ダイヤモンドを駆け抜けて   作:かりんと。

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この話から数話程、球八高校の柊和弥にスポットを当てたものになります。


外伝 -球八高校編-
夢の始まり① 創めの一歩


*

 

『父さん!ホームランボールとれるかなぁ?』

『さぁな、水木(アイツ)が打てれば可能性はあるな!』

 

カキーン!!!

 

快音が辺りに響いた。

 

『やった!ホームランだ!よーし、とるぞー!』

 

45度の角度から生まれた美しい放物線は、あっという間にスタンドへと吸い込まれていく。

 

--そして、事は起こった。

 

『うわぁ!と、父さん!』

 

大神モグラーズの主砲水木の放った打球が、こともあろうかに少年の父親の頭部に当たってしまったのである。

 

『と、父さん…?ねぇ!だいじょうぶ?死んじゃイヤだよー!!』

 

プロの野球選手の投手が投げる直球(ストレート)の平均速度は凡そ140km/h前半とされている。 その速度を持つ硬球を、プロの野球選手それもチームの主砲を務めている様な選手が打ち返した打球の速度は計り知れないものとなる。

 

それが頭部に当たったのだ。 当然辺りはざわめき、少年は激しく狼狽する。

 

しかし、そんな少年は狼狽えるのを止めてしまう奇妙な出来事が発生した。

 

『おひょ?!ここはどこじゃ?』

『エエー!ボールがしゃべったァ!』

 

・・・

 

そんな事があって以来、父さんは硬球の中に閉じ込められたままだ。 身体の方は意識不明の重体となっており、3年が経った現在も病院に入院している。 医者(せんせい)の見解では肉体的には健康そのものなのでいつ意識が戻っても不思議ではないらしい。 兎に角、現代の医療では現状維持で手一杯のことらしい。

 

今はまだ意識が戻ることは無い。

その事だけが小学4年生の俺でもわかることだった。

 

というのも事件が起きた夜、夢の中に胡散臭い神様とやらが現れてその事を教えてくれたのだ。 起きた時は夢だと馬鹿にしていたけど実際に、俺には父さんがボールに入っている様に見えて話せるけど、近所に住んでいる瑠璃花は普通のボールにしか見えないと言っていた。

 

こんな話はサンタさんが居るという話くらい信憑性が無いものだと思っていたけど、どうやら本当のことらしい。

 

「和弥、虎造…お父さんはどうだ?」

 

受話器から聞こえる声はいつも聞く声だ。 声の主は以前、大神モグラーズの主砲として活躍していた水木卓さん。 モグラーズの全盛期の中心人物であり、俺の叔父さんに当たる人物であり、俺の父さんに打球を当ててしまった張本人だ。

 

「こんばんは水木さん。今日も変わりは無かったよ」

「…そうか。本当に済まないことをした」

 

非は無いというのに、水木さんは暇があれば毎晩電話をかけてきてくれる上に、俺の日常をサポートしてくれている。 毎日夕飯は南雲家で食べさせてもらっているが、夜は1人で過ごしているからだ。 周りは俺が1人で生活していると思っているんだと思う。

 

「和弥君は、水木さんのことが嫌いじゃないの?」

 

小学校からの下校時に不意に瑠璃花からそんな言葉をかけられた。

 

「んー、別に嫌いじゃあ無いかな。何でそんな事を聞くんだ?」

「だって、和弥君のお父さんが入院することになった原因は水木さんて人でしょう?」

「まぁ、確かに。水木さんのホームランが当たって父さんがボール…じゃなかった、入院することになったけど憎むのは何か違う気がするんだよな。わざとやったわけじゃないだろ?だから、責める事はないと思ってる」

 

この会話を聞いた父さんはいい年しながら号泣したらしい。 …俺のポケットの中で。

 

おかげで瑠璃花にお漏らしした様に言われちゃったじゃないか、どうしてくれるんだ全く。

 

その夜、父さんは寝る前に1つ話を教えてくれた。

 

水木さんと父さんは俺には知らない確執があったらしい。 それは、水木さんの妹である静香さんもとい、俺の母さんが亡くなったことから来ているのだとか。 父さん曰く、水木さんはかなり母さんのことを大切に思っていたから尚更やるせない気持ちになっているらしい。

 

