ダイヤモンドを駆け抜けて   作:かりんと。

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引き続き紫杏イベントです。


日常・2話

低糖とノンカロリー

 

*

授業が終わり、時間は放課へと移る。 毎月偶数日は自治会の手伝いをすることを、この間の事件(日常・1話参照)の(ペナルティー)として神条に制約させられてしまった。 以前から仕事には取り組んでいたのだが如何せん、時期は6月。 夏の大会を控えているのだ。 その時期に練習量が減ってしまうというのは大きな痛手になるなと思いつつも、放っておくといつまでもパソコンに向かっていそうなのでやれやれと言った感じである。

 

「何か食べ物を買ってこようか?」

 

時刻は3時を過ぎたあたり。 少し小腹が空いてきた。 親切高校は私立の為か第1週と第3週に土曜授業というものが入る。 祝日や学校創立記念日等が被る場合は休みになったり日が変更される時などがある。 今回は通常通りに授業が行われた。

 

「あぁ、お願いしよう--いや、ちょっと待ってくれ」

 

珍しく笑顔で返事を返してくれたと思ったら、途端に顔つきを変え待ったを掛けられる。

 

「えっと、どうしたの?」

 

「低糖とか、ノンカロリー等が付いた商品は避けてくれ」

 

一体何故?と頭に?マークを浮かべながらも、これかなと思う言葉を落としてみる。

 

「そういう商品はよく、人工甘味料とかを使用しているから?」

 

あれは健康に悪いものがあると言われている。 少しなら問題は無いが、摂取のし過ぎに注意と言ったところかな。

 

「いや、そうではなく--そういう(・・・・)考え方が大嫌いなんだ」

 

「…え?」

 

思ってもみなかった返答に言葉が詰まってしまう。 神条は、いいかと言葉を続けた。

 

「--カロリーを半分にしたところでそれを2倍食べれば結果は同じだ。それをカロリーが低いものを食べれば安心等という発想が気に食わない。カロリーが気になるなら寧ろ、取り込む量を控えるべきというのが筋だろう。いや、寧ろ食べるな!」

「ま、まぁ…その落ち着いて?」

 

きょとん、と目を丸くする神条。 やや時間が空いてから口を開いた。

 

「あ、あぁ、済まない。どうも興奮すると我を忘れてしまってな」

 

「確かに、その感覚は分かるけどね。野球してる時も、気づいたら大きな声で指示を飛ばしていることとか珍しくないし」

 

「いや、それとこれは少し違うのでは無いか?」

 

「あれ、そうなの?」

 

「…わからん」

 

この問について考えていた僕は、ついつい低糖と書かれている飲み物と食べ物を買ってしまった。 しかも、大きく示されていたにも関わらず。

 

「なるほど。先の件といい、やはり君は私に喧嘩を売りたいらしいな?」

 

笑顔の裏に隠れた修羅を見るのはこれで何度目になるだろうか…と数分前の自分を咎めたい。 --山積みの書類と睨めっこすることになったのは言わずもがな。

 

・・・

 

尊敬する人

 

*

「ねぇ、神条の尊敬する人ってどんな人?」

 

ふと疑問に思ったことを尋ねてみた。

 

「父だ--という解答は一般性を持たないな。では、歴史上の人物で行こう」

 

「君は博識だから、僕にも分かる人にして欲しいな…出来ればだけど」

 

「そう、あれだ。世の中に“理系人間”と言う者がいるならばそれは村田蔵六(ぞうろく)先生を置いて他にいるまい」

 

「その人って、大村益次郎(ますじろう)さんと同一人物?」

 

「あぁ、その通りだ。有名だろ?」

 

「残念ながら詳しくは知らないんだ」

 

「ふむ、そうなのか。彼は明治維新の時の人物でな。一生を理論で過ごした人だ」

 

「へぇ、数学の先生か何かなの?医者だって聞いた覚えがあったような」

 

「そう、自称町医者だ。そして--最後は暗殺(・・)をされた」

 

町医者をしている人物がどうして暗殺されるんだ?と頭にモヤが浮かぶ。

 

「どうしてそんな訳の分からない人物を尊敬しているの?」

 

「彼の父親も医者でな。どんな病人が来ても薬を渡して安心させていた。ところが村田蔵六先生--大村益次郎先生は軽い風邪程度なら『暖かくして寝ていろ』と追い返したらしい」

 

益々頭に?が浮かぶ。

 

「ええと、それって凄いの?」

 

「お陰で治療費を貰えず、ずっと貧乏だったとか」

 

どうしてだろう、聞けば聞くほど謎が深まるばかりだ。

 

「だがな、長州征伐と戊辰戦争で長州藩兵を指揮し、勝利の立役者となった。太政官政において軍務を統括した兵部省における初代の大輔(次官)を務め、事実上の日本陸軍の創始者、あるいは陸軍建設の祖と見なされることも多いとされているんだ」

 

「と、とにかく凄い人だってことは分かったような気がするよ」

 

