ダイヤモンドを駆け抜けて   作:かりんと。

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GWが終わってしまった為、投稿がこれからまた不定期になると思われます。ゆっくりですが、更新していけたらいいなと思います。


第15話 決意

*

「全治3週間です。大会は諦めなくてはいけませんね。それと、右肘の事なんですが、関節部分の炎症なのでしあわせ草による治療を持ってしても治りませんでした。投手復帰は絶望かと…」

 

「そうなん…ですか」

 

目が覚めるといきなり、衝撃の事実を伝えられた。 どうやら俺は--もう投手が出来ないらしい。

 

「友沢。今回のことは残念だが、怪我が完治するまでお前にはベンチから外れてもらうことになった」

 

ベンチから外れる? 何を言っているんだ。そんなバカな話があってたまるか。

 

「待ってください監督!何故外れなくちゃダメなんですか!3週間が長いって言うなら俺は2週間、いえ、それより早く治して見せます!」

 

「…ダメだ。お前はまだ先がある。ここで無理をさせる程俺の目は節穴じゃない」

 

「っ…でも!」

 

「そんなに--チームの皆が信じられないのか?」

 

「そ、それは…」

 

皆のことは信じている。 信じているけど、それとこれとは話は別だ。 やっぱり野球をする以上、プレーをしたいというのは当然の欲だ。

 

「友沢。お前の実力は俺が認めているんだ。だから、安心しろ。甲子園に出場する時、俺は再びお前をメンバーに選出する。今はしっかりと治せ」

 

「…はい」

 

「幸いにも肘の炎症は変化球が投げにくくなったというものです。初めのうちは普通に投げるのも苦労するでしょうが直ぐに慣れるでしょう。貴方のポテンシャルならそれくらいは想像がつきます」

 

「--野手転向だ。元よりお前はセンスがずば抜けて有るからな。繰り返すが焦らずじっくり治すんだ」

 

「監督がそう言うなら、俺は従います」

 

「ええ、それが賢明ですね。全身打撲が酷いので今は絶対安静です。暇になるでしょうが1週間はじっとしていて下さい。面会の許可を出したいのですが、如何せん貴方は行動力もあり知力も高い。大人しくここにいることですね」

 

「俺が特別に差し入れをしてやろう。明日、乾と荷田を偵察に行かせるつもりだ。その時に何か買いに寄らせよう。明日の朝取りに来るからメモに書いておいてくれ」

 

「わかりました。助かります」

 

そう言い残し監督は退出して行った。

 

「では私もこれで。あぁそうだ。トイレはそこを左です。余り無理のしないように。今夜は痛みますよ」

 

「気をつけます。ありがとうございました」

 

独り残され思うことは一つ。

 

暇だ。 さっきまで気絶していたせいで目が冴えまくっているし、身体中が痛い。

 

今年造設されたこの保健室はかなり設備が整っており、街に出て行かなくても治療が捗るようになった。 でも今はそれが監獄のように思える。 TVも無い、ラジオも無い、音楽も無い、何より野球が出来ない。 その事実が俺を更に苦しめていた。

 

「はぁ…」

 

自然と溜息が出てしまう。

 

幾ら寝ようと首を動かしてみても全く睡魔は訪れない。 こんな時ホーミング娘。のCDがあればな、と思うが叶わぬ思いは儚く散った。

 

「荷田は確かアイドルに詳しかった筈だ。…頼んでみるか」

 

ボタンを押し、ベッドを少し起こして感覚の鈍い右腕を動かしメモを取る。

 

今思えばあの監督も中々の鬼畜具合である。 利き腕を怪我しているやつに普通にメモを書かせるか?という話だ。 まぁ要望を聞いてもらえるだけマシだとは思うが。

 

メモを書き終えた所でゆっくりと息を吐く。

 

時間が余りにも進まないので今日のことを振り返ることにする。

 

まず、全体を通して変化球のキレが悪かった。 自分でも最近肘の調子が悪いのは分かっていたし、それなりにケアもしてきた。 それでもやはり、限界は来るのだなと身を以て学ぶことになった。

 

「アイツ…投げれるようになったのか。いや、アイツの事だ。まだ無理だろうな」

 

独りそんな言葉を落としてみる。 アイツ---橘みずきとは思えば腐れ縁だ。 リトルリーグ時代に顔を合わせ、そこから向こうが突っかかってくるようになった。

 

この間の試合の時に、あんまりしつこいのでスライダーのコツを教えてやったがその自分がこのザマとはな。

 

そう言えば--スライダーと言えばアイツ(・・・)も居たな。 まだ俺のことを憎んでいるんだろう、もう後の祭りだが。

 

