月曜日、チームの状況が思っていたよりも深刻だった為早速行動に出ることにした。
「な!急で悪いんだけさ、野球に興味ないかな?」
昼休み、こんな風に同学年の教室を回ることを繰り返していくが成果は芳しくない。
みんな揃って、「野球はちょっと…」等と難色を示すのだ。 野球楽しいのになぁ…
結局月曜日は空振りに終わり、下校時間を迎えた。
「和弥君、見つかりましたか?」
「ううん、さっぱりだ。どうも引き気味なんだよな」
「どうにかして解決したいものですね。あ、そうだ!今日クラスに新しい人が転校してきたんです。その方に聞いてみては?」
「転校生か。まだ分からないけど、可能性はあるかもな。ありがとな、瑠璃花」
「ど、どういたしまして。今日も夕食食べに来ますよね?」
「うん、いただくよ」
転校生ねぇ、まだどんな人かわからないけど話してみる価値は充分にありそうだ。
・・・
次の日の昼休み。 チャイムが鳴り始めると同時に俺は行動を起こした。 瑠璃花の教室に向かうと、昨日教えて貰った様に窓際に初めて見る子が居た。 クラスの知り合いに挨拶をしてから俺はその転校生の元に歩みを進めた。 何となく、不思議な印象が感じられた。
俺が近くに行くと先に向こうからこちらに声をかけてきた。
「君が柊和弥君かい?」
「そうだけど、何で名前を知ってるんだ?初対面だよな?」
「うん、まぁ色々あってね。と、それより…ガンバーズの部員を探しているんじゃなかったっけ?」
「な、何でも知っているんだな」
「うん、もう要件は分かっているから答えるよ。まどろっこしいのは嫌いなんだ--OKだよ、一緒に野球しよう」
「そうだよな〜、やっぱり断るよな。ん?今なんて!?」
「ははは、君は面白いな。一緒に野球をやろうって言ったんだよ」
「エエー!本当か!」
まさかの返答に思わず大きい声を上げてしまい、周りから視線を集めてしまった。恥ずかしい…。
「詳しいことは放課後に話すよ」
「うん、ありがとうな!えっと、名前は?」
「あぁ、うっかりしていたよ。僕の名前は蓮。
「宜しくな!石蕗!」
「名字で呼ばれるのはあんまり好きじゃないんだ。だから下の名前で呼んでほしいな、僕もそうするし」
「分かった!改めて宜しくな!蓮!」
握手を交わした後、俺は瑠璃花の元に行きお礼を言ってから教室を出た。
いやぁ、話してみるもんだな。 これで1人増えたから後2人。 何としても7月までに見つけたいところだ!
・・・
放課後になり、掃除を終えた俺は急いで蓮の待つ正門に向かった。 瑠璃花とはいつも一緒に帰っていたけど、今日は蓮とガンバーズについて話し合うので先に帰ってもらった。 最もそれによって帰りに駄菓子屋による事が確定してしまったのだが。
「やぁ、和弥。遅かったね」
「ごめん、掃除があってさ。んで、話って?」
「そうだね、歩きながら話そうか」
歩くこと十数分、拓けた空き地にと到着した。 土管が置いてあるここは小さい頃からの遊び場となっていた。 話をするにはもってこいの場所だ。
「それにしても良かったよ」
「何がだ?」
土管に座るなり、蓮はそう呟いた。
初めて見た時、俺は蓮に対して他の人とは違うような不思議な感覚を感じた。 話していて分かったけど、それの正体は妙に落ち着いた大人びたこの雰囲気だった。 何でも昨日と今日を過ごして、話しかけられたのは女子だけで、男子からは数える程しか無かったらしい。
「僕って変わってるのかな?」
「んー、いや、そんな事ないと思うぞ」
「そっか。まぁ君がそう言ってくれるならそうなんだろうね」
「気にしなくてもそのうち皆と話せるようになるさ。それで、昼休みに言ってた話って?」
「んー、まずどこから話そうか。--僕はね、サイバーキッズって野球をしていたんだ」
蓮がサイバーキッズ出身? 今の時期に転校してきた事とそれは関係あるのかな?
「サイバーキッズと言えば名門じゃないか。何で辞めたんだ?」
言葉を返した瞬間、蓮の顔が曇った。
「あ、ごめん。変なこと聞いたな」
「大丈夫。気にすることは無いよ」
それからゆっくりと蓮は事情を話してくれた。
この地域の少年野球は住んでいる地域で所属出来るチームが決まっている。 俺の場合は特殊でガンバーズとサイバーキッズ、両方とも通える地域だった為、選ぶことが出来た。 一方蓮はと言うと、地域的に所属出来るのはサイバーキッズだった。 それが蓮にとっての不幸だった。 生じ実力があるだけにサイバーキッズの入団試験に通ってしまったのだ。 でもサイバーキッズと言えば強豪だ。 入れるのは認められたものだけ。
なのに何で?
