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ここ1週間元気の無い者がいる--天道湊叶だ。 話によると部活動にも顔を出していないらしい。 自治会室に着ても意識は上の空といった様子でまるで集中出来ていない。
こんな奴だが普段は自治会の為に尽力を注いでくれている。 ここは一つ私が動こうと思う。
「天道少しいいか?」
パソコンの前に座り水分補給を行っていた天道に声をかける。 頬は若干痩けており、元気が無いように見える。
原因は恐らく
「…どうしたの?」
「いやなに。最近の君は元気が無いように見えてだな。ここは一つ気分転換に外出でもして見ないか?」
私の言葉に天道は豆鉄砲を受けた鳩の様な顔をする。 それにしても君はその表情好きだな、そんなに私との会話は驚くことが多いのか?
「…そんな風に見えていたんだ」
「あぁ、その様にしか見えんよ」
その言葉に、そっかと言葉を落とす。
「ありがとう。その誘い受けさせてもらうよ」
「では早速向かおう。カズ!私と天道は少し用が出来た為席を外させてもらう。後は頼んだぞ」
「はいはい、気をつけてな〜」
カズの返答を聞き、私達は校舎の外に出る為歩を始める。
手続きの間も、バスに乗っている間も、天道は一言も発さなかった。 私が問いかけても、あぁ、うん、等と空返事を繰り返す。 これは相当参っているみたいだな。
「ようやっと街に着いたか。お昼には少し早いが、どうだ?」
「そうだね…早めに済ませちゃおっか」
私の言葉に弱々しく返事を返す。
全く、これではどちらが男性なのかわかったもんじゃない。
バス停から少し歩いた所に私好みの喫茶店を見つけたのでそこに入ることにした。
店の感じはモノトーン系で統一されており、音楽と合わさって居心地の良い雰囲気を醸し出していた。
店員に2名と言うことを伝え、奥の席へと案内してもらう。
移動の際天道は辺りを見渡して少し笑を浮かべた。 もしかするとこの様な雰囲気が好きなのかもしれないなと、1人で密かに笑を零した。
「天道、何にする?」
「君と同じもので」
「はぁ…少しは自分の意思を見せたらどうだ?」
「これも僕の意思だよ」
あぁ言えばこう言う。 減らず口だが、会話が出来る分まだマシだなとは思う。
数分後注文したサンドイッチとアイスコーヒーが到着する。
2人揃ってアイスコーヒーに口に入れた瞬間--天道がとても渋い顔をした。
「…コーヒー無理ってこと忘れてた」
目の前にいる男はどうやら頭のネジが外れきっているらしい。 骨が折れそうだと思うと自然と溜息が落ちてしまう。 しかしそんな事は言っていられない。 天道はこれからも自治会に必要だし、野球部にも復帰してもらわなければ困る。 私の腕の見せ所だな。
軽い昼食を取り終え一息ついた所で本題に入ろうと行動を起こす。 こういう時にまどろっこしい変化球等は必要無い。 真っ直ぐで行こうと思う。
「君は、最近悩みに囚われている時が増えたな」
私の言葉に天道はえ?と言葉を落とす。
「惚けても無駄だ。それ位猿でも分かる--友沢の事だろう?」
「ははは…そっかぁ。参ったな」
私の言葉に天道は相変わらず弱々しく返事を返す。
「私は、冷酷に聞こえるかもしれないがあくまでも部外者だ。それでも今回の件は、お前が気にする事は無いのでは無いかと思う」
勿論、友沢の身に起きたことは残念だが…と付け足す。 天道が重い口を開いた。
「亮の調子が悪いことは気付いていた。変化球の曲がりが甘くなっていたし、肘を気にする仕草も取っていた。でもそれはその日の調子が悪かっただけだって心の何処かで決めつけていたんだと思う」
新たに注文した烏龍茶を口に含み、天道は続ける。
「思えば亮は中学の頃からスライダーを酷使してきていた。僕が投手を辞めてからは亮にかかる負担も増えていた筈だった。高校に入ってからもそれは変わらない。何人投手が居ようとも、その球種を使うことは間違いなくあるのだから」
表情に更に影が差す。
「あの時だって。間違いなく試合中の接触で痛めていたんだ。その後のケアを僕は無理にでも進めるべきだった。だから…蓄積されたものがあの事件で爆発したんだ」
天道のいうあの事件とは、記憶に新しい倒壊事件の事だと安易に察しがつく。
「
天道と友沢は以前から仲が良かったという話を聞いている。 だからその分、あの時自分が無理にでも行動を起こしていたら…という自責の念に囚われているんだ。 それに友沢はどうやら天道が壁にぶつかった時に力になってくれた存在らしい。 それだけに--今回の事が余計に辛くなる。
「酷い話だよね。自分だけノコノコ助けてもらってさ…何も返せていないや」
自嘲気味に笑う天道はもう直ぐにでも壊れそうに私の目には映った。 みすみす壊させるものか、そうはさせられない。