「そうか。彼はな、色々な方と面識を持つようになってな---」

 

地雷を踏んだな…と少しばかり後悔することにした。

 

・・・

 

赤水と水質調査

 

*

「会長大変です!」

 

その発言で事件は舞い込んできた。

 

「どうした!?」

 

「第2グラウンドの水飲み場の脇で赤水(・・)が出ました!」

 

「何?手の空いている者は全員集合!」

 

「赤水って何のことだ?」

 

大江さんにより手伝いに参加させられていた宗太が尋ねる。

 

「えっとなぁ--確か錆の浮いた水のことやったと思うで!」

 

「へぇ、水道管の中が錆び付いてるって感じか」

 

「そういうことやね。ほな、はよ行こか」

 

「え、ちょ、俺は行かないってば!」

 

「乗りかかった船や!最後まで乗ってき!」

 

宗太の首根っこを掴みながら爆走を開始する大江さん。 改めて凄い身体能力だな、と思う。 握力110kgは伊達じゃない…。

 

現場に行ってみると確かにその蛇口から流れる水には錆が混ざっていた。 ここはバスケット部が練習の合間や後に使用することがある。 このままにしておくのは色々と危険がある。

 

「よし。とりあえず部屋に戻るぞ。天道、校内の水質調査、及び周辺地域の水道状況の確認を頼む」

 

「また難しそうなことを…仕方ないな」

 

「10分で頼むぞ」

 

「無理を言わないでよ!」

 

「浜野、カズ。水道管工事について調べてくれ」

 

「了解」

 

「神谷君も働くんやで!」

 

「解放してくれ…」

 

「…僕の存在スルーですか」

 

自治会室に戻り、パソコンの画面と睨めあってから数十分後、データが纏め上がる。

 

「はい、神条。出来たよ」

 

「ウチらも出来たで〜」

 

「助かる。では、校長室に赴こう」

 

移動中、神条は先程完成させた資料に凄まじい速度で目を通していく。 それでいて人にぶつかるようなことや、邪魔になることも無い。 広い視野を持っているなぁと思う。

 

「失礼します」

 

ノックを3回ほどすると入室許可の声が降りる。

 

部屋に入るとそこには元田校長、大河内先生の姿があった。

 

「連絡は受けています…赤水ですか。我が校舎も建築から20年が経って居ますから老朽化が原因でしょうね」

 

「水道管の中が錆び付いてるということですな。このまま放置すれば水漏れの原因にもなりかねないし、気が付かず飲んでしまったりする生徒も出そうで心配だ」

 

額に汗を浮かべる元田校長と、冷静に分析する大河内先生。 ふむ、と2人が顎に手を添えてから少し時間が経過したところで神条が口を開く。

 

「ところで、差し出がましいのですが自治会で校内の水質調査を行いました。それと、この地域の水道管補修業者の資料も纏めておきました。近年、老朽化した水道管の補修は、水道管そのものを交換するよりも、内部に樹脂を塗るライニング工法が費用と工期の点で優れているようです」

 

「なるほど。詳しくありがとうございます。早速業者にお願いすることにします」

 

「はい。では私達はこれにて」

 

後日、神条が自治会員を部屋に招集した。

 

「校長先生より、お褒めの言葉と5000ペラを頂いたぞ」

 

この言葉に、おお〜等の歓声や拍手が起きる。

 

「この件に関わった自治会員には100ペラずつ、それ以外の自治会員と自治会員以外の協力者には50ペラを分配する…残りは機密費に編入する」

 

「ちょっと待った。機密費って何のことだ?」

 

神条の後半の発言に対し、宗太が疑問をぶつける。

 

「ふむ。少し考えれば分かることだが--浜野、説明を頼む」

 

「…簡単に言えば使い方を公表出来ない裏金みたいなものよ。殆どの場合が密告者に使われているわ」

 

「密告!?」

 

「私たちが普段どの様にして規則違反を見つけていると思っていたの?そこにいる天道(バカ)みたいに見つけてその場で注意出来るなんてことは、ほぼほぼ無いわ」

 

何か、凄くバカ呼ばわりされたような気がする…。

 

「パトロールはあくまで生徒を威圧する為にしているの。それが本来の目的。事件を未然に防ぐ為にってね」

 

「…そうだったのか。大江はこの事知っていたのか?」

 

「ううん、ウチも知らんかったよ。やから今へぇって感心した」

 

「感心することなのか怪しいような…」

 

自治会員ではない宗太からしたら密告は--裏切り行為に映るのかもしれない。 誰だって告げられることは嫌な筈だ。

 

でも、注意するのは規則を明らかに違反しているものだけにしている。 結局のところ、自分がしっかりしていれば注意されることも無くなるのだ。

 

話も一段落したようだし、宗太と自主練に向かうことにしようと思う。

 

ようやっとバットが持てる、グローブに手を通せる、ボールに触れられると妙な安堵感がそこにはあった。

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