「いよいよ試合だ。皆も知っている通り、今年も市長からありがたい手紙が届いている。…今年は2勝しろと来た。だがな、俺はお前たちなら勝てると信じている!市長を見返してやれ!」
『はい!』
「柊!後には私が控えているからな。思う存分投げてこい!」
「うん、ありがとう比奈鳥さん」
5年生になってから初めての大会を迎えた。 1回戦の相手は“シンレーズ”というちょっと薄気味悪いチームだ。 5年生になると同時に我らがガンバーズには新入団員が増えた。
6年生の芽森わん子さん、4年生の才葉さくら、晴川夏海と羽柴秀虫だ。 4人が入ってくれたお陰でチームに余裕が出来、練習の効率も上がった。 芽森さんはグラブ捌きが上手く、一堂先輩が抜けた穴を見事に埋めるなどと既に大きな存在にとなっている。 さくらも零人の妹と言うだけあり、基礎能力は高い物を秘めている。
試合のオーダーはこうだ。
・ 1番 中堅手 星
・ 2番 右翼手 比奈鳥
・ 3番 遊撃手 石蕗
・ 4番 左翼手 如月
・ 5番 投手 柊
・ 6番 三塁手 小野
・ 7番 一塁手 徳川
・ 8番 捕手 無田
・ 9番 二塁手 芽森
となっている。 うん、実は比奈鳥さんと芽森さんが入った以外、去年からオーダーは変わっていない。 監督曰くこれが一番安定するんだとか。
主審が集合の合図をする。 さぁ試合開始だ。 シンレーズの皆には悪いけど、こっちもこっちで負けられない理由がある。 去年よりも力をつけたってことを見せつけないとな!
・・・
シンレーズとの試合は9-0と大きく差をつけ、勝利する事が出来た。 俺は5回を投げて被安打1と満足の行く投球をする事が出来た。
隣接している球場で、宿敵であるナヤンダーズが勝利したことによって2回戦の相手はナヤンダーズに決定した。
「去年負けた相手にここでリベンジ出来たら気持ちいいだろなぁ」
反対側ベンチに座るナヤンダーズの面々を見て、逸平がのんびり呟く。
去年は大差を付けられて負けている。 必ず2勝しなければ行けないこの大会で、その2勝目を賭けて戦う試合をリベンジマッチにしてくれるとは、神様も中々粋な計らいをしてくれるものだ。 但し、父さんをボールに閉じ込めたのは納得が行かないから許さん。
「フフフ、去年同様勝たせてもらうよ。楽な試合になりそうだ」
「ふん、そう簡単には行くかな?あんまり俺たちを舐めてもらったら困るな」
売り言葉に買い言葉と、試合前から火花を散らす。 ここまで舐めているからにはきっちり勝って、見返す必要があるな!
さぁ、気張っていこうぜ!
・・・
カキーン!と快音が響き、走者が一掃する。 現在点差は10点差とナヤンダーズに大きく差をつけてリードしている。 試合前のあの舐めた態度がこちらにとって発奮剤になった結果だ。 口は災いの元と言うが、その意味が分かった気がする。 特に怒っていた無田君は3打数3安打2打点と大きな活躍を示している。
「ストライクッ!バッターアウト!」
守備の方でもリードが冴え渡り、俺が三振を取ることに貢献してくれている。 この間、無田君の大事にしているミットを修繕した時から野球に対する向き合い方が変わった気がする。 良い感じだ。
「ショート!」
蓮がしっかりと打球を捌いて試合終了。
最終的に12-0と快勝する事が出来た。
比奈鳥さんから俺へと継投で繋ぎ、この試合も無失点で終えることが出来た。
「うう…こんな筈じゃ。データに誤差があったか」
「いつまでも去年のままだと思っているから痛い目に合うんだ」
司の辛辣な物言いに内心でごもっとも、と呟く。 同情はしない、俺も馬鹿にされてムカついていたから。
何はともあれこれでガンバーズの存続は保たれた。 今はその事を純粋に喜びたいと思う。
・・・
準決勝の相手は女性だけで構成された“キャットガールズ”というチーム。 毎年ベスト4に入っているだけあり、実力は充分。 ここに勝てば相手はほぼ間違いなくサイバーキッズが出てくるだろう。 何としても勝ちたいところだ。
--と、意気込んだのは良いもののどうもいまいち調子が上がらない。 制球が定まらないのだ。
「ボールフォア!」
相手はベスト4常連のキャットガールズ。 甘くストライクを取りに置きに行くと痛打される為、際どいところに投げなくては行けない。 しかしそれだと外れてしまいカウントを悪くしてしまう。 何で急に、こうも調子が悪くなったんだ?