「天道、お前は深く考えすぎだ」
「…え?」
「大方、友沢の敵を取ろうと模索しているな。違うか?」
その言葉に天道は顔を顰める。 ここ数日間の天道の動きは探偵の行うそれに近かった。
「…それもバレてたか。適わないな君には」
「それに関しては一つだけ言っておく。証拠が無いのに動くのは得策では無い。下手に動くと君もやられる可能性がある」
「そんな事言ってられないよ!」
「馬鹿が、頭を少し冷やせ。感情に突っ走るのは本来のお前では無いだろう。確かに、友沢の事件はどう考えても他人の罠にしか思えない。しかし、今君が問題を起こせばそれは間違いなく野球部にも火の粉として振り返る。同じことを繰り返せばいいと言うものでは無い。因果応報という言葉があるな。悪いことをしたものにはそれ相応の罰が必ず下るというものだ--私の言いたいことがわかるな?」
「うん…分かるよ」
天道の拳にギュッと力が入ったのが分かった。 悔しいだろうが、今回の件はそれが最善だろう。
「頭は冷えたみたいだな。犯人には必ず天罰が下る時がくる。だから、もうその事は頭から切り離せ。前を見るんだ。」
「っ…そうだね。今は亮の状態が一番だ。前に僕がしてもらった事を今度は返す番だ。」
目に薄らと涙を浮かべながら天道は言い切った。らしくない復讐心に囚われたせいで前が見えなくなっていた。 暗闇の中で独りあいつは戦っていたんだ。 答えが見えた今、あいつの進むべき道は射された。
「ありがとう神条。君のお陰で楽になったよ」
「いや、私はただ言葉を落としただけだ。しかし、どうやら吹っ切れた様だな」
「うん。何だかスッキリしたよ」
「そうか。それにしても珍しいものが見られたな。天道の泣き顔か。高科辺りに広めてもらうとするかな。面白いことになるのが目に浮かぶ」
「え、ちょ!泣いてないから!」
「ははは、そんな顔で言われても説得力がまるで無いぞ?」
「僕は生まれつきこういう顔なんだよ!そうだ、コーヒーを飲んだせいだ!」
「煽った私も私だが、君はまるで子供だな…」
「あぁ、もううるさいな!」
「ははは、君は実にいじりがいがあるな」
会計の時に天道が間違えてペラを出した時はそれはもう久しぶりに声を出して笑った。
「くっくっく、高科待った無しだな」
「だから辞めてってば!あぁもう…」
ようやく元に戻れた様だ。 一件落着だ。
*
「さて、時間は有るし次はどこに行こうか?」
「んー、無難に百貨店とかはどうかな」
「それで決まりだな」
ぶらぶらと歩を進めながら百貨店を目指す。
折角街に出たのだから土産を買いたいとの事だ。 私もその意見には賛成なので同室の子にでもあげようと思う。
「困ったわねえ。これじゃ怖くて使えない」
もうすぐ目的の百貨店という所である光景が目に入った。 それは、百貨店の休憩スペースを不良たちが占領しているものだった。 人数は、3人と言ったところか。
「わはははははっ」
「いやぁ、ここは自販機も椅子もあって快適っすねぇ!」
どう考えても迷惑極まりない行為だ。 周りのお客さんたちの視線が気にならないのかあいつらは。
「何だあいつら」
これには普段温厚でキレることを知らなさそうな天道もご立腹のようだ。 しかしアイツには試合が控えている。 ここで問題を起こさせる訳にはいかないな。
「天道、腕時計をつけているか?」
「うん。だけど、どうして?」
「では正確に5分後、警備員を連れてきてくれ」
「え?」
「それと君は絶対に手を出すな」
そう言い切ると私は不良たちの元に進んだ。
チラリと後ろを見ると天道は警備員を呼びに行ったようである。 よし、それでいい。
「他の人の迷惑だぞお前たち」
私の言葉に反応した手前の不良が声を荒らげる。
「あぁん?何だァお前は」
「ここは大勢の人々が利用する場所だ。お前たちに利用するなとは言わないが、スペースというものを考えてもらいたい。あそこにあるベンチ一つで充分座れるだろう」
「うっるせぇなぁ。興ざめなんだよ!」
「おっとお前、よく見りゃあ可愛いじゃねぇか!」
「あんまりつまんねぇこと言ってると、とんでもない目にあっても知らねぇぜ」
その言葉に私は敢えて食ってかかる。 時間を稼ぐ為だ。
「ほう。例えば?」
「例えばだなぁ…」
不良が述べようとした瞬間、視界の端に警備員を連れた天道が入った。 よし、この辺が頃合だな。
「きゃああああ!助けてっ!」
「君たち!何をしているんだ!?」
思った通り。 警備員が動いてくれた。 これで件は落着---とはいかなかった。
「おい、やべぇ…」
「…ちっ、おい、お前こっち来い!」
ヤケクソになったリーゼント頭の不良が私の腕を掴み引っ張られる。 不味い、これは予想していなかった。
「おい、それ以上近寄るな!この女がどうなっても知らねぇぜ?」
くそ、3対1とは分が悪い。 策士策に溺れるに溺れるとはこの事か。
