ダイヤモンドを駆け抜けて   作:かりんと。

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第2話 新入生入部

朝6時に目を覚まし、少し伸びをしてから二段ベットの上から降りる。寝ている先輩を起こさないように慎重に、慎重に。ベットの下段を覗き込むと、そこに寝ているであろう男の姿は無かった。

 

(あれ、亮のやつ、どこに行ったんだ?)

 

よく見るとバットが無い。 素振りに出かけたのかと呟いてから洗面台に向かい、顔を洗う。 キュッと蛇口を捻り水を出す。まだ4月に成ったばかりの冷たい水が流れだす。

 

(あまり音を立てないように。なるべく少量に。)

 

出来るだけ水の流れだす量を減らす。 昨日夜遅く、門限を破ってまで自主練していた先輩たちを起こさないように。

 

掌に水が溜まったので、それを顔にかける。

 

ピリッとしたものが顔を突き抜ける。 僕はこの瞬間が好きだ。 何故って聞かれても何となくとしか答えられないけど、強いて言うなら生きてる実感がするからかな。 年寄り臭い何て言わないで欲しい…

 

タオルで顔を拭いていると、ドアが開き人が戻って来る。

 

「お、湊叶起きてたか。今から起こそうと思ってたんだ。」

 

「おはよ、亮。もう素振り終えたのか?」

 

首にかけているタオルで汗を拭う亮。 何時から振っていたんだろ。

 

「いや、折角だから一緒に練習しようと思って。キャッチボールとかさ。湊叶は朝に強いから直ぐに起きるだろと思って。」

 

「なるほど。詰まり寂しかったと。」

 

「だ、誰もそんな事言ってないだろ!ただ1人だと虚しい気がして。」

 

「あはは、冗談だよ。まだ早いからキャッチボールはやめといた方がいいんじゃないか?結構音響くし。」

 

「それもそうか。なら、素振りだな。」

 

「おっけ、準備するね。一応タオル持ってこっと。」

 

カバンからタオルを、バットケースからお気に入りのミゾットスポーツの水色のバットを取り出す。

 

「飲み物は、まぁ、そんなにかからないだろうし朝食までもうすぐだしね。要らないかな。」

 

「じゃあ、行くぞ。」

 

寮を出て、すぐ近くの空き地に向かう。

 

「今日から、授業始まるのか?」

 

素振りをしながら今日の予定を聞いてくる。

 

「いや、多分まだオリエンテーションだと思うよ。化学室とか特殊教室の紹介とかするんじゃないかな?あとは自己紹介とかさ。」

 

「そうか。そういえば実力テストとかも有るのか?」

 

「あー、昨日配られた冊子に書いてあったね。明後日とかかな?」

 

「ふむぅ、テストか。」

 

会話をしながらも手を休めない僕ら。

 

「良いじゃん。テスト楽しいよ。」

 

「そうか?別に楽しいとは思わないが。」

 

「努力の結果が現れるからね。悪ければもっと努力しろってことだし、良ければ頑張ったかいがあったなって思えるだろ?」

 

「それはそうだな。」

 

「てか亮、頭いいだろ。別に心配することないじゃん。」

 

「ふっ、湊叶程じゃ無い。」

 

「あはは、それに今回のテストで“監督生”が選出されるらしいね。」

 

「監督生?何だそれ。」

 

「簡単に言うと成績上位者たちだよ。自治会に務めることになり、2年からは自治会役員にも選出されるみたいだ。」

 

「ふーん、何だか面倒くさそうだな。」

 

「でも、悪い事ばかりじゃない。購買で物を買う時に要る、えっとペラだっけ?それの消費が半分になる。監督生は50%OFF何だって。」

 

「ほお、それなら悪くないかもな。」

 

「でしょ。」

 

「ふぅ、そろそろ上がるか。だいぶ明るくなって来たな。」

 

「そうだね。そろそろ先輩たちも起きるころかな?」

 

談笑しながら、部屋に戻ると案の定先輩は起きていた。 寺河さんはぬいぐるみを抱いてまだ寝てるけど。

 

「おはよう。随分と早くから起きていたみたいだな。」

 

ちらっと寺河先輩を見てから坂内さんが何かをこちらにほって渡した。

 

「制汗剤だ。お前たちにやるよ。まだ寝ている馬鹿よりよっぽどやる気が有るみたいだからな。」

 

「あ、ありがとうございます。」

 

「匂いはシトラスしか無いけど我慢してくれ。」

「いえ、僕シトラス好きなんで嬉しいです。一応持ってきてたんですけど。」

「天道もシトラス好きか。俺と同じだな。安心しろ、切れたら俺のをやる。数は有るからな。」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「坂内さん、その資料って何ですか?」

 

洗面台から戻った亮が坂内さんの机の上にある資料を尋ねる。

 

「これはこの間偵察に行ってきた高校のデータだ。正直俺たちを苦しめるような相手では無かったが、とっておくに越したことはない。」

 