試しにと、腕を振るうが激痛が走る。 何やってんだアホと、嘆くが時既に遅し。

 

--湊叶のやつ、心配しているだろうな。

 

あいつはしっかりしている様に見えて意外と脆い。 何も起きてないと良いが。

 

色々考えているうちに自然と眠りについていた。

 

*

目が覚めると時計の時刻は5時30分を指していた。 身についた習慣は恐ろしいなと軽く笑を零す。 段々と日が昇って行く様子を見るのは一体いつぶりだろうか。 生き急いでいた訳では無いが、時にはゆっくり止まる時も必要らしい。

 

何も出来ない身に早起きは辛かった。 ただただ暇だった。 苦痛の2時間が過ぎた所でようやく桧垣先生が現れた。

 

「おや、おはようございます。よく眠れ…無かったんですか?」

 

「身体を動かしきれてないようで」

「普段運動している人が良くなるものですね。貴方は私が思っているより早く回復しそうなので軽い睡眠薬を今日の夜渡しますね。翌日からは軽くなら運動してもいいですよ」

 

「このペースなら試合に間に合いますか?」

 

「それはダメです。出来ません」

 

何だ、治るのが早いと期待させるだけさせて落とすのか。

 

「とりあえず1週間はここに居てもらいます。それが終わったら寮に戻ってもらっても結構です。今は身体を休めましょう」

 

それから少しして軽い朝食を食堂のおばさんが届けてくれた。

 

「昨日見かけないと思ったらまさかこんなことになってるとはねぇ。直ぐに元気になれるよう私が腕によりをかけて作ってやるから待ってな!」

 

「感謝します」

 

「アンタの事だからこれだけじゃ足りないだろうと思ってこれも持ってきたんだ。お腹が空いたら食べるといいよ」

 

そう言って購買に売っている数量限定のパンも手渡してくれる。 その事にもお礼を伝えると、おばさんは笑顔で去っていった。

 

「失礼します」

 

おばさんとほぼ入れ違いで部屋に来たのは湊叶だった。

 

「おや、天道君。早いですね」

 

「監督に亮が目を覚ましたって聞いたんで」

 

「時間は大丈夫なのか?」

 

「ん、大丈夫。半までに教室に付けばいいからさ」

 

偶には朝練休んでも罰は当たらないでしょ、とわざとらしく肩を竦める。

 

「で--結果はどうだったの?」

 

さっきまでとは一転、急に真剣な表情を作る。

 

「あぁ、そうだな。端的に言うと俺はもう投手が出来ない」

 

「…え、嘘だろ?」

 

「それがどうにもほんとらしい。全身打撲もしていてな、全治3週間との事だ。医療経験豊富な桧垣先生が言うんだ--ほぼ間違いは無い」

 

「な、何で…先生!亮は…もう投手が出来ないんですか!?」

 

湊叶の言葉に桧垣先生は苦虫を噛み潰したかのような顔になり、ゆっくりと首を縦に振る。

 

ここまで取り乱している湊叶を見るのはいつ以来になるだろうか。

 

「湊叶、少し落ち着け」

 

「…落ち着ける筈が無いじゃん。亮は何も思わないの?」

 

「それは俺だって感情が無いわけじゃないから悔しいさ。でも、もう野球が出来ないって訳じゃあないんだ」

 

「…っ、僕には亮の強さがよく分からない…早く治して。…また来るよ」

 

足早に湊叶が去って行くと桧垣先生が言葉を落とす。

 

「珍しいですね、彼が荒れるなんて」

 

「あいつは、自分より他人を心配できる優しい人間ですから。俺が思った以上に平気な顔してるからそれが理解出来なかったんじゃないかなって思います」

 

「なるほど。確かに貴方は自分の現状に左程驚いていないように見えます」

 

「驚くというか、充分凹みましたし、確かにもう投手が出来ないのは悲しいです。でも--まだ野球が出来る。それが分かってるなら前に進むだけですから」

 

「実に合理的な考えですね。--腕の回復には力を入れます。頑張りましょう」

 

「はい、お願いします」

 

*

「今日で約束の1週間が経過しました。それにしても君には驚かされてばかりです」

 

「牛乳とイワシが効きましたね」

 

「…それで骨が治るなら医者は苦労しませんよ」

 

桧垣先生はやや呆れ顔で言葉を返した。 実際問題、あながち間違っては無いと思うんだがな。

 

「さて、もう寮に戻ってもらって構いませんが--変な事は考えて無いでしょうね?」

 

「変な事と言いますと?」

 

「…質問に質問で返すのはマナー違反ですよ。まぁいいです。くれぐれも無理をしないように。もし無理をして悪化するようなら私はもう治療をしませんからね」

 