「ま、流石に甥っ子であるお前に対してはそれをぶつけてないみたいだがな。ハッハッハ」

 

と父さんは豪快に笑っていたけど、親友である水木さんとの仲に溝があって悲しくない筈が無いから出来るなら2人を和解させたいと思っている。 何か良い手は無いかなと、知恵熱が出るまで悩んだのであった。

 

・・・

 

小学4年生になった俺は地元の少年野球チームの“サイバーキッズ”に入団しようと思っていたけど、父さん曰く「伝説の少年野球チーム・“ガンバーズ”に入るべきだ」との事なのでそこを目指して歩みを進めている。

 

バス停から歩くこと数十分、どうやら目的地が見えてきた様だ。 目の前には貫禄のある立派な柵がある、大きなクラブハウスが建っている。 伝説という名に相応しい建物と言っていいかもしれない。

 

「ここが“ガンバーズ”のクラブハウスか。随分大きいな」

「そうじゃ!ここに入れば全国大会も夢じゃないぞ!」

「全国大会か。行ってみたいなそんな所」

 

柵の前で父さんと話をしていると不意に後ろから声をかけられる。

 

「“ガンバーズ”に入団でやんすか?」

「うわ!びっくりした…うん、そうだけど」

「そうでやんすか!受付はあちらでやんすよ」

 

俺を出迎え?てくれたのは瓶底メガネをかけた無田君という子だった。 聞けば年も同じ、4年生らしい。 仲良くなれるといいな。

 

「早速でやんすがこれがユニフォームでやんすよ」

「うわぁ!これがユニフォームか!カッコイイ!サイズもピッタリだ!」

「ユニフォームだけでこんなに喜ぶなんて可愛いものでやんすねぇ」

 

初めて貰ったユニフォームに俺は感動を覚えた。 直ぐにでも練習に取り掛かりたい。 しかし、俺のそんな思いは非常にも裏切られることになる。

 

「早くクラブハウスに戻って練習といこう!」

「クラブハウスってさっきの建物でやんすか?」

「うんうん。正に伝説って感じの建物だったよ!」

「あれはライバルチームの“サイバーキッズ”のクラブハウスでやんすよ?“ガンバーズ”はこの空き地がホームでやんす」

「ええー!なんだってぇ!」

 

父さん…話が違うじゃないか…。

 

「お、見かけない顔だな。無田、入部希望者か?」

「あ、キャプテン!そうでやんす!これで9人揃ったでやんすね!試合が出来るでやんす!」

「そうだな。俺は一堂。柊って言うのか、よろしくな」

 

・・・

 

“ガンバーズ”のメンバーと出会ってから1ヶ月が経とうとしている。 しかし、俺はまだ練習には一度も参加したことがない。“サイバーキッズ”の見学に行ったり等と、要するに迷っているのだ。 “ガンバーズ”に入るかどうかを。

 

よし、それじゃあ気持ちを整理するために状況を把握しよう。

 

まず“ガンバーズ”はと言うと

・人数ギリギリ

・監督不在(パチンコに通っているため)

・用具不備

・グラウンドも手入れが悪い。

・雰囲気はまだマシ

 

んー、ここだけでどう考えても入るチームを間違えた気がする。

 

次は“サイバーキッズ”

・監督手腕良し

・設備面良好

・人員良好

・レベルが高い

・雰囲気がギスギスしている?

 

父さんは“サイバーキッズ”が好かないみたいだけど、どう考えても設備は“サイバーキッズ”の方が良い。 どうするべきかと気晴らしに散歩をしているが一向に打開策は出てこない。 仕方ない、帰って素振りでもしようと帰路に入ると思わぬ人物と再会した。

 

「あれ、和弥じゃん。どう?気持ちは決まったか?」

 

声を掛けてきたのは才葉(さいば)零人(れいと)。 同じ保育園に通っていた為、彼とは少なからず面識がある。父さんも零人のお父さんを知っているみたいだ。

 

「それが…」

 

俺は今どの様なことを感じて考えているかを零人に伝えた。

 

「…そうか、お父さん、今入院しているのか」

「あぁ、うん」

 

ここで父さんがボールに入っていることを話しても零人は信じれないだろう。 最も声が聞こえないのに誰が信じてくれるのかという話だが。

 