「同感です。データ抽出はやって、損は有りませんからね。」

 

坂内さんはふっ、と笑うと再び資料ちにらめっこを開始した。

 

昨日貰った冊子をパラパラと見てから、グローブの手入れをした。

 

(中学の頃とは打球の速さが違うんだろうな。ゆっくりでいいからちょっとずつ慣れていこう。)

 

そう思いながら、丹念にグローブを磨いた。

 

「湊叶、そろそろ朝飯食いに行かないか?」

 

「あ、もうそんな時間か。通りでお腹が空くわけだ。じゃあ、行こうか。」

 

食堂につき、おばちゃんにメニューを注文する。

 

白米、白味噌の味噌汁、鮭の塩焼きと小松菜の胡麻和えといったメニューを食べる。

因みに亮も同じメニューだ。

 

「湊叶、鮭の骨気をつけろよ。」

 

「分かってるよ。こんな取りやすい骨を喉に引っ掛ける訳無いだろ。」

 

にやっとした目付きで見てくる亮に、呆れたような顔つきで言葉を返す。

 

食事を終え、部屋に戻り登校の準備をする。

 

寺河さんの寝ていたベットにはペンギンのぬいぐるみが転がっていた。

 

これって持ち込みOKなのかな? まぁ、多分良いんだろう。

 

「なぁ、これってボタン全部締めなきゃダメなのか?」

 

「一番上は開けといていいんじゃないかな?流石に窮屈だし。」

「そうだな。そろそろ行くか。」

 

筆記用具をカバンに入れ、僕らは寮を後にした。

 

『1年3組』の担任大河内先生により、オリエンテーションが進んでいき、最後は僕たちの自己紹介に成った。

 

「それでは自己紹介を初めて貰おう。出席番号の若い順から。よし、じゃあ、乾から。」

 

はい!と返事し、坊主頭が起立する。 見るからに、まぁ、いいや、話を聞こう。

 

「I中学出身乾 勝利(いぬい まさと)です。野球部です。1年間よろしくお願いします!」

 

パチパチと拍手が起こる。 おい、お前のそのユニフォームは何なんだ。

 

誰か突っ込めよ。

 

「おお!元気だな!」

 

「はい!元気が俺の取り柄です!」

 

「それはいい事だが、そのユニフォームは何だ?」

 

「はい!これは制服を着るのが面倒で、ユニフォームがかっこいいからです!」

 

その答えに教室がシーンとなる。

 

「まぁ、人それぞれ好みは違うな。よし、座っていいぞ。」

 

「はい!」

 

「じゃあ、次は越後。」

 

「E中学出身越後竜太郎だぜ。クラブは野球部だぜ。よろしくだぜ。」

 

うん、だぜだぜうるさい。 何か俺のバットは火を吹くぜとか言ってきそうな気がするのは僕だけか?

 

「よし、次。」

 

「K中学出身佳月 信弥(かづき しんや)や。好きな食べ物はカルボナーラ、というかパスタは基本的に好きやな!野球部や、よろしゅう。」

 

「同じくK中学出身神谷 宗太(かみや そうた)です。宗教の宗に太郎の太とかいて宗太です。見ての通り野球部です。よろしくお願いします。」

 

2人とも確かリトルチームのお元気ボンバーズというチームの中心選手だった筈だ。 後で話してみよう。

 

「よし、じゃあ、次は天道。」

 

僕の番になった。

 

「T中学出身天道湊叶です。星英高校に双子の兄が居ます。趣味は身体を動かすことです。よろしくお願いします。」

あはは、ちょっと緊張したや。 まぁ、こんな物でいいかな。

 

「T中学出身友沢亮です。野球部です。よろしく。」

 

あれ、素っ気ないな。 と思って後ろを見るとすぅすぅと亮は眠っていた。

 

(なるほど、眠かったのな。)

 

「N中学出身荷田幸浩でやんす!好きなのはガンダーロボでやんす!最近のマイブームはOVAで公開されているダイナミックガンダーロボでやんす!今欲しいものはウダマニュラでやんす!何といってもあの特徴的なフォルムが-」

 

「に、荷田もう良いぞ。さ、次に行こう。」

 

本庄 翔(ほんじょう かける)。H中学出身です。小中と野球をやってました。1年間よろしくお願いします。」

 

荷田君が引っ張ったが、その他は何事もなく、スムーズに進んでいった。

 

「では今日はここまで。みんな明日はテストだからな。じゃあな。」

大河内先生が退出したので、荷物をまとめ、亮を起こす。

 

「えっと、天道だよな?」

 

カバンに筆記用具をしまっていると、乾君たちに声をかけてきた。

 

「さっき自己紹介したけど、俺は乾、乾勝利だ。乾でも、勝利でも呼びやすいほうでいいぜ。」

 

「僕は天道湊叶。よろしく乾君。」

 