「そうだ、そのまま動くなよ!…よし、このままとんずらだ!」
「きゃっ!」
腕を無理やり引っ張られ、そのままバイクに乗せられそうになる。
このまま連れていかれるのか--そう思った時、事態は変化を迎えた。
「男が3人揃いも揃って無抵抗の女性に手を出すのはおかしいんじゃないかなぁ!?」
「テメェ…!何様のつもりだっ…ってぇ」
不良の内の1人が言葉を言い切る前に天道は思いっきり手に持った缶を投げつけた。 どうやらスチール缶らしい、あれは痛い…。
「さっさと彼女を離すんだ。もう一発喰らいたくは無いだろう?」
「っ畜生。今回は見逃しといてやる!次会ったら覚えとけよ!ほら、とっとと行きやがれ!」
リーダー格の男にバイクから振り落とされ、私はあわや地面に倒れ込みそうになる。
「全く、無茶しいだな。度胸があると言うのか、怖いもの知らずというのか」
が、すんでのところで天道に支えられる。
「うん、目立った外傷は無いね。ほんとに嫌な汗をかいたよ」
目の前の男はあっけらかんにそう言い切った。
「ごめんね、遅れちゃって。警察に突き出すために、カバンの回収とかをしていたもんでさ。と、とにかく、無事で良かったよ」
「済まなかった…礼を言う」
「反省は後。とりあえず今はこの場から動こう。視線が小っ恥ずかしくてさ…」
「ふふっ、何とも天道らしい理由だな」
不良から少女を救ったヒーローとして天道は辺りから惜しみない賞賛の声を浴びていた。 それに照れて逃げたくなるとは、神経が太いのかどうか解らないな。
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あれから移動し、今はバス停でバスを待っているところだ。
「はい、どうぞ」
天道はそう言うと茶飲料を手渡してくれた。 それに礼を言って直ぐに口を切り、乾いた喉を潤すために流し込む。
「うぇ…にがぁ」
スチール缶を手に入れる為とは言え、購入したコーヒーを無駄にできないと飲もうとする天道だが、一向に中身が減る兆候は見られない。
「天道、改めて礼を言わせてくれ。君が助けてくれなかったら私は今頃どうなっていたか解らない」
「いいよお礼なんて。僕もほら、君に話を聞いてもらったし。ほんとに君が無事で良かったよ」
「ふふ、なら対等と言う訳だ」
「そうなるのかな?」
「あぁ。ゴミを排除するのは市民の義務だ。私に力があれば猿芝居も要らなかったのだが…本当に天道が居なかったらどうなる事かと今になって震えが来たよ」
「ほんと、見ていて冷や冷やしたよ。でも神条が、紫杏が行動を起こしたお陰で僕も動くことが出来た。だから、結局は君の行動が正しかったからだよ」
ちょっと危険だったけどね、と天道は付け加える。
「そうだな…天道」
一泊おいて言葉を紡ぐ。
「--今後は私のことは紫杏と呼んでくれ。友人にはそう呼んで貰いたいんだ…嫌なら別にいいが」
「誰も嫌なんて言ってないだろう…実は神条って呼び方堅苦しい気がして苦手だったんだ。ほら、僕基本名字で呼ばないじゃん?」
「ふむ、そう言えばそうだ。女子と話している時はさんを付けているし男子と話す時は名前で呼んでいるな」
「うん。名字で呼ぶと何か距離があるみたいじゃん?だから、僕自身も名字で呼ばれるのは苦手なんだ。だから、紫杏さえ良ければ名前で呼んでもらいたいな」
「あぁ…分かったよ湊叶。それはそうと、湊叶--君はさっき私の事を呼び捨てにしていたな?」
「あ、いや、あれは君を落ち着かせようとして!」
「ははは、冗談だ。何も気には止めていないさ」
「あ、あぁ、ならいいんだけど」
「やはり、君は面白いな」
「それって褒められてるの?」
「さぁ、どっちだろう」
「え、教えてくれてもいいじゃん!」
「さ、バスが着たぞ。早く乗らないと置いていかれるぞ?」
「乗るよ!」
色々あった1日だが、収穫はあったな。
また明日からも頑張ろう--自然とそう思えた。
…しまった。 土産を買い忘れている。
パワポケ10の2年の夏に起こる事件ですが、本来主人公が怪我する所を友沢にしてもらいました。理由は友沢はパワプロ本編でスライダーの投げ過ぎにより、肘を壊してしまうというイベントがあったからです。 もっとスムーズに事を進めたかったのですが、力量不足で誰が犯人だか分かりにくくなってしまいました。手口が判明してないにしろ、十中八九あの人なんですけどね…。
紫杏の名前イベントを、今回この様な形で使わせて頂いたのは主人公湊叶との立ち位置を縮める為です。湊叶にも悩みなどがあることを紫杏に認知してもらい、いざという時は動くということを分かってもらうことが、原作と違う味を出せるかなと思い今回のような形になりました。
今話でちらっと出てきていますが、次話は友沢の怪我にポイントを当て進めたいと思います。
閲覧ありがとうございました。 感想等宜しければお願いします。