「言っちゃあ悪いけどウチと“ガンバーズ”じゃ比べ物にならないんじゃない?何を迷っているんだ?」

 

零人の言うことは最もなのかもしれない。 “サイバーキッズ”は強豪とのことで入る際に入団試験がある。 水木さんと父さんの2人から手ほどきを受けている俺はそれに通る自信もあるし、零人自体が親に話を通してくれるらしい。

 

ここまではっきり分かっていても俺が“サイバーキッズ”を選びきれないのは2つの事が頭にあるからなんだろう。

 

「零人、ごめん。俺、やっぱり“ガンバーズ”で野球をするよ」

「理由を聞かせてもらってもいいかな?」

「まず1つ…ガンバーズで野球をして欲しいってのは父さんの意志なんだ。だからそれを尊重したい。2つ…俺は、お前と戦ってみたい」

「なるほど。ライバルってことか」

 

俺の言葉に零人は好戦的な笑みを浮かべる。

 

「本格的に野球を始めるのは今年からだけど、まだ4年生だ。先がある。後2年で零人と対等なラインに立てるように俺は努力する。だから、俺は“ガンバーズ”に入るよ」

「和弥が決めたことだから文句は無いし、それに、面白そうだ。名前もガンバーズだし、頑張れよ」

 

俺たちは硬い握手を交わした後、言葉を交わすことなくその場を去った。

 

覚悟は決めた。 俺は“ガンバーズ”で頑張ろう。

 

「和弥、良い事言ったけど、スケールが小さいわ!対等?甘い!追い抜かんか!」

「あーあーあー、ごめんごめん。頑張るから!」

 

・・・

 

「今日からお世話になります、柊和弥です。よろしくお願いします!」

 

次の日曜日、俺は早速ユニフォームに身を包み、“ガンバーズ”の練習場へと向かった。

 

…が、そこでまた新たな問題が発生した。

 

「あれ?キャプテン、人数が()人しか居ないですけど後の3人は?」

「んー、おかしいな。そう言えば顔を最近見せていない」

「え、それってもしかして…」

 

嫌な予感がしたのですぐ様監督に問いかける。

 

「監督!他の3人は?!」

「昨日の夜電話があって辞めたいだとさ。試合をしたいなら後3人集め直さないとだな」

「ソンナバカナー!」

 

父さん…俺は貴方を一生恨むことになるかもしれません。

零人…早くもお前のライバルは挫けそうだ…。

 

家に帰るなり、俺は直ぐ様父さんに報告した。

 

「父さん…ガンバーズ、人数が足りなくて試合ができないって…」

「お前らしくないな。人数が足りないからってなんだ!足りないならスカウトすればいいだろう!」

「無理だよ。“ガンバーズ”のあのダメっぷりじゃあ」

「やって見ないことにはわからん!まずは学校、次に街、商店街と可能性の有る所を探すしかない!一度は決めた事だろう?男なら初志貫徹有るのみ!」

「そうだな。よし、明日から学校で探してみるよ」

現状はまだまだ目も当てられない様な様子だけど、監督も人数が揃いさえすれば本格的に練習を始めると言ってくれている事だし、野球人として一歩は踏み出せた。

 

明日は月曜日、早速勧誘に取り掛かろう!

 

 

 

 




人物紹介①

柊 和弥 … パワポケダッシュ主人公。 原作と違い、水木に対して強烈な敵意を持っておらず野球人として、叔父として尊敬している。 虎造と水木から教育を受けているため、能力はかなり高い。

柊 虎造 … ダッ主の親。 実は和弥と血が繋がっていない。 意識不明の重体となるが、神様の力で一時的にボールに宿っている。 和弥を我が子の様に愛しており、野球人としての成功を心から願っている。

柊 静香 … 虎造の妻。 和弥を引き取って少し経った頃、飛行機事故により他界。 水木の妹。

水木 卓 … 大神モグラーズ優勝の立役者。 虎造がボールに宿る原因となるホームランを放ち、メディアにより悲劇のスラッガーの烙印を押された。 甥である和弥を気にかけている。 虎造とは親友だが、静香の件があり溝が生まれている。

才葉 零人 … サイバーキッズの若きエース。 和弥をライバルと認めている。 双子の兄を台風の日に亡くしている。
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