「俺は神谷宗太。覚えてるか?リトルのころ試合したと思うんだけど。」

「お元気ボンバーズだよね。覚えてるよ。よろしく。」

 

「わいは佳月信弥。わいも宗太と同じチームやったんやけど、覚えてるか?」

 

「うん。覚えてるよ。4番サードだったよね。」

 

「僕は本庄翔。ポジションはキャッチャーだったんだ。よろしく。」

 

「うん。よろしく。」

(お、俺が空気…)

 

「で、湊叶の後ろに居るのがあの友沢亮か。超中学級プレイヤーと一緒って運が良いのか悪いのか。」

 

(お、やっと話題に。)

 

これは野球選手の本能だろう。強い敵と戦いたいという純粋な気持ち。

 

「亮のプレイをみた後で同じことが言えるかな宗太。」

 

僕は今まで亮を間近で見てきたからわかる。 亮は敵に回しちゃいけないって。

「まぁ、それぐらいじゃなきゃ超中学級とは呼ばれないさ。」

 

「やろな。友沢のプレイを生で見るのは初めてやさかい、わくわくするな。」

 

「ふっ、大したことは無い。」

 

「僕から見たら有るんだけど…」

 

「そろそろ部活行こうぜ。今日から始まるんだしさ。」

 

そういうと乾君は荷田君と一緒に駆けて行った。 随分速いスタートで。

 

「じゃあ、僕らも行こっか。」

 

* 『親切高校 野球部』

 

グラウンドに着くと、既に結構な数の部員が集まっていた。

 

「新入生の諸君、親切高校野球部にようこそ。俺は主将の飯占だ。これから野球部の顧問である車坂教諭から有難いお言葉をいただく。全員気をつけ。」

キャプテンと名乗った飯占さんの指示に従いピシッと気を付けをする。

 

飯占さんが「お願いします。」というと、後ろからやや老け顔の男性が出てきた。

 

「今紹介に与った車坂だ。これからのお前たちの為に幾つか言っておく。この新入生の中に“気楽で楽しい高校生活”を期待している馬鹿はいるか?念のため最初に言っておく。甘ったれるな!今の社会は、のんびり気楽に渡っていけるほど甘くはないぞ。お前たちが卒業して、社会に出た時最初に直面するのはな…世界には勝者と敗者という冷酷な差がある現実だ!だから、俺の野球部は教育としてまず試合に勝つことを教える。勝つための苦しみと勝つことの喜びを、この3年間の部活動でみっちりとお前らの身体に教えこんでやる!」

 

ゾクッとしたものが背筋を走った気がする。

 

いいね、僕が求めていたのは恐らくこれだ。このハングリー精神が求められるこの環境だ。

 

「もちろん、夏休みなんてものは無しだ。これが俺のお前たちへの【親切】だ。オイ…返事はどうしたっ!」

 

「「「はい!ありがとうございます!!!」」」

 

「まるで軍隊みたいな学校だな。強豪野球部ってこういうものなのか?」

 

「いいや、違うでやんす。この学校が特別なんでやんすよ!」

 

あーあ、そんな声で喋っていると、

 

「オイ、そこの2人!」

 

「はっ、はい!」

 

「…私語の罰としてグラウンド10周。今すぐ始めろ!」

 

「ハイッ!」タタタタタッ…

 

言わんこっちゃ無い…。

 

「では2・3年はフリーバッティングだ!打って打って打ちまくれ!新入生はまずは声出し!1時間声を出してからキャッチボールに入り、基礎力を見ていく。身体があったまったら、とまぁ、暫くは球拾いとランニングと練習見学、球磨きがいいとこだろう。先輩たちのプレーを見て、高校のレベルを勉強しろ!以上だ、解散!」

 

「「「はい!」」」

 

「やっぱ最初は球拾いか。」

 

「そういうな宗太。どこの高校でも最初はこうだろう。焦らずにじっくりやっていくぞ。」

 

おお、流石亮。大人な発言だ。

 

「くそぉ!何で10周も!」

 

「ひぃぃ、疲れるでやんす!」

 

あの2人は気の毒だけど自業自得だ。

 

さてと、暇だし球磨きでもするか。

 

 




今話は他のオリ主登場と、野球部入部でした。

キャラ設定ですが、
乾は英語が読めず、因数分解が解けないあの10主。 ポジションは投手で強気な投球スタイルを信条としている。

佳月は関西弁で話す典型的な4番打者。ミート力は課題だが、何より天性のバネがある。

神谷は小技が上手く、足と肩の有るセンター。2番タイプ

湊叶は長打は余り打てないが、バットコントロールに優れる守備の名手。

友沢は130km/h後半のストレートと、変化球、特にスライダーを武器にする投手。バッティングセンスにも優れ、フィールディングもいい。

本庄は坂内と被りますが、頭脳に優れており、尚且走攻守揃った世代を代表する捕手。

彼女候補とどのような組み方になるかは、話が進んでいくとおわかりになるかと。

第2話 閲覧ありがとうございました!

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