その答えは俺も感じていたものだった。
「…楽しくないんだよね。あそこは。」
--選手間に違和感を感じた。
それが蓮の答えだった。
「やっぱり、野球をするなら楽しい方がいいからね。才葉には止められたけど、僕は楽しく野球がしたかった」
そうか、蓮は才葉と同じ小学校だったのか。
「それに、僕がガンバーズを選んだのは君も居たからだ」
「え、俺?」
「君は、才葉のライバル何だろ?それを聞いて僕も思ったんだよね。才葉を、いやサイバーキッズを倒したいってさ」
落ち着いた雰囲気を持つ蓮からは信じられないような闘志を感じた様な気がした。 まだ会ったばかりだけど、これだけで何か俺達には通ずるモノが有るように感じられた。
「今はまだ無理かもしれない。でもまだ日はあるんだ、絶対勝ってやろうぜ!」
「うん!頑張ろう!」
そう言って拳同士を合わせて打倒サイバーキッズを誓い合い、同時に笑った。
いい雰囲気だ。 そう思った瞬間
「その話、俺も乗らせてもらうぜ!」
土管の中からにゅっと顔が飛び出した。
「うわぁーーー!」
思わず悲鳴を上げてしまったけど、俺は悪いとは思わないんだ。
・・・
「なはは、悪い悪い」
悪びれる様子無く笑顔で土管の中から現れたやつは笑っている。 心臓が止まるかと思ったぞ。 冗談じゃなくて、割とガチで。
「まぁ良いけどさ。それより野球、興味あるのか?」
「ああ!運動は好きなんだ!俺でよかったら是非…何だっけ?あ、ガンバーズか!それに加えてくれ!」
「大歓迎だ!えっと、確か…星だっけ?」
「そう、星
「これがクラス分けの闇ってやつだな」
ははは、と笑いながらハイタッチを交わす。
「俺のことは逸平で良いぜ、俺も名前で呼ぶからよ。石蕗だったか?これから宜しくな」
「OK、分かったよ逸平」
「うん、こちらこそ宜しく逸平」
言った側から蓮に友達が出来たな。 いやぁ、良かった良かった。
確か、記憶が正しければ逸平は陸上をやっていて足が速かった筈だ。 運動会の80m走で去年ぶっちぎっていたのを覚えている。
「陸上の方はいいのか?」
「陸上は平日だから大丈夫だ。今週から早速顔を出すよ」
「それは良かった、やったぜ!」
いやぁ、今日はツイてるな。 話を聞いた感じだと蓮は
「じゃあな!また明日!」
また明日の放課後に話し合おうと決まったところで今日は別れることにした。
家に着くなり、今日の事を父さんに報告すると珍しく褒めてくれた。
「良い感じだな。この調子でサイバーキッズを倒すんや!」
「まだそこまで言うには気が早いよ」
そうは言いつつも俺も浮かび上がる笑みを抑えられなかった。
「あ、そう言えば…」
「どうした?」
「瑠璃花と約束したお菓子を買うの忘れてた…」
「それはやってしまったな…」
この後夕飯を食べに南雲家にお邪魔するのだが、瑠璃花の雷が俺に落ちるのだった。
・・・
「うー…左頬が痛む」
隣を歩く瑠璃花をジト目で見ながら登校を行う。 ぶっちゃけ叩かれたのは俺が悪かったわけだし、もう痛みも無い。 でも瑠璃花の困った顔が見たくてつい言ってみたくなったんだよね。
「うう…昨日は確かに私がやりすぎました。でも、元はと言えば和弥君が約束を守らなかったのが悪いんですからね!…まだ痛みますか?」
「ううん、もう治ってるよ。何か、瑠璃花の顔みてたらからかいたくなってさ」
「…和弥君のバカ!もう知りません」
…バチーンと叩かれてしまった。俺の右頬には真っ赤な椛が出来上がっている事だろう。
「やりすぎたかなぁ…」
後悔半分、普段見れない表情が見れたから満足半分と何ともわからない感情を抱きながら学校に向かったのだった。
・・・
「おーい、和弥。お客さんだぜ」
昼休み、クラスメイトが呼ぶので付いていくとまた見覚えのある人が立っていた。
「えっと確か…如月君だっけ?」
「ああ、
俺たちの学年は150人、30人区切りの5クラス編成となっており、クラス分けはコンピュータによりランダムで行われるため逸平や、目の前にいる如月の様にまだ同じクラスになった事もない人も不規則故に存在する。
「顔を知っていても話すとなると緊張するな」
「まぁな。と、時間も限られてる事だし話を進めよう。俺もガンバーズに興味がある。野球は初心者何だか、駄目か?」
「いやいや!誰でも最初は初心者なんだ、駄目な筈ないよ!ありがとうな!」
あんなに悩ましい問題だったのに僅か3日で解決してしまった。 勿論、また誰かが辞めてしまうかもしれない可能性はある。 でもそれでも今は兎に角揃ったことを喜びたいな。
「因みに野球は初心者って言ってたけど何かやってたのか?」
「ソフトボールをやってたんだ」
「それは…心配することないだろ」
「まぁボールの大きさが変わるから」
ははは、笑えんぞ…。
・・・
この3人との出逢いが、後の俺に大きな影響を与えるのをこの時の俺は知る由もなかった。
人物紹介②
南雲 瑠璃花 --小学3年生の頃に引っ越してきた。 一人で暮らしている和弥を心配している。 料理勉強中。 「鈴ちゃん」という仲のいい友達がいる。
石蕗 蓮 --サイバーキッズで野球を始めたが、チーム内に不和を感じ、自分と同じ事を言ったという和弥に興味を示し、和弥の居る北小学校に転校してきた。 非常に落ち着いた雰囲気を纏っているが、内に秘める闘志は熱い。 実家のツワブキグループは電化製品界を牛耳る大グループ。 元ネタは「けっきょく ぼくが いちばん つよくて すごいんだよね」の人。 遊撃手を守る。
星 逸平 --土管の中からこんにちは、という鮮烈なデビューをした。 スポーツクラブに通っており、陸上を専攻している。 非常に足が速く、周りの期待を背負っている。
如月 司 --性格は天然。 ソフトボールをしていたが、プロ野球選手と出会い野球を志す様になる。 愛想は無いことから朴念仁と誤解されることがある。 毎日朝晩と欠かさずにランニングをしている。 オールラウンダー。