紫杏イベントは閑話扱いとして、時には野球に触れ進めていこうと思います。
ペットボトルと環境問題
*
タチバナ戦から日は流れ、季節は梅雨の時期へと移る。 この時期になると何が辛いかって言うと、降りつづける雨によってグラウンドが使えないということ。 そうなってくると出来ることは限られ、大体が筋トレがメインとなってくる。
「ほら、動きが鈍ってきたぞ。乳酸が溜まってからが勝負だ」
「簡単に言うけど…これ相当きついぞ」
「何を甘いことを。この前神木に打たれたのは誰だったっけ?その時の約束、覚えてないとは言わせない」
「うぐ…サーキット2倍…頑張ります」
「素直でよろしい」
「でもお前はボールに座ってるだけじゃないか!?」
「バランスボールは体幹を鍛えるのにいいんだよ。最終的にはこれに座りながらトスバッティングを行うことを目標にしている。まずはそれに向けて慣れるってとこだな」
室内練習場の端の方に勝利と翔の姿が見られる。 勝利は今身体に重りを付けた状態でその場でスクワットを繰り返す。 翔はバランスボールに座りながらメディシンボールを持ちながら腰の回転を意識している。 あそこの図はいつ見ても翔が勝利をいじめているようにしか見えないから面白い。
「ほら、ペースが落ちてきてるよ。これは追加かな?」
「くそ〜、悔やみ切れぬ一瞬の抜かり」
翔ってドSなのかな…
寺河さんと坂内さんはブルペンに入って変化球の調整中。 信弥と亮と十彩は絶賛ベンチプレス中。 因みに左から100kg、110kg、90kgと言った様子である。 プロテインが似合う男達だなって思います。
さて、僕も負けていられない。 早く筋力を付けて打力を上げないと。
握力強化も兼ねて、
次にハンマーカール、サイドクランチを行う。
ハンマーカールを行うことにより、上腕二頭筋等が刺激され、腕の振りが早くなると言われている。 サイドクランチは以前行っていたメディシンボールを壁にぶつけるものと効果はさほど変わらない。 目的は腹斜筋を鍛え、腰周りの筋肉を付けるためである。 前にも言ったように
『チームの為なら自分はアウトになっても構わない。寧ろ、誇らしい』
以前TVに映されたプロ野球選手が口にした言葉だ。 正直いつにこの言葉と出会ったかははっきりとは覚えていない。 でもはっきりとこの言葉に惹かれたのは覚えている。 いつかあの選手と会えたらいいなって淡い期待をふとして見る。
「天道、少しいいか?」
「ぶーーーっ!」
「…汚いな」
思考に潜っていると後ろから不意に声をかけられる。 その事に二重の意味で驚いてしまい、つい飲みかけていたパワビタを吹き出してしまう。
「何で、君が、ここに?」
「少し
「いやいや、君は自治会長で忙しいだろうし、何よりこんな所には来ないと思っていたから」
「あぁ、その事か。確かに私も本来なら来る気は無かったよ。先程述べた通りだ。用件が出来たと」
「そう言えば。で、その用件て何なの?」
「はぁ、頭に栄養が回ってないようだな。今日は--定例会議の日だ。「あー!しまった、忘れてた!そう言えば今日だったな…」…こほん、1回目だと言うのに副会長が居ないのはケジメがつかないではないか。だから呼びに来たんだ」
「それは申し訳ない…直ぐに監督に話をしてくるよ」
「あぁ、私は外で待っている」
「うん、じゃあちょっと待ってて」
「うむ。あ、それとな」
「ん?何?」
「さっき吹き出した液体、ちゃんと掃除しておけよ」
「…ごもっともな意見で」
*
吹き出してしまったパワビタを拭き取った後、服装を少し着替えることにした。 汗を含んだシャツを着ているとクーラーにやられるからね、風邪を引くのはごめんだ。
「ごめん、準備出来たよ」
「あぁ、では行こうか。道中は私を待たせた罰として会話に付き合ってもらおうかな」
「君の話は難しいんだけど…」
「そんな風に斜に構えなくても良いだろう。誰だったかな、定例会議を投げ出そうとした副会長は--なぁ天道」
「はい!仰せの通りに」
何か目に見えないけど激しいオーラみたいなのを感じた。 ここは逆らっちゃダメだと本能が訴えかけてきている!
「では話を--の前に、ゴミのポイ捨てか。今度この問題についても話す必要があるな。これは、またまた変わった形をしているな」
じーっと見つめながら神条が示したペットボトルは、茶飲料などに使われる無菌充填用のものだった。 耐熱性や耐圧性に比べれば、形状はバラバラだしこれらに比べればマイナーなタイプになってくる。 とは言うもの、そこまで考えるような問題に僕は思えなかった。
「形は違っても、元の原料は同じじゃない?だったら一緒に回収されても問題はないと思うけど」
「それも一理ある。だがそれはごみの分別をしない人間の考えだ」
「ペットボトル1つでそんな判断しないでよ!」
そんなふうに思われては堪ったものではない。僕はすぐさま反論し、こう付け足した。
「僕だって分別ぐらいはちゃんとするよ。神条は少し考えすぎなんじゃない?」
「…そうなのか?」
キョトンとした表情を浮かべる神条。えっと、そんな反応されるとこっちも困るんだけど…。
「ペットボトル1つでそこまで考える人は珍しいと思うよ。環境への配慮でも考えてたの?」
「『環境への配慮』?これはお笑いだ。あははははは」
そう訊ねると、神条は突然面白おかしく笑い出した。僕の先ほどの言葉のどこに笑う要素があるのか割と不思議なんだけど。
「何がおかしいの?」
「まぁ聞け。人類が地球の環境を破壊しまくって、あらゆる生命を道づれに滅んだところで地球も宇宙も少しも気になど留めやしないさ。生命が必要なら、ほんの10億年ほどで今の人類などなかったことにして最初からやり直すだけの話だ」
「何か…スケールが大きくなってない?分別の話をしていたと思うんだけど」
「環境問題というのは、結局人類がいつまで生き延びられるかという、人間自身の問題なのことだ。それを『環境に配慮している』などとはあまりに傲慢すぎて滑稽極まりない。自己中心的な話だと、天道も思わないか?」
えっ?ここで答えを求めるの!?
っと、少しばかりフリーズをしてしまうが大方の考えに僕も賛成だから否定する気にはなれない。
「確かに、エコや省エネとか言っても、それが出来ていないのが現状だよね。紛争から人種差別、領土問題、戦争…。環境問題は大体それらが原因だものね」
「そう、人類は過去の教訓からなにも学べていない。上に立つ人間など所詮、口だけだと思わないか?」
「ちょっと発言が過激だけど、そうだね。君は理不尽な事だとしても、言ったことは何でも有言実行している。少なくとも、僕は神条のこと好きだよ」
「な、何を言ってるんだ!?お前は!!」
「えっと、何か勘違いしてない??僕は君みたいな指導者なら使役されるのもありかなって思ったんだよ」
「なっ、なんだ…。そういう事か」
ものすごい動揺だったね…神条でもあんな顔するんだ。まだ耳の先まで真っ赤になってるよ…
「そう言えば君は先ほど私のことが理不尽だと言ったな?」
「え、いや、それは言葉の綾で…!」
「良い機会だ、徹底的に教えてもらおうか」
何故だろう、何故こんなにも満面の笑みの奥に般若が潜んでいるように思えるのは…。
会議の方は何事も無く終えることが出来た。
訂正…めちゃくちゃ使役されました。