフォームは少し特殊だから当てには出来ない。 初回天城君から点を取ることが出来たのは旧式フォームの時だ。 あれは出所が見やすかった為、比較的球を捉えやすかった。
そんなことを考えていたら信弥もセカンドゴロに打ち取られてしまう。
亮
「さて、おてんば娘の討伐と行くか」
ヘルメットを被り、亮がネクストバッターサークルから
あいつ、意地でも相性が悪いと言われる左で打つつもりだな。 全く、どっちもどっちな負けず嫌いだよ。
みずき
「出たわね友沢!アンタには絶対打たせないんだからね!」
亮
「うるさい、とっとと投げろ。ライトスタンドにその威勢事叩き込んでやる」
うわー、火花散りまくってます。
みずき
「言ったわね!あんまり舐めないで欲しいものだわ!」
初球は、インハイにストレート。 これに亮はピクリとも反応を見せない。
みずき
「あれ?どうしたのかしら?もしかして怖気付いちゃって手も出ないの?」
亮
「うるさい。俺のストライクゾーンでは無かっただけだ。さっさと投げろ」
みずき
「言われなくても!」
カキーン! と快音が響くが僅かに打球はライトポールの右に逸れる。
亮
「…仕留め損ねたか。次は内に入れる」
みずき
「聖ー!ちょっと来て」
先程言っていた理論を体現してきよったぞあの男…ほんと同年代には思えないな。
聖
「何だみずき?」
みずき
「…投げていいかしら」
聖
「…
みずき
「それは承知の上よ。大丈夫、絶対打たせないわ」
聖
「はぁ、仕方ないな。楽に行こう、これは練習試合だ。思い切って行くとするか」
みずき
「そう来なくっちゃ!」
バッテリーによる会議が終わり、中断されていた試合が再開される。 橘さんの性格からすると、多分次は真っ直ぐだと思うけど…相手は橘さんだけじゃなくて六道さんもいることを忘れてはいけない。
亮
「長い会話だったな」
聖
「そうか?なら、3球勝負にするぞ。時間の遅れを取り戻したいからな」
亮
「言ってくれるな」
聖
「コースはどこにするのがいいか迷ったが真ん中にしたぞ。単純に力の勝負だ」
亮
「ふん、そうは思わんがな」
しっかりと手にロージンをつけ、橘さんがモーションに入る。 インステップから身体に隠れた左腕が飛び出してくる形になる。
放たれた白球はアウトコースに外れていくように
「ストライーク!バッターアウトッ!」
結果は見逃しの三振。 コースは外角低め、完璧に制球された変化球だった。
恐らくあれは--スクリューボール。
勝利も武器の1つとして使う左投手限定の変化球。 右投手のシンカーをそのまま逆変化させたようなボールのことだ。
亮
「くっ…六道の囁きに惑わされた。情けない」
「舐めてかかるからそうなるんだよばーか」
亮
「うるさい、バカと言った方がバカだぞ。それに、さっきの球はスクリューはスクリューでも少し違ったような気がする」
「違う?個人差の問題じゃなくて?」
亮
「それもあるだろうが、あれはスクリューの強化版に思える。変化も鋭くなっていた。ただ日々を過ごしてきたわけじゃないってことか」
「それは僕らも同じだろ。切り替えて守っていこう」
亮
「次は打つ、絶対にだ」
「ダメだこりゃ。」
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みずき
「へへーんだ!どんなもんよ私のスクリュー!」
聖
「あぁ、余り褒めたくはないが良いボールだったぞ。
みずき
「そうね!ほんとはアレが投げたかったのに仕方が無いから聖の言う事聞いてあげたんだから感謝しなさい」
聖
「なー!アレはまだ未完成だから実践は早いと踏んだんだ!」
みずき
「でも友沢の頭の中はストレートで1杯だった。そこにアレを投げたらちょろいと思わない?」
聖
「だが万が一の失投もある。ここは重ねてきた日々が作った武器でぶつかるべきだと私が判断したんだ。でも忘れないで欲しい。このリードが出来たのは2球目をしっかり制球出来たからということを」
みずき
「結局は私が良かったってことでしょ!?流石私だわ!」
聖
「平たく言えばそうだが、天狗になると痛い目にあうぞ」
みずき
「大丈夫大丈夫!ノープロよ!」
笑顔の橘と対象的なのはやや表情の暗い六道聖だ。
次の回も橘は危なげなく抑え試合は最終回を迎えている。 点差は僅かに1点。 しかし、負けていることは確かなのだ。
「聖ちゃん大丈夫?」
「むっ、翼か。大丈夫だ。ただちょっと友沢について考えていてな」
「あー、さっきの打席か」
その言葉にこくっと聖は頷く。
「正直賭けだった。煽りを掛けてからの3球勝負。シナリオ通りを辿ったが結果は紙一重だ。バックドアが成功していなければ普通に拾われていただろうに」
「珍しいね、聖ちゃんがそこまで言うなんて」
一口水分を補給し、聖が続ける。
「友沢はそれくらい警戒するに値する打者だ。翼、お前と同等にな。みずきの新しい変化球--スライダーは完成には程遠い。失投したら即スタンドだ」
「確かに友沢君ならやりそうだね。っと、僕が彼と同等?まさか、買い被り過ぎだよ」
「そんなことは無い。先程も出塁しただろ?」
「あれは感が当たっただけだよ」
自身が空振り三振に倒れた投手の球を打ってマグレだと目の前の男は言い切る。 頭に浮かぶのは先の回の神木の打席だ。
カウントは2-2と並行カウントとなり、ボール1個分内に入ったのを神木は見逃さずレフト前に弾き返した。
--ほら、買い被りでは無い。
僅かに口角が上がっていることに六道は気付きながらも今はその事には触れないようにする。
「どうしたの聖ちゃん?」
「どうもしないぞ。少し話が過ぎたな、ネクストに行ってくる」
「そうだね。原君!コンパクトに振っていこう!諦めなければ何か起こる!」
試合は接戦---制したのは親切だった。