・・・
「ボールフォア!」
和弥のやつ、これで今日4つ目の四球か。 どうも今日のあいつは制球が定まっていない。 1体どうしたもんか…
ジーッと和弥のフォームを眺めていると、ふと1つの違和感を感じた。
「ん?肘がいつもより下がっているのか?…そうだな、そうに違いない!それを考えれば肩に力が入って球が走らなくなるのも筋が通る!」
興奮の余り遂思わず、声に出してしまった。 ワシの声を聞こえるものは和弥しかいまい、と決め込んで居たからだろう。 仮に聞こえる者が居たとしたら大パニックになることは想像に容易くないというのに。
「なるほど。和弥殿が大切にしていられたそのボールの正体は、和弥殿の親父殿であったか」
「お前…ワシの声が聞こえるのか?」
「はっきりと聞こえるでござるよ」
なんてこったい。 まさかこんな身近にワシの声を聞こえるやつがいたとはな。 聞けば実家は寺とな--僧の息子か。
「すまん、いきなりだが頼みがある。聞いてくれるか?」
これが良い事なのか、悪い事なのかはワシには区別がつかんし考えようとも思わん。 それでも今、ピンチの息子を助けられるのなら動こうと思う。
「何でござろうか?」
「和弥のやつにちょいと伝えたいことがあってな」
ワシがあいつの肘が下がっていることを小野に伝えると、小野はタイムをかけ勢いよくマウンドへとかけて行った。
「小野とか言ったか。届けてくれてありがとうよ。それより…お前ワシが怖くないのか?」
「友人の親父殿を怖がる必要がどこにあるでござるか?」
「…ふん、お前良い坊さんになれるぜ」
「それは、ありがたいお言葉でござるな」
和弥の顔に気迫が戻った。 良し、上手く行ったみたいだな、小野に感謝だ。 制球も定まり始めて良い球が行き始めた。 少しばかり遅れちまったが、これで大方落ち着くだろう。 まだ試合は序盤だ、頑張っていけよ、みんな!
・・・
「ストライクッ!バッターアウト!」
「よっしゃ!」
フォームが治ったお陰で球に勢いが戻った。 父さんと小野に感謝だな。 しかし、それよりも驚いたのは小野が父さんの声を聞けるということだ。 以前に霊能力を持っていると言っていたが、あながち嘘では無かったのかも知れない。 と、ひとまずこの話は後だ。
点差は3-0。 まだ2回だが、好投手である桜木さんから何点も取るのは難しい。 つまり、これは大きな痛手なのだ。 俺がしっかりしていれば。 ギュッと、拳を握る力が強くなる。
「まだ下を向く時じゃ無いよ、和弥」
「蓮…」
「誰だって、調子は崩すものさ。だからこそみんな必死に好調を保とうとする。プロの野球選手だってスランプに陥るんだ。そんなに深く考えなくていいし、何よりまだ序盤だ。諦めるにはまだ早いよ」
「そうだな…その通りだ!お陰で目が覚めた」
「うん、投手は堂々としてなくちゃね」
そう言うと蓮はネクストバッターサークルへと向かっていった。
蓮の言う通りだ。 気持ちで負けたら何も始まらないもんな。
ワー!っと辺りが盛り上がる。 蓮が低めの変化球を上手く拾ってホームランを放ったのだ。 んー、流石は千両役者。 甘い球は見逃さない。
これで点差は2点。 追い上げと行こうか。
・・・
「ゲームセット!」
『ありがとうございました!』
終盤に司のタイムリー等があり同点に一時追いついたものの、延長戦特有の特殊ルールにより、ガンバーズは負けてしまった。
特別ルールと言うのは無死満塁から始まるサドンデスとなっており、選手層の差がここで出てしまった。 終盤ということもあり、俺たちは疲れを隠すことが出来ないくらいへばっていたのに対して、キャットガールズは余裕があった。
その結果、あと僅かという所で負けてしまった。 相手は主軸から始まることに対してウチは下位打線スタート。 運の無さもそれを助力していた。
「後、ちょっとだったのにな…」
俺が初回からフォームの乱れなく投げ込めていたらまた違う結果になっていたのかもしれない。 みんなは良く投げたと言ってくれるけど、あれが無かったら本当に良い試合をしていた筈なのだ。
「次は勝つからな…畜生」
--もう泣いている仲間は見たくない。
・・・
「…ひょっとしたらと思ったけどそう甘くなかったか。でもこの結果なら来年は来るかもな。僕たちはライバルだ、だから早く上がってこいよ」
比奈鳥青空が入ったお陰で和弥の負担は去年よりかは確実に減ったが、まだまだスタミナ不足は否めない。 こういう時にウチの施設ならば重点的に鍛えれるのに、とそこまで考えて
--その環境が嫌でガンバーズに行ったんだっけ。
と、クールダウンしている和弥を見つめながら心で呟く。 自身の予想よりも遥かに早く、和弥は階段を登ってきている。 その事が無性に嬉しく思え、同時に少し妬ましくも思えた。
・・・