「そんな職務放棄しないでくださいよ」

 

「冗談です。私の実験に付き合ってもらいましょうかね。えぇ、人体実験です」

 

キラーンと、桧垣先生の眼鏡が輝いた気がする。 この人なら本当にやりかねないから恐ろしい。

 

「本当にありがとうございました」

 

深々と礼をしてゆっくりと部屋から歩みを進める。

 

 

 

「…はぐらかされてしまいましたか。頭もかなり回る様ですが、彼が北乃君に報復する様子は無さそうですね」

 

 

 

保健室から移動の際に身体の状態を確認したところ少し筋力は落ちているようだった。 腕は落ちやすいという話を聞いたことがあるが、どうやらその様だ。

 

「購買で何か買っていくか」

 

手持ちのペラを使い、購買でカロリーバーを購入する。 こうやって既にカロリーを補給していく所が一流への道と俺は思っている。 まぁ取りすぎてもダメなのだが。

 

流石に暫くは大人しくしていようと考えながら歩いていると寮に着く。 今日は練習日だ。 従って現在寮には俺独り。

 

そう思っていたんだが

 

「おかえり亮」

 

「湊叶--お前、練習は」

 

「君が帰ってくるって言うのに独りにさせちゃ可哀想だと思ってさ」

 

湊叶は椅子を反転させ、両手を上げてやれやれと大袈裟な仕草をとる。

「グローブを磨いていたのか。久しぶりに見たな」

 

「監督が『あいつは一旦野球から切り離して心身共にリラックスさせる』って言うからさ。そりゃあ見るのも久しぶりになるよ」

 

「なるほど。今合点がいった」

 

メモに、野球道具を書いたが回ってこなかったのはそういう意味があってだったのか。 確かにグローブ等があれば、俺の頭の中は野球一色になっていたに違いない。 まぁ普段もその様なものなのだが。

 

「…湊叶」

 

「ん?どうしたの?」

 

しまった、と言葉を落とした後で後悔した。 ここで下手な事を言えばこの間の様にまた荒れるかもしれないと言うのに。

 

湊叶が練習に参加していないという話は聞いていた。 だから今日残っているのもそれが原因だと考えていたというのに。

 

思わず唇を噛み締める。 時間が戻ることがあるなら戻れと切実に願うだろう。

 

「言っておくけど、謝ったりしたら怒るからね」

 

「…は?」

 

「は?じゃないよ。確かにこの間は突然のこと過ぎて取り乱しちゃったけどさ--もう腹は括ったよ」

 

予想していた事とは大きく異なることが今目の前で起きていた。

 

そう、俺はまだ湊叶の心が荒れていると思っていた。 俺の目の前にいるこいつは本当に優しい心の持ち主だ。 だから心は強く、そして脆い。 特に今回の事件は、突然過ぎて余りに現実味(・・・)を帯びていない。 当事者の俺が言うのもおかしな話だが…。

 

「亮は前に進むって決めたんでしょ?だったら僕も前に進まなきゃ。そりゃあ今でもあの事件の事は腸が煮えくり返るくらいムカつくけど、時間は戻らないからね」

 

「あぁ…そうだな」

 

そう言葉を落として俺は右肘に触れる。 正直不安はある。 言葉で強がってみても、心の底ではもう投げられないんじゃないか、という考えはあった。

 

「--君は才能の塊みたいなものだからね。絶対に投げられるようになるよ」

 

湊叶はその考えを読み取ったかのように語りかけてくる。

参ったな、落ち込んでいるのを励ますくらいの気持ちでいたんだが、どうやら逆になりそうだ。

 

「頑張ろう亮」

「あぁ、そうだな」

 

お互い笑いあった後でふと自分の机の上の変化に気付く。

 

「なぁ、このグローブは何だ?」

 

俺の言葉に湊叶はにやっと口角を上げる。 若干悪い笑にも見えるが。何かこう、小馬鹿にしに来てるような感じだ。

 

「やっと気付いた?亮は野手としても試合に出てたけどそれは一塁手(ファースト)だったでしょ?だから内野用は持ってなかったなぁって思ってさ。だから、それ、新しいのを用意したんだ」

 

「確かに持ってはいなかったが、グローブってそんなに変わらないだろう?それに、こんな高価な物使えん」

 

「はい?馬鹿なの!?君は今まで何をして生きてきたの!グローブがそんなに変わらない?何言ってるのさ、大有だよ!めっちゃ変わるからね!」

 

カチッと何かスイッチ音の様なものが聞こえた気がしたが気のせいだろう、そう思いたい、そうであってくれ。

 