「なるほど…ホームランボールが当たって気が付いたらボールに意識が移っていたでござるか」
「全くもって奇妙な話だろ?」
試合からしばらく経った練習の後、小野が父さんについて教えて欲しいというので今この様な形で話をしている。
小野が霊能力を齧っていることもあり、今回の父さんの件は確実に神様とやらが噛んでいることが確定した。
「夢に出てきたんだよなぁ、もう4年も前になるけど」
「ふむ、その時に神様とやらは何か言ってござらなかったか?」
「んー、特に何って無かったけどな」
「そうでござるか。ならば、直接話すのが早いでござるな」
「え、話なんて出来るのか?」
小野曰く、古くから伝わっている陰陽道の呪文を唱えれば神様とやらは召喚できるとのこと。 しかし、当然呼び出したところで逃げるのは目に見えているのでそれをどうするか考えている。
「それも呪文とかで何とかならないのか?」
「そうだ!確か、魔法陣があったでござるよ。まだそれを扱いきるのは無理でござるが、必ず習得するでござるよ」
そう言うと小野は笑顔で帰っていった。 以前から霊能力者としてメディアに出たいと言っていたけど、本格的にそれを目指しているのかもしれない。 とは言え、このままでは父さんが元に戻る方法が得られないため今は小野を信じるしかない。
「和弥、そんなに心配するな。アイツはそんな悪いやつじゃないぞ」
父さんはそう言うけど、やっぱり神様とやらを召喚するとか正気の沙汰じゃあないと思うんだよな。
・・・
「和弥殿!神様もとい、野球仙人の呼び出し方がハッキリとわかったでござる!魔法陣も完成したでござるし、どうでござるか?」
「だってさ、父さん。どうする?」
「このままでは話が進まないというのは事実だ。入院している俺の肉体もそろそろ限界が来るだろうからな。良し、小野。やってくれ」
「…わかったでござるよ。では、拙僧の家に向かうでござるか」
歩き始めてから15分くらいが経っただろうか。 目的地の寺院が見えてきた。
「こちらでござる」
本堂の裏に周り、用意されている魔法陣の上に父さんを置く。
「…まいる!せーファーボールールブックロスプレーボール!!」
おいおい…ほんとにこんなので召喚出来るのかよ。 そう思った瞬間、辺りは幻想的な世界にへと変わった。
「誰じゃ!ワシを呼んだのは!?」
「えぇ…ほんとに出たよ」
ドカーン!という音と共に現れたのは如何にも神様と言った雲に乗った老人だった。
「ほほ、久しぶりじゃな、柊和弥。どうじゃ?大会は優勝出来そうか?」
「アンタに言われなくてもそのうちするさ。俺たちは日に日に強くなってるんだ。相手もそれは例外じゃないだろうが、それでも俺たちは勝つ!」
「ほほほ、なるべく早く優勝するのじゃぞ」
「それはいったいどういう事だ?」
頭の中に?マークが浮かびまくる。 小野も父さんも同じ様子だ。
「あれ…ワシ言っておらんだか?」
「何をだよ」
「お主の父親--虎造の余命は後半年ってとこじゃ」
「なっ…!」
いきなりの展開に思わず、変な声を上げてしまう。 父さんの命が後半年? いったい何がどうなっているんだ?
「…虎造はな、本来ならば水木の打球が頭に当たった時に死んでおったのよ。しかしそれではお主があまりにも可哀想じゃ。そこでワシはお主がな、
言ってなかったっけ?と目の前の神様、もとい野球仙人は首を傾げながら落とす。
「普通そんな大事なこと言い忘れるかよ!?」
俺の絶叫が辺りに木霊した。
人物紹介④
芽森 わん子 --サイバーキッズでは球拾いばかりさせられており、満足に練習が出来なかった為ガンバーズにやってきた。 語尾に特徴がある。 フリスビー遊びが好きなところや、語尾の「ワン」は犬を彷彿とさせるものがあるが、彼女もまた野球仙人によって命を与えられた1人の少女であった。 今作ではサイバーキッズ時代に全国大会に出場している為天国エンドは無い。 二塁手。
才葉 さくら --名字の通り零人の弟。 わん子と非常に仲が良く、彼女がチームを移るならと自分も一緒にガンバーズにやってきた。 恋愛面では大人びていて、多くの恋をしたいと思っている。 最近また気になる人が出来たとか。 語尾に「うにゅー」とつける。 内野手。
羽柴 秀虫 --今年からガンバーズに入った新入り。 名の通り、虫が非常に好きで良く自然公園に足を運んでいる。 虫が好きということもあり、和弥と話が合う。 外野手。
晴川 夏海 --羽柴と同じく今年から入った4年生。 夏子と言う妹がいるらしい。 パンチ力は4年生とは思えないものがある。 内野手。
野球仙人 --この人が言い忘れたせいで色々とズレが生じた。 人を生き返らせる等、とてつもない力を持っているが条件無く能力を使役することは無いようにしている。 現在は小野の玩具にされている。 虎造の件を後悔している。