「いい?内野用のグローブは基本的にポケットが浅く出来てる。それは捕球の後素早くボールを掴む為の工夫だ。一塁手だって使っているミットは変わった形状をしているだろ?あれはグラウンダー性の送球を捕球しやすい様にとか考えられているんだ。わかりやすいのキャッチャーミット---」

 

…地雷を踏んだ。 そうだ、こいつは博識だった。 …今回は俺が無頓着だったのを認めざるのを得ないが。

 

「まぁとにかく!無頓着な君にグローブの有難味を知ってもらうという良い機会が出来た、ということで!」

 

一通り説明を終えた後、はい、と湊叶はグローブを手渡してくる。

 

手に取ってまじまじと見つめてから言葉を落とす。

 

「…軽くないか?」

 

「特別仕様その1。素材は極力軽量化を測っています!なのに皮は強靭ときた。もう最高のグローブだよね!」

 

満面の笑みを浮かべてトリップに入った湊叶(バカ)は置いておいて、ゆっくりと左手にはめる。 大きさもピッタリだ。

 

全体は黄色で統一されており、ネットの部分は編み込みになっており、黒とオレンジと色が映えている。 左手を抜いて気付いたが、そこには黒地の上に赤字で「氣持ち」と刺繍がしてある。 先ほど述べた通り、サイズはピッタリでオマケに軽い。 型もある程度仕上がっており直ぐにでも試合で使えそうなくらいであった。

 

「それにても、これは一体どうして?」

 

「ちょっとしたツテ(・・)があってね。負けるなってさ」

 

「…こんないいもの、本当に使っていいのか?」

「うん。『エラーしたら承知しないんだから』って伝言も頼まれてたから伝えとくね」

「はは…益々頑張る理由が出来たな」

 

「大変だねぇ」

 

「こいつ、人事だと思ってるな。おい、俺はお前が萎えていたことは知っているんだぞ。誰に慰めて貰った?神条か?神条だろう、そうだよな!?」

 

「げ…何で紫杏との事を知っているの!まさか…高科さんに情報が回ったのか!?」

 

「ふっ、引っかかったなバカめ」

 

「しまった…カマをかけられた…!」

 

「おまけに神条に対しての呼び方が神条から『紫杏』に変わっているときた。何かあったことは間違いないようだな」

 

「くっ…一思いに殺せ!」

 

「アホかお前は…」

 

目の前のテンパっているアホを見ていると思わずため息が出る。 すっかり毒気を抜かれてしまった。

 

「湊叶」

 

「あぁ、もう最悪だぁ…」

 

「おい、湊叶」

 

「え、あ、何…」

 

「済まない。お前には感謝ばかりだ」

 

「何をいきなり言い始めるのかと思えば気持ち悪い。そんなこと気にすることないのに」

 

やや照れているのか、髪先を弄りながら答える。 お前がそう言っても、これは俺の本心なんだ。 心の底からそう思っている、有難うと。

 

「えっと、どうしたの?」

 

「いや何、さっき高科に情報が回ったとかどうとか言っていたのを思い出してな」

 

「まさか…」

 

「あぁ、そのまさかだ。神条に詳しく話を聞いて伝えることにしよう」

 

「それだけはダメだって!!!」

 

夏はもうすぐ始まる。 でもこのチームなら大丈夫だろうと思う。 俺は、今俺が出来ることをやろうと思う。 時間はかかるかもしれないがゆっくりと進めたらいいと思うんだ。




・とある遠前町とかいう場所でのお話

「はぁ…初めてグローブ何てデザインしたわ。服とかとはやっぱり勝手が違うわね」

「やっぱり難しい物なのか?」

「難しい何てレベルじゃないわ。私は全く野球を知らないのよ?朴木さん達がしているのをたまに見るくらいの素人にいきなりグローブを作ってくださいだなんて、湊叶君も随分言うようになったわね」ゴゴゴゴゴ

「おい准…何かオーラみたいなものが出ているぞ…」

「あの子が物を頼むなんて本当に稀」

「確かに維織さんの言う通りねぇ。今回のは涙が出るくらい微笑ましい話だから許してあげることにしますか。優しい子に育ってくれてお姉さん感激」

「お婆さんの間違いじゃないのか?」ニヤ

「維織さ〜ん、ハムサンド50人前欲しいそうなんですが宜しいですか?」ニコニコ

「うん…良いよ」

「ちょ、維織さん!殺生な!」

「そんなに喜ばないでご主人様♡」

「喜んでない!マスター!助けて!!!」

「ハムサンド50人前かぁ、こりゃあ頑張らないと」

「何で周りに味方が居ないの!」



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